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朝8時のKINCO。瀬戸内の島々へと向かう旅人たちに、つくりたてのクロックムッシュをふるまう。
ランチの準備をしていると、窓越しに常連さんがあいさつをしてくれた。
日中は、地元のお母さんや働く人たちが集う場に。
ランチを待つ間、壁面の文庫片手に、「次の休みはどこへ行こうかな」と考える姿。最近では、オフィス代わりに訪れる人も現れてきた。
日も沈むころ。ヨーロッパやアジア、そして日本中から集まったゲストたちがお酒を飲みながら語らう。よく見ると裏手に住むおばちゃんが、日本語で彼らに話しかけている。
訪れる人、働く人、暮らす人。それぞれの毎日がちょっと楽しくなる。
そんな場が香川県高松市に、はじまろうとしています。
かつて金庫屋さんが営まれていた建物はゲストハウス、食堂、イベントスペースからなるKINCOに生まれ変わります。
オープンを4月末に控え、立ち上げから関わるひとを募集します。
飲食店での料理経験があり、カフェのキッチンを任せられる方。
社会人経験があり、ホールからゲストハウスまで、場の運営を担っていける方。
瀬戸内に住んでみたかった方、戻るきっかけを探していた方。空き物件を活用して場をつくり、運営していきたい方。
また、地元高松で面白い仕事をしたいお母さんも読んでみてください。
この日は、成田からLCCで高松空港へ。
牛のかたちをした小豆島が見えると、飛行機は着陸態勢に入った。
高松市は、40万人ほどが暮らすまち。
人口で見ると、松山に次いで四国第2位。けれど、旅行客はもっとも多い。
港からフェリーに乗ると、小豆島や直島をはじめ、島々も近い。瀬戸内芸術祭を機に、海外から訪れる人の姿も目立つように。
その中心市街地である瓦町の一角に、KINCOを立ち上げる株式会社ido(アイディオー)の事務所を訪ねました。
迎えてくれたのは3名の女性たち。
idoは、2014年の6月に立ち上がったばかり。大阪、徳島、高知と県外出身の方たちだ。
事務所に入り、まず目につくのが、壁に貼られたポストイット。
「KINCOのWEB作成にあたり、定期的にワークショップを開いています。『こうだったらいいな』と思うアイデアを出して、どんどん並べているんですね。」
そう話してくれたのは、代表の小林さん。
出身は大阪。東京の広告代理店でバリバリ働いてきた方。
「もっと自由に、自分のやりたいことを追求していこう。」
そう思い浮かんだのが、宿だった。
「旅の形は変わっています。とくに外国から訪れる人が増えている。けれど日本は、いまもビジネスホテルが中心です。宿と観光地を行き来するだけでなく、まちの人とも出会える宿がもっとあったら、と思ったんです。」
そんなとき、大学の先輩である“ことでん”代表の真鍋さんと4年ぶりに再会。
「何の気なしに、宿をやりたいことを話したんです。すると『高松ではじめたら?本気でやるなら、応援するから。』と言ってくれたんですよ。」
ことでんの正式名称は、高松琴平電気鉄道。香川県内で3つの路線を運行している。
真鍋さんは、「鉄道をまちの入り口」としてとらえる方。
海外や県外から訪れた人にとって、鉄道はもっとも安心して使うことができる輸送機関。
高松の未来を考えたとき、クルマから環境負荷が低い公共交通への移行や、来街者がまちに出会う宿が必要だと考えていたという。
小林さんは、高松に地縁はなかったという。
「真鍋さんがいる高松で宿をつくりたい」という思いから、はじめることを決めた。
住んでみると、高松はどんなまちでしょう?
「徒歩で10分ほどの高松港。ここからは、瀬戸内海に広がる島々が見渡せます。いっぽうで、まちには昔ながらの居酒屋も、リノベーションして若い人の集う居場所もある。バランスがいいですね。飛行機に乗れば、東京も意外に近い。離れたという感覚はあまりありません。」
出会った物件は、老舗の金庫会社「赤松金庫」さんの事務所兼倉庫。
瓦町からは徒歩8分。観光通りという大通りに面しており、目の前のバス停からは、高松駅へ一本とアクセスがよい。
2階建てで、1フロアが200㎡あるという。
「予定より何倍も広かったんです(笑)。でも築40年以上ということもあり、賃料は予算に収まったんですね。」
物件からイメージを膨らませ、1階をカフェ。2階を20床のゲストハウスとイベントスペースにする予定。
「金庫のように、『大切な人やモノが集まる場』になればと思い、KINCOという名前にしました。建物もマシカクで金庫みたいな形ですしね(笑)。」
取材に訪れたのは、設計が終盤を迎える1月。
ゲストハウスの図面を見せていただくと、ベッドがジグザグに並んでいる…?
「はじめは、横一列に並ぶ予定だったんです。けれど自分が泊まるには、ちょっと息苦しかったんですよ。」
設計士の方にも、同じ思いがあったという。
昨年の夏から打ち合わせを重ねてきたのは、岡昇平さん。
高松市の温浴施設「仏生山(ぶっしょうざん)温泉」を自ら設計・運営。グラフィックデザインやスタッフの育成まで、手がけている方。
「岡さんも、『ゲストハウスはくつろぎづらい』と言うんです。KINCOは、旅慣れた人だけでなく、いままでゲストハウスに泊まらなかった人にも利用してほしい。そこで、『岡さんが泊まりたい宿』をリクエストしたんです。」
そうして誕生したのが、「寝小屋」。
パーソナルスペースを確保できる小屋が、上下に2段連なるもの。
タイヤがついており、ゲストの人数や男女比に合わせたレイアウト変更も可能。
「子ども連れの家族客にも、選択肢の一つに入れてもらえる。それくらい、間口が広くて、人を選ばない場にしたいんです。」
同じ姿勢は、カフェにもいえるようです。
つづけて話をうかがったのは、カフェを担当する徳永さん。
4年前に地元高知県から高松のカフェへ。
店長として働いた経験をいかし、メニュー考案から、つかい勝手を考えた店舗設計の打ち合わせまで進めています。
「おしゃれな若者やバックパッカーの隣では、地元のおじさんが方言でしゃべれて、こっぱずかしくない空間にしたいんです。」
食堂には、大きなギャザリングテーブルが置かれるという。
そこでは、どんな1日がはじまるのだろう。
「朝は8時オープンの予定です。周りには会社も多いので、仕事に行く前にコーヒーを飲んでもらえたら。」
「日中は、保育所に子どもを迎えに行くお母さんたちが、お茶で一息。ふだんづかいのお店になればと思います。」
今回はカフェのキッチンを任せられる方を募集したい。
「香川の食材を使い、少しずつメニューを増やしていけたらと思います。手軽だけれど、ていねいにつくられたものを提供したいんです。」
「特にランチは、スタッフへの指示をすることもあると思います。飲食店で働いた経験のある方に来てほしいんです。打ち合わせをしつつ、コーヒー豆の焙煎から、レシピの考案までを手がけてもらえたら。」
夕方からはバータイム。
「仕事帰りの地元の人、国内外のゲストが入り交じって、お酒を楽しく飲める場になればと思います。」
地元の常連さんにとっては、朝はコーヒースタンド、夜はバー。生活の一部となるかもしれません。
ふらっと立ち寄り、一人で静かに飲む日もある。
また世界中からのゲストと話が盛り上がり、高松のまちを案内してご当地グルメを楽しむ日もあるかもしれません。
そうした思いから、夜の料理提供はシンプルなものを考えているという。
今回募集するもう一つの仕事は、ホールからゲストハウスまで、場の運営を担う方。
仕事はさまざまです。
毎日の掃除、ゲストハウスのレセプション。英語も交えたゲストへの道案内やエリアマップの作成。什器の搬入など、力仕事の場面も出てくるだろう。
立ち上げだからこそ、手の回らないところを見つけて対応する場面も出てくるでしょう。
臨機応変に動ける方こそ、楽しめる環境だと思う。
ふたたび小林さん。
「空間のつかいかたも、まだまだ打ち合わせを重ねているんですよ。」
たとえば、2階の半分を占めるイベントスペース。
「KINCOの制服を考えているとき、ある新潟の作家さんに出会いました。車で全国キャラバンをしながら、注文会を開いているんですね。そうした国内外の作家さんたちに宿泊しつつ、仕事できる場を提供する。作品との物々交換で代金をいただくことも、考えられるかもしれませんね。」
取材当日は、物件もまっさらな状態でした。
「ベッドが置かれて、人の集う場になっていく。わたしたちも、まだ実感がないんです。ただ、着実に一つずつかたちになっています。ティザーサイトができて、一緒に働く仲間も募集できて。」
「一緒につくっていくことを、楽しんでいきたいですね。」
応募を考えている方に、伝えたいことがあるという。
「何年か企業で勤め、そろそろ自分のやりたいことに取組みたい方。それから、瀬戸内にいつかは住んでみたいと思っていた人も。まずは1、2年来てみる、それぐらいの軽い気持ちでいいんです。」
高松は、若い人たちがはじめているまち。
小林さん自身、移住者のネットワークがあることが大きいという。
たとえば、KINCOのWEB製作でディレクターを務めるのは、昨年東京から移住した、うえすぎあらたさん。
「いまidoのスタッフは全員女性です。彼は、いいところで波を立てるというか。違う視点で考えてくれるので、いいざわめきが起きるんですね。」
KINCOのある瓦町周辺も歩いてみました。
駅の裏側には、トマソンのような建造物も見えつつ、古い建物をリノベーションしたカフェや雑貨屋も点在している。KINCOの周辺にも、趣のある空き物件が目立ちつつある。
「KINCOにも色々な人が集うと思います。つながりを生みつつ、自分で何かはじめるのも、もちろんOKです。好きにやってもらえたらと思います(笑)。」
KINCOの顔を担っていく。ここを拠点に事業をスタートさせる人もいる。ゆくゆくはエリアで、あたらしくはじめてみるのもいい。
訪れる人、働く人、暮らす人。それぞれにとってのベースキャンプになると思います。
(2015/2/23 大越元)