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日本でこれをつくれる人があとどれだけいるか。そんな貴重な技術を持つ職人がいる。そんな職人を訪ねて一緒につくりあげていくジュエリーは、それを手にした人に、どこか懐かしく、それでいて新鮮な感覚を与える。
使い捨てではなく、長い時間をかけて愛用される存在って、こういうものなんじゃないかと思う。
そんなジュエリーをつくる人、そして届ける人を募集します。
浅草駅を降りる。駅周辺は観光地らしい賑わいがあって、今日が平日だということを忘れさせる。
ただ、少し歩けば「昔ながらの手仕事」の空気がにじんでくる。気づけば、靴の問屋さんが並ぶ通りに入っていた。
その通りから一歩入ったところに、「mederu jewelry(メデルジュエリー)」の店舗と工房を備えたオフィスがある。
公園の緑が鮮やかな小路に、控えめに看板がかかっているのがかわいらしい。
中に入るとそこは店舗になっていて、さまざまな形や色のジュエリーが並んでいる。
その奥にある工房を抜け階段をのぼり、ふだん昼食やミーティングのときに使うという、大きなテーブルのある部屋に通された。
ここでまずは、「mederu jewelry」を立ち上げた代表の黒川さんに話を伺う。
「『mederu』という名前は、愛でるという言葉が語源です。ものを愛用するというのは豊かなことだよね、というのが僕の根本にあって、その気持ちがmederuという言葉の響きから伝わればいいなって」
黒川さんの話は、とても聞きやすい。
話が変なところで折れたりしないで、ゆるやかに1本につながっている。
こちらに押し付けるような感じは一切ないのだけれど、ひとつのゆるがない芯を持っているということが伝わってきた。
ものを愛用することは、豊かなこと。
黒川さんがそんな考えに至った経緯を聞いてみる。
「ぼくの実家は植木屋で、父は庭師なんです。技術で食べている人が近くにいて自然と影響をうけたのか、ぼくもものづくりの道に進むんですね。洋服をつくる仕事をしていました」
ちょうどその頃は、海外のファストファッションが日本にどんどん参入していた時期だった。物がどんどん消費されていく現状を目の当たりにする。
そうした時代の流れとは逆に、黒川さんが惹かれていたのは、使ううちに味がでてきて代わりのないものになっていくような存在。
「もしかしたら、歳を重ねたからもしれません。昔はスニーカーだったのに、革の靴を買ってみようとか、その靴を手入れしてみようとか。ものの選び方、使い方が変わってきました」
同時に、そういうものは世の中に適切に伝えていかないと途絶えてしまうかもしれない、ということにも気づく。
世の中に、ものづくりの価値を伝える仕事がしたいと思った黒川さんは、ウェブの勉強をはじめ、老舗の鞄屋さんでウェブディレクターとして働きはじめた。
「そこでは、インターネットからものづくりを発信することによって、若い人にも職人の手仕事が伝わり、後継者がどんどん増えていくという過程を、働きながら体感することができたんです」
伝えることで、残していきたいものづくりが続いていく。それを確信することができた。
そんなとき、知り合いの紹介でジュエリーの職人に出会ったそうだ。
「その工場は千駄木にあって、民家の2階で作業をするようなところでした。10年前は全盛期で10人以上の職人がいたのですが、僕が行ったときには2人にまで減ってしまっていました」
話をするなかで「本当にジュエリーは売れないから、やめたほうがいいよ」と言われたけれど、黒川さんのジュエリーへの興味は高まっていく。
「同じ愛用品でも、靴は履かないといけない、バッグは持たないといけないものですよね。でも、ジュエリーはなくても生きていける。それでも買うということは、大切なものの究極なんじゃないかって思ったんです」
愛用する豊かさを伝えるには、ぴったりだと思った。
mederu jewelryはこうしてはじまり、今年で8年目を迎える。
「愛用」をテーマに、デザインやものづくりはどうやって進めていくのだろう。
「僕たちは、”古き良きもの”のなかに愛用のヒントがあると考えています。例えば30年後にかわいいと言われるものってどんなものだろう?と考えると、それって、いまから30年前につくられたもので、いまでもかわいいと言われるものなんじゃないかなって」
それはたとえば、おばあちゃんが昔つけていた指輪だったり、民芸の焼物やガラスのコップと同じような存在。
宝飾品としてのジュエリーではなく、なにか特別な記憶と結びついているもの。
「そうした”古き良きもの”を、当時つくっていた職人の技術で再現する。それが、愛用品をつくるための根本的なソースなんじゃないかと思っています」
「僕たちがやっているのは、”古き良きもの”を訪ねてつなげること。だから僕たちがつくるものは、どこか懐かしいものになっています」
たとえば、と黒川さんが商品を見せてくれた。
「これは瑪瑙(メノウ)を探究したものです。瑪瑙って、数珠などに使われていて古めかしいイメージのあるものですが、こんなふうに、年輪のように固まって層になるんです」
「英語ではアゲートというジャンルで、模様が絵や写真に見えることから、ピクチャーアゲートとも呼ばれるものもあります。眺めていると、飛行機から見た雲に見えたり、夕日に見えたりするんですよね」
とても色鮮やかなのだけど、扱っているものは着色ではなくすべて自然色なのだそうだ。
「ジュエリー界のなかでは古臭いと言われているけれど、魅力的ですよね。夏の情景を感じさせるというか」
「そんな素材を使い、浅草のアトリエでは様々なデザインを何度も何度も繰り返し考えます。そしてその後職人と話し合いながら作っていきます」
「僕たちは、絶対に現場なんですよ」と黒川さん。
「職人のところに行き、その場で作っては直しをひたすら繰り返します」
ふつうは最初にデザイン画を描く。でもそうではなく、絵に描けない気持ちを出していくというところからスタートするそうだ。
ジュエリーをつくるためには、型に流し込むキャストという作業、研磨、掘る、石を留める、などさまざまな工程がある。
そうした過程に関わるひとりひとりの職人と、地道に向き合うこと。
「ジュエリー、漆、七宝焼きなどの加工産業って、職人が頑張ってつくっています!と言ってもなかなか伝わらないんです。だから、僕たちがビジョンを描いて、そこに関わる価値を感じてくれて協力してくれる職人がいて、という関係性でものづくりをしていきたいと思っています」
ただジュエリーが好き、ではなく、その先の作り手や、日本のものづくり、というところまで想像が届くような人がいいんだと思う。
「ここで働く人は、ジュエリーより考え方に共感してくる人が多いかもしれません」
そう話すのは、ジュエリーの企画や開発をしている北村さん。
働いていたジュエリー学校でmederu jewelryのことを知り、オフィスを訪ねて黒川さんとひたすら2時間話して入社したそうだ。
よっぽど考えが合っていたのかな。
「ちょうどmederu jewelryに入るころに娘が生まれて、いま5歳なのですが、娘にこうなってほしい、と思う姿と、ここでわたしが会社に求められていることが、とても近いように感じるんですよね」
ここでは、どんなことを求められるんですか?
「けっこう、個人同士が踏み込み合う家族みたいな会社なので、業務的なことではなく、人として、というところを求められます」
人として。
「たとえば、伝統彫金の一流の職人って、芸事ができたり周りの人に愛されていたり、技術だけではなく何でもできるんです。人としての魅力がある。わたしも仕事をする上で、そういう人でありたいと思うようになりました」
デザインを決めるときには、スタッフ同士で最近気になったことや観た映画などを話しながら”感触”を集める。
そして、アトリエではプロトタイプを何度も作りながらデザインの輪郭を見出していく。
感触を形にするまで徹底的に考える。
そしてそのデザインを実現させるために、今度は職人と頭をつき合わせながらものづくりを進める。
ひとりではなく、人とつながって仕事をする。そんな関係づくりのなかで、自然と人として成長できるポイントがたくさん見つかるのだそうだ。
北村さんの話のなかに「人として」とか「愛される」というキーワードが出てきたけれど、まさにそんなふうに働いているという秋谷さんを紹介していただいた。
秋谷さんの仕事は、北村さんたちがつくりあげた商品を、工房の横の店舗から実際にお客さんに届けること。
接客を通して知り合ったお客さんに手紙をもらったり、結婚式に招かれることまであるそうだ。お客さんにも社内のスタッフにも慕われているのだと事前にお伺いしていた。
そんな秋谷さんに、仕事のなかで心がけていることを聞いてみた。
「お店に来た人にとっては、わたしがmederu jewelryのすべてになってしまうんですよね。だから、責任重大です。でも、気をつけているのはほんとうに普通のことですよ」
「たとえば、引き出しをバンッと閉められたら嫌だなとか、歩き方はせかせかしているよりゆったりしていたほうがいいな、とか。普通なのですが、そこができていると、やっぱり気持ちがいいんですよね」
お店の場所柄、ふらりと立ち寄る方は少なく、みんなmederu jewelryを目当てにやってくる。そんなお客さんたちに、来て良かったと思ってもらえるように。
接客は基本的にはマンツーマンで、時間をかけるそうだ。とくに慎重に選ばれるのは、ブライダルリングの購入を考えているお客さん。
「きっとみなさん、ブライダルリングを選ぶのは初めてなので、何がいいかわからない、などの不安を聞くところからはじまります。商品を選ぶより、話を聞いている時間のほうが長いかもしれませんね」
「お客さんに、あなたから買いたいと言われることが幸せなので、『あなたに言われたからそれにします』とか『お店に来てよかった』と言われるのは、本当にうれしいことです」
大切なものを買う瞬間に立ち会うというのは、責任もあるけどやりがいも大きいのだと思う。
最後に、代表の黒川さんの言葉を紹介します。
「工房がありお店があり、ここはさまざまなことに立ち会える場所です。考え、作り出すところから、お客様にお渡しするところまで関われるのが魅力です」
たくさんの人が関わり、そこから生まれるものこそ、きっと時間を経ても愛されるものになる。
ジュエリーの先にある、mederu jewelryの大切にしていること。そこに共感できる人に来て欲しいです。
それがなによりの応募条件かもしれません。
(2015/8/10 笠原名々子)