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ミュージアムで出会う

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東京駅へと続く丸の内の町並みのなかに、突然浮かび上がった三菱一号館美術館

ライトアップされて、幻想的な存在感がある。夜に取材することはあまりないのだけれど、なんだかワクワクしてしまう。

明治に完成し昭和に解体された、丸の内で最初の近代オフィスビル「三菱一号館」。この建物を、41年の時を経て同じ場所にできる限り忠実に復元し、美術館として利用している。

そこには、歴史と文化を発信する丸の内のランドマークとなるように、という強い想いが込められている。

この三菱一号館美術館のなかにある、ミュージアムショップで働くスタッフを募集します。

「STORE1894」という名前は三菱一号館ができた年に由来する。その運営協力を行っているのがEastという会社。

お店の運営だけではなく、そこに置かれる商品の企画、制作、セレクトなど、すべてに関わっている。

その全ての舵取りをしている、代表の開(ひらき)さんにお話を伺う。

「わたしたちの仕事は、ミュージアムショップの企画から販売まで行う仕事です。商品をつくるところから、それをお客様にどうやってプレゼンテーションするかというところまで、全てを考えます。最終的にお客様と直接接するのは、販売スタッフですよね。だから、どんな人が売るのか、というところまで気を遣っています。」

きっと、普通にお店の前で貼り紙をすれば、このショップで働きたい人はたくさん現れると思う。だけどそうしなかったのは、自分たちと同じ気持ちで商品を販売してくれるスタッフに出会いたい、という開さんの想いから。

アルバイトスタッフの面接も、すべて開さんが会って決めているそうだ。

「今日も1日、展覧会ショップスタッフの面接をしていました。出会いがあるから、面接すごく好きなんですよ。最初の10分くらい、僕がずっと喋っているんです。そこで、Eastという会社をどこまで伝えられるのか。僕の話を聞いて、ここで働いてみたいなと思ってくれる人と働きたいんですよね。」

面接官が喋るなんて珍しい。それって多分、知ってほしいことや理解してほしいこと、そして想いが溢れているからなんでしょうね。

「単におしゃべりなだけかもしれません(笑)」

開さんは、どのような経緯でこの会社を立ち上げたんですか?

「僕はもともと、職人さんや加工業者さんなどの作り手と一緒にものづくりをする会社に勤めていました。そのときもミュージアムグッズを多く手がけていましたんですよ。それが今の仕事に繋がっています。」

5年前に独立する。今はものづくりだけではなく、実際に売るという「場づくり」まで、トータルでプロデュースしている。

どうしてものづくりの先まで考えていくようになったんですか?

「ミュージアムショップの世界は、こうしてビジネスになってからまだ月日が浅いんです。会議机に白い布をかけ、そこに商品を並べて委託業者が売る、というような売り方が一般的だったんですね。誰かがつくったものを、ほかの誰かが卸して、それをまたほかの誰かが売る。そんなスタイルでした。」

Eastも、最初は商品をつくって卸していた。

「でも、そうすると、想いを込めて商品をつくればつくるほど、その熱がどこか冷めてしまう。」

冷めてしまう。

「売る人=つくった人じゃないと、やっぱり100%の熱が伝わらないんです。だんだん、自分たちで売った方がお客様に届くんじゃないかな、と思うようになりました。」

そうして、ショップの運営もはじめた。

「そしたら、やっぱり結果に表れたんです。最初はお店の一部分を任されてたのが、そのうち全て任されるようになって、どんどん広がっていったんですね。」

マウリッツハイス展や、メトロポリタン美術館展。日本でその年いちばん人が入った展覧会を調べてみると、実はEastが関わっていることが少なくない。

社員5名の小さな会社だし、バックアップもない。だけど、クオリティーには自信がある。

「うちのやり方をいいな、と思ってくれる人もいれば、面倒くさい暑苦しい、と思う人もいらっしゃいます。でも、一緒の温度で戦いたいじゃないですか。そういう人と一緒に、自分たちの手の届く範囲のなかで、良いものをつくっていきたいんです。」

商品企画は、ほとんどのものを開さんが手がけているそうだ。美術作品をモチーフにしているから、著作権などの規制もある。そのなかで、作品の世界観を映し出すいちばん良い方法を、自由な発想で探していく。

展覧会の主催者、それから商品の製造者とも、何度も話し合いを重ねる。そんな熱いものづくりの現場がある。その熱を伝えるには、やっぱり委託販売ではなかなか難しい。

Eastのつくる商品と店舗に惹かれて入社した、田島さんにも話を伺った。

田島さんは、海外とのやりとりや商品の仕入れなど、主に外部との調整を担当している。

「イギリスのロンドンにあるヴィクトリアアルバート博物館(V&A)の窓口として働いていたんです。あるとき、企画展のショップを担当していたのが、Eastだったんですね。その後、海外関係の展覧会があるときには声をかけていただくようになって、有給休暇を使ってお手伝いをするようになったんです。」

今は、V&Aでも働きながら、二足のわらじでEastに勤めている。

有給休暇を使ったり、二足のわらじで勤めるほど、何かここに引き寄せられる魅力を感じたんですね。

「V&Aから、STORE1894に商品を卸しているんですよ。ここなら大丈夫だって。それは、世界初のことなんです。それほど、いいお店をつくっているということですよね。すごくいい仕事をしているんですよ。日々勉強になっています。」

Eastという社名には、お日様の昇る世界の東、日本から明るいものを発信していこう、という意味が込められている。これからどんどん、その名前のとおりになっていくのかもしれない。

美術と密接に結びつく、とても華やかな仕事だと思う。ただ、一方で、日々の仕事はそんなに派手なものではないと思う。販売スタッフの仕事を取材するたびに思うのは、いちばん表と裏のギャップのある仕事なんじゃないか、ということ。

素敵な空間のなかでお客さんと話すことだけが仕事ではなくて、裏では重いものを運んだり、卸した商品を管理したり、大変なことも沢山ある。

Eastでショップの運営に携わっている、一島(いちしま)さんに話を聞いてみる。

一島さんは、もともと販売スタッフのアルバイトから社員になった。勤めはじめてちょうど5年になる。

「わたしはもともと、大学でダンスを専攻していたんです。だから、美術の世界は全然知りませんでした。今でも、お客様の方が美術に詳しいと思います。でも、もともと美術展を観るのは好きなので、そういう現場に携わることができるのは、毎日楽しいです。展覧会ごとに、新たな出会いと学びがいっぱいあります。」

一島さんたちの案内で、実際にショップの中を見せていただく。

美術館の展覧会出口の先に店舗があって、そこには展覧会に関連した商品が並ぶ。

今やっている展示は、ルノワールをはじめ印象派画家たちの絵画を集めた、奇跡のクラーク・コレクション展。

若い画家たちが、サロンから離れ新しい時代の美を求めていった、フランス印象派時代を映しだすような商品たちが並んでいる。

日本では珍しいセリンガという花の香りの香水や、オリーブ色の容器に入ったシャワージェルなど。これは全て、イーストがセレクトしたものになる。ひとつひとつ綺麗に配置され、ここも展示の続きかと思うような素敵な空間になっている。

「フランスといえば香り、ということで、香りにまつわる商品を集めてみました。こちらはつくられた経緯を全て知っているので、お客様に伝えたくてうずうずしてしまうんですよね。仕事は仕事なのですが、ついつい話が盛り上がってしまいます。」

届いたダンボールを開けたところからはじまる仕事ではなく、0からつくる仕事も多い。だから、そのぶん伝える喜びも大きい。

どんな人が、この仕事に向いていると思いますか?

「実は、会社名には裏テーマがあるんです。」

裏テーマ?

名刺を見てもらうと分かる、と言うので、さきほどいいただいた名刺を出してみる。

「ここです。『East』の文字のなかで、『s』だけ色が違うんですよ。」

確かに色が違う。ここだけ黄色になっている。

「この『s』を抜かすと、『Eat』になりますよね。これには、一緒にご飯を食べたいと思う人と一緒に仕事をしよう!という隠れた意味があるんです。」

同じ食卓を囲めるような、共感し合える人と仕事をしたい。

接客のスキルよりも、ひとりひとり人を見ていく感じなんですね。

「わたしも、最初は接客も全然できなかったんですよ。おどおどしていて。自分よりお客様の方が詳しいですし、けっこう感度の高い方にご来店いただくので…」

たしかに、そういう方に話しかけていくのは難しそう。知らないことを聞かれてしまったら、と思うとちょっと怖い。

隣で聞いていた開さんが、こんな話をしてくれた。

「美術館という場所柄、当然お客様の方が知識を持っているわけです。それでも、逆にこちらが教えてもらうつもりで話が聞ける人はいいですよね。怖くて話しかけられないと、コミュニケーションが成り立たなくなってしまうので。マニュアル化された接客はありません。だから、それぞれのやり方で色々な人と出会ってほしいと思っています。」

たまに開さんもお店に立つことがある。お客さんが自分のつくったものを手に取っているのを見ると、やっぱり嬉しくなるそうだ。

付け加えて、一島さん。

「展示を見てきたお客様は、やはり気分が高揚していらっしゃるんです。だから、普通のお店に比べると、コミュニケーションしやすいんじゃないかと思います。」

作り手の熱も、お客さんの熱も高い場所。ここで一島さんは、少しずつ接客の力を身につけていった。

仕事のなかで、大変なことはありますか?

「やっぱり展覧会は、書籍や図録を扱うことが多いので、重いものを運ぶことも多いです。お客様も沢山いらっしゃいますし、混雑すると大きな声を出して誘導したりもしなければなりません。見かけはお洒落かもしれませんが、わりとがつがつと働いていますね。」

展覧会の出口と直結しているから、来館者数=ショップの客数となる。毎日、1,000人以上の人がここを通過していく。それは、一般の小売店鋪に比べると、かなり多いと思う。きっと、想像以上に忙しい。

ただやっぱり、お客さんと直に出会うことができるのは、この仕事のいちばんの魅力だと思う。一島さんが、大変なことも含め楽しそうに話してくれていたのが印象的だった。

最後に、開さんがこんなことを言っていました。

「ただレジをピッと打つ人手が欲しいわけではないんです。僕たちには伝えてほしいことがあるんですね。だから、想いを共有できる人に来てほしいと思います。きっかけは販売スタッフでも、ゆくゆくは社員になって卸や商品企画に関わってもらうのもいいと思っています。うちは小さい会社なので、色々可能性がありますよ。まずは色々な人に、出会いたいと思っています。」

この記事を読んだ誰かが、いつか開さんたちと一緒にご飯を食べているのかもしれません。いい出会いがあるといいな。(2013/5/11 ナナコup)