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da.bという灯り

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

まちってどこから生まれるのだろう。

それはたとえば思いのあるシェフが営むワインビストロだったりするのかもしれない。

週末の夜、da.bでパテをいただきながら、そんなことを考えていました。

1 思いを持った人のいる店が、まちの灯りに感じられることがあります。

その灯りのもとには、いい人たちが集まってきます。

面白い人や店がやってきたり、訪れるお客さんの暮らしがほんの少し変わったり。

はじめは1つだった灯りが2つ、3つと増えていく。そうやって、街はまちになっていくのかなと思う。

小さな灯りがそこかしこに点在するまち。

今回は、千葉の駅前にある小さなワインビストロda.b(ダ・ベー)で働く人を募集します。

はじめに、来てほしいと伝えられたのは、SHI TSU RAI(しつらい)という稲毛海岸にあるオープンスペース。

2 稲毛海岸へは、東京駅から京葉線に乗って30分ほど。飲食店のテナントが並ぶ駅前の商業ビルの一角に、周りとは雰囲気の違う空間が見えてきた。

SHI TSU RAIでは、先に到着した紅谷さんが仕事をしていた。

紅谷さんは、今回求人をするda.bのオーナー兼シェフ。

挨拶をするとシェフ、そしてオープンスペース運営という2枚の名刺をいただく。

「なにをしている人なんだろう?」

そんな第一印象を伝えると、笑いながら紅谷さんが話はじめた。

「そうですよね、よく言われます(笑)。家業が不動産屋なんです。それで土地はあるんですけれど、なかなか有効活用ができていない。このテナントも2年ほど空いていて。それで思いきってこうした場所をつくってみたんです。」

聞けば、いま千葉ではいろいろと面白い活動が生まれつつあるという。

「僕と同年代のクリエイターだったり、アーティストだったり。面白い人たちがいるんですよ。やっと動き出してきて。」

「けれど、気軽に集まれるような場所がないんですね。ここに人がやってくることで、いまの流れがもっとよいものになっていけば、と思います。」

3 話はそのまま、生まれ育った千葉のことに移っていく。

「これまで千葉って、人口のわりに、文化的に楽しめるものが育ってこなかった土地だと思うんです。ロケーションが大きいんですけどね。面白いものや人は、東京へ勝負に出ていってしまう。だから、たとえば飲食においても、若い人が飲みに行くのはチェーンの飲食店に限られてきたりするわけです。」

「ここ稲毛海岸も、ベッドタウンとして開発されたんですけども、時代の流れとともにポジションがあいまいになっている。子どもたちが走り回っていたり、特別なまちではないんです。」

どこにでもあるまち。

「そう。もちろん地元ということもあるんですけど… そういうまちを面白くする方が実は楽しいんじゃないかなと思って。」

そう話す紅谷さんは、これまでにどんなことをしてきた人なのだろう。

「服が好きで、アパレルのショップで働いたこともあれば、SHI TSU RAIの設計・デザインは自分で手がけました。料理も好きで、都内のカフェレストランで3年ほど料理の修業もしました。」

「洋服も建築も音楽も好きで。やりたいことはいろいろあるんです。」

4 da.bをはじめることになったのは、昨年の11月。

千葉駅西口にビルを建てるにあたり、1階のスペースに入る飲食店を募集した。

ビルの顔であり、まちの顔ともなる、大事な場所。けれどなかなか思うような店が決まらない。

それならば、と自らワインビストロを営むことを決める。

「飲食店って、食事はもちろん、お酒に、接客に、内装に、音楽。トータルで求められる場だと思うんです。ご飯がおいしくても『なんでこの内装なの?』となれば行かなくなるでしょうし。統一感のある空間にはその“人”が感じられます。だからこそ安心してくつろいだり、わいわい楽しめる居心地のよさが生まれると思うんです。」

ここで紅谷さんの車に乗り、店舗に向かう。

車のなかで、da.bという店名について聞いてみる。

「冗談じゃないですからね、千葉弁の「〜だべ」から来ているんですよ(笑)。」

なぜ??

「はじめは全然違う名前を考えていたんです。けど、知り合いのフランス語の先生に面白くない!と言われて。da.bがいいんじゃない?と。最初はえっ?と思ったんですけどね、段々と気に入ってきました(笑)。」

「うちは、料理と共にワインを楽しむ店です。そういう店って正直なところ、千葉にはまだ少ないし、暮らしている人にもなじみが薄い。でも、ワインを飲みながらも、方言で話して恥ずかしくない、気どらない店にしたかったんです。」

フレンチレストランではなく、ワインビストロとしたのもそうした思いがある。

「やっぱりここでやりたくて。みんなおだやかで、人が好きなんです。」

5 そうして休日の店に到着した。

店内は、暗めの間接照明が灯されて落ち着く雰囲気。

あゆのコンフィをこしらえはじめた紅谷さんに再び話を聞く。

da.bが大切にしていきたいことはなんだろう?

「手を抜かないで、きちんと調理する。料理を手ごろな価格で出す。そしてお客さんとのやりとりを大事にする。まっとうなことを続けていきたいです。」

まっとうにやると、その場にはコミュニティが生まれ、いい場になっていくと思う。

「実は休みを途中から増やしたんですけどね。お客さんから提案してもらったんです。」

お客さんから?

「忙しいだろうし、その分他の日に来るからゆっくり休んで、って。ありがたいことに、お客さんがお店を気にかけてくれることはたびたびあるんです。」

6 たとえば、満席のなかお客さんが外に見えると、さりげなく勘定をして席を空けてくれたり。オーダーが続くと「こっちはあとでいいよ」と声をかけてもらうこともある。

お客さんも、一方的にサービスを受けるのではなく、自分もそこに関わりたくなるんだな。自分にとって大切にしたい場だからこそ、周りの人にも共有したくなるのだと思う。

今回、募集するのはホールで働く人。

そこで、現在のホールスタッフ松尾さんにも話を聞いてみる。

紅谷さんがキッチンを。

松尾さんは、料理のサーブからお客さんにワインをすすめることが主な仕事だ。また料理の仕込みの手伝いや、ワインの受発注に売上げの管理といった簡単な事務仕事も担当している。

7 静岡出身の松尾さんは、紅谷さんが働いていたカフェレストランの同僚。

そこのオーナーにすすめられたことがきっかけで、ビオワインに魅せられるようになる。

松尾さんは、さらに自分に知識や経験を身につけたいと、フランスの現地に行くことを決め、引き継ぎをした後da.bを退職する。

まずは、ワインについて聞いてみる。

ワインはすべて、フランス産のビオワインを取り揃えている。

「ビオワインって、有機栽培したぶどうからつくられるものなんですね。原料にこだわるからこそ、醸造過程もていねいになされているものが多いんです。」

ワインをすすめるときにはどんなことを心がけているのだろう。

「一人一人のお客さんを見て接する、ということですね。ワインを好きな方も、全然わからないよという方も見えます。それから、わいわいと飲みたい方もいれば、今日は静かに過ごしたい、という人も。」

そこで、すすめる人の存在は大事だと思う。

「好きな方には、こういうものをすすめたら喜んでもらえるんじゃないか。わからない人にも、わかりやすく最初から説明をしていきますよ。」

いまでは扱うワインのセレクトもしている松尾さん。もともとはワインを飲めなかったそう。

「わたし自身、人に教えてもらったおかげでワインが好きになったんです。だから今度は、自分も人に魅力を伝えていけたらと思っています。」

8 ワインになじみがなく、はじめはビールやグラスワインを頼むお客さんも、きちんと説明をすることで、おすすめしたワインを注文いただくことも。

「お客さんとのやりとりはほんとうに楽しいんです。」そう話す松尾さん。

再び紅谷さんに話を聞いてみる。

これから働くのはどんな人がよいのだろう?

「僕もこれまでいろいろな仕事をしてきましたが、アパレル、雑貨、音楽… どの分野もつながっているんです。da.bは、食事にワインを提供するだけではなく。雑貨に服、音楽もフランスのものを取り揃えています。」

「だからこそ、これから働く人も飲食の経験はなくてもいいと思っているんです。ワインの知識がなくても、教えていくので大丈夫ですよ。服が好き、雑貨が好き。自分がそうであったように、異業種で接客をしている人にもぜひ飛び込んできてほしいです。そして何よりも人と関わることが好き。そういう人がいいですね。」

まずは自分がda.bという場を楽しむ、そんな気持ちでいるといいんじゃないかな。いろいろなことが学べると思う。

そして自分の気づきをお客さんにも伝えていく。

「たんに食事をして帰るのではなくて。ワインの楽しみ方だったり、私たちとのやりとりに、お客さん同士が友だちになることもあったり。」

きっと、20席ほどのこの場にはたくさんの可能性がつまっている。

これから働く人に会いに訪れるお客さんも次第に増えて。店の顔になっていくのだと思う。

また、紅谷さんはこうも話す。

「住むところについては、よければこちらでも用意ができます。安心してこのまちにやってきてもらえたらと思います。」

少しずつ、まちも変わっていく。

紅谷さんは、最近つくったというエリアマップを見せてくれた。

da.bの位置する弁天エリアにある店をお互いに紹介し合っている。

9 「同じ思いを持った店も、少しずつ集まってきています。ただ食事を消費するだけじゃなく、何かを経験して記憶に残る。このエリアがそんな、いい雰囲気になっていけば、と思います。」

インタビューを終えて、せっかくだからと紅谷さんがパテにパン、そしてワインを出してくださった。

一つ一つがおいしくて、かつ相性がとてもいい。

このパンはどうしているのだろう?

「知り合いのブーランジェリーに毎日焼いてもらっているんです。コミュニティでいいものを集めて、よりよいものができれば。仲間もじょじょに増えてきています。もっと楽しくなると思うんです。」

10 紅谷さんは、こちらがたずねると「よく聞いてくれた」とうれしそうな顔をして答える人でした。

少しずつda.bの輪は広がっています。1年後、そして3年後。このエリアはもっと魅力的になっているのだろうな。

日々お客さんと関わりながら、変わっていくまちを見つめる。

ここだからこそ、できることがあると思います。(2013/9/30 大越はじめup)