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アートな直島で生きる

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瀬戸内海上に浮かぶ島、直島。

人口約3200人ほどの小さな島は、近年『アートの島』として世界中から注目されています。

島のあちこちに現代アート作品や現代建築、アートプロジェクトが点在する中、多くの方が訪れる目的地のひとつに、美術館とホテルが融合した施設『ベネッセハウス』があります。

n01 運営しているのが株式会社直島文化村。ベネッセから運営を委託されている会社です。

ベネッセハウスをはじめ、つつじ荘や本村地区の『家プロジェクト』、さらに地中美術館内の『地中カフェ』なども運営しています。

今回募集する人は、株式会社直島文化村のスタッフとなって、まずはベネッセハウスのホテルフロントとして働くことになります。

アートの島のホテルで働く、ってどういうことでしょう。

芸術といえば、NPOやボランティアで運営するというイメージもあるかもしれませんが、直島文化村は、株式会社の名の通り『ビジネス』の立場からアートに取り組んでいます。

また、ここではベネッセコーポレーションが『地域活性化』を事業目的として、ホテル運営を行っています。

1989年に最高顧問の福武さんが、アートを通じて瀬戸内海の島々が抱える公害や産業廃棄物、過疎化の問題を解決できないかと考え、『直島文化村構想』が発表以来、『地域活性化』と『事業化(ビジネス)』の2軸両立で運営され続けています。

「基本となるこの二つの軸を大切にする一方で、この島の暮らしに愛着を持っていけるかどうか。向き不向きがあるからこそ、そこがすべてだと思っていますね」

そう話してくれたのは、人財企画部部長の高田滋吉さん。

暮らしのなかでは島のゆったりとした時間を感じる一方で、働くときは一流のサービスが求められる環境です。

直島が好きだからという理由よりも、この島だからこそ出来るもてなし方を考えられる人の存在が重要だと思いました。

n02 直島に移り住み、島のことを理解した上で働くのが前提になるホテルスタッフは、自分なりに純粋な好奇心に沿って素直に働けるセンスが重要になってくるのかもしれません。

 
岡山駅から電車を乗り継ぎ宇野港へ向かう。

宇野港からフェリーへ乗船し、20分ほどで島が見えてきました。

n03 同時に見えてきたのは現代アート作品。

島へ降り立ち、取材をおこなう前に島を一周してみることに。

瀬戸内海が広がる美しい風景と、ゆっくりとした島の時間が流れていました。

宮浦港からバスに乗り15分、ベネッセハウスへと向かいます。

 
はじめに迎えてくださったのは高田さん。

これまでの経緯を聞いてみました。

n04 「私はベネッセハウスで働きはじめて7年目になります。それまでは東京で5年、大阪で3年働いていまして、どちらも非常にビジネスに特化した会社で充実していました」

「ただ、30代あたりから先の展望が見えなくなってきたといいますか、60歳までこんな感じで人生を歩んでいくのかなと不安に思って」

そこで、人材紹介会社にさまざまな企業を紹介してもらうのですが、どうもしっくりこない。

「そしたら向こうも出す手がなくなったのか、今の仕事を紹介してきたんです。やっと面白そうだなと思い、こちらの面接を受けてみることにしました。面接を受けに直島を訪れたときに話を聞いたのですが、当時はよくわからない施設だなと思っていましたね」

しかし、その帰り道で印象的な出来事が。

「バスに乗って帰ろうと思ったら一時間以上バスがなかったんですよ。勘弁してと思いながらも、バスを待っていました」

「そんな時にふと、一時間何もしない時間なんて、ここ10年くらいなかったことに気づいたんです」

六月の晴れ間が覗き、とても気持ちのいい天気のなか、下から瀬戸内海の穏やかな波の音が聞こえる。

n05 「そのときに、ここで暮らしたら幸せだなと思い、感覚的・直感的に決めましたね。もちろん事業自体にも興味をもっていました。世界中から人が集まり、アートの力で地域活性化に取り組む活動には、他社にない独自性を感じました」

そんな思いで島へと移り住み、働きはじめた高田さん。

当然、島で働くということは苦労することも多いと言います。

「こちらで働きはじめて、時間の流れなど、外から来た人間としては何か物足りなくなるシーンは多々あると思います。小さなコミュニティなので、ベネッセという看板だけを見てある程度整った会社に行くというイメージをすると思うんですが、島暮らしということを忘れないでほしいですね」

「どうしても、良いところだけをイメージして来る人が多いんですよね。ですが、そういった先入観が無い人のほうが居心地のいい環境なのかもしれません」

また、ベネッセハウスの業務だけではない。はじめにあげた他の施設も運営しているため、正社員は入社してから配属異動する可能性もある。

「たとえば『つつじ荘』であったり、本村という地区の古民家アート施設『家プロジェクト』のスタッフであったり。ホテルスタッフとしてだけ働く、とは正直言い切れないです」

場合によっては、ホテルスタッフを経験してからアートプロジェクトを管理するスタッフに配属されることもあるようだ。

接客という点では意識することは同じかもしれないが、提供する価値観やサービスは働く場所によって左右されるのかもしれない。

n06 「とはいえ最初は、ホテルスタッフからはじめてもらいます。中でもホテルフロントとレストランサービスは接客頻度が高いので、そこの最前線を体験してもらいます」

「そのあと、人によっては配属部門でリーダーやマネージャーとステップアップするのか、あるいはより興味が惹かれる他部門に異動するのかということになります。ただ、どこも接客施設になるので、軸となる接客・おもてなしの意識に対して志向性がある方を求めていることに変わりはありません」

当然、どこに配属されるかによって働く時間や働き方は変わってきます。

たとえば、フロントスタッフは24時間稼働する部門になるので、夜間勤務がメインになることも。

「レストランスタッフですと、朝夜2食の営業なので基本的には営業時間とその前後に働くことになります。朝早く出勤し、レストランを開けて朝食ビュッフェの準備からサービスまで、早ければ午前10時くらいには終わり家に帰ります。そこで休憩して、また昼過ぎに出勤し、ディナーに向けて準備するといった変則的な働き方です」

n07 カフェや美術館関連は概ね9時〜6時を中心に勤務するといったことになるようです。

 
実際にホテルスタッフとして働いている方にも話を聞いてみました。

宿泊部の部長の鳴瀬さんは、サービス業から現在のホテルスタッフに転職。

n08 「面接での会話が、とても家族のような雰囲気で。空気感がとても良いなと素直に思えましたね」

ホテルフロントに立ちながらも、部長として全体を見渡す役割の鳴瀬さん。

長年働いてきたなかで、感じる課題もあるという。

「最近はリゾート的な面を期待して来られるお客様が増えているんです。24時間営業の施設が整っているわけではありませんし、都会のホテルのようなルームサービスもできません。そういったサービスを求めるお客様とのギャップが最近目立ってきてはいます」

「以前はその辺の認知はされており、ホテルのサービスよりもアートや建築、自然を楽しみに訪れていた方がメインでしたので、そこまで課題にならなかったんです」

n09 直島という価値観や意識が、メディアなどによって変わりつつあるのかもしれない。

そういった状況で、何が大事になってくるんでしょうか。

「やっぱりこの島の魅力は、建築やアート、自然、島民(人)が共存している環境。その4つをお客様が感じ取ってくれるように、心のこもった話ができる、スタッフの考え方や向き合い方が大事になってくると思います」

「そういった意味では、仕事はもちろんプライベートの時間を自分でつくれる人は、趣味や人付き合いをうまく楽しめ、仕事にも活かせるのかなと思います。自分が楽しまないとお客様を楽しませることができないので、自分が楽しみながらお客様に喜んでもらえるという姿が、スタッフの理想だと思います」

 
もう一人、入社三年目の阪中さんは、宿泊部フロントに勤務しています。

n10 高田さんとの出会いを通して、この場所で働くことを決意したそう。

「高校生のころはスーパーでバイトしていました。このまま接客業に関わるつもりで仕事先を探していましたね」

そんなとき、大学の集団面接で高田さんと話をする機会が。

「そもそも『直島文化村』という名前から気になって。ベネッセが関わっているということ以外何もわからない。けれど高田さんの話は面白い。興味が溢れてきて、導かれるがままフェリーに乗っていましたね」

n11 島に移住して3年が経った。

ここでの暮らしを体験して、生活の面で何か感じたことはありましたか?

「生活の面では、オンとオフをきっちり分けたい人は難しいと思います。基本的には古民家などの島内社宅を借り、そこに住むことになると思うので、スタッフみんなが近所に住んでいます。休みの日にバスに乗っても船に乗っても、誰にも会いたくない日でも(笑)会うんですよ」

「また、時間の流れがとてもゆっくりなので『島に住む』っていう覚悟がないと厳しいと思います。一時間バスを待つこともあるので、次のバスに乗ればいいやくらいの気持ちの方であればすぐに慣れると思います」

仕事の面ではどうでしょうか?

「3年目の私の意見でもすごく大切にしてくださる環境があり、良くも悪くも即戦力としての言動が求められる環境だと思います。ですから、自分のスキルを自分のペースでじっくり育てていこうと思っている方は、苦しくなるのかもしれません」

 
取材をした日は、ちょうどインターンをおこなっていた学生達の送別会でした。

先ほどまでホテルのフロントに立っていたスタッフからも、年代の垣根なく笑顔が溢れる。

そしてインターン生の言葉からは、島民として島に馴染んでいた姿が想像できました。

n12 リゾート施設として輝かしい働き方があるように見えますが、暮らし方も働き方も、直島が中心となる。

もしかすると、先入観があればあるほど、難しい環境になってしまうのかもしれません。

肩の力をぬいて、島の空気に馴染む。そうすることで、どんどん自由さを感じられる仕事と暮らしがここにあると思います。

(2015/10/7 浦川彰太)