※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
ちょっと疲れたからあの街に行ってのんびりしたい。あそこに行けばなにかおもしろい発見があるかもしれない。
ここへはオシャレをしていかなくちゃ。
街ごとに抱く印象は、一つとして同じものがないように思います。
その土地の地形、人、歴史、建物。いろんな要素が組み合わさって、その街のイメージはつくられる。
株式会社クオルは通路や広場などの足元空間と、それを運用する仕組みをもって、「街」をつくっている会社です。
その仕事は、どんな街を目指すかというゴールに向かって、空間やビジネスをつくっていくというもの。
その様な手法は「タウンマネジメント・エリアマネジメント」として、不動産業界では注目されつつあります。
今回募集するタウンディレクターは、利用者や街の人の想いだけでなく、ビジネスとして成立するプログラムを複合的に考えながら、タウンマネジメントをおこなう人材のこと。
まだまだ新しい用語なので、聞きなれない人も多いかもしれません。
具体的にどんな仕事になるのか、まちづくりの本質を考えながら、続きを読んでみてください。
東京・表参道
表参道ヒルズから道をはさんですぐのところに、コミュニティーカフェ「タウンデザインカフェ」はありました。
中に入ると壁一面に表参道周辺の地図。
地図に貼ってあるふせんは、訪れたお客さんたちが近隣のお店やちょっとした気づきをメモしたものだそう。
ラボと呼ばれるオフィススペースとは別に、タウンマネジメントの実験場として、ここはクオルにより運営されている。
迎えてくれたのは代表の栗原さん。
栗原さんが「街の個性」を感じるようになったのは子供のころ。何度かの引っ越しを経て、さまざまな地方の街に住んだ経験から、街ごとの個性を感じる機会がたくさんあったそう。
その場所その街に何を建てるべきなのかを考える、建築開発に興味を抱いた栗原さんは、大学卒業後に森ビル株式会社に就職した。
当時オフィスビルを得意としていた森ビルで、建物が建つ前の行政折衝の仕事を担当する。
都市開発の仕事をしたいと入った森ビルだったが、入社数年で新規プロジェクトのイベント担当をすることになったそう。
そのプロジェクトというのが女性向け商業施設である「お台場ヴィーナスフォート」。
「行政折衝ばかりしていた人間が、いきなり女性のためのテーマパークのイベント担当をやることになったんです。自分は都市開発をやっていきたかったので、かなり悩んだのですが、挑戦することにしました」
合理的なオフィスビルをつくるだけでなく、施設の魅力によって人が集まる場所をつくりたいという考え方に、会社も変わっていった時代。
ヴィーナスフォートは、まさにそんな新しい試みの実験場だったと言えるかもしれない。
とはいえ、右も左もわからない商業施設。イベントの経験もなかった。
社内にもノウハウはなく、入ってもらっている業者に教えを請う日々。つらいこともあったけれど栗原さんは自身の性分に合っているのでは?と、気づく。
「自分の仕掛けた仕組みで人が楽しんでくれたり、集まってくるというのがすごく楽しくてマッチしたんですね」
「ヴィーナスフォートはヨーロッパをテーマとした街並みが再現されています。この個性的な空間をどんなイベントで活用するか、どのように魅力につなげていくか。それだけを日々考えていました」
試行錯誤する中、一つの目標にしていたのがNYのロックフェラーセンターのクリスマスツリーだそう。
「ビルの前にモミの木を持ってきて点灯式をやる。毎年毎年同じことをやっているにもかかわらず、みんなが待ち望むNYの冬の風物詩として世界中のメディアで発信されています。そういう街のシンボル的なイベントを目指すべきだと思ったんです」
そうして企画したのがクリスマスのイルミネーションイベントだそう。
当時の日本のクリスマスというと、ツリーを飾りつけた程度のイルミネーションイベントばかり。
栗原さんは新たなイベントのために演出の本場であるアメリカまで足を運び、個性的な施設の空間全体をつかったイルミネーションを大成功に導いた。
「頑張ってやった甲斐があったと思いました。人の賑わいや喜びに直接触れられるイベントに対する気持ちが増していきましたね」
都市計画からはなれたところで、人の賑わいづくりに可能性や喜びを感じるようになったころ、会社から辞令がくだり六本木の再開発に携わることに。
ここにきて、ヴィーナスフォートで得たノウハウは、実は六本木ヒルズに投入するためのものだったと気づいたそう。
「ここでも私が携わったのは都市計画ではなく、その建物の足元でどうやって賑わいをつくっていくかを考えること。それを考えるチームの名前が『タウンマネジメント室』でした」
オフィスとレジデンス、商業施設を合わせた複合ビル「六本木ヒルズ」。
会社が17年かけて計画してきた六本木再開発のゴールは「文化都心」というものだった。
「港区という街は大使館が多かったり文化が感じられる街。だけど六本木の印象はヒルズが建つまで、『夜の歓楽街』だったんです。『文化都心』を達成するには、当時の六本木のままじゃだめでした」
「そのためには六本木ヒルズが頑張ってもだめで、街自体がいい街にならないといけない」
ただの大きな複合ビルを建てるだけでは実現することは難しい。
ゴールとした「文化都心」にどうしたら近づけていけるか。それを表現できる施設やイベントを考えなくてはならない。
ビルを象徴する最上階に美術館を配置し、映画館が導入されたのも、カルチャーの部分をよりクリアにするためだった。
「こういった文化的要素をうまく発信していくために、シンボルとなるようなイルミネーションや映画祭、アートフェスタなどのイベントをやらなくてはいけなかった。ハードとソフトすべてが戦略的に組み合わさっているんです」
もともとある、街の魅力を残しつつ、新しい街をつくっていく。そのためにはどんな人の営みがあって、どんな賑わいにつながっていくか。
それを戦略的にプログラム化していくことこそが「タウンマネジメント」。
現在、六本木が一つの観光地となっているのも、こういった戦略があってこそだと思うと、タウンマネジメントの可能性を感じる。
「このノウハウを応用することで、都心部のみならず地方のまちの過疎化など、もっと小さな規模で課題に直面しているところにも、タウンマネジメントを提供していければと思って独立しました」
10年前に森ビルから独立し、クオルを立ち上げた栗原さん。
最初は「タウンマネジメント」を理解してもらうのに時間がかかったようだけれど、少しずつそのノウハウを活用できる場が広がってきているといいます。
続いてお話をうかがったのは、今回募集する人の先輩になる内原さん。
タウンディレクターとして、どんな仕事をしているのか聞いてみた。
「開発事業者に対しての提案、資料作りというのが主ですね。その建物はどういう使い方をするのか、スケジュールを一緒につくって、そのテーマをどうやって発信するのかを一緒に考えます。イベントを実施する際はその街の魅力を最大限生かせるものを企画します」
クオルとしてタウンマネジメントしたマンションのお話しをしてくれた。
「この磯子のマンションは、開業の2年前から携わりました」
そういうと机の上の資料を見せてくれる。
横浜プリンスホテル跡に建った、3000人程が住まう巨大マンションだそう。
「マンションを建設する前の段階から、将来のこのまちの生活を創造しながら、関係者達と対話を続けてきました」
建物は建てられるとしても、まちづくりは、人なくしては始まらない。
そこに新しく来る人と、すでに住んでいる人、みんなが協力して盛り上げていかなくてはならないから、タウンディレクターは人を巻き込むコミュニケーション力が必要だという。
そしてマンションが建ったあとも、その仕事はもちろん続く。
その一つがイベントの運営だ。
この磯子のマンションでは近隣住民にも開放したイベントが、たくさん開かれているという。
「三浦半島の食材をあつめたマルシェのときには、周辺の中学校のブラスバンド部にきていただいて演奏してもらったり、小学生のダンス発表の場にしてもらったり、住民以外の人も巻き込みます。もちろん事務局側の人間が動くことはかなりありますが、外に出て行ってそういうまちとのつながりをつくっていくというのも仕事です」
そのほかにも、マンション内にあるコミュニティースペース運営もやっているそう。
ここでもヨガや空手教室など、マンション住民と近隣住民のコミュニティーが
生まれているといいます。
「開業した後も、実務的なお金の管理だったり、イベントのスケジュール、PRなどすべて複合的に見ていく大変さはあります。そういう中で1年目が終わって住民の方に『ありがとう』と言ってもらえたのはうれしかったですね」
街に住むたくさんの人を巻き込むから、そのやりがいと大変さはとても大きいものなんだと思います。
すると横で聞いていた栗原さん。
「街というのは、立派なビルをつくったからといってブランドができるかというと、そんなことはありません。実際足元の賑わいをつくって発信することでジワジワイメージが浸透していく。空間だけでなくそれを運用する仕組みまで整える、それこそがタウンマネジメントなのです」
地域開発として建物を建てる。そこで終わりではなく、そのあとのコミュニティーや賑わいづくりまでするのがクオルの仕事。
「クオルは、ハードとソフトの両面を踏まえたまちづくりの本質にアプローチできる。それは、空間の部分と運営の部分を抑えている会社の特性。
これは他にないと思うんです」
街も人も案件ごとに違うから、つねに仕事はオーダーメイド。
街への愛情と創造力が必要だと栗原さんは言います。
「まちづくり」にはいろんな方法があるけれど、街の人を巻きこむ賑わいづくりをビジネスとしてやっているところは少ないと思います。
もしかしたら未来の観光地をつくれるかもしれない。そんなポテンシャルを秘めた「タウンマネジメント」。
街のシンボルづくりに興味が持てたら、ぜひ応募してみてください。
(2016/1/21 遠藤沙紀)