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隣る仕事

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誰かが亡くなったり、赤ちゃんが生まれたり。

目にすることは少ないけれど、まちには、嬉しいことも悲しいことも起きている。

すっかり定着した「コミュニティ」という言葉。

毎朝通学路で挨拶を交わしていた子どもが、あっという間に中学生になった。隣のおばあちゃんの漬けものの味を教わってみる。誰かが亡くなったときに気づける。

そうした日常の出来事なのかもしれません。

1 八ヶ岳のふもと、長野県蓼科(たてしな)で薪ストーブを囲みながら、そんなことを思いました。

株式会社リゾートケアハウス蓼科で働く人を募集します。

東京から特急あずさに乗り、茅野(ちの)駅を降りる。

秋晴れに涼しい風が気持ちよい中、迎えてくれたのはマネージャー・山田さん。

2 車に乗り込むと山田さんは、地元茅野のまちについて紹介をしてくれた。

数年前に建てられたという駅舎隣接の市民館と図書館。車に乗ると、いまでは利用者の減った商店街の話が続く。

駅から5分ほど進むと、小高い丘が見えてきた。

「この辺りも、もう少しすると紅葉がきれいですよ。冬は雪も降るし、寒いですけどね。」

最近では子育て世代の移住が続き、人口が増えつつあるとか。

近くには大学のキャンパスもあり、企業などの保養所も多いそうだ。その一帯を越えると、収穫を終えた田んぼが広がっていた。かなたには、八ヶ岳が見える。

3 その先に、グループホーム豊平とケアホーム豊平(とよひら)が見える。隣は小学校。朝は目の前が通学路になる。ホームに子どもたちが遊びに訪れることもあるとか。

建物に入ると、木をふんだんに使った暖色のスペースが広がる。

窓の外を眺める利用者さんの隣に座り、話すスタッフの方。また別の方が、アロマの調香をしている。

ここに来て、山田さんはようやく仕事の話をはじめた。

「匂いって、色々思い出させると思うんですよ。介護施設と聞くと、消毒の匂いを連想する人もいるかもしれませんね。どうもあの匂いはげんなりしてしまって。なるべく、暮らしの匂いを取り戻していきたいんです。」

4 フロントで山田さんの話を聞いていると、スタッフのみなさんが集まってきた。

お風呂での入浴介助を終えた方、お昼ご飯の片づけを終えた方。

中心となるのは、地元のお母さんたち。

私服ということもあり、人の家にうかがったような気持ちになる。

「そうですね。利用者さんたちが自宅で過ごしてきた暮らしを、できるだけ取り戻していきたくて。」

働く方たちも、いきいきとして見える。なかには、自分の子どもを連れてやってくる方もいるのだとか。

続けて「利用者さんに、部屋を見せてもらいましょう」と山田さん。

5 家から持ってきたという机。

その上には思い出の写真、よく見るという映画のDVD、家族から送られてきた手紙などが並ぶ。

入居して4年。利用者の方は、カーテンを開けて「ここからの四季折々の景色が見あきないの」と話してくれた。

部屋を出ると、山田さん。

「その人の大切なものが並ぶことで、だんだんとその人の部屋になっていきます。暮らしが感じられるようになるんですね。」

豊平を後にして山田さんと向かったのは、今年オープンしたグループホームいずみの。

ここで迎えてくれたのは、吉田さん。

6 出身は横浜。首都圏で介護の仕事をした後に、山好きが高じて移住。仕事を探す中で、リゾートケアハウス蓼科に出会った。

「介護をしている感覚があまりないんですよ」と吉田さん。

「利用者さんは、認知症になったことで、いままでの生活ができなくなっています。支援していくのが僕らの仕事なんですが。自立支援のためのプログラムを毎日こなしていくわけではないんです。その前に、みんな地域で暮らしてきたじいちゃん・ばあちゃんなんですよね。まずはともに時間を過ごすことからはじまります。」

毎日をどんな風に過ごしているのだろう。

「利用者さんと僕たちで朝ご飯食べて、『昼は何を食べよう。』『カレー?』『にんじんと肉が必要だね、買いものに行こう。』一緒にご飯をつくり、盛りつけて『おいしかったねー。』みんなで片付けて、一休み。ほんと、そんな感じなんです。」

「そうして関係を積み重ねる中で、一人ひとりの利用者さんのできることや困りごとが見えてきます。そこを支援していくんです。」

支援ってどういうことでしょう。

「人は、それぞれに役割を持っていますよね。でも認知症になると、今まで100やれたことが50になって、30になって。周りの家族も戸惑う中で『あぶないから』と役割をとりあげると、限りなくゼロに近づいてしまいます。でも役割がなければ、人は生きることを感じられません。」

「その人がふたたび自分の居場所を見つけて、生き直す。専門的にそのお手伝いをするのが、僕らの仕事だと思います。日々身体も衰えていく中で、100を取り戻すことは難しい。10や20かもしれないけれど、ここであらたな居場所を見つけて、自分を取り戻してもらえたら、と思うんです。」

関わり方には正解が用意されていないからこそ、うまくいかないことも多々あるという。

試行錯誤をして、よい関わりができることもある。

「そのときは利用者さん本人も、僕らも嬉しいんですよ。よかったな。うまくいったな。まだ言葉に表せないんですが、ホームにいいものが生まれるんですよ。」

7 大切にするのは「身体を動かす」のではなく、「心が動く」ことだという。

「たとえば食事の片付け一つでも、『やりなさい』と言われたら気乗りしませんよね。でも、一緒にご飯を食べた後で、僕一人がすっ、と洗いものをはじめたら。なんだか一緒にやりたくなりません?小さな積み重ねの中で、信頼も生まれてきます。」

ここで、もう一つ大切な役割があると話してくれた。

「認知症の方が地域の中で見えるようになればいいな、と思うんです。」

予備軍も含めると、全国で800万人と言われる認知症。

「TVで予防特集の番組は見ても、実際に暮らしのなかで生活する姿を目にする機会はありません。よくわからないから怖い。そんなイメージがあると思います。」

原因ははっきりしていなければ、治療方法も見つかっていない。

「誰もが、なるときはなる病気なんです。それならば認知症になっても、楽しく暮らしていけることを伝えていけたらと思います。」

リゾートケアハウス蓼科では、外に出ることもあるという。

「いまはまだ週に1、2回ですが、近所の農協へ買いものに行きますよ。そこで店員さんと『肉はどれがいいですか?』『こっちの方がいいよ。』とか。少しずつでも、その姿を見てもらうことで、顔を覚えてくれますよね。同時に、馴染みの場所だからこそ、利用者さんも元気になります。」

8 以前は首都圏の大型施設で働いてきた吉田さん。ここに来て変わったことがあるという。

「まず利用者さんへの関わり方が変わりました。それから、地域へその姿を伝えることを意識することで、視野が広がりましたね。大きく言えば地域をつくり、社会課題を解決する仕事でもあります。」

今後は、日本全国でもっと繋がることができれば、と話す。

「どの地域にも、同じような現状があります。もっとホームがオープンになっていけばと思うんです。関わり方なども、みんなでシェアしていけたらいいですよね。」

取組みの一つとして、リゾートケアハウス蓼科ではFacebookやホームページで日常の様子を発信しています。

最後に話をうかがったのは、今年から新卒で働きはじめた及川さん。

9 高校までは渋谷区に育ち、大学で社会福祉を学んできたという。

「高齢者施設での実習もしてきたんですが、仕事としては全然考えていなかったんです。実習先で尊敬できるかっこいい人に出会って、こういう働き方もいいなと思ったんですが。体力的にも精神的にもきつい印象がありました。」

都会の若者といなかをつなぐ活動をしている及川さん。その過程で卒業後は蓼科へとやってきた。

「吉田さんと同じで、移住を決めてから仕事を考えたんですよ(笑)。最初は経験もなくてすごい不安でした。でもはじめてみると楽しかったんです。」

「最初はこちらが何かしてあげなきゃ、と思っていたんですけど。料理をするとき、野菜の切り方から味つけまで教えてもらったり。畑でも『あんたのほうが転びそうであぶなっかしいよ』と言われて。直接畑仕事をしない人もいるんですけど、見守ることで一緒に関わったり。とにかく日々色々教わっています(笑)。」

働く環境としても、よいとのこと。

「現場がとても大切にされているんですね。わたしたちが安心して利用者さんと関われるように、環境は整えてもらっていると思います。残業もあまりなければ、有給休暇もとりやすいと思います。」

経験の有無は問いません。

「失敗することもあります。人からの指示を待つより、目の前の利用者さんを見て、考えて、動ける人が来てくれたら。きっと面白いと感じてもらえます。」

10 実は今回の求人も、入社半年の及川さんの提案によるもの。

マネージャーの山田さんに提案したところ、ぜひやってみようという話になったそうです。

「これから来る人とも、一つひとつを一緒につくっていけたらと思います。それから、働くわたしたちが幸せに暮らせることも大切だと思います。そのことが、利用者さんに巡っていく。そして、周りの家族や友だち、地域にも広がると思います。」

実際に、一人ひとりの活躍の幅は社内に収まらないようです。

みなさんが地域と関わる活動をしているとのこと。

吉田さんはこんな企みを紹介してくれました。

「この地域のおばあちゃんたちがつくる味噌とか漬けものを、お裾分けでもらうと、びっくりするほどうまいんですよ(笑)。びっくりします。その文化を受け継いでいきたいんです。」

「ここは認知症のケアをするグループホームですが、地域のおばあちゃんや利用者さんを巻き込んで、おいしい味噌や漬けものをつくる場にもなれるのかなと思っています(笑)。東京の若い人を蓼科に呼んで、一緒に味噌をつくって、利用者さんとも触れ合って… 色々な交わりが生まれてきたらと思います。」

11 介護を仕事にしてきたけれど、違和感を抱えてきた人も、いままで介護という道は考えたことのなかった人も。

人の自立を支える過程で、自分をいかせる場だと思いました。

(2014/11/13 大越元)