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うごきだす街

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

今、全国各地で「空き家」が問題視されています。

地域により事情は異なりますが、全国の空き家率は13%以上と言われています。

住宅や店舗、学校だった建物がそれぞれ役割を終え使われなくなっていく。人口が減るなか、古くなったままの状態やそのままの用途では次の使い手は見つかりません。

そんな中、建物に新たなかたちや使いかたを吹き込む「リノベーション」という言葉を耳にする機会が増えてきました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「リノベーションをきっかけに中心市街地を活性化していきます。一緒にこのプロジェクトを進めていく人を探したいんです」

そう声をかけてくれたのは、宮崎県都城(みやこのじょう)市のみなさん。

ここで出会った人たちから、リノベーションを通して変わっていくのは物件や街だけでなく、生活に対する人の意識なんだということを感じました。

経験は問いません。この街で、人の心を動かしていく人を募集します。


宮崎空港からは高速バスか電車にゆられて1時間ほど。周りを山々に囲まれた盆地に広がるのが都城市。

駅を降りると、ビジネスホテルや小さな飲食店が並んでいる。第一印象を正直にいうと「渋い」という言葉がしっくりくる。

人口17万人ほどのこの街は、周りの自然が豊かなこともあり牛、豚、鶏の畜産が盛んで野菜もおいしい。なにより、3年連続売上高日本一となったメーカーがあるなど、焼酎が有名だ。

「おかげさまで昨年のふるさと納税の寄付金額は全国1位になったんです。お礼の1つで、芋焼酎1年分365本っていうのがあって話題になりました」

そう笑いながら話してくれたのは、商工観光部の鳥取竜一郎さんと瀬之口希さん。今は中心市街地の活性化を担当している。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA ハンドメイドの作品や飲食ブースが並ぶ神柱ピクニックというマルシェ、それに「焼肉カーニバル」という名のお祭りなど、さまざまなイベントが街の中で開催されている。イベントをすると、1万人単位で人が集まるそう。

「けれど、普段からにぎわっているかと言われるとそうではないんですよ」

中心市街地と呼ばれているのは市役所から歩いて3分ほどのエリア。実際に歩きながら、この場所のことを教えてもらう。

「少し前まで3つの大きなデパートがありました。週末には肩と肩がぶつかるくらいに人があふれていたんです」

中央通りと呼ばれる道を今も車がひっきりなしに通っているけれど、そこに並ぶのはシャッターをおろした店が目立つ。高齢になりお店はたたんでしまったけれど2階を住居として使っていることが多く、店舗スペースだけを貸し出すというのもハードルが高いそうだ。

大きなデパート2つはそれぞれオフィスビルとホテルとして使われている。大丸というデパートがあった跡地には図書館や子育て支援施設などが入る、新しい公共施設ができる計画が進んでいる。

「ここにまた人が集まってくることになります。けれど新しくできる建物の中だけで終わってしまうと、街のにぎわいにはつながりません。周辺の空いている物件をリノベーションして、人が行き来する流れをつくりたいんです」

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この周辺のにぎわいづくりを担うのが「タウンマネージャー」。

「候補者の公開プレゼンテーションには200人もの市民が集まったんですよ」と鳥取さん。都城市の人たちの関心の高さが伺える。

30人ほどの候補者の中から選ばれたのが、カラフルな出で立ちの二宮さんだ。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「タウンマネージャーとしてここにやってきて半年。ようやくこの地域のことがわかってきました。びっくりしたんですけど、みんな歩かないんですよ」

歩かない?

「徒歩数分のコンビニにも車で行くんです。車社会なので、駐車場があるかどうか、有料か無料かということが場づくりの大きなポイントになりそうです」

今回の募集で働く人は、まずは3年間、二宮さんの元で地域おこし協力隊としてこのプロジェクトに関わることになる。

駅前の再開発などに携わってきた経験が豊富な方。設計士として図面を引いたりするのではなく、得意とすることは周辺との交渉や事業収支の算出なんだそう。

九州を中心にプロジェクトベースで再開発に関わりながら仕事をする中で、北九州市の魚町商店街という場所の再開発に携わることになる。

当時商店街はまだにぎわって見えたけれど、並ぶ店舗の多くはチェーン店だった。このまま行き交う人が減ればあっという間に撤退をして、空き店舗だけが残っていくことにある。

与えられた任期は5年だった。

「やっぱり全部取り壊して建てなおす、スクラップ・アンド・ビルドをするしかないのかな、と思っていたんです。けれど5年では到底終わらない。どうしようか考えていたときに出会ったのが、都市再生プロデューサーの清水義次さんでした」

二宮さんは、清水さんから「リノベーション」という言葉を聞いて「これだ!」と思った。

今ある空き家や空き店舗に手を加え、新しい使い方を提案する。家賃のあり方も見直していく。

リノベーションを通して街が変わっていく様子を目の当たりにしたそうだ。

miyakonojyou - 3 「ここからはじまった人との関係は今もつながっています。清水さんが発案したリノベーションスクールも、都城で実施する予定です」

リノベーションスクールとは、3日から4日をかけて、使われていない物件を活用する事業プランを企画、実際に事業化を目指すプロジェクトのこと。日本仕事百貨のナカムラケンタも、参加者がプランを考えるのを支えるユニットマスターとして参加をしています。

北九州からはじまり、今は全国各地で開催されるこのプロジェクトは、まちづくりの1つの手法としても注目されている。

前回北九州で開催されたリノベーションスクールには、都城市から6名もの人が参加をしたそう。

二宮さんからそのうちの2人を紹介してもらった。2人とも「ただの主婦ですから」と自己紹介してくれたけれど、頼もしい仲間になってくれそう。

「旅行が好きで、お金をためては海外に行っていました。ハワイでバンガローのような小屋を全部自分でつくっていくオーナーに出会って、手伝わせてもらったんです。それがすごくたのしくて」

そう話してくれたのはリスマンさん。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 地元の都城市に帰ってきてからは、学生のころに遊びに行っていたデパートがなくなり、街のようすが寂しくなっていくことを肌で感じていた。

「すごくもったいないと思って。でも言葉にするだけで、なにをしていいかわからなかったんです。建築や不動産の仕事には興味があって、もう10年以上、都城の不動産事情を調べてます(笑)」

ネットで家賃の相場を見たり、リフォームしている家があると聞けばのぞきに行ったりしていたんだそう。物件の話をしていても「あ、あそこね!」と、売値の変遷まで教えてくれるくらいの物件通。

「子どもが小学生になるので、自分で安い物件を買ってなにかはじめたいなと漠然と考えていて。けれど中古の不動産を買うとなると、なかなか銀行が融資をしてくれない。いろいろはじめたいけれど身動きがとれなかったんです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA そんなときに、都城市でリノベーションスクールを仕掛けている人たちが講演をすることを知る。これも二宮さんが仕掛けていたことの1つで、まずは市民に「リノベーション」を知ってもらうためのイベントだった。

リスマンさんはここから、リノベーションスクールにどっぷりとはまっていくことになる。

「北九州で参加して、衝撃を受けました。なにかのせいにしていないで、自分で動き出さないといけないんだって」

リノベーションスクールではチームにわかれて実際にある物件の事業計画や公共施設の使い方を具体的に考えていく。チームの活動をしつつ、リノベーションの最前線で活躍している人たちの話をきく機会も多く用意されている。

「今までは自分がやりたい!ってことだけ考えていたんです。でもそれが都城のため、ここで暮らしていく子どもたちのためにつながっていくといいなと思うようになりました」

miyakonojyou - 2 向江さんもリノベーションスクールに参加した1人。以前は関東に住んでいて、旦那さんの仕事の都合で都城にやってきた。引っ越してきたときには、知り合いは1人もいなかったそうだ。

「人が歩いていないってことに衝撃を受けました。でも実際に暮らしてみたら食べ物がおいしいし、人もやさしくて。少しずつ好きになってきたんです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「そのあと出産をして、街を見る視点が変わりました。もっとこうだったらいいのにな、って思うことが増えたんです」

リノベーションスクールで参加したのは「セルフリノベーションコース」。4日間のあいだに1つの空間を実際にDIYでつくり変える経験をした。

「建築のことはわからないけど、主婦目線でできることもあると思っています。だから自分からぐいぐい首を突っ込んでいるところで(笑)」

今年の秋にはリノベーションスクール@都城が開催予定。二宮さんの元、2人も事務局として関わることになったそうで、できたての名刺をいただいた。

リノベーションスクールの開催、そしてその後の実現や事業の推進などは、しばらくのあいだ行政とボランティアで運営されていくことになる。けれどゆくゆくは組織化していくことを考えている。

「来る人がやりたいなら、3年で食えるようにします」と二宮さん。二宮さん自身は4年の任期があるため、ゆくゆくはここを離れることになる。それまでに、二宮さんのスキルや人脈をすべて叩き込んでくれるそう。

みなさんの様子を見ていても、わいわいとプロジェクトが進んでいくことが想像できる。こんな仲間がいることは本当に心強いと思う。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 1本脇に入ると、さつまあげ屋さんの軒先で井戸端会議が開催されていた。お土産を買いがてら話に混じってみると、大丸跡地の再開発のこと、新しくできたカフェのことなどをみなさんご存知でした。

自分の住む場所に強く関心を持っている人がいることは、可能性だと思います。

けれど実際に物件を動かすということは、人の持ち物の使い方を提案していくこと。リノベーションは万能薬ではないし、簡単なことばかりではないかもしれません。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 今まであたり前だと思っていた物件の使いかた、暮らしの考えかたを変えていく仕事です。好奇心がうずいたら、まずはうごき出してみませんか。

(2015/5/9 中嶋希実)