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世の中にはうまくいっている地域とそうでないところがあります。徳島県にある神山は、個人的にとてもうまくいっている場所だと思っています。移住者が増え、サテライトオフィスを構える企業が集まり、それにともなって新しい発想が地域に根付き、仕事も生まれる。
なによりそこにいる人たちが幸せそうです。
なぜそんなことが起きているのか。これを読むとその理由がわかるかもしれません。
NPO法人グリーンバレーでは事務局長を募集しています。
徳島空港からレンタカーを借りて、車を走らせること60分。市街地を抜けて、川沿いに山あいの道を進んでいくと、神山町に入る。
ここは、今全国から注目を集めている場所。
フリーランスのクリエイターやアーティストが移住したり、企業がサテライトオフィスをつくることで、最近では地域にお店や宿も生まれました。
ぼく自身も、神山はなんだか自由でいいなと思う場所です。
なぜそんな場所が生まれたのか。
お遍路さんを迎える場所だから外から来た人に寛容だとか、地デジ対策のためにインターネット回線が充実しているとか、いろんな理由があると思いますが、やっぱり「人」なんだと思います。
ここにいる人に何かがあるわけです。
車はグリーンバレーの事務所がある建物に到着した。早速、しばらくしたら大南さんもやってきた。人気者だから、いつも予定でいっぱい。
でも相変わらず、朗らかで気さくな方です。
まずは世間話から。すると話は小学生のころまでさかのぼりました。
「地図が好きやったな。いろいろ国や街を想像するのが好きやったのと、それから実験が好きやったな。中学のときは科学クラブやったんよ」
スポーツやってそうなイメージがありますけど。
「ちゃうちゃう。ただ、科学クラブが全国的に有名な中学やったんやな」
そのクラブの一翼を担っていた?
「ああ、部長やってたんよな」
すごいじゃないですか。全国大会レベルの部活の部長をやっていた。
「歴代、いい先生が教えてくれよったわけ。ぼくらの先生もそういう人で。ぼくらがやったのは、川魚のハエの浮き沈みについて」
川魚の浮き沈み。
「毎日放課後になったら魚を釣りに行って。魚を集めてくるわけです」
「生きたハエに金属製の鼻カン差し、外から強制的に磁石で上下させて、水位の小さな変化が目視できる状態をつくっておくわけやな。浮き袋の容積を計ったりしてデータを取るみたいな。今から考えたら、これってめちゃくちゃ役立った」
実験がですか?
「そう、人生のなかで。試してみて、出てきたものを分析する。分析しながら結果を見ていく。こういうものの見方がすごい役立ったんよ。自分の言うのもなんやけど、物事を分析する力が付いたんやと思う」
この経験はスタンフォードの大学院に進学したときにも役立ったそうだ。
そのまま留学のときの話を聞く。
「まあ面白かったけど、やっぱり勉強はしんどかったな。日本の大学院って、授業が少なくて、研究ばっかりしているイメージがあったけど、向こうは研究以外にも授業も課題も多くて。しかもみんなだいたい1年で修士を取るんよ」
大学院って、普通2年ですよね。
「そう。だけどみんな1年で修士とるんよな。そんで1年目は建設材料学をとったんやけど、あんまり褒められんかったけど一度主任教授から褒められたんは、お前の実験は非常にシステマティックやと」
「僕のなかでは普通なんやけどね。たとえば、セメントって普通は真水で混ぜていくんやけど、塩水使ったときにどういうふうなコンクリートができるかとか」
普通は塩水なんてダメですよね。
「そうそう。それで比率なんかも変えて、段階的にやっていくわけやな。すると褒められる。やっぱり日本人の得意な部分なんだろうな。系統だてて、いっこいっこ考えていくとか」
ひとつひとつ試してみることで、前に進んでいきますよね。逆に言えば、試してみないことにはわからないことが多い。
「そうやな。僕自身はあんまり予測する能力がないと思っているので」
考えるよりも行動。
「そう。自分でいっこいっこ確かめていくほうが腑に落ちるんよな」
1年で修士をとり、2年目は自由だったので、興味のある建設工学と経営工学が合わさった分野を専攻されたそうだ。
1年のときよりも多少は時間に余裕もあったそうで、イベントを企画したり、仲のいい友だちもできた。そんな学生生活のなかで、とても印象的な授業があったという。
「大学院のときに頭にいちばん残っとるんが、現場見学の授業やな」
「ダムの工事現場に、みんなで車乗って教授と一緒に見に行って。プロジェクトマネージャーに工事の話を聞くみたいなのがあって」
そのときにプロジェクトマネージャーが話したのが、ダムのなかの排気の問題だった。
なかなか解決方法がみつからないときに、たまたま幼稚園の遠足を受け入れたそう。
「ひとりの男の子が、真上にトンネルを抜いたら、みたいな話をぽろっとした。結果的にそれが、問題解決のひとつの糸口になったって話をしてくれたな」
「なにか変化を起こす言葉は、誰がそれを発するかわからんのや、って思ったんやな」
たしかに経験を積んでいくと、どうしても「こうするべき」と決めつけてしまうことも増えてしまう。そこから柔軟に考えることができなくなるような気がします。
「そうやな。神山でも同じこと。たとえば、中山間の農業は厳しいもの、と固定的に見てしまうことがあるんや」
「ところが移住してきた子らは、そんな前提状況知らんから、さっきの幼稚園の子と同じように、慣れ親しんだ人間ができんような発想が生まれるんじゃないか、みたいなことを信じこんどって」
大南さんが学生のときに経験した2つのこと。
それはひとつひとつ試してみること。そして新しい発想は意外なところからやってくること。
その後、神山で大南さんが実践してきたことには、この2つの経験が活きているように思うし、地域にもこの姿勢が浸透している気がする。
それを象徴するのが、神山でよく聞く「やったらええんちゃうん」という言葉。それくらい試してみることや人に寛容なんだと思う。
大南さんが留学から帰国して10年ほどは目立ったことをせずに「田舎の町の神山でどうやって物事が動いていくか」じっと観察していたのだそう。
そこから少しづつ試してみることをはじめ、外からやってきた人をこころよく受け入れてきた。
1999年からアーティストインレジデンスの事業をはじめ、2002年くらいからアーティストの移住者がふえていく。2008年には西村佳哲さんたちがやってきて、イン神山というサイトが生まれて、起業家やITベンチャーが集まることにつながっていく。
そのなかで生まれたのがビストロやピザ屋さんなどの飲食店だったり、宿泊施設だった。
そういうところでは、当たり前のようにオーガニック野菜が必要とされた。農業への固定概念がくつがえされていく。
「今までずっと農業一生懸命やっても、なかなか報われんかった。オーガニックの野菜つくっても農産物として出荷すれば1000円の単価が2000円になるくらい」
たかが知れている。
「そう。ところがそれにサービスが加わると、2万円3万円になる。そしてサービスはすべて東京でおこるということなんよ」
なるほど。商売を地域で完結すると、サービスをおこなう産業ができ、雇用も生まれる。そしてその単価は意外と大きい。
「それをうまくやりよるんが、イタリアやった。フィレンツェ行ったら、ビステッカ・アッラ・フィオレンティーナっていう、おいしいTボーンステーキあるんよな。これは絶対食べたほうがいい。僕はあれだけでも食べにいきたいもん」
それは食べてみたいですね。
「でも日本だと神戸牛の一級品も東京で食べられる。ところがイタリアではそのステーキはトスカーナ地方でしか食べられない。地域の外にださないわけ」
「地域のなかに、この完結する循環をつくらんといかんよな。一級品すべて東京に送ります、そればっかりしか意識がない。東京に良い肉買ってもらう、築地で取引してもらうっていう頭しかないから、ずっと従属した下請け状態なんよ。今まで徳島の野菜とりよったけれども『熊本にいい産地できたから、うちはシフトします』と言われたらもう、ガタガタになる。これは下請けやけん、しょうがないんよな」
試してみる。そして、いろんな声に耳を傾けて、また試してみる。
そうやってつづけていくと、今まで見えてこなかった景色があらわれた。
今回の事務局長の募集でも、同じスタンスでぶれません。
「単純な事務職っていうより、自分の発想のなかで何かやっていって欲しいんよな」
「1個の職種とかに固執する必要はまったくなくて、多少幅広く持っておくほうがよくて。完全に定型の仕事は、それはそれでがつんとやるんやけども、プラスαの部分というのは結構自由なほうがいいんかなって気がするんよな」
定型の仕事って、どういうものですか?
「役場など、いろんな折衝みたいなことやな。この場所も役場の施設なんで。だから10年くらい経験があるほうが動きやすいかな、っていう気はするな」
「それと数字だろうなあ。自分自身が会計を最後までやる必要はないけれども、そのあたりを読み取る力というか。予算を執行していかないかんですので。そのあたりのベースを固めてくれっとったら、まわりのサポートもある」
大南さんは新しい事務局長に、幼稚園の子どものような柔軟な発想を求めているし、自分と同じようにいろんなことを試してほしいと思っている。
具体的にここを目指すという「ゴール」はない。
それよりも試してみるとか、いろんな声を聞く、というような働く姿勢を求めている。「ゴール」はないけれど「コンパス」みたいなものはあるかもしれない。
「けっこう、自由にやらせると思うんよな。何かを生み出したいわけよな。生み出すということは、枠をつくったら枠の大きさのものしか多分出来んと思う。これ以上のものを生み出そうと思ったら、枠をとっぱらうっていうこと以外にないと思うんよね」
「日本はなんかイノベーションが起こりにくい。なぜかいうたら、枠のある社会なんよな。こうあるべきみたいのを先にガチガチに決めとるから、ここのなかでいくら柔軟に考えなさいって言ったって、絶対新しいもんは生まれんと思うんよな」
これから神山は、もっとイノベーションを生んでいくことになると思う。
大南さんは「たぶん、変化の原点になるんやろうなって思う」とおっしゃっていました。その変化の真ん中で働きたい方は、ぜひ一度神山を訪ねてみてください。
(2015/7/26 ナカムラケンタ)