※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。
ケンエレファントは、フィギュアやグッズの企画制作・販売をしている会社です。前回の募集(「ゼロからの突破力」)から1年8カ月。当時、小さな芽を出したビジネスが大きく成長していました。
今回の募集は、社会人経験者のみ。でも「世の中を面白がる方法」「そのために大事にしたい姿勢」など多くのヒントが聞けたので、たくさんの人に読んでほしいです。
関東地方に住む人は最近、JRの駅構内で「フィギュアみやげ」という名前のガチャガチャを見かけないだろうか?
1回まわすのに400円。子ども時代に親しんだガチャガチャに比べると高級だが、そのぶん中から精巧なフィギュアが出てくる。
造形制作を海洋堂が手がける「フィギュアみやげ」シリーズは、ご当地の空気をお土産に変えるアイデアでヒット。製造が間に合わないほど人気がある。
たとえば、JR東日本東京支社のキャンペーンと連動した「山手線さんぽ」シリーズは全6種類で、いずれかのフィギュアが入ったカプセルが出てくる。
中の小冊子には読みものなどが載っていて凝ったつくりだ。
企画営業の青山雄二さんが率いるチームも、前回はスーベニア課だったが、スーベニア「事業部」に昇格していた。
「1シリーズあたり、数十万個のカプセルをつくります。それをクライアントと一緒に仕掛けて売るんです。ガチャガチャの設置台数が増えたので、一気に売れるんですよ」
当初はケンエレファントが独自に商材を企画して、販売先に営業していたフィギュアみやげシリーズ。そのうち、企業や自治体から「うちでもやりたい」と声がかかるようになってきた。
こうしたOEM(納入先商標による受託製造)のカプセルフィギュアの場合、造形制作は海洋堂以外の会社が担当するケースもある。
「常時30くらいのプロジェクトが進んでいます。それぞれ仕入れ先、売り先のほか関わる人がたくさんいますから、僕は会社にあんまりいないですね」
社用車はシボレーアストロ。左ハンドルのワンボックスカーだ。青山さんはガチャガチャの什器を乗せて走り回っている。
なにもない「ゼロ」から企画をスタート。予算を確認して、スケジュールを管理して、自分で組み立てていく。それが今回募集する、企画営業の仕事だ。
「クライアントがいる場合には、まず見せ方や考え方をヒアリングしていきます。そこから答えを自分なりに用意して『こうしたら納得してもらえる』というのを探っていく感じですね」
そう語る青山さんは、実に楽しそう。
「シリーズでいちばん思い出深いのは、初めて自分で全部を企画した『沖縄フィギュアみやげ』かな」
はたから感じるイメージほどラクな仕事ではないはず。なぜなら、求める人物像には「どんな困難にもへこたれない方」とあるからだ。
具体的には、どんな困難があるのだろう。
「困難は突然やってきます。ある日電話がかかってきて、内容が『納品された商品の色が落ちてしまいます』とか……」
電話を切って3秒後には会社を出るという。
「クライアント先で商品を見て『これはいかんわ』となったら、全部の段取りを組みます。まず謝罪文を書き、その日は徹夜になるかもしれない。明日から中国に行かなくては、とか」
カプセルフィギュアを製作しているのは、香港からクルマで2時間ほど行った中国の都市だ。
「明日やればいいかではなく、問題解決までの道筋をつくって走り抜けられる人じゃないと。この仕事に関しては取り返しがつかないことになりますよ。そんなこと言ったら、ビビって応募してくれないかな。あまりに恐ろしくて」
冗談めかしているものの、青山さんの目は本気。ユニークなフィギュアみやげの背後には、丁々発止のやりとりがあるのがわかる。
入社するメリットについてはどうだろう。
「ありえないくらい面白い人に会えることでしょうね。フィギュアの原型をつくってもらっている原型師なんて、特にそうですから」
彼らはあくまで職人。サラリーマン体質の人は、そもそも会話さえ成り立たないのだと言う。
企画や販売だけでなく、そうした職人とコミュニケーションをとってプロジェクトを運ぶのも営業の仕事だ。まさに、全方位にわたる活躍。
「そう、全部やりますよ。全方位営業っていいですね!」
企画営業は社外の人材だけでなく、社内メンバーとも連携してプロジェクトを進める。
大きなプロジェクトの場合は、何人かでミーティングに向かう。2014年10月に入社した箕輪千鶴さんは、デザイナー。前回の日本仕事百貨の求人を見て転職した。
青山さんなど企画営業担当のディレクションのもとで、カプセルの帯などのパッケージング、封入される紙ものなどを始め、店頭に置かれるフライヤー、什器に付くPOPなどのデザインを手がけている。
箕輪さんが初めてひとりで担当したプロジェクトが、ライフスタイルブランド「niko and … (ニコアンド)」とコーヒー関連器具メーカー「カリタ」のコラボレーションによるカプセルフィギュアのシリーズ。
ニコアンドの店頭でも販売しているカリタの器具が、本当に小さなミニチュアサイズになっている。かわいらしい外見だが、コーヒーミルのハンドルなどは稼働する本格的なつくりだ。
ケンエレファント側からニコアンドに「ガチャガチャを使って何かできますよ」と企画を持ちかけ、企画を膨らませていったという。今後は内容をどんどん変えて、第6弾くらいまでを予定している。
青山さんはどんな人か、箕輪さんに聞く。
「考え方も面白いし、しゃべっていることも面白いです。とても寒い大雪の日にひとりでガチャガチャを設置しに向かったときは、スゴイなと思いました」
どんな人がケンエレファントの営業職に向いているのだろう。
「うちの会社は変わった人が多いので、逆に、普通の人が来てもいいのかなと。『そんな考えがあるんだ!』と新鮮にうつるかもしれません」
最後に、社長の石山健三さん。今回来てほしい企画営業のイメージは。
「これまではデザイン系の人が多かったから、体育会系でクリエイティブな人を引っ張ってきたいですね。ただし、フィギュアなんてまったくわからない、という人は困ります。ある程度は興味や知識がないと」
前回の募集時にくらべると、フィギュアみやげのヒットが大きな違いだ。
「僕たちは、新しいかたちの『おみやげ屋』なり『おみやげメーカー』を目指します。まぁ、結果的にいまはカプセルフィギュアがビジネスの主力になっていますが、そこから派生した次の展開なんかも考えているんです」
中川政七商店と海洋堂がコラボレーションした「日本全国まめ郷土玩具蒐集(しゅうしゅう)」のカプセルフィギュアシリーズは、47都道府県の郷土玩具をテーマにするもの。
「郷土玩具という、古くて“イケテナイ”と思われていたものを、フィギュアというミニチュアにして可愛くして、今どきの女性にウケるものに変身させたんです」
それまで知らなかった層にとっては、古いものだって新鮮にうつる。その出会いをカプセルフィギュアが演出する格好だ。
ほかにもこうした現象がある。たとえば、レトロなソフビ人形。これがいま大変なトレンドになっているという。
「ソフビ作家さんの人気はスゴいんです。メイド・イン・ジャパンで、50個とか100個しかつくれないんです」
あるソフビの定価は5,000円ほど。それが発売して、ものの1〜2分で売れてしまう。そこからプレミアが付き、ネット上で8倍近くの値になることも珍しくない。
「昔はたくさんあったろうけど、いまはつくるところがないんですよ。これから1年くらいかかるでしょうが、自分たちで工場をつくり、生産もやろうかなと考えているところです」
「アクションフィギュアからガチャガチャ、ソフビにいき、郷土玩具にまで広がりました。今度は指人形とかどうだろうな。いままで評価されてない『サブサブサブカルチャー』って、面白い。だから、どんどん追求していきます」
石山さんが3回もサブと言ったカルチャーって?
「超スキマなところなんだけど、小さくて変なトレンド。それを自分たちから発信したいと常に思っていますから」
ケンエレファントでは、そのほかにも今年中に小売店を何店舗かつくる予定がある。それに加えて、カフェや食堂を出す計画もあるという。
会社の事業が、急にリアルな「場」の方へ向かった気がするのはなぜだろう。雑貨の業界を巡る変化にも関連がありそうだ。
「ヴィレッジヴァンガードなどの雑貨を扱う書店は、大型モールへの出店攻勢を強めました。それは品揃えが拡充する半面、トンがった商品があまり売れ筋でなくなることにもつながったんですね」
なるほど、それで自分たちで売ろうと。
「チャンスもあります。三省堂などの書店が新しく雑貨店を成功させるなど、雑貨の販路が変わってきました。それに個人の雑貨店も増えて、面白いもの探しができる機会は増えましたよ」
転機となったのもガチャガチャだ。
「やっぱりリスクをなくせる方法をガチャガチャで見つけられたのは大きいです。これくらいの量をつくって売り抜くとか、家賃を払わないで済む小売りの仕掛けをつくるとか。そうやってきた実績が積み重なって、次のステージに行けました。これからの課題は『人』だなと」
石山さんが求める社員の条件には「他人からの評価を気にしない人」というものがある。
「うちの会社の理念は『世界を面白くしていく』ということ。そのためには、人の評価を気にしていたらできないですよ。教科書的な人ではなくて、批判されても『へぇ』と返せるくらいの人です」
「企画をするにしても、机の前に座ってられちゃ困ってしまいます。いまの人はネットで情報を探すけれど、アイデアの種はパソコンやスマホだけでは見つかりませんよ」
カプセルフィギュアの担当になるか、これからの新規事業の担当になるか。
「興味があるのでコレをやりたい」「この作家さんを知っている」といった応募者の適性によって決まるそうです。
「うちの会社では、自分の本当にやりたいことを見つけられると思いますよ」と石山さん。ただし、ベンチプレスが50kg上げられ、懸垂が5回以上できるという条件があるのでお忘れなく。
(2016/3/17 神吉弘邦)