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伝える、つなぐ、気づかせる

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

長く残ってきた物や暮らしの知恵。受け継がれてきたことには、何か理由があると思います。

D&DEPARTMENTはそういったものと人との関係を見つめ直し、時代に合う形で世の中に提示してきました。

たとえば、ずっと使われてきた家具を復刻したり、地域に残る暮らしや料理から、その土地の観光をまとめる本『d design travel』を発行したり。47都道府県に根付いてきた個性をさまざまな角度から紹介するd47というプロジェクトもおこなっています。
今回はそういった各地の個性に、食の視点からアプローチするd47食堂と、東京、富山、大阪、福岡のD&DEPARTMENTのダイニングで働くキッチンとホールのスタッフを募集します。


渋谷駅から徒歩5分。d47食堂はヒカリエという商業ビルの8階にあります。販売や展示をするスペースに隣接した、大きな窓から光が差し込む気持ちのいい場所です。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 迎えてくれたのはニコニコと親しみやすい笑顔の内田さん。d47食堂で店長をしています。

内田さんはd47食堂のオープンのときに入社するまで、広告会社でディレクターとして働いていました。20数年勤めて、少し違う世界を見てみたいと転職を決意。働けるとは思っていなかったd47食堂に採用されたそう。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 働いてみてどうでしたか。

「大変でした。仕事自体がまったく違うので大変なのは分かってはいましたが、明らかに体力の限界を超えているぞ、と。20代の子たちが音を上げていることに、私が音を上げないわけがないと思いながら」

楽しそうにオープンのときの苦労を話してくれる内田さん。

仕事にも慣れて1年が過ぎるころ、d design travelの取材に同行して都道府県別の定食開発取材に行くことになったそう。
d47食堂では各地域の料理を発掘して定食として提供している。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA はじめての取材先は宮城県だった。

「うーん、食べました。もう二度と牡蠣が食べられんと思うくらい牡蠣を食べた。牛タン食べて、牡蠣食べて。野菜食べて、畑で採った葉っぱそのままかじって。抜かなくていい大根も抜いて食べて。」

「行く先々でいろんな方たちとお話しさせてもらいました。当然D&DEPARTMENTなんて知らない人たちばっかりなので、そういう方たちにも説明をして。地元のお母さんたちと交流をして、料理も教えてもらいました。私たちのために漬物をつけてもらったり、いろんなご無理をお願いして。そうやって仙台の定食が出来て、面白かった」

土地の風景(仙台定食) 料亭にも物産展にもない、地域の人が食べるものを地域の人が食べる方法で。どうやったら各地で受け継がれてきたものや根付いた食べ物に出会った感動をそのままお客さんに伝えられるかを考える。

地域ごとの個性を伝えるその先に何を見据えているのだろう。

店長である内田さんがいつも新人スタッフに話すことを教えてくれた。

「私たちがやっているのは日本各地で食の活動をしている活動家たちを応援すること。その人たちと縁をつなぎ続けていくってことが大事なんです。完璧じゃなくても自分たちが感動したっていう気持ちがあれば、それがつたない言葉でもなんでもいい」

京都定食取材1 たとえばお客さんが「この定食、この前高知に行ったときに食べたものと同じだ」とか「これを現地で食べてみたい」と思うかもしれない。

内田さんは「何か次の行動になるようだったらとってもハッピー」と話します。

各地の空気まで感じられる食事を提供することがお客さんの次の行動になっていく。そこには感動がなくてはいけないということ。これは内田さんが入社する際にも教えられたそう。

それにD&DEPARTMENTでは消費者のことを「生活者」と呼んでいるそうだ。

渋谷のd47食堂や全国各地にあるD&DEPARTMENTに併設されたダイニングでは「生活者」と「生産者」をつなぐ活動をおこなっている。それは食事を提供することもそうだし、「生産者」を呼んだワークショップなどのイベントでもそう。

イベント2 スタッフがその土地を伝えるだけでなく「生産者」、「生活者」とともに、自分たちがかかわっているという意識がこのお店をつくっているように感じた。


d47食堂は定食だけではない。そのメニューはドリンクに至るまですべてスタッフが提案したものでつくられている。

現在はイベントの運営などもおこなうスタッフ、宮﨑さんにお話を伺った。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA はじめに宮﨑さんが選んだ大阪のワインを紹介してくれた。

「これは私がワイン担当になった一年目にはじめて入れたんですけど。夜行バスに乗って朝大阪について。その日一緒にワイナリーの方と畑仕事をしてエピソードを伺ったんです」

かつてブドウの一大産地だったという大阪。しかし、畑の多くは今では枯れ果ててしまっているとのことだった。

宮﨑さんは休日を利用して現地に行き、ワイナリーの方とお話しをする中で、耕作放棄地を買い取り赤字覚悟でワイン生産を続けていることを知る。

「そこのワイナリーは『まずは広める活動をしないとここの土地はよみがえらない』と言っています。たとえば小さなボトルでも販売しているのですが、それだと利益を出すのは難しい。でも気軽に飲んで欲しい、という思いから小さなボトルをつくっているんです。その想いを東京でも応援したいと思って」

こんなエピソードがこのお店のメニューにはちりばめられていて、手づくりのメニューは生産者の顔が見えるような気がしてあたたかい。

福岡定食取材2 「お客さんもこういうメニューを見ると『実はね、静岡にはこういう美味しいわさびが取れるところがあるんだよ』って教えてくださるんですよ。『そうなんですか!』って私たちは知らないことは調べる。そういうことはよくありますね」

食堂のスタッフは各地で触れた「生産者」の気持ちを「生活者」に伝える。それだけではなくて、「生活者」にいただいた言葉も「生産者」に届けていく。

そんな関係性が生まれるお店を目指しているそうだ。

「こっちから伝えるだけではなくて、一緒に考えていく。盛り上げていく。私たちは専門家じゃないのでお客さんに教えてもらってます」

情報が溢れているからこそ、大切にしたいことがこの場所にはある気がします。


やわらかな声でお話ししてくれる宮﨑さん。d47食堂に入社したいきさつが面白い。
大学進学をきっかけに地元九州から上京する際に、ご両親と交わした約束事があったそう。

「将来地元のために何か恩返しができるような仕事をして帰ってこいって。地元に将来どういうお土産を持って帰れるかなって考えながらなんとなく大学で過ごしていて」

そんなとき本屋でD&DEPARTMENTを設立したデザイナーのナガオカケンメイさんの本に出会った。

「デザインのことは分からないけど、地方、地域をテーマにしている人がいるということを知って、D&DEPARTMENTを知りました」

宮﨑さんは意外にも自分のことを「鉄砲玉タイプ」だという。

当時、D&DEPARTMENTの引退宣言をしていたナガオカさんのトークショーに行き、呼び止めたそうだ。

「何を間違ったのか『弟子にして下さい』と」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA その無鉄砲さにお叱りを受けたのち、面接を受けて入社することになった。
この「弟子希望エピソード」は入社前からスタッフの間で話題になっていたそう。

働いてみて何か印象的なことはありますか。

「新しいことになかなかチャレンジできない時期に先輩に声をかけてもらって。『ここの人たちと一緒にやっていくんだよ』っていうことを、何度もなんども繰り返し教えてもらったんですね」

一緒に働いているつもりなのに空回りしてしまう。解決のヒントはd47食堂の雰囲気にあったそうだ。

「忙しくてみんなでゆっくり話をする時間はないんですけど、昨日具合が悪かったら『どうだった?』とか、飴玉渡すでもいいし。そういうちょっとしたおせっかいがこの食堂の家族的空気を生んでいて」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA たしかにあたたかい空気を感じます。

「それに気づけてから、自分の仕事が辛かったとしても、私は家族と一緒にこの山を越えるんだっていう感じで。だから辞めないですね。しぶとく」

d47食堂には「生活者」「生産者」のあたたかいつながりが感じられるけれど、それをつくっているのは働いている一人ひとりなのかもしれない。


日常の業務を再び内田さんに伺ってみた。

「食堂の場合は朝10時くらいからフロア全体の清掃をみんなで始めて。立ち上げのための準備と仕込みをして、11時半から営業開始です。サービスとしてみなさんに定食についてお話ししたりします」

キッチンはどうですか。

「キッチンは結構な量の仕込みがあります。というのも、何かしらご縁があったところの大事に育った良い野菜、ちゃんと理由のある野菜を使っているので。全部洗って泥も取って、虫もついてくるので取って」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「お客様からは『有機なんですか?』だとかマクロビだとか難しいことを聞かれるんだけど、そういうことをこだわっているんじゃなくて。ご縁のある、ちゃんと育てている人たちの野菜を使いたい」

加工されたものではないし、カット野菜じゃないのでつくる手間がある。

D&DEPARTMENTのお店ということで、考え方や空間が洗練されているから、憧れだけで入ってきてしまう人もいるかもしれないけれど、d47食堂の日常は食事を提供する場所。

毎日の飲食店としての業務を覚悟していないと辛いかもしれません。


今回は渋谷のd47食堂だけではなく、D&DEPARTMENTの店舗に併設するダイニングでもスタッフを募集しています。

「d47食堂は47都道府県を俯瞰していろいろ旅するきっかけを東京でつくろうというコンセプトなので、各地の食材を集めます」

「一方でD&DEPARTMENTの富山店だったら、基本的には富山県内の生産者と関係性をつないで食べ物を提供している。でも考え方にはまったく変わりはないです」

各店舗ではお客さんに来てもらう”勉強会”というものを行っているそう。生産者を招いてのワークショップや食べ比べ飲み比べなど、内容は幅広い。

伝える、つなぐ、気づかせる。

そのための場所を提供するスタッフはなんだか使命感に溢れているように見えました。

最後に店長の内田さんの言葉を。

「ここは私の店でもなければ、d47食堂っていう店でもなくて、みんなの店。みんなが自分でつくっているつもりで働いてほしい」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA これは各地のダイニングでも言えること。自分たちの足を使って、受け継がれてきたものと人との関係をつくりませんか。

(2015/10/26 遠藤沙紀)