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豊かさとはどんなことをいうのでしょう。たとえばたくさんのお金を使えることかもしれないし、最新の情報に触れられることかもしれない。答えはきっと人それぞれです。
今回ご紹介するのは小豆島DREAM ISLAND。
シーカヤックで瀬戸内海をめぐるツアーガイドや、地域の食材を提供するこまめ食堂を運営している会社です。最近では自分たちで米作りをするなど、活動は多岐に渡ります。
募集するのは、シーカヤックにのってガイドをする人。
ガイドとはいえ食堂の手伝いをすることもできるし、仕事の枠を決める必要はまったくありません。
この島にいると、都会では見落としてしまう豊かさが見えてきます。
小豆島の豊かさに光をあてることで自分の人生も豊かになる。そんな働き方ができるように思います。
香川県・小豆島。
高松港から高速フェリーにのって40分。取材場所のこまめ食堂へは1日5本しかないバスをつかう。約束の時間には早すぎるけれど乗ることにした。
バスに揺られている間にスーパーやコンビニを追い越していく。島とはいえ車さえあれば不便なところではなさそうだ。
しばらくすると山道に入り、バスはひたすら登っていく。20分ほどでこまめ食堂の横に到着。周りには田んぼしかないところ。こんな場所に人は来るのか心配になってしまう。
ドキドキしながら中にはいると、平日だというのにほぼ満員。外国人やバックパッカー風の人、大学生、いろんな人がいた。
忙しくはたらくスタッフの桑田さんと太田さんが、ニコニコと食堂名物のおにぎり定食をサービスしてくれた。
食堂のまえに広がる棚田をまえに、そこでとれたおにぎりと瀬戸内海の魚を食べる。なんだか自然と「いただきます」を言いたくなる食事。本当においしかった。
しばらく待っていると、ガイドを終えたばかりの連河健仁さんがあらわれた。
「来年は10周年だから、勝負の年にしようとおもって」
開口いちばんそう話す連河さんは北海道出身。10年前に小豆島でDREAM ISLANDを立ち上げた人。
大学卒業後、北海道の建築事務所に就職した連河さんは、そこで90年代の不動産バブルを経験。職を失い、いろんな仕事を転々とした。
その後入社することになったのは、携帯の販売やソフトウェアの開発をしていた会社。はじめは少規模だったその会社は、時代の流れにのってものすごい勢いで成長していったという。
「何も考えずただ目の前の仕事をこなしていましたね。そのつもりはなかったけれど、お金が軸になっていた。会社もそうなっていったように思います」
ライブドアの前身であるオン・ザ・エッヂという会社の子会社となり、北海道でトップの売り上げを誇ったのもつかの間、2006年のライブドアショックの影響で会社はぼろぼろになってしまった。
「1回目は札幌の不動産バブルがはじけたでしょ。2回目はライブドア。もう全部が嫌になっちゃった」
当時連河さんは34歳。呆然とするしかなかった。
何も手につかず時間だけが過ぎるなかで、ふと旅に出ようと思い立ったそう。
行き先は親友たちが四国出身だったこともあり、なんとなく四国に決めた。
トランク一つ、それ以外の荷物はすべて捨てたという。
カッカッカッと笑って話しているけれど、ものすごい勇気だと思う。
怖くはなかったのでしょうか。
「IT業界では情報は出せば出すほど入ってくると言われてるんです。とにかく何かを掴みたければ、捨てていかないと何も得られないんですよ」
お金ではない何かを掴みたかったと話す連河さん。まずは香川へ向かったけれど、これといって何も見つからず半年が過ぎた。
「そんなときに高松港でぼーっとタバコを吸いながら海を見てたんだ。そしたら小豆島行きのフェリーが見えて。初めてそのフェリーに乗ってみたんです」
「甲板から瀬戸内海を見て衝撃を受けたんですよ。そうそうこれこれと思って。海を見たときにやりたいことがバッて見えてきたの」
初めて瀬戸内海をフェリーから見たとき、学生時代に留学したカナダのバンクーバーを思い出した。
日常的にカヤックやボートをつかい、海と人がちかい街。
週末はずっと海にでて、遊ぶためにはたらくんだという人もいる。
「海が日常なんです。日本は海や山にめぐまれた国なのに、日本人の知っている日本は国土の1割にも満たない平野部でしかない。カルチャーショックでしたね」
経済的には日本のほうが豊かなはずだけれど、バンクーバーの人たちはとても豊かな暮らしをしている。そこには理想の豊かさがあったという。
「それまでは生活のために仕事をしていたんだけど、小豆島に来たときにバンクーバーを思い出しました。ここならそんな豊かなはたらき方ができるんじゃないかっていう予感がしたんです」
島と瀬戸内海に恋におちた連河さんは、その日のうちに小豆島に住むことに決めたそう。
その後、観光協会の事務局長をしていた立花さんとの出会いもあって、二人で島の魅力を伝えていく小豆島DREAM ISLANDを立ち上げた。
まずは二人で、当時あまり情報がなかった小豆島を紹介するブログを運営してみたけれど、1年ほどで限界を感じてしまったという。
「味や匂い、風の気持ち良さはメディアでは絶対伝えられないんです。島の魅力はここに来ないとわからないことのほうが多くて」
「お金もなかったですし。ここには海があるんだからカヤックをやるしかない、ということでカヤックを始めました」
たしかにさっき食べたおにぎりのおいしさは、言葉にしたら違うものになってしまいそう。
島は体感しないと分からないということですね。
「そう。カヤックも今やってもらいたいくらい」
なんと連河さんがそう言ってくれるので、人生初のシーカヤックに挑戦することにした。
こまめ食堂から車で移動すること10分ほど。
シーカヤックベースに着くと、連河さんが海辺にカヤックを用意してくれた。
緊張しつつ砂浜からカヤックをすべらせる。夕焼けが始まろうとしている凪いだ海のうえに浮かぶと、怖いような解放されたような不思議な気分。
「あの島まで行くよ」
そういって嬉しそうに連河さんは自分のカヤックを漕いでいく。
本当にこの海が好きなんだな、そう感じる。
近くの無人島につくと、連河さんが話しはじめた。
「島ってね、縁(よすが)なんですよ。縁っていうのは、心や体の拠りどころということ。みんなが島に求めてるのは縁なんじゃないかな。小豆島にきて、なぜかホッとしたり安心したり、そういうものを感じてもらえればいいな」
それは、連河さんが最初に島にきたフェリーのうえで感じた感覚。棚田を見ながら食べたおにぎりの健やかさ。
ざぶん、ざぶんと静かに鳴る海の音をききながら、こんなふうに近くで海をみるのは初めてのような気がする。
島は縁。ここにいるとその意味がよくわかるけれど、この感覚はやっぱり言葉では伝えられないものだとも思う。
連河さんは島に来て、島にあってあたりまえのものに感謝するようになったと話してくれた。
「ここには特別なことをしなくても一流の素材があるんです」
「銀座で5万払って食べるご飯もいいけど、同じ5万ならわざわざ島に行って180円のうどんを食べる、そっちのほうが僕は豊かだと思うんだ」
優しく包んでくれるような瀬戸内海や静かな棚田、昔からある農家の知恵もここにいるとあたりまえ。でもよそから来た人にとっては、それが宝物のように感じるはず。
都会にはない”あたりまえ”に光をあてるために、連河さんたちは現在カヤックガイドや食堂をやっているんだという。
「ここに来て一人でも海を身近に感じられたら、もっと自然を見るようになると思うんです」
「魚が減ってきていたり、農業が衰退してきたり、経済的な豊かさばかりを追ってきたツケが今まわってきてるよね。都会にいたころは僕もわからなかったけど、島にいると都会のおかしなことがすごく見える」
島のあたりまえを照らすことは、たくさんの人たちに気づきを与えられることでもある。
お金じゃない豊かさをえらぶ人が増えたら、もっと豊かな日本になる気がします。
これからのことを聞くと次のように答えてくれた。
「一番の島の働き手はおっちゃんおばちゃんですから。この人たちを支える土台をつくらないといけない」
高齢化が著しい小豆島では、島のおっちゃんおばちゃんを巻き込むことが島を輝かせる方法でもある。これからやっていきたいのはこの仕組みづくりだそう。
島に特別なものや人は必要ない。
Dream Islandがやりたいのは、島にあるものや人のありのままを輝かせて、みんなで豊かになっていく方法を考えることだと感じました。
こまめ食堂に戻って一息。新しく入る人はどんな人がいいか聞いてみた。
「最初は海への憧れや自然と関わることが好きだというモチベーションで構わないですよ。でもガイドは結局サービス業だから、営業経験者なんかでもいいかもね」
「とにかく裏方の仕事は地味でコツコツした仕事だけど、そこに生きがいを見つけられる人じゃないと」
ガイドというと華やかな気がするけれど、主役はお客さんや島の自然たち。気長にそっと光をあてられる人が向いているかもしれません。
Dream Islandではシーカヤックガイドのほかにも、やれることがたくさんあるそう。
こまめ食堂の手伝いをしたり、島で自分がやれることがあれば担当が変わっていく、そんなはたらき方ができるみたい。
連河さんは小豆島での暮らしは覚悟が必要だとも話します。
「島で生きるということは、生きるためにやれることはなんでもやっていくということ。あるものを使って新しいものをつくっていこうという覚悟が必要です」
「都会と違って人がいないから、一人何役もしないといけない暮らしだし、そういうはたらき方ですよ」
この島ではとても豊かなはたらき方ができるけれど、それは都会の豊かさとは違うということ。それを理解しておかないと島暮らしは難しいかもしれません。
豊かさの答えはひとそれぞれ。
都会にはない豊かさとはどんなものなのでしょう。
ここではたらけば、答えがみつかるように思いました。
小豆島に来て、まずは体感してみてください。
(2016/1/4 遠藤沙紀)