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“水源地の村”を観光でつなぐ

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ここ5年ほどで、経済のかたちは大きく変わりつつあるように思います。

歴史を振り返ると「必要なものは残り、不要なものは消えてきた」ようです。

取捨選択の基準において、過去数十年は「即時的にお金につながるかどうか」の占めるウエイトが高かったように思います。

けれど、どうやら資源には限りがあるらしい。そのことが認識されていく中、身の回りの資源を見つめ直したり、長期的な視点も求められるようになったり。今後も変化していくのでしょう。

日本の特徴の一つとして、森林が面積の2/3を占めていること。そして山から海までの距離が近いことが挙げられます。

今回は、昨年末よりコラムで特集している奈良県・川上村を観光で盛り上げていく仕事です。

もしかすると、観光って外の人の誘致にばかりに焦点が行くような、一つの固まったイメージがあるかもしれません。

1 けれど日本全体の人口が減少していく中で、「外との関係を再編集して結び直す。そして内をつなぎ直し、生活する人が地域を楽しむ。」ことは大切になると思います。

内の人が地域の光を観る、つまり地域づくりにもつながってくると思います。

いままで観光やホテルを仕事に考えてこなかった人も、まずは読んでみてください。

舞台は奈良県吉野郡・川上村。

奈良市の中心地から車で1時間と少し。この村には、5階建ての「ホテル杉の湯」があります。部屋数は24室、宿泊人数は84人。約1600人という人口の割には大きな印象を受けます。

2 1988年に村営としてオープン、2011年にはリニューアルを行いました。

川上村に、どうしてこんな立派なホテルがあるのだろう。

支配人の久保信幸さんに話を聞いた。

川上村の出身。奈良交通での勤務を経て、杉の湯で働きはじめた。

3 経緯をたずねると、産業における観光の重要な位置づけが見えてきた。

「川上村は面積の95%を森林が占め、室町時代から林業で生活してきたところです。製造業には向かず、農業を営む土地も限られている。林業しかなかったわけです。明治には、土倉庄三郎という人物が日本の造林業のベースとなる吉野林業を生み出しました。そして県内初の小学校を民間で建設するほどの活況を見せたそうです。」

「けれど、高度成長期に入ると、木材価格の停滞もあり、林業は急速に衰退していきます。そこで望みを託したのが観光。その拠点として生まれたのが、ホテル杉の湯です」。

けれど、川上村は普通に考えると観光向きとは言いがたい。

はじめに、アクセスはよくない。

エリアを見ると、周囲には世界遺産に認定された吉野山に国立公園の大台ケ原などがあるものの、川上村はいわば通過点。村内にすぐ集客を期待できるような観光資源も見当たらなかった。

周りには何もないところで、お客さんはどのように過ごすのだろう。

「家に帰るとなにもないけれど、落ち着きますよね。杉の湯も、飾らず丸裸の自分でいられる場所になりたいんです。月に1度、早い時間に来てはゆっくり過ごされる方もいます。」

12 そして、最近では宿から村を発信することもはじめた。

たとえば26もある集落のお祭りを巡ってみる。江戸時代にはもともと別の国だったそう。立地も生活様式もお祭りもまったく異なる楽しみがあるという。

また伝統行事であるもちつき「千本搗き(せんぼんづき)」の再現を行うことも。

「一つの臼に20年生の木の飾りをつけてついていくんです。6人で一緒にね。川上の伝統行事の再現であり、つきたてを召し上がってほしいですね。」

5 働くスタッフにも話を聞いてみる。

伊藤さん(写真右)は主に事務、羽田さんはフロントを元とする接客担当。ときにはお客さんのツアー案内を行ったり、イベントの企画をすることもあるという。

6 お客さんのなかにはリピーターの方も見えるとか。

「わたしに会いにきたよ、という方もいてくれるんです。明るさや笑顔って大事だと思います。会話のなかで関係ができて、この人に会いたいからきたい。やっぱり嬉しいですよね。」

川上村だからこそ、心がけていることがあるという。

「あまりかしこまりすぎないようにしています。地元のもてなしを味わいたくてきてくれるから、川上色を出して温かい気持ちで迎えたいです。自分の家族に接するように親切、丁寧にやさしく話します。」

お客さんも嬉しいですね。

「そうです、自分がされたいと思うことなんですね。」

それから、地元とのつながりを生もうと色々な取組みもはじめたところ。

夏に地の天然鮎を一品料理として提供したところ好評だったので、秋以降も地元食材にこだわり、天然猪肉のつけ焼きにアマゴの骨酒といったメニュー提案を行っている。さらに今後はツアーのプランニングもしていきたいと話す。

7 しかし、杉の湯の経営は思うようにはいかない。

2011年にはリニューアルオープンを果たしたものの、なかなか計画通りの収益は上げられていないそうだ。

以前に川上村の村長である栗山さんは、こんな話をしていた。

「過疎には、まず人がいなくなる、そして知恵が出なくなり、できることが段々と限られてくる、そんな悪循環がある。正直に言って頭打ちの状態にあるんだ。」

そこで外から人を迎えてともにホテルの未来を考えていきたい、そう考えている。

久保さんはこう話す。

「杉の湯がはじまって25年、我々は通過点でしかなくて。30年後を見据えて、継承していきたいんです。そしてこれからの杉の湯の形をつくっていってほしい。もちろん、そのためにいま私ができることはやっていきますから。杉の湯は川上村の顔、観光の拠点。ここが変わることで、川上村が変わっていくんです。」

これから働く人は宿の将来性から考えていくことになる。

そこで今回は、川上村に一足先に入っている地域おこし協力隊と話し合い、そして村民を訪ね、杉の湯にいま足りないこと。そして将来性のヒントとなる可能性を探してみました。

はじめに課題。

一番の原因はコンセプトが一貫できていないことにあるようです。

川上村らしさを出したいとは言うものの、各所でちぐはぐな印象を受ける。

実は川上村では1995年に「水源地の村づくり」という構想を打ち立てた。そして、関連する活動もすでに行われている。

たとえば今回、特設ページの中でインタビューをさせてもらった辻谷達雄さんは、「源流塾」「達っちゃんクラブ」という自然体験の学校を開催している。また、2002年には森と水の源流館が建てられ、こちらでもエコツアーが企画されている。

8 実はこれら、根強いリピーターもいれば、海外からのお客さんもいるコンテンツ。

けれど、ホテルとの連携が足りないので、外に対する発信もうまくなされていないと思う。

今回募集する人は、外と川上村を結ぶ人。そして、村の内と川上村をつなぐ人。

外と川上村を結ぶ人は、いまで言う久保さんのポジション。

村のコンテンツを編集して、配信していくことが求められる。ゆくゆくは支配人になることも考えられる。

また、同時に外との関係を結び直すことも必要だろう。

その大きな資源として考えられるのが、山だと思う。

川上村には、日本全国に1%未満しかない原生林がある。(日本の国土面積は70%を森林が占めているけれど、ほとんどが江戸時代に植えた人工林。)ここは1999年から「水源地の村づくり」というコンセプトのもと、740haを購入し村有林として保全された。

10 原生林にはとても豊かな植生が見られて。僕もツアーに参加した際、ガイドさんは「動物に例えるとライオンとホッキョクグマが共存しているような多様性がある」と話してくれた。

そして原生林は雨を水として育み、吉野川・紀ノ川に注いでいる。流域の暮らしを豊かにしている。

一方で林業により、人が育ててきた人工林もある。

山が育てる吉野杉は、品質が高い。灘五郷の酒づくりに小豆島の醤油づくり。伝統的な工法を行う際の木樽は、吉野杉だからこそつくれるものもあるそうだ。

いまでは、木樽ではなく、金属樽でつくられるものが多いそうだけれど。ここ数年は、日本の伝統的なものづくりが再認識されつつあるのではないでしょうか。

11. 山からはじまるものづくり・流域の物語を見つめ直す。「過疎で困っているから助けてほしい」ではなく、「川上村が日本にできること」を発信していく。そこから生まれるものがあるかもしれません。

そして、もう一つの仕事が村の内とホテルをつなぐ人。

住民に必要とされる場になることが大切だと思う。

杉の湯は現在、住民にとって身近な存在とは言いがたく、こんな声も聞こえてきた。

「これまで杉の湯は、外の人を見てきたと思うんです。外の人を呼ぶための施設は、村内に色々あるんですね。でも、これからは内が輝く。中の人、村民を見ることも大事だと思うんです。」

法事など特別な日の利用はあっても、ホテル内のカフェや日帰り温泉を訪れることは少ない様子。普段からふらっと立ち寄る場になればいいのに、と思う。

またある住民の方からは「1階のカフェラウンジをコミュニティカフェにしては?」という声が聞こえてきた。

9 たしかにカフェラウンジは立派だけれど、宿泊客の利用率は低い。もちろん村民も利用できるけれど、どうも立ち寄りがたい印象を持たれている。

吉野杉を活かし、地元と協業してリノベーションすることも考えられる。そのプロセスで、住民との距離も近づくと思う。

カフェを地元の人との交流の場と位置づけることで、宿泊客が気軽に過ごすこともできると思う。

そこから新しいツアープランや、仕事が生まれることもあるかもしれない。

僕自身歩いて気づかされたけれど、実は住民こそ色々なアイデアや思いを持っている。これから入ってくる人には、コミュニティデザインというか。ワークショップをひらき、住民の声を聞き、反映させていく。そうしたことも重要になってくると思う。

また、もちろん宿内の仕事も大切だ。

経営マネジメントについて、数年の社会人経験と経理の基礎知識があると望ましい。

おもてなしをはじめ社員育成も必要となるけれど、現在はけっして全員がモチベーションが高いとは言えない。接客一つを見ても、人によってばらつきのある印象を受けるのが正直なところ。

4 課題は大きく、仕事の幅は広い。大変な仕事でもあると思います。

スムーズに移住に取り組めるように、ワークショップ・ワークステイも組みました。移住後も連携するであろう、地域おこし協力隊のメンバーと一緒に進めていきます。

まずは気軽に1/25東京・2/1大阪のワークショップに参加ください。みんなで話し合うことからはじめましょう。

(2014/1/17 大越はじめ)