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人のよさにふれる

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

目の前にいる人がどうしたら喜んでくれるのか考える。

そのやり方は決められているわけではなく、働く人それぞれのスタイルに委ねられている。そうやって働いていると「人のよさ」にだんだんとふれることができる。

そんな宿が内房の鋸南町にあります。

yuumi01 20年ほど前はまだ十分な設備がない中、とことん料理にこだわって満足してもらっていたそうだ。今では口コミが広がり、少しずつ設備も整い、稼働率が90%を超える宿になった。

そんな紀伊乃国屋では、新しくホテルをつくろうとしています。そのスタートから一緒に働いてもらえる人を募集します。

アクアラインを通って東京湾を横切り、館山自動車道を南へ進むと、鋸南町にはあっという間に到着する。インターチェンジを降りると、目の前には東京湾。タンカーが行き交うその向こうには横須賀や横浜の街を望む。富士山もよく見えた。

yuumi02 鋸山(のこぎりやま)の南に広がる鋸南町は、ほかの地域にくらべて、何か特別なところがあるわけじゃない。そんな立地ながら、紀伊乃国屋にはたくさんのお客さまが毎日訪れている。

すぐ隣にある駐車場に車をとめると、代表の蛭田さんが迎えてくれた。

蛭田さんは2代目。なぜこんな宿が生まれたのか、話を聞いてみる。

「親父が民宿を立ち上げて、はじめはその手伝い兼跡継ぎでした。姉が二人いるんですけど、どちらもこの商売がだいきらいで、ぼくも好きでたまらなかったわけじゃなかったんですけどね。」

yuumi03 「本腰をいれたのが30歳になる前くらい。でも宿の設備がとても弱くて。お部屋にお手洗いも洗面所もなくて、お風呂も小さかった。食べものだけが喜ばせる唯一の手段だったんです。」

お魚はとことん鮮度のいいものを用意した。1万円じゃとても食べられないような食材を走り回って探した。

「そのときから、お客さまに感動してもらって、ナンバーワンの満足度にしようと考えていました。当時はインターネットもなかったわけですから、リピーターになって来ていただくか、ご紹介しかなかったんです。だから、来てくださったお客さまを喜ばせるのは、大前提だったんですよ。亡くなった先代の親父もそういうふうに商売をやっていたので、喜ばせてお返しするっていうのはすごく大事なことでした。」

yuumi04 今はほかにどんな工夫をされているんですか?

「たとえば、お客さまの声はアンケートで確認しています。どこもやっていますけど、うちは8割以上書いていただいているんです。それを分析したり、クレームは全部まとめて月ごと、年ごとにクレーム集をつくって、会議で共有しています。」

「あとは高校生のアルバイトにも決裁権を与えているんです。」

決裁権?

「たとえば、お料理をお出しするときに、お客さまとお話しして記念日なのがわかったりすると、無料でスパークリングワインをお出ししたり。仲居さんが『これ、わたしからです』というような言葉をそえてね。還暦のお祝いなら、赤いちゃんちゃんこを用意したり。」

「ノルマとかではないんです。目の前のお客さまがどうしたら満足いただけるか、とことん考える。それがうちの商売の核なんですよ。板前にも、お客さまに食べられないものがあれば、柔軟に対応してもらっていますよ。」

そのほかにも夕日が沈むのを眺められる露天風呂に、お酒をサービスすることも。オペレーションを考えれば、手間は増えるし、グラスが割れたら危ない。だから木のコップで提供するなど、工夫を積み重ねて満足につなげているそうだ。

yuumi30 「サービスが好きな子が多いです。好きだから、それが苦にならないんでしょうね。でもおれが『こうしろ!』って言ったら苦になるじゃないですか。自分で考えて、自発的に働いてくれたほうがいい。」

今は紀伊乃国屋本館、紀伊乃国屋別亭、そしてお宿ひるたの、3つの旅館を運営している。今回は2015年春にオープン予定であるホテル「ゆうみ」の募集となる。

ただ、ホテルと旅館の違いはあるものの「考え方ややり方はすべて今までと同じ」なんだそうだ。

どんなホテルなのか、実際に車で訪れることにした。

もともとは15年ほど前にも、当時の持ち主から「紀伊乃国屋さん、やらない?」と声はかかっていたそうだ。

「でもそのときは本館もボロボロだったし、それどころじゃなかったんですよ。でもだんだん軌道にのっていくと『あのときやっておけばよかったなー』と思うようになりました。」

この計画とは別に、紀伊乃国屋の海側に新築でホテルをつくる予定もあった。ところが建築費の高騰でそれも難しくなってしまった。

そんなときに、また声がかかった。

「びっくりしちゃって。決断するのに5日間だけだったし。でも決断したんです。」

どこが決め手になったんですか?

「設計の打ち合わせなどで東京に通う機会が増えたときに、あらためて東京に近い場所だな、と思いました。新しいホテルのほうが東京に近いですし。」

「あとは目の前がすぐ海なんですが、海なのに温かい感じがするんですよ。」

温かい?

「たぶん夕日かもしれないです。夕日が海に沈んでいく。あと東京湾は東京の大動脈だから、いろいろな船が行き来するんですよ。そうすると、なんか人の血がかよっている感じがするんですよね。」

現地に到着すると、ホテルは改装工事の真っ最中だった。

yuumi05 石やタイルをぜいたくに使っていて、落ち着いた雰囲気。すべての部屋から海が見える。

「今回はリゾートをテーマにしたので、部屋を縮めてデッキを広くしています。屋上には貸切のジャグジーを用意しています。玄関にベルボーイは立たせますけど、人のふれあいというか、あたたかい感じの接客にしようと考えています。バーも儲けようなんて思っていなくて、スタッフと話ができる場所にしたい。『あなたに会いにまた泊まりに来るよ』といってもらいたいですね。」

「あと何日もいるような場所ではないと思っているんですよ。1日トリップするような感じです。」

今回募集する人は経験が必要ですか?

「関係ないですね。関係ない。ちょっとラウンジにいらっしゃるときに、そっとコーヒーやお茶を出せるかどうか。真摯にできるかどうかでしょうね。」

住まいはどうなんでしょう?

「社員寮もありますよ。ご結婚されている方なら、一軒家もあります。」

この会社で働くことって、どんな感じなのだろう。実際に働いている人にも話を聞いてみる。

まずは2年目の穴水さん。今はお宿ひるたで働いている方。

「わたしはもともと千葉県の大学にいまして、その大学時代に古い旅館でアルバイトをしていたんです。そこで、楽しかった思い出があったので、また働きたいなと思いました。」

yuumi06 「あと、一度東京で就職をしたのですが、都会の暮らしに肌があわず。メーカーだったんですけれども、最終ユーザーさまが見えないことに、楽しさを見いだせなくて。大学時代にやっていた仲居をやっぱりやりたいなっていうのが一番あって。それで探していくうちにここにたどりつきました。」

いろんな宿がある中で、どうしてここだったんでしょう?

「わたし神奈川県出身なんですが、実家から近い箱根、熱海にも宿は多いんです。でも観光名所にあるところよりも、お料理やサービスで勝負しているところのほうが、サービスを学ぶうえでいいのかなって思いました。」

働いてみてどうでしたか。

「仲居って、こんなにたくさんいろいろなことをしているんだなって思いました。」

でもアルバイトの経験はされていたんですよね。

「そうなんですけど、そのときはチェックインからお料理出しまでがメインで。ここではお花を生けたり、囲炉裏の火をおこしたり、障子の張替えもしますよ。」

yuumi07 基本的な一日のスケジュールは、7時に出勤するところからはじまる。まずは朝ごはんの準備をしてから片付け。チェックアウト後はお部屋の片付けをしつつ、お掃除専門のスタッフに部屋をきれいにしてもらっている間は休憩。そのあとはチェックインの準備や夕食となり、お布団をしいて、朝食の準備をして終わり。遅番のときは、チェックインの時間帯から働きはじめるそうだ。

なかなか大変そうだけれども、どうして続けているのでしょう。

「そうですね。お客さまがリピーターになってくれるのがうれしいですね。『きみと話すために来たんだよ、ただいま!』みたいなかんじで入ってきてくれると、『おかえり!』ってすごい言いたくなる(笑)」

「あとは社長との距離も近いんです。アイデアも聞いてくれるから、それが形になる。あと社長に『わたしこうなりたいんです』って一度お話したことがあるんですよ。」

こうなりたい?

「アルバイトをしていたときの女将さんのようになりたい、という夢を話したんです。友だちとかに話すと『そんなの無理無理』って鼻で笑われちゃうんですが、社長に話すとすごい教えていただいて。勉強会もやっていただきました。」

蛭田さんと話していると、本当に相手のことを考えている人なんだな、と感じる。気さくで、話しかけやすい人でもある。

もう一人紹介したいのが田原さん。

彼女は6月に入社したばかり。今は本館を担当している。

いろいろな仕事を任せてくれることはわかったけれども、裏を返せば大変な仕事ということでもある。そのあたりはどうなのか、田原さんに聞いてみる。

「はじめは決められたことだけやっていてもお客さまの反応が薄いんです。それは自分もいやで。でも一歩踏み込むと、反応がかえってくるんです。」

反応がかえってくる。

「ここで働いてまだ半年しか経ってないので、よく分かってないと言えば分かってないんですけど。なにかお客さまに話しかけられたときに、その場でなにかが答えられるようになってくるんですよね。」

yuumi08 「なんかこう、いろんなお客さまと話をしていると、お客さまからの情報で勉強になることもたくさんありますし、気になったら自分で調べてみる。それでまた違うお客さまに聞かれたら、プラスしてなにか話ができるとか。なんだろう、話をしようと思える人とか、人のいいところを見つけられる人には合っているんじゃないかな。」

人のいいところ。

お客さまとも、一緒に働く同僚たちとも、お互いがお互いのことを思う関係があるから、自然といいところに目が届きやすいのかもしれない。

yuumi09 東京に近くて、自然も豊か。そしていい人がたくさんいます。ぜひ一度訪れてみてください。

(2015/12/30 ナカムラケンタ)