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わたしの未来をつくる

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

島根県に、美郷町(みさとちょう)というまちがあります。

1 中国地方一大きな江の川(ごうのかわ)が流れ、5,300人ほどが暮らす中山間地域のまちです。

この3ヶ月間、美郷町に暮らす藤原さんと、月に1度のペースで会っています。

藤原さんは、地域に移住してまちの活性化に取り組むコンサルタント。昨年の11月に僕が美郷町を訪れて以来、一番多く話しているクライアントさんだと思う。

このまちは、他の中山間地域と同様の課題を抱えています。

かつて主な産業だった林業は衰退して、山は荒れ気味。新たな産業もなかなか育たず、仕事がない。若い人はまちを離れ、少子高齢化が進んでいる。

そうしたなかで、「みさとカレッジ」という取組みがはじまります。

2 みさとカレッジは、少子高齢化が進む美郷町において、産業、文化に生活。さまざまな分野におけるまちの担い手を育てるプロジェクト。

3年目を迎える現在も、事務局の藤原さんは日々、試行錯誤をしながら進めているところです。

そこで、「今後みさとカレッジをどうしていきたいのか」さらには「美郷町がどんなまちになってほしいのか」と話しあうなかで今回の求人が生まれました。

話し合いのなかで違和感を覚えたのは、まちありきの人材育成。

人口が減ったから増やそうとか、まちの将来像から逆算して、必要な人材を取り入れようというものです。

それは、みさとカレッジが進もうとする方向とは、どこか違うように思いました。

そして6月。カフェで話をしていると、ふと藤原さんがこう言いました。

「仕事をつくることが、その人の未来をつくることにつながる。そのことは、美郷町の未来につながるんじゃないかな。みさとカレッジは、まずは一人のひとが自分らしく生きていけるよう、人を育てることからはじめたい。」

3 こうして、みさとカレッジの「ひとづくりからはじまるまちづくり」がはじまりました。

藤原さんに、みさとカレッジの概要を聞きました。

「地域で働きながら講座を受け、美郷町の魅力を深掘りしていくことで文化の伝承を目指す「普及科」から、美郷町での起業を目指す「専科」「研修科」まで。その人の段階に合わせた3つのプログラムを設けています。」

たとえば、普及科では現在5つのクラスで講座が行われている。

特産品開発を学んでいったり。あるいは、江の川を利用したアウトドアツーリズムを学びながら考えたり。さまざまなカリキュラムがある。

11 そして今回仕事百貨で募集するのは、金銭面においても支援を受けつつ、美郷町での起業を目指す「専科」と「研修科」だ。

実際に美郷町を歩いてみるとわかるけれど、起業の“タネ”はそこかしこに見られる。けれど、実行する人がいないことが一番の課題かもしれない。

そこでみさとカレッジでは、タネを仕事というカタチにしていく人を育てたいと考えている。

専科と研修科はどう違うのだろう。

「専科は起業コンテストに参加、採用次第、起業の準備にうつります。一方研修科は、採用された人の起業プランに合わせて、先行地域で1年間程度の研修を受けたのち、美郷町で起業準備をすすめていきます。」

「アイデアはあるけれど、自分ではじめるにはまだ経験が足りない。そういった人は、この間に起業案をよりブラッシュアップしていけます。もちろん、僕らも一緒に考えていきますよ。」

こうした地域での起業プログラムは、国の省庁主導から自治体レベルまで、さまざまなものが見られるようになったけれど、地域を選ぶにあたって、ハード・ソフト両面における地域の受け入れ体制はとても重要だと思う。

みさとカレッジは、どんな姿勢で人を迎えようとしているのだろう。

「できる限り応募者の方の身になって、プログラムを考えてきたつもりです。」

たとえば応募期間。

「今回は色々な人に応募をしてほしいと思っています。土地に縁のある人ならともかく、そうでない人にとっては、一度も訪れたことのない土地への移住を短期間で決めてくださいというのは、とても不安だと思います。そこで、できるだけ期間については余裕を持つようにしました。」

今回は専科については8月中、研修科については10月中としている。

「希望があれば、選考前にもまちを訪れてほしいですね。案内していきたいと思っています。」

12 もしもみさとカレッジに入ることになったら、どんな毎日が待っているのだろう?

ここで、2013年の研修科に採用された大石あす香さんのプランを聞いた。

大石さんは、広島県出身の18歳。就職を考え就職課の掲示板を見るも、どこかピンとこない。

高校の授業がきっかけで、興味を持った養蜂を仕事にしたいと思っていたところ、みさとカレッジの存在を知り、応募した。

4 藤原さんは、大石さんとの出会いをこう話す。

「ハチは農業をする上で受粉のためにとても重要な存在。けれど、近年自然界に生息するハチの数は激減しています。加えて養蜂農家が減りつつあるなかで、果物農家などは、ハチの買いつけも困難になりつつあります。死活問題なんですね。」

実は、ハチが突然大量に失踪する現象が世界中で発生しており、その原因の一つとして農薬を挙げる説がある。

美郷町はもともと山あいの土地。平地が少なく、農業に力をいれることが難しい。

そのことが養蜂の可能性につながった。

「農業が盛んでない分、農薬が散布されておらず、ハチの生息環境としては恵まれていたんです。それまでは誰も注目していなかったんですが、調べてみると、珍しくなりつつある日本ミツバチが数多く生息していることがわかりました。」

5 美郷町は、養蜂にうってつけの土地だった。可能性を感じた藤原さんは、大石さんのプランを一緒に深めていった。

こうしてプランをともに考え、起業を進めていくのがみさとカレッジの特徴と言える。

そして現在は、ハチミツや蜜蝋のブランド化に加え、ハチの出荷拠点にしたいと考えている。

「実は海外からも引き合いが来るほど、ハチ自体の需要があるんです。大石さんはいま、美郷町で養蜂をはじめるために、東京で研修の真っ最中なんですよ。研修先にも行ってみましょうか。」

そうして訪ねたのは東京・銀座にある商業施設、マロニエゲート。

屋上に上がると、きゅうりにナス、そしてブルーベリー。ハーブ類も栽培される景色が広がっていた。

6 その一角に株式会社銀座ミツバチの管理する養蜂場が現れた。

この日は、週に一度の蜜とりが行われており、大石さんの働く姿も見えた。

刺されないように防護服を着て中へ入ると、スタッフの方たちが巣箱から巣を引き上げ、蜜の入り具合を確かめているところ。

7 銀座ミツバチ代表の田中さんは、ずっしり蜜の詰まった巣を大石さんに受け渡す。

それを大石さんが遠心分離機にかけると、とろーっと蜜が出てきた。

「今日は30kgぐらいかな。夏場にしてはそこそこ採れたね。」

そう話す田中さん。

蜜とりを終えたところで、話をうかがった。

実は、田中さんはこの施設を管理する不動産会社の役員。これまでも働きながら、銀座のまちづくりに取組んできた。

「ある日、養蜂家の方から『都心の屋上で養蜂のできる場所を探している』と相談を受けたんですね。高級なブランド品を扱うイメージの強い銀座ですが、上海や香港といったアジアの都市が台頭してくるなかで“ストーリーを共有していくまち”を目指していきたい。そう思っていた矢先でした。」

「銀座のまちを見渡すと街路樹が多く、皇居も近い。実は緑豊かな環境なんじゃないか、と。養蜂の可能性を感じました。ただ、一つ誤算がありました。養蜂家の方からなぜか『田中さん、自分で養蜂やってくださいね』と言われたんですね(笑)。活動をはじめて、今年で8年になります。」

8 “ストーリーを共有していくまち”とは、生産者がものづくりの背景を伝え、生活者は生産者に対して感想を伝えていける双方向の関係性。

大石さんを受け入れた経緯も、本人がやりたい養蜂を続けていくためには、生活者と関わることが大切だという思いから。

ここで藤原さん。

「既存の流通では、中山間地域の農業を続けていくことはほんとうに難しい。これまでは、米がダメなら豆といったように、生産品目を変えてきました。けれど、考え方そのものを変えていかないことには、何をやっても同じだと思うんです。」

見方を変えれば中山間地域には、顔の見える関係においてものづくりをすることで、一人のひとが自分らしく生きていける可能性があるのだと思う。

そうした思いからだろうか。

大石さんに対する田中さんの関わり方は、養蜂の先生というよりも、生き方を教えるメンターという方がしっくり来る。

「美郷町がこうして人を受け入れるのは、はじめての経験です。正直にいえば、わからないなかを手探りで進めていくこともあります。田中さんは『一緒につくっていこう』という姿勢で関わってくださって。これからみさとカレッジにやってくる人も、同様の姿勢で受け入れてもらえるところで研修をしてほしいと思っています。」

9 最後に、みさとカレッジの考える「ひとづくりからはじまるまちづくり」はどういうものだろう。

「大石さんが養蜂をはじめるには近隣の理解も必要ですし、いろいろと助けてもらうことの連続でしょう。同時に美郷町も、彼女を一緒に地域をつくっていく仲間として受け入れるなかで変わっていくと思うんです。」

こうした考えは、まだまだ町内全体で共有できているものではないけれど、少しずつ花は咲こうとしている。

「昨年起業した一人は、配食サービスを行っていて、注文数もじょじょに増えつつあります。そうして美郷町のなかでポコポコと事業が立ち上がり、有機的につながっていけたらと思います。」

10 生き方は、一つではないと思います。

もし、美郷町に何かを感じたなら、一度連絡をとってみることをおすすめします。

自分の未来を、自分の手でつくってみませんか。(2013/8/6 大越はじめup)