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なんだか元気がでなかったり、逆にとっても天気がよかったり。何かのひょうしに、ふらりと花屋さんや植物園へ行きたくなることはありませんか。
陽のしたで花が咲いて、風に揺れているのをみていたら、それだけで気持ちが満ちてくる。
そんな花のよさを知っている人に、ぜひ知ってほしい仕事があります。
鹿児島県鹿屋(かのや)市が運営する「かのやばら園」は、春になると100万本ものばらが咲くばら園です。
春はポピー、5月になると色とりどりのばらたちが咲き、夏に入ると紫陽花がはじまる。涼しい風の吹くころにはコスモスが咲き、冬には真っ赤なクリスマスローズ…。
一年中花の咲くこの場所で、ばらガーデナーを募集します。
花や植物が大好きな人であれば、ばら栽培の経験はなくてもよいそうです。
毎日外へ出て土に触れ、花の性質から知っていく。
そんな生活が楽しそうだと思ったら、ぜひ続きを読んでみてください。
「かのやばら園」までは、鹿児島空港から車で1時間半ほど。
九州の最南端、大隅半島のちょうど真ん中にある鹿屋市は、一年を通して温暖で雨がよく降る土地だそう。
この日も午後から雨の予報で、東京に比べると少し暖かい。
伺ったのは、5月の中旬。
ゲートをくぐると、ちょうど見ごろのばらたちが咲いていました。
「今が一番よく咲く季節です」
そう言って迎えてくれたのは、ばらガーデナーの萩原(はぎはら)さん。
一緒に園内を歩きつつ、お話をききました。
「今、1500種ほどのばらが咲いています。開園当初は4000種あったんですが、鹿屋の環境では咲きにくいものもあって。少しずつ、鹿屋の気候に合ったばらに植え替えてきました」
「ばらにとって一番大事なことは、寒い時期にきちんと肥料などを与え、準備がされること。そんなふうに、ばらのサイクルに合わせて作業があるので、一年中同じ仕事というのはないんです」
今はどんなことをしているんですか?
「今は花殻摘みですね。きれいな状態で見てもらうために、咲き終わった花を摘んでいきます」
それが終わると、夏に向けて剪定が始まる。
剪定は、長年続いてきたかのやばら園独特のやり方だそうです。
「植物は、光合成によって自らエネルギーをつくり出しています。ですから、うちの園ではできるだけ葉っぱを多くのこすよう、枝のうえのほうで剪定しているんです。ふつうは、もっと下のほうで切ってしまうんですね」
特徴は、もうひとつ。
「これ、何かわかりますか?」と指差したのは、背の低いばらの植わっている地面にひかれたわら。
「専門用語で『マルチング』という手法で、敷きワラのことです。うちではカヤとススキをひいているんですが、これは一石六鳥なんですよ」
「いちばんの役割は、雨による土の跳ね上がりをふせぐこと。土にはたくさんの菌がいて、葉に付着すると病気になることもあるからです」
それから、湿度と地温の調整をしてくれたり、雑草の抑止や、人が作業のために踏み込んだとき、ばらの根を守るクッションの役割も。
さらに、冬になるとカヤとススキ自体が土に還り、肥料になるという。
こういったさまざまな工夫は、この土地に合わせて少しずつ見つけ出されてきたものなんだそう。
「もともと、高温多雨の鹿屋の気候は、ばらづくりには向いてないんです」
どうして鹿屋でばら園がはじまったんですか?
「ばらは人がよろこんでくれて、栽培もなかなか真似ができない。それで、“ばらのまち鹿屋”として人を呼ぼうと考えたんですね。それだけ、この土地でばらをつくることは難しいんです」
日本でのばらの育成の歴史は浅く、ばらに関する書著もさまざまな見解があるそうだ。
加えて、鹿屋のような気候はばらづくりにはメジャーではない土地。
きっと、いろんなことが手探りなんだろうと想像する。
「だれも答えを知らないし、きっちりと決まった基準もない。自分の経験が身になっていくから、面白いんです」
いわゆる、勘。
「たとえば、昨年、鹿屋は大雨が続きました。雨が多くなると、葉を落とす黒星病やべと病の発生が予想されます。それに合わせて薬を散布しますが、この薬は多くても環境にわるいし、少なくては花がダメになってしまう。様子を見ながら対応していくんです」
「私たちが特別な技術でもって何かをしたからよく咲いた、とか、何をしたから咲かなかった、ということはない。ばらが自分で咲いてくれたって感じなんですよね」
ばらが自分で咲いてくれた?
「わたしたちがやっているのは、冬の再生期に肥料をやって休ませるとか、毎日水をあげるとか、薬をまくとか、そういった植物の生理に合わせた最低限の部分なんです」
「花が咲く手助けをしている。そういう気持ちでやっています」
ばらも、ばら自体の年齢や気候によって花のつき方が変わってくる。それに、台風が来ればあっという間にばらが全て折られてしまうことも。
「思った通りにならない、自然を読みきれないことは楽しさのひとつですね」
ばらも気候も。すべてひっくるめて自然を相手にしているからこそ、きれいに咲いたときは奇跡みたいに感じるんだろうな。
萩原さんは、こんな話をしてくれた。
「小学校4年生のとき、ペチュニアという花を植えたんですね。水をあげて世話をしてようやくそれが咲いたとき、私もうれしかったし、それを見たみんながよろこんでくれた」
「それを見たとき『ああ、人は花が咲いたらよろこぶんだな』って感動したんです」
それから花をつくることにはまってしまった萩原さん。
自身の中学校の卒業式には、体育館に飾るプランターなど、すべての花をつくって先生方にプレゼントしたこともあるのだとか。
「人はなぜ花を育てるんだろう、飾るんだろう、見るんだろう、と考えたとき、“癒し”なんじゃないかなと思うんです。私も、いつも花からエネルギーをもらっていると思います」
萩原さんがここを任されるようになって植え替えたばらたちは、今年で4年目を迎えた。
ばらの年齢的にも一番よく咲くときで、お客さんからも「今年はよく咲いているね」と言っていただくそう。
花を見たお客さんの表情は、自然とやわらかくなっているといいます。
「わたしが花に癒されるように、癒しを求めていらっしゃるお客さんに癒しを提供したい。『ああ、きれいだった』と感動しに来てほしいんです」
萩原さんの仕事は今、主に全体への指示出しがメイン。
新しく入る人には、一緒に働きつつ、技術や知識をイチから教えてくれると言います。
「ただ、彼も花が好きって気持ちは教えられないからね(笑)やっぱり花や植物が好きで、一生懸命な人に来て欲しいな」
そう話すのは、鹿屋市役所の都市政策課に所属する瀬貫(せぬき)さん。かのやばら園のある霧島ヶ丘公園全体の管理をしている方です。
もともと花農家に生まれ、生まれたときから花が身近だったという瀬貫さん。
今でも休日には花をつくっているといいます。
「花は好きだよ。作業している時はストレス解消になるし、何より育成の過程が面白いんだよね」
いまつくっているのはテッポウユリというユリ。
本来は春から夏に咲く花だけれど、ユリの生理を利用して擬似的な四季を体験させ、クリスマスに咲かせているのだそう。
「植物って、育種(=品種改良)、生理、栽培があるんです。私は、もともと学校では栽培が専門だったんですよ。役所でも栽培の技術屋として勤めていたんだけれど、そのうち、栽培よりも植物の生理が1番はじめに考えられないといけないんじゃないかなと思うようになってね」
「この子はどう育つ、どんな性質っていうのを知らないと、最低限の花の咲く手伝いをしたくても、どんな肥料を、どのくらいあげたらいいか分からない。だからここで働く人も、はじめは生理から勉強してもらいたいと思っています」
今回募集するのは、地域おこし協力隊というかたち。けれど、ここで学べる技術や知識、経験は、この業界で生計を立てたいと考える人にとってとても魅力的なものだと思う。
ゆくゆくは、苗や花をつくる花農家になることも考えられるかもしれない。
「一生懸命にやったら、3年で一人前になれるよ。はじめからできるようにと思わないで、長期的に見ていったほうがいい」
「まずは、鹿屋の風土や、この場所に慣れていくといいね」
最後に、ここをどんな場所にしていきたいか、お二人にきいてみた。
「これからは、よりいろんな花を植えていきたいと思っています。365日、いつ来ても花があるようにしたいんだよね」と瀬貫さん。
イメージは、ふらりと地元の人が訪れたくなる公園。
ここは市が運営する公園だから、ほかの植物園よりもずっとまちの人にとって親しみやすい場所になっている。
ペットも一緒に入れるし、ピクニックのようにお弁当をもって花を見ながらお昼ご飯も食べるのもいい。家族で来たら、子どもたちはじっさいに目の高さにある花に触れることもできるそうだ。
「毎日きて欲しいんです。花だって、昨日の顔と今日の顔は違う。1日だって、同じ日はないんですよね」と萩原さん。
「私はここに22年勤めています。でも、まだ22回しかばらをつくっていない。そのくらい、毎年毎年ほんとうに違うんですよ」
自然を相手にするって、こういう感覚なのだな、と思う。
花に癒されながら、地道にゆっくりと花に向き合う。
花が好きで仕事にしていきたいという人へ、ぜひおすすめしたい仕事です。
(2016/6/15 倉島友香)