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住みなれた街からあの街へ。移り住むということは、そんなに簡単なことじゃない。
仕事や家族、住むところ…それまでの自分を変えてしまうようで、不安なことも多いはず。
それでも、えいっと行ってみたくなる、住んでみたくなる街ってどんな街だろう。
訪れたのは宮崎県は都城(みやこのじょう)市。
鹿児島県との県境、霧島連山のふもとに位置するまちです。
このまちで、移住促進をすすめる地域おこし協力隊を募集しています。
たとえば自分が協力隊になるとして、どんな人どんなモノが待っているとしたらそのまちに行きたいと思えるだろう。想像しながら、続きを読んでもらいたいと思います。
そこで生まれる答えこそ、都城市の移住促進のヒントになるのではないかと思うのです。
曇りの朝。
最寄りの西都城駅から取材先の都城市役所へ。途中の道は交通量も多く、住宅はもちろんスーパーやコンビニに商店街まであって、けして小さくない都市という感じ。
ここで地域おこし協力隊を必要としていることが、なんだかしっくりこない。疑問符が浮かんだまま都城市役所に到着した。
待っていてくれたのは総合政策課の杉村さん。
来る途中感じていた疑問符を投げかけたら即答されてしまった。
「協力隊、必要なんですよ!」
「過疎地域もありますし、高校や大学を卒業した若い人たちが就職でごっそり市外に出ていってしまってるんです」
10年前の合併により4町が加わったことで、都城市は端から端まで車で1時間はかかってしまうほど広くなった。市役所周辺のように栄えた部分もあるけれど、山間部の地域は、過疎高齢化しているところもあるのだそう。それに加えて、若者が都会を目指して出て行ってしまう。
2年前から移住促進を担当している杉村さん。都城自体の魅力が、地域にも全国にもまだまだうまくPRできていないと感じているそう。
「牛・豚・鶏の農業産出額が市町村別で全国1位なんです。結構それって知られていなくて」
そうなんですね。
「あとは『黒霧島』という芋焼酎はご存知ですか?芋焼酎というと鹿児島と思われる方が多いんですが、霧島酒造さんは宮崎・都城市の会社なんですね」
なんと焼酎の売り上げも鹿児島を抜いて全国1位になっているそう。おそらく全然知られていないんじゃないでしょうか。
基幹産業である一次産業のほかにも製造業の大手企業があったり、雇用でも人を呼べる余白がまだまだある。
PR次第で人を呼べそうですね。
「そうですね。実際、移住のお試しで視察に来る方にも『意外といろいろあるんだね』と言われます。総合病院やショッピングモールといった最低限の都市機能はそなえていますし」
「あとはもう一つ。移住のサポーター制度というのをつくっています」
サポーター制度?
「私たち行政だけでは、移住する前の相談や移住した後のお世話ってなかなか行き届かない部分がでてくると思うんです。そこで13人ほどの民間のボランティアサポーターに協力してもらい、移住希望者の相談役になってもらうという制度です」
「たとえばまちおこしに興味のある相談者さんは、郷土料理を伝えていく活動をしている方に紹介したり」
協力隊として入る人は、移住希望者と市、そしてサポーターの間に入って移住希望者の不安や疑問を解消していくことになる。
移住促進は就職・住まい・教育・医療など幅広くサポートしていくから、一人の相談者に関わる人は10、20人と多い。
「『起業したいから物件をさがして欲しい』と言っている方がいるのですが、なかなか希望された間取りや家賃で借りられるものがなくって。今あらゆるネットワークを駆使してさがしているところです」
一人ひとりの意見を聞いていくのはけっこう大変そうですね。
「そうですね。でも人と知り合うのは純粋にうれしいなと思います。それをきっかけにさらにいろんな人とも知り合えるし、苦ではないですよ」
まちの魅力を語るとき、物産や行事などモノやコトをあげることがあるけれど、都城は”人”を売りにしたいのだそう。
“人”が売りのまちをつくるには、移住する人やまちの人とどんなコミュニケーションをとっていけばいいのだろう。
ひょっとして街中の人をサポーターにすることもできるかもしれない。
「3年の任期終了後を考える機会はなるべくつくっていきたいです。移住促進をの仕事をしていると、いろんな地域や企業・団体の方とつながることができます。人との出会いを通して3年後の自分を見つけてほしいと思っています」
移住促進専任で協力隊になった人はまだいない。自分もひとりの移住者として、そこに生きていたくなるまちづくりをしていけば、任期終了後に残るものは大きいんじゃないかな。
杉村さんはこの春から担当が変わってしまうそうだけれど、同じ課にいるので困ったことは相談にのってくれるそうです。
続いてご紹介したいのは平山さん。県外で就職した後、Uターンで地元都城市の協力隊になりました。新しく入る人は平山さんの後輩になります。
昨年10月に着任した平山さんは、婚活支援の仕事をしているそう。
着任してすぐはどのようなことをされたのでしょう。
「入ってすぐは挨拶まわりが多かったですね。総合政策課と関係の深い民間の団体さんや個人の方に。あとは取材です」
取材?
「市の広報誌やケーブルテレビ用の映像をたくさん撮られました。けっこう大々的でおどろきましたね。あとは市外で同じ業務をされている人に話を聞きに行ったりしました」
ふふふ、と思い出しながら笑う平山さん。のんびりとした口調でこちらも和んでしまう。
総合政策課でははじめての協力隊だったため、受け入れ側もとまどうことがあったようだけれど、平山さんはみずから調べて県外の婚活イベントや協力隊の勉強会などに参加するようにしたという。
今では市内の各地で仲人さんのような人を募って登録してもらうという新たな婚活サポーター事業を考案したり、独身の男女をあつめた結婚に関する意見交換会などを行なったりしている。
毎週1回市役所まで平山さんをたずねてくる婚活団体の人や、話し始めたら1〜2時間平山さんを離してくれないNPOの人もいるそう。
着任して半年で仕事も関係もきちんとつくられている。すごいですね。
「私だけで決めたわけではなくて、細かいところは総合政策課のなかにいる婚活担当の職員の方と相談しながら決めていくんですよ」
メンター制度のようなものがあるのか質問してみると、横で聞いていた杉村さんが答えてくれた。
「協力隊員がメインで自由に動いてもらっていいんです。『お金などの細かいところのサポートはしっかりやるから担当の職員にきちんと報告はしようね』という感じ」
それは安心感がありますね。
「あとは、婚活とはまったく関係ないことでも、何か機会があればいっしょに伺ったりしてますね」
「総合政策課自体の仕事が本当に幅広いんです。グルメコンテストやアートイベントをやったり、そういうときも平山を引っ張りだしてます(笑)」
メインの仕事をしつつ総合政策課のほかの仕事にもたずさわることで、新たなつながりが生まれていく。
7月は毎日どこかしらで花火が上がっているというほど都城市民はお祭りが好きなのだそう。
たとえば地域の祭りに参加してみたり、積極的にまちに関わってみる。まちの人との関係づくりやまちを知ることは協力隊の活動にとってきっと意味のあるものだと思います。
杉村さんと平山さんの取材後は、移住サポーターの一人、名谷(なや)さんのお宅へお邪魔することに。
昼をすぎて本降りになった雨の中、名谷さんの家に到着。
名谷さんは4年前「孫ターン」で東京から都城市へやってきた。現在は市街地からすこし離れたところで完全無農薬で野菜を栽培し、それを市街地で販売している。
トレードマークは長いひげ。ここにやってきた当初は、近隣住民に警戒されないよう、ひとまず自治会の壮年部に入ることにしたそう。
「そこで誰もやりたがらないから副会長に立候補したのね」
おもしろそうに話す名谷さんにつられて笑ってしまった。
「でもそれが本当にローカルな人たちの会だから、ただ引き受けたというだけでいっきに人脈が広がるんですよ」
ほかにも、家の前で小さくてもいいから野菜を育ててみると、近所のおばあちゃんとの共通の話題が生まれるようになった。
“東京からきた知らない人”から“地域の若衆”に扱いが変わるのは、こういうちょっとしたきっかけ。
今では、使わない土地や薪をもらえたり、とても良くしてもらっているそう。
「東京と同じような暮らし方をしたいんだったら、都城じゃなくてもいいんじゃないかなって俺は思うんです」
「農村と都市が近いのが都城の良さなんじゃないかなと思っていて。仲良くなるのに少し時間はかかるけど、せっかくだからこういうローカリズムを体験したほうがここの良さがもっとわかるんじゃないかな」
名谷さんにとって移住の醍醐味は農のある暮らしと地域の人との関わり合い。こちらから懐に飛びこむくらいがちょうどいいのかもしれません。
名谷さんと別れたあとは、東京にもどる電車の時間まで杉村さんと平山さんが都城市を案内してくれることに。
あいにくの雨の中「晴れたら霧島連山がすごく綺麗なんですよ」とか「スーパーはここがいい」「美味しいご飯屋さんあるよ」なんて言って時間ギリギリまでまわってくれる二人といると、新しく入る隊員と会えるのが楽しみで仕方ないといったあたたかい気持ちを感じます。
移住してきたときに、こんなふうに迎えてもらえたら心からうれしいだろうな。
都城で出会った人たちはみんな気さくでほっとするような人ばかり。
移住する先に期待するものは人それぞれだけれど、やっぱり”人”の存在は大きいように思います。
地域おこし協力隊を「移住者」という視点で捉えてみる。
移住者として自分と都城市のために何ができるだろう。3年かけて答えを見つけたいと思った人はぜひ応募してみてください。
(2016/5/6 遠藤沙紀)