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まちのエネルギー

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

仕事が終わるとその足でバールへ行き、一杯100円もしないエスプレッソを注文する。顔見知りがやってきて、何気ない会話がはじまった。気がついたら、どっぷり日が暮れている。今日もお疲れさま、明日も頑張ろう。少し気持ちが温まり、家に帰っていく。

イタリアにはバールというカフェがどこの町にもあって、町の人が集まるのだそうだ。バールを開く人がいて、そこを利用する人がいて、ひとつの町の灯りをつくっている。どちらもきっと大儲けはできないけれど、なんとなく満ち足りている。

話を聞いていて、そんな情景が思い浮かびました。小さくても、そこには自分の暮らしがある。そんな生き方を継ぐ後継者を募集します。

太平洋に面した海辺の町、北海道の浦河(うらかわ)町。サラブレッドの生産地でもあり、牧場では馬が草を食べている。海のものも丘のものも新鮮で美味しい。すごく贅沢な町だと思う。

それから、なによりも紹介したいのは、ここで暮らしている人たち。浦河町は、起業家がとても多いのだそうだ。一丸となってなにか特別な取り組みをしているわけではないのに町の元気がいいのは、そのせいかもしれない。

それぞれが思い思いに、働きながら生きている感じがする。

たとえば、週の半分はポップや看板を描く仕事をしながら、もう半分は自宅でカフェを運営している馬道(うまみち)さんという女性。「好きなことを半分ずつ実現できているから幸せ。」そんな話をしてくれた。

兵庫県から移住し、美容院を開いたご夫婦もいる。ほかにも、地元に愛されるミニシアター「大黒座」があったり、見かけは怖い(?)けれど美味しいチーズケーキをつくる酪農家さんがいたり。

新千歳空港から高速バスでも3時間以上かかる、いわゆる田舎町。人口の流出で悩んでいるのは他の地域と一緒なのだけれど、なんだか力強さがある。それは、人と人の仕事が町をつくり、ちゃんと町が機能しているからなのだと思う。

「大企業を誘致すれば雇用が増えて町が元気になる!という考え方もあります。でも、それは違うと思うんですよ。小さな会社がそれぞれ自立して事業をやることで、地域が自立すると思うんです。」

そう話すのは、浦河町でエネルギー事業を担うマルセイの代表、小山直(すなお)さん。わたしに、浦河町の起業家をたくさん紹介してくれた方でもある。

直さん自身も、この町で会社を営んできた。そして、その会社を継ぐ人を募集したいと思っている。

初めは、お役に立てないと思った。親の会社を継ぐのでもなく、知らない町で他人の会社を継ぎたいと思う人はいるのかな?と考えてしまった。

でも、「きっといるんじゃないかな」と直さん。どうしてそう思うんですか?

「雇われるのではなく自分の仕事を見つけたいと思ったとき、起業というのは少しハードルが高いですよね。それに比べると、会社を継げば、すでに顧客も設備もある状態から経営にチャレンジすることができるんです。継ぎたいと思えるような魅力がその会社にあるのならば、他人の会社でもいいと思う人はきっといるんじゃないでしょうか。」

土地を借りて耕すところからはじめるのではなく、すでに耕された土地に好きな野菜を植えていくことができる。たしかにそれは、メリットといえるのかもしれない。

直さんにはお子さんが2人いて、札幌で暮らしているそうだ。お子さんたちは直さんの仕事を継ぐ気はないし、直さんも無理に継がせようとは思っていない。

跡継ぎがいない人は周りにも多く、自分の代で廃業にしようと思う、という声も聞こえてくるようになった。町に、小さな灯りのようにぽつぽつとあった仕事は、きっとこれからどんどん減っていく。

「みんな、他人に継いでもらうという選択肢がないだけだと思うんです。だから、うちが後継者をこういう形で募集することで、こんな方法もあるんだと気がつく経営者の方もいらっしゃるんじゃないかな。」

燃料を扱う専門的な仕事もあるけれど、経験は問わないそうだ。じっくりと5年ほどかけながら、徐々に事業を継承していきたいと思っている。

継いでいくものとして、どんなものがあるんだろう。

マルセイは、いままで燃料屋さんとして、灯油やガスの配給を請け負ってきた。これからはもう少しエネルギーを広くとらえて、町のニーズに応えていく会社になっていきたい、という想いがある。

例えば、1年前からはじめたのは、「おかんのおかず弁当」というお弁当の配達サービス。それから、廃棄物処理や遺品の整理なども事業として請け負っている。

「この仕事はお客様の家の中に入る機会があるんです。すると、その家の様子が見えてしまうんですね。家族が出ていっておばあちゃんがひとりになってしまったな、とか、電気が取り替えられずに困っているのかな、とか。そうすると、何かできることはないかな?と考えてしまうんです。」

「おかんのおかず弁当」は、毎日の食事に困っているお年寄りが多いことから生まれた。保存料を使わず煮物などを中心とした手作りの健康的なメニューには、他のサービスに負けないこだわりがある。

ほかの事業も、全てはお客さんの困りごとからはじまっている。なんでも屋さんみたいだけれど、なんでもかんでもやろうと思ってこうなったわけじゃない。

唯一だれも困っている人がいないところからはじまったのは、ニュースペーパーの発行だけかもしれない。

マルセイでは、8年前から「マルセイニュース」というニュースペーパーを発行している。

責任編集長を務めるのは、直さんの奥さんでありマルセイの取締役でもある祥子さん。ほかのスタッフもみんな顔を出して、町の取材やコラム、料理特集などを連載している。次号でちょうど、100号になるそうだ。

このニュースは、毎月3,400部ほど発行され、浦河町内のお客さんへ配られる。市街地ではほとんどの家庭にポスティングもしている。だからマルセイのスタッフたちは、浦河ではちょっとした有名人。

取締役の黒澤さんは、スーパーで買物をしていたら、「本物だ〜!」と話しかけられたことがあるそうだ。なんだか芸能人みたい。

「マルセイニュースは人の勧めではじめてみたけれど、最初は気が進まなかったんです。でも、やってよかったなと今では思っています。お客様が会社に親しみを持ってくれるようになったし、どんな会社かも自ずと理解してくれています。こちらももっとお客様の話を聞いて、ニーズに応えられるような会社になっていきたいと思います。」

だけど、それで畑違いのような仕事が増えていくのは大変じゃないですか?

「それでも、わたしたちは独自のサービスをしていきたいんですよ。燃料は、商品自体には特徴がないものですよね。灯油は1ℓいくらの世界なんです。値段の勝負になってしまうと、大きな会社には敵わない。だから、戦わずに自分らしさを考えていきたいと思っているんです。」

同業者とも奪い合わず、問屋にも無理強いせず、お客さんとも喧嘩しない。だけど決して言いなりにならず、ちゃんと意見を言う。そんな「戦わない経営」を、直さんは目指している。

「他人との関係をボロボロにしなくても、共感されるようなことをしていれば仲間は増えていくんですよね。そういうふうに生きていきたいんです。」

話を聞いていて、すごく今っぽいと思った。共感を集めて強くなる会社は、とても多くなってきている気がする。仕事百貨もそうでありたいと思う。縦ではなく、横に成長していくような。

直さんは、どうしてこういう考え方に至ったんだろう?たとえば、全国展開して売り上げ日本一になる!という道も、ないわけではなかったはずだ。

「それは、ぼくが社長に向いていなかったからかも知れません。ぼく、全然、全く、社長に向いていないんですよ。」

お父さんが創業したマルセイに入社して働いてきた直さん。どこまでが本当か分からないけれど、自称「ダメダメ」な社員だったそうだ。

「父には『お前が継いだら会社が潰れる』と言われていました。学生時代、技術の成績で2をとるほど不器用だったので、修理の仕事も苦手でした。自分には経営の才能がないことは、じゅうぶん分かっていたんですよ。」

40歳になる頃から、どうしたら父の会社を継ぐことができるのかを、真剣に考えるようになった。積極的に本を読んだり経営の勉強会に参加するようになり、人にもたくさん相談に乗ってもらった。

「ぼくには経営センスやカリスマ性はありません。だったらどうやって自分らしく仕事をしていけばいいのか考えました。」

それは、自分の人生を見つめることでもあった。

「生きることと働くことは、ほんとうに一緒なんですよね。」

両親に認められ、社長になったのは11年前のこと。

「こんな人間でも社長になれるんだから、きっと大丈夫ですよ。」と直さん。

「ぼくは不器用だから、慎重に丁寧に仕事をするんです。器用さは、ときに油断を生んで仇になったりするんですよね。だから、誠実でずるくない人ならば、不器用でもいいです。」

事務所で話を伺ったあと、灯油の配送に同行させてもらった。

まず、タンクローリーに灯油を入れる。それから民家の庭先まで伺う。家の横にある灯油タンクに、車からホースを送り出して給油していく。

配送を専門にするスタッフが1人いて、ふだんはその方がやっているそうだけど、忙しいときには直さんやほかの女性スタッフが配送に行く。

燃料の仕事は、危険物取り扱い・LPガス・ガス販売、この3つの資格をとれば行うことができる。実技の試験がなく、テストを受けるだけで取得できるものもある。

灯油とガスの仕事を継ぎたければ、会社でサポートしてくれる。だけど、そうではない新しいことをはじめるのも歓迎だそうだ。

「なぜかというと、エネルギーは時代によって形を変えていくからなんです。ぼくが会社に入った頃の主力商品は、石炭でしたから。今は、色々な新エネルギーが注目されていますよね。」

たとえば、太陽光パネル、地熱発電、エネファーム。もし自然エネルギーに興味がある人ならば、そういうものを扱う会社にしてもいい。薪ストーブやペレットストーブなど、木を燃料にする暖房器具などを販売するのもありかもしれない。

エネルギーといっても色々あるから、どういう風に舵をとっていくかはその人の興味や希望によるのだそうだ。

お弁当だって人の体のエネルギーだといえるし、マルセイニュースも町に元気を与えている。なにか、人の暮らしを温めることをしていけたら、マルセイの事業としてそんなに違和感はないんじゃないかな。

「ぼくが継いでほしいのは事業自体ではなく、『戦わない』という考え方です。この町で仲間を増やして商いをしていってくれる人がいたらいいな、と思っています。」

会社を継ぐというよりも、生き方を継ぐ、ということなのかもしれない。

そう言うと少し漠然としてしまうけれど、ここには、今まで直さんが『戦わない』ことで築いてきた取引先やお客さんとのいい関係がある。それをまるごと引き継いで、そこから自分の経営をはじめられるというのは、魅力的だと思う。

「事務所はプレハブだし倉庫も本当に古い。お金もあまり無い(笑)。絵に描いたような零細企業です。でも、良いところもやはりあります。11年、仲間と頑張ってきたおかげで、金融機関からの借り入れはありません。7台あるクルマもガスの備品もすべて現金で購入しました。零細企業の財務内容としては、健全な方だと思います。」

いつもスタッフに怒られてばかりだというけれど、会社のことを話す直さんの言葉は力強い。それは、仲間を増やして会社を強くしてきたという自信があるからかもしれない。

「小さくても、それなりに面白いですよ。満たされてるんだわ、ってよく話すんです。よそからも、楽しそうに働いているね、と言われます。幸せは、日々のほんのちょっとしたことですね。」

この町で、自分の仕事と暮らしを営んでみませんか。まずは実際に訪ねて、直さんと話してみてほしいです。小さくても、毎日が満ち足りている。そのことがよく分かると思います。(2013/2/25 up ナナコ)