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「家は売るものではなく、お客さまとの共同作業でつくりあげるものです。そのために何度もミーティングをするので時間もかかる。遠回りかもしれませんが、最終的にはお客さまのご希望のものに辿りつきたいんですよね」そう話すのは、株式会社三京建設代表の白井康雄さんです。
中目黒や世田谷など、東急東横線沿いの城南地区でフルオーダーの家をつくり続けてきた三京建設。設計から施工、アフターサービスまで、幅広く手がけています。
RC造や鉄骨造、木造などの多様な工法に対応しており、最近では耐震改修やリノベーションなど、建築と名のつくことならなんでもやっているそうです。
「かつてアメリカで活躍した、レイモンド・ローウィというフランス人のインダストリアルデザイナーがいるんですけれども。彼は“口紅から機関車まで”設計された方なんですね。我々もそこを目指したいなと思っています」
建築全般に関わる仕事がほとんどですが、ときにはエレベーターの内装や家具づくりを手がけることも。この先、仕事の幅はより広がっていくかもしれません。
今回募集するのは、現場での工程や予算、品質などの管理スタッフ。お客さんとだけでなく、現場の各担当者とも綿密にコミュニケーションをとっていく仕事だといいます。
建築の仕事に幅広く携わってみたいという方は、ぜひこの先も読んでみてください。
東急東横線の都立大学駅で降り、ゆったりとした空気の流れる通りを5分ほど歩くと、三京建設のオフィスが見えてきた。
真っ白な外壁に、大きな窓。暖色のライトに照らされた、広々とした会議室の様子が外からも伺える。
なかに入ると、代表の白井康雄さんが出迎えてくれた。
生まれも育ちも目黒の康雄さんは、ご両親の意向もあって建築の道へ。設計事務所で修行を積んだ後、父の創業した三京建設を継いだ。
「設計事務所では、役所の庁舎や保険センター、小学校1棟というような、大きな建築を設計していたんですね。ところが、この会社では住宅がメイン。はじめはとても小さく感じたのを覚えていますね」
A1の用紙に書いていた図面も、住宅だとA3で足りてしまう。そのスケール感の違いが、当初は寂しかったという。
けれども、取り組むうちに住宅の難しさや奥深さを感じるようになっていった。
「住宅って難しいんですよ。公共建築のように不特定多数に向けたものとは違い、決まったお客さまがいて、その人のために、その人のお金を使ってつくっていくものなので」
「その意味で非常にシビアですし、ひとつひとつのディテールにも注意が向けられます。10年ほどやってみて、ようやく奥深いと感じられるようになってきました」
設計事務所時代には、現場のことはよくわからなかった。しかしここでは、図面を書くのも、予算や現場の管理をするのも、すべてひとりでやる。おかげで、建築の仕事全体に対して実感が湧くようになってきたという。
「建築をまとめて管理する仕事は、非常に難しいですよ。図面と現場の整合性がとれているかを見なくちゃいけないし、予算があるわけですから。なおかつ、決まった時間内におさめなくちゃいけない」
「制約がいろいろあるからこそ、できあがったときの喜びは大きいと思います。過去に自分が担当した物件は今でも気になりますし、かっこつけて言えば、愛おしいんですね」
全体を見れるようになることは、個人としての満足感ややりがいだけでなく、一企業としても価値を高めることにつながる。
康雄さんは、今回募集する人にもこの考え方を共有しておきたいと話す。
「垣根をつくりたくないんですよね。設計は設計、施工は施工というのではなくて、オールマイティーにできる人になってもらいたい」
「なぜかというと、設計の仕事ができないと施工のときに残念だし、施工の仕事がわかっていないと設計の図面が書きにくいんですよ。だからこそ、全部に関わることがその人のためにもなり、結果的に会社のためにもなると思っています」
最近は木造の新築住宅に限らず、RC造や鉄骨造などの工法を取り入れることで、従来より大型の賃貸併用住宅なども手がけるようになってきた三京建設。
これだけ幅を広げてこられたのは、専務の白井信次さんが入社したことが大きかったそう。
続いて信次さんにもお話を伺ってみる。
康雄さんとはご兄弟で、小さなころから休みの日には事務所の掃除など、手伝いに駆り出されていたという。
兄の康雄さんが設計事務所に進んだのに対して、弟の信次さんはゼネコンに就職し、9年に渡って数々の現場を経験していった。そこで得たノウハウが、今の会社のノウハウを形づくっている。
「わたしがこの会社にきたのは、ちょうどバブルで景気のいい時代でした。当時は8階建てのビルなども手がけるようになっていたので、ゼネコンに勤めていたわたしが呼び戻されて、実際にビルを1、2棟建てたんです」
「ただ、その後が続きませんでした」
バブル崩壊と同時に仕事はみるみる減っていき、平成5年にはついに0に。ほかに従業員を抱えていなかったので、「ふたりで我慢すればどうにかなるんじゃないか(笑)」と笑っていたけれど、10年以上続いた低迷の時代は苦労も多かっただろう。
業績が安定してきたのは最近のこと。とはいえ、再び不況が訪れることも想定していなくてはならない。
仕事の幅を広げることは、ある種のセーフティーネットの役目を果たしている。それに、日頃から入念な打ち合わせをすることによって、継続的な関係づくりを欠かさないことが重要だという。
「現場をはじめるにあたっては、2週に1度ほどのペースで定例打ち合わせをするようにしています。設計や施工の下請け会社さまをこの会議室に呼んで、『ここはちょっと難しいから気をつけましょう』とか、『こういうふうに進めていきましょう』という詳細な打ち合わせをするんですね」
「細かい認識のズレを解消していくことが大切です。工場から持ってきてすぐにできる、プレハブをつくっているわけじゃないので。お客さまとも直接コミュニケーションをとって、困りごとをひとつひとつ丁寧に解消しています」
ここで、再び康雄さん。
「父の遺言みたいなものですけれど、うちは元請けしかやっていないんですよ。そうすることで、常にうちのフィルターを通すようにしています」
それは自社の利益を守るという意味でもありつつ、お客さんに対してぶれることなく自分たちのスタンスを伝えていくという意味でも必要なこと。
「城南地区に生まれ育ったので、地元に貢献したいという想いは強くあります。この場所で長持ちするものをつくり、地元の人に喜んでもらいたいですね」
交通の便はいいけれど、人でごった返すようなこともなく、住みやすいまちという印象を受ける。渋谷へのアクセスもよく、自由が丘にも歩いていける立地。
相談の内容は、高所得の方の賃貸併用住宅に関するものが増えているという。
「価格や仕様の面でも、高級住宅に携わっているという感覚はあります。ただ、フルオーダーの住宅としては、建築費を抑えているというのは自信を持って言えますね。できるかぎり、ニーズはとりこぼしたくないので」
コンクリート打ち放し物件の需要も増えている。こうしたニーズは一過性の流行というより、このまちの雰囲気や人の流れに即したものなので、あまりぶれないという。
三京建設は、地元のニーズに合わせて情報の出し方をブラッシュアップすることで、特に営業をせずとも週に1、2件の問い合わせや紹介を得ているそうだ。
これもまた、お客さんや協力会社との間にいい関係性が生まれていることの表れなのかもしれない。
続いてお話を伺うのは、森田明宏さん。建築には27年間関わっている方で、1年ほど前からここで働いているという。
長年建築に携わるなかでやりがいを感じる部分は、人との接点にあると話す。
「20代のころに建てた家のご家族に、4、5歳の小さいお子さんがいました。打ち合わせをしながら『お兄ちゃん』と呼ばれたりしていた子たちが、今ではもう成人しているわけですよ。そしてその子たちから、仕事の依頼がきたりする。そういうのは、やっていてものすごく喜ばしいことですよね」
「三京建設でも同じことで。家を建てて終わりじゃなくて、長いスパンで付き合っていくという姿勢でやっていますね」
今回入る人も、ここで長く働くことで身につくものはたくさんあると思う。お客さんとの出会いもあるだろうし、経験豊富な先輩が教えてくれることは、教科書で習うようなことよりよっぽど重みがあるはず。
森田さん自身、まだまだ現場で学ぶことがあるという。
「建築の流れとしては、まず図面から入っていきますよね。形になっていくにつれて、お客さまの持っているイメージと、我々がご説明している内容とで、若干相違してくる部分が出てくることもあります」
「そこで1からやり直すのか、もしくは補修程度のものでいいのか。そういったことで現場が止まったり、仕切り直したりすることはありますよね」
扉ひとつ取り付けるのでも、その高さや形、蝶番に至るまで、イメージとの相違が生まれてしまう場合もある。そんなときに細かい調整ができるのは、全体の工程を管理している人たちがいるからだ。
「建築って、工法や材料にもいろいろなものがあります。もしひとつの工法しかなければ、その工法を売るという感覚になってしまう。説明をにごしたりすると、お客さまは次第に離れていきます」
「その工法や材料の一長一短を正直にお話しして、お客さまの選択肢を増やしてあげること。これがぼくはベストだと思っています。なので、最初の段階できちんと説明することは大切ですよね」
家は売るものではなく、お客さまとの共同作業でつくりあげるもの。
そもそも家を建てるというときに、どんな選択肢があるのか知らない人も多いと思う。お客さんの目線に立ち、一緒に家をつくるための土台を築くのも大事な仕事になるようだ。
最後に、康雄さんからのメッセージを。
「きてくれた方と、よく話したいです。一番聞いてみたいのは、“この会社でなにをしたいですか?”ということ。なにをしてもらいたいかというよりも、なにをしたいかですね」
将来、自分で設計事務所を開きたい人も、施工をしつつ図面を書きたいという人も。バックボーンとして建築を学びたいデザイナーの人も。
垣根のない会社で働くのは、きっと面白いと思います。
(2016/3/25 中川晃輔)