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いのちを学ぼう

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口にするもの、身につけるもの、住むところにいたるまで。挙げればきりがないほど、私たちはいろんな”いのち”に支えられて生きている。

私たちを取り巻く”いのち”。それらを慈しむことは、もしかすると自分たちの生き方を良くすることにつながっているのかもしれません。

今回の舞台は広島県神石高原町。

消滅可能性都市にあげられるほど過疎化や人口減少のすすむこの町に、”いのちを慈しむこと”をテーマにした体験型の観光パーク「株式会社神石高原ティアガルテン」が昨年オープンしました。

真夏の雪まつりの様子02 動植物との触れあいや、地域の物産との出会いを通していのちと町への気づきを与える場所です。

いのち×町でどんなことができるだろう。

この町で働く牧場スタッフと、ティアガルテンのマネージャー、さらに、この春新しくできた特産品ショップの販売スタッフ、調理スタッフをそれぞれ募集しています。

移住したい人、自分のお店を持ちたい人、いろんな人に、新たな取り組みをしている神石高原町に興味を持ってもらえたらと思います。


福山駅から車で1時間ほど、岡山県との県境近くにあるティアガルテンに到着した。キャンプ場もある地域の大きな公園といったところ。車から降りると福山駅と比べてとにかく寒い。標高700メートルの高原に来たことを実感した。

冬季休業中のパークでは春に完成予定の特産品ショップの施工業者や、200頭以上を収容している犬の保護施設のスタッフたちが忙しく働いている。大きな広場にはかわいらしいツリーハウスや植物園があって、静かに春を待っているよう。

IMG_5657 ティアガルテンのある場所はもともと仙養ヶ原とよばれ、神石高原町のなかでも地域の集まりやイベントが行われたシンボリックな場所。地域の有志で構成された観光開発組合が、青少年育成の公園として20年間以上運営をしてきた。

町の人口が減り、段々と集客数も落ちていく中で、公園にもういちど人のにぎわいを取り戻そうと始まったのがテーマパークをつくるという計画。

きっかけは世界中の紛争地域で人道支援をしているNGOピースウィンズ・ジャパン(以下PWJ)が2010年に神石高原町で捨て犬を保護して災害救助犬などを育成する事業”ピースワンコ・ジャパン”を始めたことだった。

P1040356 当時の組合長がPWJに中山間地域の問題解決に協力を求め、ともに仙養ヶ原を観光地として再建するという計画が動き出す。

「地元の人間だけだと思いつかないものを、世界を知っている PWJならアイディアをくれるんです」

そう話してくれたのはティアガルテン代表の河相道夫さん。

河相さんはティアガルテンのプロジェクトを始めた組合長の河相昇さんを父に持つ人。オープンを待たずして亡くなった昇さんの遺志を引き継いだ。

P1040402 「父の計画を知ったときは共感というか、我々の世代がここで生きていくためには必要なことだとも思いました。やる価値はあると思いましたね」

過疎化が進み、人が減る。

何をやってもダメだという諦めムードが感じられるふるさとに活気を取りもどしたい。

いのちをテーマにした理由は保護犬のいのちを活かすピースワンコの本部があったこと、そして昇さんが地域の植物の保護活動をしていたことにヒントを得た。

この前は保護犬の世話をしたけれど、今回は農園で地域の作物を育ててみよう、次は牛の世話をしてみよう。こんなふうに体験のなかで学びを得られるプログラムでいろんな角度からいのちを感じてもらえればと考えている。

ワークショップの様子(農業) とはいえ、去年の夏にオープンしたティアガルテンは目標の来場者数に達することができなかった。まだまだ試行錯誤の段階だそう。

「いのちを感じるプログラムの打ち出しがまだ弱いので、そこをわかりやすく整えていくのが今の課題です。企業や学生の研修などにももっと利用してもらいたいですね」

新しくマネージャーになる人には、ワークショップなどの企画や地元特産物をつかったオリジナル商品の開発などをしてほしいそう。

動物や植物、身近なようで遠い存在の”いのち”をどうやったら感じてもらえるだろう。

経営はもちろん魅力的なコンテンツづくりなどやることは沢山あるけれど、自分の手で観光パークをつくっていく醍醐味はなかなか味わえないと思います。

町の人や、PWJと協力してつくっていくので、その間にはいるコミュニケーションスキルも必要だと話してくれました。


多様なプログラムを企画するために、町やPWJのほかいろんな人と協力してこのテーマパークは成り立っている。

ティアガルテンに協力するかたちで牛との触れ合いを提供しているのは株式会社カシワダイリンクスの相馬さん。パークから車で10分ほど離れたところにある酪農牧場を営んでいる。今回募集する牧場スタッフはここで働くことになる。

P1040301 相馬さんは日本の酪農にたいして疑問を持っているそうです。

「牛乳は嗜好品でいいと思っています。毎日がぶがぶ飲むものというよりは1本の価値をもっとあげて美味しいと思って飲んでもらいたい」

量はいらない?

「ええ、各地域でそんなに大量じゃなくていいから牛乳をつくって販売すればその地域できた乳製品をその地域で味わえるわけです」

小さくていいから酪農も地産地消していく。大量につくってよその地域にまで進出する必要はないといいます。

じつは相馬さんは相馬藩の藩主の末裔なのだそう。

2011年の大地震による原発事故の影響で福島県の旧相馬藩領1/3はいまでも居住制限区域に指定されている。”殿”と親しく呼んでくれる町にあった自身の会社もたたむことになった。800年の歴史を捨てて避難を余儀なくされた人たちを目にするうちに、原発を必要としない体力のある町づくりをしたいと思うようになった。

「ぼくらは経済を追求していったことで起きた弊害によって苦しめられています。もう一度原発をつくって地域を潤すのではなくて、新しい産業をつくりたい。自分たちが自然と共存できる社会というのをこれからは目指すべきだと考えました」

家業としてつづけていた畜産の牧場を売り、神石高原町に家族と移住をしてきたのは2013年のこと。ここで産業構築ができれば、いつか福島にも還元できるかもしれない。

本来の家畜との共生を目指す相馬さんは、放牧酪農というスタイルをはじめた。連れてきてもらった相馬さんの牧場では、青空の下のんびり15頭ほどの牛たちが草を食み、搾乳のときだけ牛舎に集められていた。

P1040319 そういえば一生を牛舎に閉じこめられて乳を出すためだけに過ごす牛もいるのだなとぼんやり考える。種付けをくりかえし命懸けでつくられる牛乳を私たちは何を考えて飲んでいるのだろう。

でも、放牧酪農って大変そうですよね。

「それが逆に手間じゃないんです。牛舎の中にとじこめておくと糞を掃除してという手間がある。僕らはそれらを自然循環させていますし牧草を食べさせているので餌やりもそんなに苦じゃない」

意外ですね。

「ただ、乳量が下がるので売り上げは下がります。その分乳製品というかたちにして販売して、利益率はあまり変わらずに回せるんじゃないかな」

P1040545 できるだけ牛に負担をかけないよう、機械的にしないよう、大きくしすぎない牧場経営を目指している。自分たちが生きていける範囲でまとめることが地域をまもることだと知っているから。

カシワダイリンクスでは夜明けごろと夕方の搾乳作業のほかに、日中はミルクジャムやチーズなどの加工もする。それに加えてティアガルテンに牛をつれていって触れ合いの場を設けたり、いのちの現場をつたえるワークショップをおこなったり。

家族で移住してきてもいいし、力仕事が苦にならなければ女性でも大丈夫だそうです。

牛と触れ合う来園者 「ティアガルテンでの観光業もあるので土日は出て欲しい。会社なので休みはもちろん取れますが、夏は忙しいし冬は暇というふうに変則的です」

相馬さんご夫婦は、牧場に暮らす牛たちそれぞれに名前をつけてとても大切にしていた。酪農で儲けよう、ではなく酪農に生かされる町をつくりたい、そんな想いをひしひしと感じました。


いのちに生かされているということは忘れがちだけれど、その紹介の仕方次第で簡単に伝わることもある。

「テーマパーク内の新しいショップには地域の特産品を置き、ここならではの食材を使ったデリカ形式の食事も提供します」と、この場所の運営を担うPWJの国内事業部長、國田さんが話してくれた。

P1040416 「背景を大事にした商品を知ってもらう。知ってもらうことによって販路を広げる。あとはこの地域に対する愛着が商品を通して深まるような場所にしたいですね」

「こういう過疎地だといい取り組みをしていても、商品のアピール力がなかったり販路がなかったりするんです」

たとえば相馬さんの牧場でつくったチーズや、それを使った料理を提供したり。
後継者不足で伐採されていくりんごでつくったシードルなど、新商品の開発にも力をいれているから、意見を求められることもあるかもしれない。

DSC09502e 商品の背景にある”いのち”や”町”をどう伝えていくかは、新しく入る人の手腕にかかっている。

広告やPOP、料理や接客いろいろ伝えていく方法はありそうです。

「PWJはいろんな事業をしていますが、店舗運営というところはまだ経験が浅いんです。だからこそ、ここではスタッフの創意工夫で一から新しいお店づくりをしてもらえます」

特産品ショップとデリカショップのスタッフは、お客様の笑顔をよろこびと感じるホスピタリティあふれる人を求めている。いつか自分のお店を持ちたいと思っている人にも、いいチャレンジの場になるだろう。

IMG_6515 どちらも地域の物産さがしから仕事がはじまることになる。まずはこの町を好きになること。自分たちが気に入って紹介した商品が、神石高原の魅力になっていくかもしれない。

「ただ儲ければいいという話ではないんです。ものの本当の良さや背景を伝えることが地域の活性化につながる。この部分を理解してくれる人がいいですね」


神石高原ティアガルテンは、町に暮らすさまざまな団体や人が関わるテーマパーク。地域のいろんな人やいのちに関わることができるこの場所がより多くの人に知られるようになれば、神石高原町が”いのちを慈しむ町”として認知されていくかもしれません。

”いのち”でつながった縁のなかで、自分とテーマパークとの関わり方は自由に変化させていけるように思います。テーマパークを通してどうしたらもっと学びや感動をあたえられるだろう。考えるなかで得られる学びは、きっと自分の生きかたを良くしてくれるはず。

消滅可能性都市を自分の力で変えていく。少しでも興味があれば、ぜひ神石高原町を訪れてみてください。

(2016/3/30 遠藤沙紀)