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どこかに出かけたとき、道の駅を訪れたことはありますか。今や全国に1000カ所以上あり、その存在はめずらしくなくなってきました。
地元のとれたて野菜や、てづくりのジャムやお漬物などの加工品。その土地にずっと伝わってきた工芸品。
地域の豊かさがぎゅっと詰まった場所だと思う。なんだかその地域が身近に感じられる気がして、私はついつい訪れてしまいます。
今回募集するのは、地域おこし協力隊としてそんな道の駅のこれからを一緒に考えてくれる人。
道の駅の運営に加えて、イベントの企画やディスプレイにもどんどん意見を出していってほしいです。
舞台は、和歌山県那智勝浦町。
2004年に世界遺産に登録された熊野古道や那智大社には国内、海外を問わず年間を通して多くの人が訪れます。
だけど熊野古道と聞くとイメージが浮かんでも、那智勝浦町と言われるとなにがあるのかよくわからない、という人も多いかもしれません。
もしもこの場所をきっかけに人と人の関わり方が変わったり、地域の商品が全国に広がっていったら。道の駅の仕掛け人というよりは、もはや地域を変える仕掛け人になるかもしれない仕事です。
経験は問いません。いろいろな人が交流できる場づくりに興味がある人や、歴史や文化に触れながら働きたいという人は、ぜひ続きを読んでみてください。
南紀白浜空港から、特急列車にゆられて1時間半ほど。まちの中心地である紀伊勝浦駅に到着した。
駅を降りると、ビジネスホテルや商店街、小さな飲食店が並んでいて、その先には山並みが広がっている。すぐ近くには勝浦港も。
人口は約1万5000人。海にも山にも恵まれていて食べ物がおいしいところです。
「道の駅なち」はそこから紀勢本線で2駅先の那智駅にある。車だと10分くらいの距離。
ついて最初に目をひくのは、朱色の社殿風の建物。「駅」という感じじゃなくてちょっとびっくりした。
昭和11年に完成した駅舎は、那智大社を模してつくられたものだそう。
駅前のバス停から熊野古道に歩いていけることや、道の駅もあって平日でも多くの人が訪れていた。海外からのバックパッカーの姿も目立つ。
道の駅なちは、この那智駅に併設された交流センターと直売所からなる。
交流センターには、1階に休憩スペースや熊野古道の歴史や文化を知ることができる世界遺産情報情報センターがある。
2階には建物のすぐ後ろにある海が一望できる町営の温泉施設。となり町から通ってくる人もいるくらい、地域の人たちからも愛されているのだそうです。
案内してくれたのは、右から観光産業課の島さんと橋爪さん。
島さんは少年野球チームのコーチをしていて趣味も野球。橋爪さんは週末お子さんと遊ぶのを楽しみにしている。
近くのおいしいお店を教えてくれたりと、気さくで話しやすい人たちです。
まずは直売所を見せてもらうことに。
まだオープン前の朝9時ごろ。中をのぞくと、地元のお母さんたちが朝採れた野菜を並べにきていた。
おはようさん、と挨拶を交わしながら「今日はなに持ってきたん?」と会話がはじまって、一気に場がにぎやかになる。
野菜を見ていると「これ食べたことある?おいしいよ」と声をかけてくれた。
話してみるととても人懐っこいというか、よそからきた私にも垣根なく接してくれるのがうれしい。お母さんたちは、もう10年くらいここに通ってきているのだという。
「南の土地はね、あたたかい。人がみんなね。方言丸出しで色黒いけど、気はいいから(笑)」
今日はなにを持ってきたんですか。
「玉ねぎやろ、大根、ほうれんそう。イタドリって知ってる?山菜。春の野菜やね。私、山登りが好きでね、いつもリュック背負って登ってるの」
からっとした笑顔で笑うお母さんたちを見ていると、なんだかこっちまで元気になる。
棚には、ほかにもおつまみとしておなじみだといううつぼの揚煮や鯨ハムなど、見なれないものがたくさん並んでいる。
ほどなくしてオープンの時間をむかえると、地元の人たちであっという間に店内はいっぱいになってしまった。午前中には、お母さんたちの野菜はほぼ売り切れてしまうのだという。
ひと段落ついたところで、働いている人にも話を聞いてみます。
「どうしよう、緊張する」と言いながらも、優しい笑顔で迎えてくれたのは中村さんです。
地元の出身で、以前はホテルで清掃の仕事をしていたそう。お子さんがいることもあって、自宅に近いこの場所にやってきた。
働いてみてどうですか?
「みんな親切ですし、明るいというかね。ここに入ってやめていく方はほとんどいないんですよ」
働いているのは全部で8人。今は男女で役割がわかれているという。中村さんたちは主に直売所の接客と、温泉の受付や掃除をしている。男性はボイラーの管理や、交流センターでお客さんの案内をする。
この体制は今後変えていきたいそうで、新しく入る人には分け隔てなく経験してもらうとのこと。
「直売所では生産者さんが野菜をくれたりして。もう友達みたいな感覚でお話ししますね。みんな年上だから、暮らしの知恵なんかも教えてくれるんですよ。ムカデに噛まれたら梅干しを貼ったらいいとか。この前試したら本当に腫れがひいたんです」
「まだまだたくさんあるんだけど」と言いながら話す中村さんはとても楽しそう。ただの生産者と販売者ではなく、本当に深いつながりがあるんだなと感じる。
新しく入る人もこんなふうにお母さんたちの話をききながら、地域に馴染んでいってほしい。
買いに来る方たちともお話ししたりするんですか。
「しますね。『これどないして食べるん?』って聞かれることもあるし、逆にこうやったらおいしいよってお客さんが教えてくれるんです。それがスーパーとは違うところですよね」
地域の人たちとは密なコミュニケーションがとれている一方で、観光で訪れた人にももっと開かれた場にできたらと中村さん。
「お土産物も、この月はこれをメインにするとかディスプレイを変えたりできたら面白いかなと思います。まだ思うだけで、なかなか実行できてないんですけどね」
どんな人と一緒に働きたいですか。
「自分だけではなくて、ほかのスタッフさんとも足並みを揃えていかないとね。まずは一緒に汗をかいて働いて、ここのことがわかってきたらいろいろと話もできるのかなと思います」
どんな地域でも実感することだけど、いきなり主張すると話をきいてもらえない。
一緒に仕事をしながらまずは謙虚に話を聞いて、聞かれたら答えるぐらいが最初はちょうどいいのかもしれません。
続いてお話を聞いたのは、交流センターにいた松島さん。
前職ではホテルの事務員として働いたのち、フリーになって観光PR動画の配信をしていたという変わった経歴の持ち主です。
「プロのカメラマンの方と組んで。ちょうどyoutubeがではじめたころだったので、自分の暮らす那智勝浦町を宣伝していきたいなとやりはじめたんです。やっぱり熊野の自然が素晴らしいと思うんですよ」
松島さんはコンピューターも使いこなす。まちのことにも詳しいから、移住の相談にものってもらえそうです。おだやかでとても頼もしい人。
日々の仕事について聞いてみる。
「道案内が多いです。近くに補陀落山寺っていう世界遺産のお寺があるんですけど。意外とみなさん知らないんですよ。バスの乗り場がわからないっていう方もいます」
お話を聞いている最中にも、さっそくパンフレットを見にきたお客さんが。1日に20人以上はこうしてやってくるのだそう。
「外国の方は、ここから那智大社まで歩いて行かれる方も多くて。結構まちの人ともコミュニケーションをとっているみたいです。説明するのに、なにかいい資料はないかって聞きにくる地元の方も多いんですよ」
観光で訪れた人も、地域の人にも。いわばコンシェルジュのようにさまざまな質問に答えている。
どんなことがやりがいにつながっているんだろう。
「やっぱり喜んでいただけることですね。ここを拠点に、車でこのあたりの山をめぐっている人もいるんですよ。そういう方が『昨日教えてもらったところ、よかったよ』とか言いにきてくれるとうれしいですね」
「そのためにもっとまちをまわったりしたいんですが、まだまだ勉強不足です」と話してくれる松島さん。
中村さんも松島さんも現状をなんとかしたいと思いつつも、なかなか動き出せてはいないようです。
となりで聞いていた橋爪さんも話に加わる。
「やっぱり、現場で行動しながら一緒になって変えていこうっていう人が来てくれるといいなと思うんです」
そのために、まずは直売所と交流センターの中でできることからはじめてほしい。
「みてもらって感じたと思うんですけど、ほかの道の駅に比べてディスプレイとかもあまりきれいにできていないんです。なにがオススメかということも、ぱっと見ただけだとわからないですよね」
たしかに。なにも知らずに訪れた人にとっては、せっかくの魅力が伝わらなくてもったいない気がする。
「そういうのがいっぱいあって。たとえば直売所に『さんず』っていう柑橘がある。このへんではすっぱいからそのまま食べるんじゃなくて酢の代わりに使うんです」
「地元の人にとっては当たり前だけど、書いてあったら外の人にはこんなのもあるんやって思ってもらえる。買わなくても、知的好奇心を満たせたら楽しんでもらえて満足度も上がるかもしれないですよね」
とはいえ町営の施設なので、一部の商品だけをオススメしたり、目立つようにしてしまうと不公平になってしまう。
改善するには、生産者たちを巻き込んで自分たちでレイアウトを工夫してもらう必要があります。
過去にはPOP制作をみんなでやってみようと企画したものの、橋爪さんは常に道の駅にいるわけではないので、そのままたち消えてしまったそう。
「地域の人を巻き込んだ企画とかも、考えてもらえるといいですね。僕もいくつか考えてることがあるんですけど、まずは小さなことからでも」
お客さんや生産者さんとの距離が近いので、自分のアイディアがどんなふうに受け止められるのか、間近で見ることができる。それはやりがいにもつながると思います。
「あと一番大変なのは人の調整かな。長く勤めている人も多いので、結構今までの習慣でやってきていることもあるんです。マネジメントも含め、じっくり腰を据えてやってほしいですね」
きっと簡単なことばかりではないでしょう。新しい場の使い方を提案したり、今まであるやり方を変えることは時間がかかることかもしれません。
だけど地域をよくしていこうと興味を持つ人がここにはたくさんいる。それは、可能性でもあると思います。
まずはまちを訪れてみませんか。ここから、ともに地域を変えていく人を待っています。
(2016/5/18 並木仁美)