求人 NEW

繋がりも育む倉庫

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

埼玉県戸田市にある、大きな倉庫の中に入った三角屋根の建物。

一見ふしぎなこの建物は、2015年9月にオープンしたばかりのコワーキングスペース「川岸倉庫」

kawagishisoko01 運営する建築家の熊木英雄さんが目指すのは、多様な人が集い、コミュニケーションや考えを共有するオルタナティブスペース。

この倉庫では熊木さんの設計事務所「Organic Design Inc」と共同企業体である「㈱熊幸倉庫」、そして建具屋さんの「Porte」の3社が現在シェアしています。

コワーキングスペースと建築事務所が同じ空間にあることで、設計の仕事においても様々な広がりが生まれているそう。ここで働く人にとっても、一般的な設計事務所にはない、貴重な経験が得られると思います。

今回は熊木さんの元で設計をメインに担当しながらコワーキングスペースイベントにも参画できる人と、川岸倉庫の運営をアシスタントサポートしてくれる人を募集します。

 
かつては倉庫街だった戸田市。いまは都心に勤める人たちが住む住宅街になっている。

そんな戸田市に、JR埼京線戸田公園駅から歩いて5分ほどで、周りの風景とは一際雰囲気の違う建物が見えてくる。

kawagishisoko02 中へ入ってみると周囲の倉庫のイメージからは想像できない、柔らかい空気が流れている。

kawagishisoko03 テーブルひとつ、照明ひとつにしても繊細なこだわりが伝わってくる。会議室に置かれている椅子はソファのような座り心地で、可愛らしいデザイン。代表の熊木英雄さんが、15年以上前にご両親へのプレゼントとして設計したものだという。

修業時代、アトリエにいたときに住宅や家具の設計を経験したのだそう。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA イギリスの設計事務所に勤めていたときは空港、企業の本社ビル、学校の設計にどっぷり携わるなど、大きな仕事もしていたという。

そんな熊木さんは、どうして日本に戻ってから戸田市で独立し、コワーキングスペースをつくろうと思ったのだろう。

これまでの経緯をうかがう。

kawagishisoko05 「大学を出てからは、建築家の西森陸雄さんの生き様が好きで、そこの会社に入ったのです。家や家具の設計以外にも、ワインの飲み方から、おいしいものを食べることまで教えていただいて。“豊かなこと”を通じてお客さまと繋がることを教えていただきました」

その後、仕事で訪れたウィーンの美しい風景と建築を目にし、渡欧を決意。退職した翌日に渡欧し、そこからは簡単ではなかったもののイギリス・ロンドンにある建築事務所「Foster+Partners」に就職した。

400〜500人が働くような大きな会社。パリのオフィスプロジェクトやロンドンのヒースロー空港の設計に携わることができ、充実した働き方だったという。

kawagishisoko06 そんななか、熊木さんのもとに当時スタッフ17名の設計事務所「FUTURESYSTEMS」のボスから「うちへ来ないか?」とオファーが。大きい会社で働いていたため、異国での小さな会社で働くことに対しても興味があった熊木さんは、その会社へ転職した。

会社のオフィスは改築された倉庫だった。ピンクの絨毯に、中央には真っ白いソファ。靴を脱いで入る、面白い空間だった。

ここで働く人たちのワークスタイルが、熊木さんにはとても合っていたのだという。

kawagishisoko07 「早く仕事が終わった人から行きつけのパブに行って、みんなで飲むんですよね。当時はそこのスタッフは独身の人ばかりだったから、集まるのが好きで。会社のスタッフたちなんだけど、家族みたいな感じで」

「そこで働くことで、設計に対する学びはもちろん、人との深い繋がりが得られるのも自分はとってもエキサイティングでした。人生において“かけがえのない仲間”をそこで得た気がして。それは海外で働いてスキルを上げたことよりも、僕にとっては大きな収穫でした」

日本に帰ってきてからも、そこで働いていた仲間全員が熊木さんに会いに来てくれたという。

「今年も来てくれて、来年もまた来てくれるんです」と、うれしそうに話す熊木さん。

「自分にとって大きな自信になっています」。そんなふうにも言っているような気がした。

kawagishisoko08 5年間のイギリスでの経験を経て、人との繋がりやコミュニティができることの心地よさを実感した熊木さん。

日本へ戻ってからも紆余曲折あったものの、地元の戸田市にある倉庫にコワーキングスペースをつくることにした。

「やっぱり自分で空間をつくって、人を呼べるようにしないと。そして、そういう空間をもっと身近で無理のない経費でつくることが必要だと思ったのです。そんなときに、この場所が使える機会に巡り合いました」

同じ屋根の下で、同じような境遇の人たちが、価値観やネットワーク、よろこびをシェアしながら働き合える場所。

それはきっと自分の仕事の幅を広げることになるだろうし、地元で仲間ができるというのはうれしい。ここに集う人たちも、同じように感じてくれるのではないか。そう考えたという。

また、働き方についても。

「毎日エネルギーをかけて出勤して東京で働くよりも、家族の時間を大切にしながら働けるよろこびがあります。戸田で仕事をして、近くの家に帰ったら子供を風呂に入れたりしたい。同じような意識の人がいると思うのです。そういう人たちにも呼びかけたら、コミュニティができる。そこから、いろんな人との繋がりができるかもしれないと」

kawagishisoko09 2015年9月に川岸倉庫をオープン。まだまだ人集めに苦戦してはいるものの、漫画家やコピーライターなど、ユニークな人たちが集まりはじめているそう。

人との繋がりが、建築の仕事の幅を広げてくれるという。

「Microsoft社の方がここに来てくださったときに、テレワークを活かしたいという話が出てきて。働き方によってオフィスのレイアウトも当然変わってくるのですね」

「ゆくゆくはここでの運営経験を活かして、働き方を前提にした設計を企業向けに提案することもできると思う。ここをはじめたことによって、いろんな可能性が見えてきたのが面白いところなのです」

また、人が出入りする場を持つことで、そこをきっかけに熊木さんの設計の仕事が地域に知られはじめているという。

最近は建築以外にも、たとえば公園の設計の仕事が依頼されることもあるそう。

地域に腰を据えるためにも、大小さまざまな仕事を受けている。

「コワーキングスペースを設計事務所と同居させることで、設計事務所という場所に“公共性”が生まれ、主催者を超えたところでコミュニティが育まれる」

「地域の有能な子育てママが社会進出したり、一極集中に頼らない働き方の在り方をそれぞれが考えたり。そういうことが地域の魅力になって、街を変え、いずれは社会を変えていく原動力になると思っています」

まずは戸田市での繋がりをしっかり築いていく。ゆくゆくは行政などと協力して、まちづくりにも取り組んで行きたいと考えているそうだ。

「戸田市における民間の地域創生のひとつのモデルとして、ほかの地域にも同じようなことがはじまるときに提案できるようにしようと。どうしたら人々が交流して、コミュニティができるのか。そういったこともやっていきたいし、自分の仕事の幅が広がればなと思います」

12月には、イギリス時代の同僚が教授を務めている大学から学生を引き連れて、川岸倉庫にやって来てくれたという。海外で建築を学ぶ学生たちとの真剣なディスカッション。

そんな刺激的な交流会を、これからも毎年1回は開いていくつもりだという。

kawagishisoko10 熊木さんは、建築家が地域で自立するひとつの方法を「設計事務所+ワーキングスペース」の形に見出だしているという。

「コワーキングがあることで、知れることも吸収できることもものすごく多いです。設計の仕事だけでも大変だけど、乗り越えたときには幅のある人間になっているんじゃないかなって」

「だから今度一緒に働いてくれる方は、まずは僕らの方向性と寄り添える人だといい。僕も設計の仕事で、お客さんの言うことをなるべく受け入れる訳です。最初から自分の作風を持たず、とにかく相手の話を150%聞いて、ただ単に従うのではなく、自分が入ることによってどうしたらより良くなるかということを考える。仕事って、やっぱりそうなのかなって」

今回の募集で設計を一緒にできる人が入れば、設計の仕事により注力していくそうだ。人が増えることで大きな案件も受けることができるという。

kawagishisoko11 ただ川岸倉庫コワーキングスペースははじまったばかり。創業期で人が少ないため、設計の仕事以外にも自分で事務作業をすることがあるし、トイレ掃除や車を使った買い出しなどもやらなければならない。

「できあがっていないこと、を楽しめるといいですね」と熊木さん。

「焦ったところでしょうがなくて。2〜3年かかるっていうのも、最初から予測していて。でも、そこで辞めちゃったら、それ以上になれないんですよ。とにかく苦汁を飲んでも続けてやっていこうと、諦めずに」

 
前回の募集で入社し、川岸倉庫のオーガナイザーを務める長塚さんも「日々試行錯誤です」と話してくれた。

「ここに入って思ったのが、このコワーキングスペースの特徴でもある熊木英雄という建築家を最大限に活かすことをしなきゃいけないなって。それをイベントなどを通して、少しずつ意味付けをしていこうと」

写真は、川岸倉庫コワーキングスペースの運営に携わる熊木さんの奥さまの倫子さんと、長塚さん。

kawagishisoko12 長塚さんはコワーキングスペースの運営・管理のほかにも、イベント企画や広報も担当している。

今回のもう一つの募集は、長塚さんをサポートして、一緒に川岸倉庫を運営してくれる人。

はじまったばかりの川岸倉庫をもっと多くの人に知ってもらうため、今は策を練る毎日。

最初のころは、イベントを企画しても参加者がひとりも集まらなかったこともあったとか。それでも続けることで、徐々に人が集まりだしているという。

「何でも良いからとにかくやってみようと熊木さんに言ってもらったので。結果を出さなくちゃいけないんですけど、まずやってみようと動き出せる環境です。それはすごくありがたいですね」

前職では、エキナカの商業施設の開発・運営に携わっていた長塚さん。

川岸倉庫にやってくる前は、独立を考えていたそうだ。ところがその方法が分からない。

長塚さんは川岸倉庫に集う起業家やフリーランスの人と接することで、独立のノウハウを学べるのではないかと考えているそうだ。

「ここで積み重ねていけば、自分にできることが見えてくるんじゃないかと。設計事務所があるコワーキングスペースというのがすごくメリットだなと思います。他のコワーキングにはない、もっと多様な人たちや知らない世界とつながれる場所だと」

kawagishisoko13 そんな長塚さんの話を聞いて、「設計者もいずれ独立しようと思っている人のほうがいいかな」と熊木さん。

「そういう人のほうが自分ために働くだろうなって。自分のために働くって大事なんですよね。そのほうが目標を持って働けるし、生きていける」

kawagishisoko14 はじまったばかりの川岸倉庫。まだやるべきことは沢山あるのだろうけれど、数年後には大勢の人で賑わう戸田市の中心地になっているかもしれない。

「人との繋がりは、社会を変える原動力になり得る」と熊木さんは話していた。ここで生まれる人との繋がりや働き方は、会社だけでなく、働く人個人にとっても大きな財産になると思う。

地域に対し「知」と「繋がり」を育む川岸倉庫。これから一緒につくりあげてくれる方をお待ちしています。

(2015/12/21 森田曜光)