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世田谷でともに働く

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「自分を振り返ってみると、ぼくはすごく短気だったんです。でも、彼らと話すときに、こちらが一方的に怒っても聞いてもらえません。どうやって伝えたらいいんだろう?と、自分と葛藤するんです。それは同時に、自分ってなんだろう?と問いかけることにもなるんですよね。」

隣接しているけれど、踏み込んでみないと知ることができない世界がある。

そこには、今まで会ったことのない人がいるのかもしれない。自分と違うところもあれば、似ているところもあるのかもしれない。

人を見つめることは、自分を見つめることでもあるのだと思う。

今回は、知的障害を持つ方の清掃業務を手伝う「援助者」を募集します。

募集するのは、世田谷サービス公社という会社。

この会社は、世田谷区が90%以上出資している株式会社になる。行政と民間のあいだに立って、地域をより良くするためのサービスを直接届けている。

主な事業は、世田谷区の公共設備や施設の維持管理など。雇用では高齢者や女性をはじめ、障害のある方も積極的に採用している。

全社員750名のうち、1割強は障害のある社員だそうだ。

今回募集する「援助者」は、世田谷区内の各施設のなかで清掃業にあたっている障害者の方をサポートすることになる。

話を聞くために、小田急線豪徳寺駅からほど近くの、世田谷区立総合福祉センターへと伺う。

ここは、リハビリテーションの中心施設として平成元年に設立された施設。相談や訓練を受けたり、交流の場として区民に利用されている。

まず驚いたのは、床がピカピカしていること。とても築24年には見えない。この床の掃除も、清掃員の方と援助者が担当しているそうだ。

受付に行くと、車椅子の方が丁寧に対応してくださった。

案内されて地下へ降りていくと、この施設で援助者として働いている大嵜(おおさき)さんと、今は別の施設で援助者をしているという平井さんが待っていてくれた。

2人は、去年の5月に仕事百貨で募集した記事をみて、ここで働くことにしたそうだ。

もともと福祉とは関係があるわけでもなかったけれど、仕事を探しているうちに、偶然ここに辿り着いたとのこと。

まずは、もともとIT会社でネット広告の仕事をしていたという大嵜さんに、きっかけを聞いてみる。

「今までとは違う視点で、面白い仕事を探したいと思いました。それで、正社員にもこだわらず、NPOやNGOまで視野に入れながら探していたんです。たまたま見つけて、面白そうだなと思って応募しました。」

どんなところが面白そうだと思ったんですか?

「障害のサポートって特殊な仕事ですよね。日常ではない。だけど、通りすがりに横目で見たことはあるような世界。実際どういう人なのか、まったく想像ができなかったんです。そこに興味がわきました。」

平井さんは、どんなところに惹かれたんですか?

「わたしは、合わなかったら辞めてもいいと書いてあったので、それに背中を押されて飛び込んでみたところがあります。正直、障害者の方とは関わったこともなかったので、怖いと思っていました。でも興味はあったので、そんなに構えなくてもいいのかなと思って。」

平井さんは、もともと美術系の大学を出て、デザインの仕事をしていたそうだ。福祉とはまったく関係がなかったそうだけれど、入ってみてなにかギャップはありましたか?

「実際に障害者の方と触れ合ってみると、わたしたちと変わらない感情を持っていることが分かりました。びっくりすることもあるけれど、意外とみなさん穏やかで純粋で、こっちが素直に話せば心を開いてくれます。もちろんなかなか話せない人もいるけど、頑張ってなにかを伝えようとしてくれるのは伝わるんです。」

知らない世界に飛び込んでみた。すると、日々のなかに驚きや気付きが沢山あった。

大嵜さんが、大きなファイルを持ってきて見せてくれた。

「これは、ぼくが自閉傾向の清掃員のためにつくった清掃マニュアルです。拭く順番と範囲を、色分けして番号をふってあります。彼は境界を認知するのが苦手なんですね。口で説明すると、どういう順番でどこまでやっていいのかが分からないんです。」

今までは大嵜さんがつきっきりで指導しないとできなかった。だけど、これを見せたら、きちんと、しかも楽しそうに清掃の仕事をするようになったそうだ。

「普通だったらこうやって写真で説明される方が意味が分かりませんよね。だけど、彼にとってはこの方が分かりやすかったんですよ。解決したときは、嬉しいと同時に、今までできないことを指示していたんだと反省しました。普通に暮らしていたら、想像できないことだと思います。」

マニュアルを見せることでできるようになる人もいれば、そうではない人ももちろんいる。

担当の範囲は施設にもよるけれど、大嵜さんは3人の清掃員をサポートしているそうだ。ひとりひとりに向き合っていくのは、大変なことだと思う。

「でも、努力の結果が見えるのは嬉しいです。前の仕事は広告の運用をする立場だったのですが、業績を上げても満たされた感じがしなかったんですよ。でも、今はすこしずつ改善していく作業を楽しいと感じるんです。成果はじわじわと出てきているんですよ。」

生活スタイルにも、大きな変化があった。

「仕事が朝の7時からなので、朝5時には起きるんですね。それで、朝の運動がてら、自宅のある品川から自転車で40分かけてここまで来ます。仕事はだいたい15時半には終わるので、そこから自分の興味のあることを勉強します。ぼくは学生時代、農業や食品が専門だったので、そういう軸でなにかしたいと考えているんです。それで、翌日は朝早いからそんなに夜更かしもせずに、22時半には寝る。おかげで、すごく健康になりました。」

平井さんはどうですか?美術系の人は朝に弱いという偏見があるのですが(笑)

「辛いけど、半年以上やっていると慣れましたね。前のデザインの仕事は楽しかったのですが、寝る時間も食事をする時間もないほど忙しくて、体調を崩してしまったんです。でもやっぱり、体が保たないと元も子もないので。今はすっかり体調も良くなりました。」

空いている時間には、たまに絵を描くこともある。友人から依頼を受けて制作を引き受けることもあるそうだ。

ただ、そんな自由な時間と引き換えに、やっぱり収入は下がってしまった。

「わたしは最近、一人暮らしを始めたんですよ。非常に苦しくはあるのですが、この仕事一本で生活費を払っています。安い家を探して毎日自炊して質素な生活を送れば、できないことはないと思います。」

前は、お金があっても時間がなかった。そう考えると、どちらが幸せなのかは人それぞれの価値観によると思う。

ここでふと、疑問が湧いた。探してみれば、同じように自由な時間をつくることができて、もっと高収入で効率のいい仕事だってある気がするのだけれど。

「たしかに、例えばコンビニの深夜バイトという選択肢もあったと思います。でも、コンビニのバイトは経験があるし想像できるけれど、ここの仕事は想像できなかったんですよ。だからこそ、得られるものがある気がしました。やっぱり、想像できないことを知りたいという好奇心ですね。」と平井さん。

大嵜さんも同じ意見。

「知らないから知ってみよう!純粋にそんな動機です。」

「清掃員の方とは、好きな野球チームの話など、たわいのない話もします。一方で、いけないことはいけないと言います。心がけてきたのは、普通に接するということです。そして、それでなんの問題もないんだということが分かりました。1年を通して、自分のなかにあった偏見や色眼鏡が、自然と外れていきました。」

ただ日銭を稼ぐだけが、働く目的じゃない。そう考える2人だったから、ここを選んだのかもしれない。

ここまで、じっと黙って2人の話に耳を傾けていた人がいます。

世田谷サービス公社の雇用推進課で、清掃員や援助者の窓口になって働いている藤田さんです。

藤田さんには、全身麻痺の障害がある。大嵜さんと平井さんの話を聞いていて感じたことがあったそうだ。

「ぼくも、社会福祉に最初から興味があったわけではなかったんですよ。ただ、あるときふと思ったんです。ぼくは、自分自身が身体障害を持っているから、自分より身体障害が重い人たちのことなら想像できるんですね。」

たとえば、手が動かなかったらこんなとき困るだろうな、ということ。それから、目が不自由な人の世界は、目をつぶることで想像することができる。耳が不自由な人の世界は、テレビのボリュームを落としてみれば何か感じられるかもしれない。そんな風に。

「ただ、知的障害のことは、全く想像することができなかったんです。どうしてこの人はこういう行動をするんだろう。どうして叫んだりするのだろう。純粋に、彼らを目の前にしたときにそう思ったんですね。」

付き合っていくうちに、どんどん彼らに対する疑問が出てきた。それを、本人と向き合いながら、家族や区役所と一緒に話し合いながら、みんなで解決していった。

「すると、こういう原因があるんだなということが分かってくるんです。そうこうしているうちに、25年が経ってしまいました(笑)」

知らない世界に入ってみて、そこで素直に疑問を持ってみる。人と向き合うことで、おのずと自分自身にも向き合うことになった。藤田さん自身、知的障害の方と関わることで、だんだん変わってきたそうだ。

どんな人が、この仕事に向いていると思いますか?

「知的障害の人たちは、学校生活や社会での生活を通じて、できないことを指摘されながら育ってきたんですね。だから、あれもできてない!これもできてない!と言われてしまうと、落ち込んでしまうんです。自分のチャンネルに相手を合わせるのではなく、相手のチャンネルにどうやって合わせることができるのか。それを考えられる人がいいと思います。」

あとは、大嵜さんと平井さんのように、気付きを改善につなげていくことができる人。それができるならば、なにか他に夢を持ちながらここで働きたいという人でもいい。

一方で、一生ここで働いていきたい!と思う人がいてもいいかもしれない。清掃自体の効率を上げていくことも大事だけれど、そのもうひとつの目的は、障害を持つ方が自分の力で生活していくための力をつけること。

ひとりひとりの未来を考えると、清掃を援助するという以上に意味のある仕事だと思う。

それぞれの施設で働く援助者同士や、本社の担当者とも積極的にコミュニケーションをとりながら、障害者の未来をサポートしていける人がきてくれたら、それはそれでとても嬉しい。

まずは、知らないから知ってみたい!というところからはじめてみませんか。

そこから、驚きだったり発見だったり、色々な気付きが生まれてくると思います。それを自分の人生や仕事に生かすことができれば、きっと楽しく働ける気がします。

(2014/2/1 笠原ナナコ)