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人と感じ合う

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笑って話しかけてくれるのは、仲居さんというより、その人自身。

自然な立ち振る舞いは心地よく、気の合う人と話しているようでした。

goennomori01 神奈川・湯河原にある一軒の温泉宿。

目の前の人に喜んでもらうためにはどうするか。ここでは格式張った接客ではなく、働く人自身の人との関わり方でおもてなしをします。

スタッフとしてよりも、自分はどうしたいか。そんな考えと行動が求められる旅館です。

掲げるのは、人の成長。スタッフ教育に力を入れ、今後はイベントなどを積極的に行なっていきます。

まずは会社の想いに共感してくれること。共に働くスタッフを募集します。

 
 
梅の花が咲きはじめたころに湯河原を訪ねた。

駅前にはレトロ感のあるおみやげ屋が立ち並んでいる。道の向こうでは、配達に来た酒屋さんと店主が立ち話をしていた。

東京からは電車で1時間半。下町っぽさが残る、雰囲気のいい街。

駅からほどなく歩いたところで、「料亭小宿ふかざわ」の看板が見えてきた。

この日は、月に一度開いているというランチミーティングに参加させていただいた。

goennomori02 「今日は菜の花のちらし寿司なんですよ。みんなで一緒にいただきましょう。」

柔らかい笑顔と一緒に料理を運んでくれたのは、女将の深澤さん。3代目として宿を継ぎ、今年で16年目を迎える。

ランチミーティングでは月代わりの料理の献立を確認したり、スタッフ向けにワークショップをしたりするそうだ。

ワークショップを開く目的は、スタッフ一人ひとりが自分の大切な価値観を知ること。スタッフが人として成長していくことを期待している。

そんなふうに人材育成に注力しはじめたのは8年前。宿を継ぎ8年が経ったころに、深澤さんは自分は何をしたいのか、あらためて考え直したという。

「自分は本当に旅館をやっていきたいんだろうかと。はじめは一般的な旅館として、お客さまのおもてなし方を試行錯誤してきました。でも、わたしの根っこにあったのは、人の変化と成長が好きだということ。それに関わることとして教育をやりたいと思ったんです。」

goennomori03 旅館を一度辞めるつもりで学校の先生になろうかと考えたけど、やりたかったのは大人の教育だった。

いまある環境を見渡すと、旅館には入社したての若いスタッフが集まっていた。

そのスタッフたちの教育をすることが自分の使命なんじゃないか。そう考え、新たな一歩を踏み出しはじめた。

「もともとあった旅館のミッションを捨てて、人の成長を目指した新たな理念をつくりました。それからはスタッフ教育として、自分の心の中をクリアにするワークショップを社内ではじめて。」

自分の中をクリアに。

「まずは自分の大切な価値観を知って、これがあることで自分は生き生きしたり、ないと悲しくなるっていうことを実感していくと、自分の根っこが見つかっていく。わたしの根っこは、人の成長。人によっては感謝が自分の根っこかもしれません。」

「ワークショップで自分の根っこを見つけて、仕事だけじゃなく普段の生活すべてに活かされるようになったらいいなって。世の中に役立っていく人たちが育ったらいいなって思うんです。」

goennomori04 ふかざわでの教育システムは評判を呼び、深澤さんは人材育成の講師として呼ばれることがよくあるそうだ。

また、旅館に泊まるお客さまから高い評価を得るようになった。

「自分の中をクリアにして人と向き合うと、相手がこうしてほしいと思っていることが自然と分かるんです。それでやってみると、その人から自然とありがとうの言葉が出てくる。お礼を言われてうれしいから、さらに人に関わっていこうって思える。」

「こうすればお客さまは喜んでお金を落としてくれるっていう商業的な考えよりも、裏も表もない感じ合う関係性が、うちのおもてなしです。」

実際にはどんなふうにお客さまと接しているのだろう。そう聞くと、深澤さんはこんな出来事を話してくれた。

何十回もご利用いただいている、一人旅の女性のリピーターさんがいらっしゃったときのこと。担当したのは、入社したばかりの新人。

お客さまは、新人だから観光地に詳しくないだろうと、一緒に出かけてそのスタッフに観光案内したそうだ。

「お昼ご飯までごちそうになって帰ってきたんです(笑)。普通なら、お客さまに観光案内してもらうなんてどういうことだってなるかもしれない。でも、お客さまにはすごく楽しんでいただけたんですよね。」

「そのお客さまのバックグランドを察しつつ、感覚的なおもてなしをしようと思っていれば、その瞬間にそうしたいと思ったことを自然と行動に移せる。そうすることで相手と共鳴して、いい結果が生まれるんだと思います。」

ふかざわでは、サービス提供者対お客さまという関係ではなく、もっとフラットに、人と人の付き合いから生まれる関係性なのかもしれない。

 
 
そんなふかざわに共感する人が増え、ここで働きたいと直接連絡をもらうようになったという。

そのひとりが、当時まだ大学生だった山口さん。

想いに共感したふかざわで働くために、兵庫県から面接にやってきたそうだ。

goennomori05 もともとは大学でシステムエンジニアを目指して学んでいた。

就職活動を機に自分のやりたいことを見つめ直し、人と関わる仕事をしようと考えたそう。

「自分は一人目の新卒入社だったみたいで、女将さんはよっぽど嬉しかったのか面接で4時間も話をしました。『うちじゃなくて他のところはいいの?』とか『彼女いるの?』って、いろいろ聞かれて(笑)。」

やってくるお客さまは様々な人がいる。いざ働いてみると、対応の仕方に戸惑うこともあったという。

「クレームを受けても『俺がやったんじゃないのに』と思ったりして。自分の中にモヤモヤが溜まって、ほかのスタッフに攻撃的になってしまった。そのときに女将と話をして。」

「自分の中がクリアで満たされてないと、人のことまで気が回らない。まず自分なんだなって。自分の状態をよくしないと。だんだん素直に受け止められるようになって。」

そこが昔と一番変わった部分かなあ、と山口さんは話していた。

実際にクレーム対応をした際、素直な気持ちで対応することで、相手の理解を得られたという。

「あるクレームに対応しようとしたときに、お客さまから『それはあなたの判断ですか、それとも会社の判断ですか?』と言われて。そのときは会社のことなんて一切考えてなくて、『自分がそうしたいんです』とお伝えしたら、すごく納得いただけて。」

「判断を迫られたとき、会社うんぬんよりも、目の前の人に自分は何ができるかを考えたのがよかったのかな。」

goennomori06 次に話をうかがったのは、鎌倉さん。

入社11年目。スタッフの中で一番のベテランです。

「仲居になろうと思ったのは、おばあちゃんになったときに着物が着られたらいいなって夢みたいなことがあって。」

そう話す鎌倉さんは、これまでもいくつかの旅館で働いてきた。

渡り歩いてきた先に、ふかざわがあった。

goennomori07 「入社したばかりのころは一般的な旅館でした。人を育てるっていう理念ができて、人がだんだん集まって。自分はいままで労働としてここにいたので悩んでいたんですね。そのときに女将さんが自分を受け止めてくれて。」

「あなた自身は何をしたいのって聞かれたときに、わたしは器の大きい人になりたいって思ったんです。そのことが、自分がいま何をしたいのか視点が変わったきっかけになりました。もう一度、自分のおもてなしを見つめ直してみようかなって。」

鎌倉さんは、形にとらわれず自分のスタイルのおもてなし方をするようになったという。

格式張ったサービスではなく、そのときどきで個人の判断に委ねられるおもてなし。経験やスキルはまったく関係なく、その人が持つ感性やここで培われていく感覚が大切なのだと思う。

実際に未経験のスタッフが多く、バスガイドや海上自衛隊員など、いろんな経歴を持つスタッフがいる。

みんな個性があって、いい意味でバラバラ。共通しているのは、人との関わりが好きだったり、大切にしたいと思う気持ち。

そんな人たちだからか、話していると“旅館のスタッフさん”に収まらない、その人自身が見えてくる。

goennomori08 スタッフが集まり、教育も十分にできた。旅館はこれから新しいステージに移る段階だという。

ふたたび深澤さん。

「お客さまが自分自身を内観する時間とか、食を味わう時間とか、温泉に入って本当に体を休める時間とか。そういう時間は大切だっていうことを知ってもらう方向性を今年からより強く発信していこうと。」

そのために施設を改修して、瞑想ライブラリーやセミナールームをつくった。

ここでさまざまなイベントを催すことで、宿泊客以外のもっと多くの人に足を運んでもらい、共感の和を広げようとしている。

「一緒に素晴らしいものに共感して、こんどはお客さんがイベントを主催でやってくださったり、宿泊のほうで来られたり。そんなことが増えてきて、旅館を超えたお客さまと共感し合える場になってきました。」

「場としてのふかざわ。さらにお客さまとは人としてつながって、イベントでお友だちになっちゃうような旅館をやっていきたいと思っています。」

goennomori09 宿スタッフはイベントの運営サポートをしたり、自分が主催することもできる。

鎌倉さんは酵素料理の勉強を重ね、いまは自ら酵素づくりのセミナーを開いているという。

「おもてなしをする仲居だからって料理を運ぶだけじゃなくて、自分と関わる方の場をつくっていくこともひとつのおもてなしかなと思うので。セミナーを開くことも、わたしにとってはおもてなしなんです。」

 
 
ランチミーティングを終えて、こんどはマネージャーの百崎さんに館内を案内していただいた。

百崎さんは深澤さんの右腕的存在。深澤さんの想いを実際に形にする役割を担っている。

露天風呂のある屋上へ出ると、街の向こうに山や海が見える。

「僕はもともと東京に住んでいて。通勤ラッシュのなか会社へ行っていたけど、もう戻れないですね。人はのんびりしていて、空気は美味しい。自然が豊かな環境で暮らせると思いますよ。」

goennomori10 どんな人に来てほしいですか?

「仕事を待つだけでなく、自分の役割を知って、そこから動き、仕事を創り出せる人ですね。年齢も立場も関係なく、やっていることの大小でもなく、そういう姿勢を持って全員が自分ごとで動いていたら、お互いを認め合い、成長し合う関係ができると思います。そんな毎日が続けば、おのずと会社もよくなる。そして自分たちも豊かになる。そう思っています。」

「マニュアルじゃなくて、人を感じてそれに合わせたおもてなしをするのは、すごく感性を高めることになる。仕事だけじゃなくて普段でも気遣いがすごくできるようになると思うんです。働きながらそれを学べるって、人生で得するんじゃないかな。」

goennomori11 自分に素直な感覚で相手にそうしてあげたいと自然に思う気持ち。

それは、疲れることなく、むしろ自分の熱源になると思う。きっと受け取った相手も心地よい思いをするはず。

一つひとつのことを腑に落としながら、同じ感覚の輪が広がっていく仕事だと思います。

(2015/3/26 森田曜光)