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お爺ちゃんお婆ちゃんと

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ひとくちに地域おこしと言っても、町が違えば方法も違う。

決まった答えはないように思います。

ひとつ言えるとしたら、その町にくらす人たちの元気につながること。

その仕組みづくりのことを、地域おこしというのかもしれません。

今回の舞台は徳島県・那賀町。

P1000986 サテライトオフィスなどで関心を集めている神山町からさらに山を越えた、高知との県境にある大きな町です。

大きいといっても10年前に2村3町が合併してできた町の9割は森林だそう。

ほかの過疎地域とおなじように、人口減少、高齢化が問題となる一方で、介護を必要とする高齢者の割合は県内トップクラスで少ないことが特徴です。

今回はそんな那賀町の木沢・木頭地区で活動する地域おこし協力隊を訪ねます。

たくましく生きるお爺ちゃんお婆ちゃんをいかに巻きこんでいくか、那賀町の元気のヒントはそこにあるように思いました。


徳島空港から車で1時間半。カーナビが那賀町に入ったことを知らせてきた。

とはいえ待ち合わせた町役場木沢支所はまだまだ先。気がつけば車は静かな清流に沿ったくねくねとした山道をすすむ。

一向に到着しないことに不安をおぼえながらさらに進むこと1時間。山すそのわずかな谷間に民家がならぶ木沢地区に到着した。

P1010004 待っていてくれたのは初代協力隊の桑高さん。

「僕は子どものころからお婆ちゃん子なんです」

P1000901 そう話す桑高さんは群馬出身。中越地震をきっかけに新潟での地域復興支援員として地元のお婆ちゃんとサークルをつくるなどの活動をしていたそう。

「新潟にいたときに、お年寄りのなかにも新しいことを始めたいという火種がくすぶっていると感じたんです。若い人はきっかけさえあれば自分から動けるんだけど、お年寄りにはむずかしいことだと思います。そこに自分が入ることで火がついたら面白いなって」

桑高さんが活動する那賀町の木沢地区は、高齢化率が58%と全国的に見てもかなり高い。ひとり暮らしの世帯も多いという。

那賀町に来て1年経つころにつくったという「杉の娘(こ)楽校」のお話をしてくれた。

きっかけは町村合併にともなって木沢地区で長年続いていた”愛育班”が解散したこと。保健師の手伝いなどをしていた愛育班は、地区のお婆ちゃんたちの集まるサロン的役割だったそう。

「ぼくはその解散式に写真係として参加したんです。そこで、35年続いてきた女同士が集まる場がなくなるのはさみしい、なんとかしたいという声を聞きました」

その年は、木沢地区にあった唯一の小学校が廃校となった年だったそう。木沢の学校がすべてなくなってしまったうえに元気のいいお婆ちゃんたちの交流の場が途絶えてしまえば木沢はどんどん元気がなくなってしまう。

「すぐに愛育班の中心だった人たちに声をかけて話し合いをしました。するとみんなであつまって料理や裁縫、歌もやりたいねという話がでたんです。そこから家庭科・音楽という授業にして、いっそのこと楽校と名付けようということになりました」

地域に告知をすると生徒は30人ちかくあつまったそう。授業は月に1回。70年の経験をもつ木沢のお婆ちゃん一人ひとりが先生であり生徒でもある。

年に1回は文化祭を企画して、となり町へ劇の発表をしに遠征したり。桑高さんが見せてくれた写真のなかのお婆ちゃんは、みんなイキイキたのしそう。

杉の娘楽校㈬ 隊員になって1年目は、協力隊の自由さに不安やとまどいを感じることもあった桑高さんだったけれど、この杉の娘楽校に出会って地域おこしの道筋が見えたそう。

木沢に協力隊の世話人になる方はいるのか聞いてみた。

「はじめはいませんでしたよ。でもぼくは杉の娘楽校を通して、世話人ができました。杉の娘たちです」

杉の娘楽校のお婆ちゃんたち。

「そう。新しい人がここに来てくれたら姑を30人紹介できますよ。お好みのお婆ちゃんを選んでください(笑)空き家を探すときもそのネットワークがあるので紹介はできますから」

木沢のお婆ちゃんの話になると、桑高さんはすごく楽しそう。

木沢に来たばかりのころはみずから紅白のお餅をついて、地域のお宅に挨拶まわりをしたという桑高さん。小さな集落に移住するとき、地域の人から歩み寄るのはむずかしい。桑高さんのように自分から飛び込んでいくと、ぐっと受け入れてもらいやすくなるみたいです。


「お昼は用意してありますから」そう言って桑高さんがつれてきてくれたのは杉の娘のひとり、岸田恵美子さんのお宅。

P1000900 徳島南部は海が遠いため特産の柚子酢でしめた魚のお寿司がごちそうなのだそう。

お正月はもちろん、お客さんが来たとき、人があつまるときは必ずお寿司。この日もありがたいことに恵美子さんがお寿司を用意してくれていた。そのほかにも郷土料理のそば米汁などごちそうが並ぶ。

こどものころから木沢に住んでいる恵美子さんに、協力隊についてどう思っているのか聞いてみた。

P1000907 「この地域から人が減っていくのも、みんな『しょうがない』って思ってるんです。こうやって一生懸命新しいことを考えて引っ張ってってくれるというのはありがたいと思います」

桑高さんのことを聞くと照れながらこたえてくれる。

「若い人は婆ちゃんなんて知らんて言うと思うけど、気にかけてくれるのはうれしいね。いつもご飯つくったら食べてくれるし、恋人みたい(笑)」

P1000904 「恵美ちゃんはぼくのお婆ちゃんだから」と冗談を言いあう桑高さんと恵美子さんは家族のよう。

ふたたび桑高さんに任期後のことを聞いてみた。

「ぼくは木沢にいるということにこだわっています。それは木沢で食べていけそうだからとかそういうことではなくて。杉の娘だったり、恵美子さんみたいな離れられない人に出会ってしまったから。ここでそういう出会いをプロデュースしていきたいんです」

桑高さんは任期終了後のことを考えて木沢地区に空き家を改修したゲストハウスをつくっている。長期休暇ごとに建築系の学生にインターンとして改修工事に参加してもらい、学生を木沢のお年寄りのお宅に民泊させてもらっているそう。

P1000992 桑高さんのインターンの学生は建物の改修だけでなく地元のお祭りにも参加する。ここでもお爺ちゃん、お婆ちゃん、地元の人との交流が生まれている。

「最初は空き家の改修をしたいと言って来ていた学生がすこし変わってきています。恵美子さんどうしてるだろう、会いたいと言って来ている学生が増えているように思いますね。」

20代の若者がほとんどいない木沢地区にもいい刺激になっているようだ。

坂州八幡神社秋季祭礼_宵宮㈰ 「空き家バンクという事業をしても、それが交流に結びつかないと町は元気にならないと思います。そのためにインターンシップ事業として町に認めてもらえるようお願いをしているところです」

いずれ完成するゲストハウスでも、地域のお年寄りが参加できるしくみを考えているという。

移住をするのは簡単ではないけれど、木沢の人たちはよその人を迎え入れてくれるあたたかさがあるといいます。任期中いろんなチャレンジをしてこられたのもこの地域の人たちのおかげ。桑高さんの「本当の地域おこしは、任期がおわったこれからやっていくんだ」という力づよい言葉が印象的でした。


続いてご紹介するのは去年の11月から木頭地区の協力隊となった小杉遥奈さん。結婚を機に名古屋から地元木頭にご主人の政徳さんを連れて戻って来ました。

P1000925 木頭は木沢からさらに奥へとすすんだ高知県に隣接する地域。小中学校や商店があったり、木沢よりは移住しやすそうなところ。

まだ隊員になって3ヶ月。どんな活動をしているのでしょう。

「11・12月はここ木頭の名産である柚子の収穫の仕事をしました。あとは柚子の加工品を街まで売りに行ったり」

かつて木頭・木沢地区ではたくさんの柚子が植えられた。上質の柚子はここの名産だけれど、高齢化がすすんだいまでは、採りきれなくなった柚子をねらう害獣が問題になっているのだという。ちなみにこの仕事はお爺ちゃんお婆ちゃんたちにとても喜ばれるそうです。

「あとはくるくで木頭の郷土料理を作ったりしています」

くるく?

「木頭には、協力隊として何をしたらいいかわからない人のために、働きながら技術を学ぶことのできる事業所があるんです。それが『くるく』というカフェだったり、広間組という林業系の会社。そのほかにもいくつかあります」

なるほど。移住してくる人は安心できますね。

「でも、お手伝いをしていただけじゃ地域おこしではないですし、任期が終了する3年後に何も残らないかもしれません。だからバランスを見つつ、今はアメゴの養殖を旦那さんといっしょに始めています。これも外に売っていきたいんです」

四国でも最も良好な水質と言われる那賀川がながれるこの地域では、おいしい鮎やアメゴといった川魚が獲れるのだそう。

P1000938 ただそれを売ることをしていない。あまったら捨てたり配ってしまうような商売気のない土地柄だといいます。

「土日はお店も閉まっていますし、宿泊施設がひとつも無いんです。ここによそからお金が落ちる仕組みをつくりたくて。細々調整をしているところです」


結婚を機に脱サラして名古屋から引っ越してきたご主人の政徳さんにもお話しをうかがう。今は漁協で働いているそう。

「働いていると通る人みんなが順番に『お前はどこのどいつや』って話をしてくるんです。何回したかわからないけど、そのたびに自己紹介をしましたね(笑)」

「とんでもない田舎だと思ったけど、人がみんな優しいし、気にかけてくれます。お年寄りが多いので、若い兄ちゃんが来た!といろいろ面倒見てくれるから過ごしやすいなとは思いますね」

P1000954 遥奈さんも政徳さんもまだまだ動き始めたばかりだけれど、3年の任期でどれだけのことができるかを常に考えていて頼もしい。

とても親しみやすい二人だから、きっと新しくはいる人の相談役になってくれると思います。


すべての取材が終わってお別れのとき、恵美子さんがお弁当と本当にたくさんのごちそうを持たせてくれた。

ギュッとわたしを抱きしめて「よう来てくれました。また来てください」さみしそうにそう言ってくれた恵美子さん。

P1000918 美しい自然と生きてきた優しい人たちがこの町の一番の魅力のように思います。

お爺ちゃん、お婆ちゃんを笑顔にすることが、この町のしあわせになる。

この町にすこしでも興味がわいたら、ためらわずに訪れてみてください。

(2016/2/2 遠藤沙紀)