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一緒に種を育てていく

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

広島空港から車で90分ほど走り、広島と島根の県境にある長いトンネルを抜けると島根県美郷町に入る。

中国地方一の大きさを誇る江の川(ごうのかわ)の脇を電車が走る。

さらに5分ほど走ると、役場、学校、商店街などが集まる美郷町の町中に着いた。

小学校の脇を通ると、校庭で遊ぶ子ども達が声をかけてくる。「カメラマーン!」と手を振ってくれた。

自然、町並み、人。この町には魅力がごろんと、ときにひっそりところがっていました。

美郷町は、5,300人ほどが暮らす中山間地域の町。周囲を山に囲まれ平地が少ないこともあり、主な産業は土木建設業となる。しかし、ここ数年は仕事が減少しているそう。

他の中山間地域と同様に少子高齢化、働き口がないため若者が町を出て行く、伝統文化の継承が危ぶまれるといった悩みを抱えている。

そこで美郷町は、みさとカレッジという起業支援企画を去年からはじめることにした。起業支援を行うことで町に産業が生まれ、移住者を含めた若者が生活できる町にしたいと考えている。

今回募集するのは、みさとカレッジの研修科。応募者は、6つのテーマに基づいたビジネスプランを考える。採用された人は、日本全国の先進事例地で1年間の研修を行いながら、プランを深めていく。その後は美郷町に移り、起業準備を進めていく。

6つのテーマは温泉活用から交流観光プロジェクトまで多岐にわたる。それぞれのテーマは広いものなので、様々な起業が考えられると思う。

また、美郷町からは資金補助を受けることができる。研修中には月12万円の生活費が支給される。起業に際しては最大で1000万円の支援を受けられる。

ここ数年、自治体における起業支援プロジェクトを目にすることが増えたけれど、美郷町を訪れて印象的だったことは、「一緒に美郷町をよくしていこう」という意志が町の人から強く見えたこと。

美郷町では単に資金面の支援だけでなく、人の関わりにおいても支援をしてくれるように感じられた。

選考において重視することはなんだろうか。美郷町役場・企画課の高橋さんに話をうかがった。

「現時点でプランの深さはそこまで求めていません。1年間の研修期間に私たちとも相談をしながら実行可能なプランにしていきましょう。それから、人となりは大事だと思います。できれば素直で、一緒に美郷町でやっていこうと思える人に会いたいです。」

もちろんプランは優れたものの方がよいけれど、地域に入って仕事をつくっていく以上、人との関わり方も大切になってくる。

この夜は、高橋さんの上司にあたる花田さんに遅くまで話をうかがうこととなる。花田さんは長い間みさとカレッジの構想を持っていたが、なかなか実施には至らなかった。定年も間近となった昨年にようやくその思いが実現する。

出会った人たちは年齢に関係なく、美郷町のこれからを考えていた。

記事のはじめに出てきた子ども達が就職を考える頃、この町はどのようになっているのだろうか。働く場所があって、住みたいと思える町でいられるのだろうか。みさとカレッジが目指すのは、そういうことなのだと思う。

美郷町では、産業創出を目指し6つのテーマにおいて様々なプランを考えている。中には既に試みている事業もあるそうだ。

例えば、エネルギー関連では小水力発電を実施している。また現在は休止中だが、豊富な森林資源を活用したバイオマス発電も試みたことがある。そうした経験と知識に基づいたアドバイスを受けることできるだろうし、まずやってみる、という姿勢を感じる。

そのほかにも美郷町には魅力もあれば、課題もある。

例えば町を代表する名産品にイノシシが挙げられる。もともとは農作物の獣害対策として駆除されてきたが、資源として見直すことで、おおち山くじらというブランドでの販売をはじめた。今ではイノシシ肉といえば美郷町、と名前も定着してきたそう。また、獣害に悩む全国の自治体からの視察受入も行っている。この日も小豆島から40名ほどが見えていた。

イノシシを利用するのは肉だけでない。おかあさんたちが青空クラフトという団体で、革の加工品を手づくりしている。この取組みが興味深かったのは、地域づくりが産業に結びついている点だ。ここはかつて縫製業を営んできた町。加工品づくりのために、縫製の技術をもつおかあさんたちが集まり、コミュニケーションする場となっている。

僕も実際にペーンケースを使っている。想像がつかないくらい、革が柔らかくてなかなか使い心地がよい。欲を言えばもっと様々なデザインがあるといいなと思った。

それから、町の至る所には温泉がある。いずれも濃い泉質で、湯治にも向いているそう。けれど、かつては5つの旅館があった湯抱(ゆがかえ)温泉街は今や2つの旅館を残すのみ。実際に入ってみたいと思ったが、日帰り入浴は現在行われていないとのことだった。

2日間案内をしてくださった藤原さんはこう話してくれた。

「冷泉なので焚く必要があるんです。そのこともあって日帰り入浴が実施しづらいと地元の人は言います。せっかく色々な温泉があるのだから、湯巡りなどができるといいのですが。」

浴衣を着て、買い食いしながら町中を歩くような温泉街を目指すのは難しいかもしれない。けれど、週末や連休をゆっくりと過ごすにはとてもよい場所だと思う。広島からは車で90分というアクセスもある。町でハーブや薬草を栽培して、温泉客に何らかのかたちで提供することも考えられるかもしれない。

かつて美郷町は、石見銀山で採られた銀を運ぶ街道町として栄えたところ。そのため、町中にはとても素敵な建物が残っている。ここをうまく活用できるかもしれない。

町内には眺めがよく、居心地もよい場所が点在している。こうした場所でも何かできないだろうか。

みさとカレッジがはじまった今年は、第1回目の起業コンテスト行われた。このコンテストでは、実際にどんなプランが出たのだろう。

今年の8月に起業した貝谷さんにお話をうかがった。貝谷さんのプランは、食事をつくることが難しい高齢者や病人のための冷凍弁当の配達サービス。貝谷さんは元々美郷町で建設業を営んでいるが、業績が厳しい中での起業を思い立つ。色々な考えを巡らせたのち、父親の病気をきっかけにプランを思いつく。

「父親がガンになったんです。そのときに困ったのが食事のこと。僕が毎食用意することは難しいし、かといって町営の配食サービスは希望者が多いので受けられる見通しが立たない。どうしようかと思いました。」

「近所の人はどうしているんだろうと、話を聞いて回ると、同じ問題を抱えているのは自分だけでないことに気づいたんです。困っている人に何かできないかと考えて、弁当の配達サービスを考えました。」

現在は美郷町に住む高田さんを雇い、2人で仕事を行っている。配達時に色々なお願いを受けることがあるそう。

「庭の草刈りをしてほしい、電球を取り替えてほしい、そういったことを頼まれるので、何でも屋としての仕事も受けています。また、僕は元々が建築業。弁当の配達先は高齢の方が多いですよね。弁当配達で関係が生まれた人から、階段への手すり設置を頼まれることも将来出てくるかもしれません。」

今年の起業コンテストの合格者は貝谷さんをふくめ3人。他の2人も現在起業準備をすすめているとのこと。

また、美郷町は早い時期から移住を積極的に受け入れてきた地域でもある。実際に美郷町では、Iターン者と会うことが多々あった。

例えば、宿泊したゆるりの里のご夫婦は、鳥取出身。ご主人はもともと京都の料亭やホテルの料理長として働いてきたが、次第に中国地方への移住を考えるようになった。けれど、当時は受け入れの体制ができている自治体がなかなか見つからず、空き家探しに苦労する。そんな中で先進的にU・Iターンの相談やサポートを実施してきた美郷町と出会い、移住を決めた。今年で9年目を迎える。

ご主人は、こう話す。
「今でこそ農家民泊や農家レストランは至るところにある。けれど開業当時は先駆け的な存在で、他県からも毎日視察がたくさん来ていたんだ。」

江の川でのカヌーや冬場のスノートレックなどを行っている、カヌーの里おおちでは岐阜出身の河井さんと出会った。

「移住して13年目になります。もともと化学系の会社で研究職をしながら、趣味でカヌーをしていたんです。でも何か違うな、ずっとこの仕事を続けるのは想像できないなと思っていて。ある日求人誌を見ていたら、カヌーの里の研修生募集の記事を見つけました。なぜか、ここだ!と思ったんですね。」

「求人を見つけた日には、もう募集期間を過ぎていて。けれど仕事を終えてから、飛行機とバスを乗り継いで美郷町に履歴書を届けに来たんです。何とか到着して、書類を受け取ってもらって。そのときにはもう、『ああ、自分はここに住むんだ』と思っていました。」

迷いはなかったという河井さん。地域に入るときに大変だったことはありませんでしたか?

「仕事が土日中心なので、町内の集まりになかなか参加できなくて。申し訳なさはあるんですが、ある程度は割り切ることも必要だと思うようになりました。けれど、一度葬式に行けなかったときは怒られて。その点は気をつけています。」

「僕はバンドをやっていたので、地元の同年代ともすぐに友達になることができた。音楽サークルをつくって、成人式にはみんなでライブをやったりして楽しんできました。あとは収入が安定するまで、町の人向けのパソコン教室で働かせてもらったんですね。そこで自然と地域の人に入っていくことができました。」

商店街では地域おこし協力隊の小林さんがカフェを営んでいる。以前、小林さんは広島で生活をしていたが、いずれは出身地である島根に帰って何かしたいと考えていたそうだ。

カフェでは10種類以上のコーヒー豆があり、注文を受けてから挽いて提供する。また手打ちそばも提供するようになった。

「美郷町では作物としてそばをつくっているんですが、外に販売されるため、地元の人が町内産のそばを食べる機会は滅多にない。だから地元の人が食べられる場所を提供したいと思いました。」

美郷町は地域おこし協力隊を積極的に受け入れている。東京や大阪からの移住者もいるとのこと。人を受け入れる土壌があるのだと思う。

ここにはたくさんの魅力があって、その中にはまだ芽が出ていない種がたくさんある。その種を自分で、そして美郷町の人たちと一緒に育てていく。

美郷町を実際に訪れてみたい人がいれば、応募時に連絡をほしいとのことです。みさとカレッジの方が、可能な範囲で町を案内してくださるそうです。

自分の地域を持って生きていきたい人にぜひ、応募を考えてほしいです。(2012/10/15 はじめup)