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モノが持つそれぞれの個性。それをよく理解して、大事に使う人へと届けていく。そのものが、長く育っていくように。
そんな想いをもって働く人たちに出会いました。
素材にこだわったシンプルなデザインで、使う人に合った商品を提案する革製品のブランド「REN」。運営するのは、株式会社バスデムシャットです。
いいところも、そうでないところも。飾らないモノの魅力をお客さまへ伝える。その役割を担う店舗スタッフを募集します。
取材に訪れたのは、REN蔵前店。
店内に入ると、年季の入った木箱や棚に、商品が自然な佇まいで置かれています。
まずお話をうかがったのは、営業部でブランドマネージャーを務める荒井さん。
荒井さんは、19歳のころからアパレル業界で接客や店舗マネジメントの仕事をしてきました。
その傍らで、RENを立ち上げからつくってきた方です。
23歳のとき、デザイナーの柳本さんを紹介されたことが、立ち上げのきっかけだったといいます。現在の代表である柳本さんは、当時有名ブランドの革バッグを制作する会社から独立したばかりでした。
「洋服では自分が満足できるものをたくさん見てきたけど、自分にとって未開拓のカテゴリーだったバッグでは『これがいい』と強く思えるものがなかったんです。ほかにはないものをつくりたい。そう柳本に言ったら、『同志がほしいと思ってたんだよ』って」
「『一生かけてやっていく、オリジナルのコンテンツになる可能性がある』と、直感的に感じたんです」
当初のメンバーは、荒井さんと柳本さんを含めた3人でした。
資本もないところからのスタート。それぞれ個人の仕事で生活をやりくりしながら、「よいものをつくりたい」という一心でブランドづくりをしてきたといいます。
けれど、一般的に「よいもの」とされる革のバッグは、イタリアンレザーなど非常に高価な素材を使ったもの。当時の荒井さんたちには扱いにくいものでした。
できるだけ価格を抑えつつも、どのように独自性を持った提案をしていくか。
着目したのは豚革でした。
豚革は「毛穴が目立つ」などデメリットに思われる部分がある一方で、「軽くて丈夫で、価格も手頃」というよさもたくさんある。
試作しては手にした人の反応を確かめるうちに、確かなニーズがあることに気づいたといいます。
「じゃあうちは、思いっきりシンプルで自然なものに寄せて、紙袋感覚で使い倒せるような、軽さと強さを備えた価格の手頃なものを提案しようと」
たとえば「FUKURO」というシリーズ。
革の柔らかな風合いを活かしつつも、紙袋のようなシンプルなデザインが特徴です。裏地はあえて付けずに、軽量化のために金具も最低限におさえているそうです。
打ち出してみると、こうしたRENのバッグを「よい」と思ってくれる人たちが、ちゃんといることがわかった。
そして、目指すべき「よいもの」が自分たちにとってではなく、「使う人にとってよいもの」であることにも気づいたそう。
「『自分たち目線のよいもの』から『RENに共感してくれるファンがほしいものとはどういうものか』に重点をおいていったんです。そうしたらいろんな人にとっての『よい』部分がわかるようになって、自分たちが思う『よい』の幅が広がっていきました」
ここで、荒井さんが2つのバッグを見せてくれました。
向かって左が「ランチバッグ」、右は「ワイドトート」。
「よく見ると、左と右でハンドルの太さや長さ、留める位置も違います。なぜそうなっているかというと、左のものは、カジュアルにものを入れられるエコバッグみたいなノリで。右のものは、書類も入るような重さに耐えられる仕様にしているからなんです」
「中も違って。ランチバッグは、袋縫いにして中央ではぐことでドレープ感を見せようとしています。ワイドトートは、中に革をあてることで強度を出そうと」
こうした一つひとつのポイントは、お客さまの声を汲みとったり、自分たちでも使い方を試すことで気づいたもの。商品のラインナップも、日常の使い方に合わせてさまざまな形になっているそうです。
細部に渡るこだわりが、使う人の支持を得ているのだと思います。
「商品の売りにしているわけでもないですけどね。ただ、こういうところがものの奥行きになっていくんだと思うんです」
奥行き。
RENでは製品をシーズンごとに大きく様変わりさせたり、すぐ廃盤にすることはないそう。細かなバージョンアップを繰り返して「育てていく」のだといいます。
ランチバッグやワイドトートも、初期のものと今とでは、使う革の部位やパーツの変更をおこなっているそうです。
「RENって民藝に近いんです」
どういうことですか?
「民藝の品は、無名の職人でもしっかりたくさんつくれるようなデザインになっています。細かな改良が加えられながら、人々の生活のなかで生き続け、使われることで深みを増す。その在り方がRENと共通しているんです」
そんな話を聞きながら、お店の中に置いてあった陶器に目を向ける。革のバッグとはまったく違うものなのに、不思議とRENと同じ空気感を感じます。
なんでも、スタッフの方が出張店舗のために福岡を訪れた際、小石原にある蔵元の器を見つけたことがきっかけだったそうです。
「自分たちが納得いくデザインとの間をせめぎあいながら、とにかく長生きするものをつくっていけるか。もう自分たちには子どもがいるので、世代を超えて伝承していけるようなものにしたいねと、よく話しています」
そのために、息長く伝えていく力が必要です。
「RENには分かりやすい個性はありません。素朴さやシンプルさが個性ではあるけれど、それを認知してもらうためには伝える技術が必要になります」
「そこを担う役として店舗運営部のスタッフは、つくり手の想いを汲みとり、ものの奥行きを理解することが必要です。そのうえでお客さまの理解度に合わせてお伝えし、反応や要望をものづくりに活かしていく。つくり手が生みの親だとしたら、店舗に立つスタッフは育ての親の役割を持つと思っています」
育ての親。
「自分としては、生まれたばかりの商品は完全無欠な姿じゃなくてもいいと思っていて。その後の伸びしろは、育てていく人たちの仕事にかかっています」
RENに通底する意識は、等身大であることだといいます。
お店のディスプレイも演出はせず、できるだけ質朴なものにしているそう。そして、RENの商品がよいかどうかをお客さま自身に判断してもらいたいから、よい点もそうでない点も、きちんと正直に伝えるのだといいます。
実際に店舗に立つスタッフの方にお話をうかがいます。
丸の内店のスタッフである齊藤さん(写真左)と、蔵前店の店長兼エリアマネージャーの木ノ内さんです。
齊藤さんはここで働く前からRENの商品に惚れ込んだ方でした。
小柄でなで肩ということもあって、以前から体に合うバッグがなかなか見つからないのが悩みだったといいます。前の会社の就職祝いに、ご両親からRENのバッグをプレゼントしてもらったのがRENとの出会いでした。
軽くて体にフィットするバッグは使いやすく、今でもずっと愛用しているそうです。
「『鞣し(なめし)』という基本の言葉を教わるところからここに入社して。分からないことは自分で調べて、調べても腑に落ちないことは先輩に教えてもらって。日々勉強し知識を蓄えるのは、最初は大変ですけど楽しいことです」
知識のほかに大切なのは、実際に製品を使ってみてメリット・デメリットに気づくこと。自分の体験をもとにバッグとうまく付き合うコツを伝えることで、お客さまにとって身近な話になるようにしているといいます。
「それだけでなく、なぜそうしたデメリットがあるのか。革の特性や、その特性を『よさ』として引き出している結果だということも、お客さまに説明して」
RENについてもっと知ってもらいたい、長く使ってほしい。その想いがあるから、正直に伝えられる。
「“販売職”と簡単に言い表せないというか…。よくお客さまに『あなたがつくってる人?』と言われます。それぐらい、自分たちがつくり手になったつもりで話しています」
そう話すのは、木ノ内さん。以前はカフェに10年ほど勤めて、ずっと接客をしてきました。
「会話の延長線上に買い物があるように意識しています。まずお客さまとの会話を楽しんで、興味を持ってもらって、仲良くなって。そうすると『今日、木ノ内さんどこにいるの?』とお客さまが電話をくださったり。この間は、煮豚のつくり方を教えてくれました(笑)」
そんなふうにお客さまと販売員という関係ではないつながりがある一方で、難しいと感じる部分もあるといいます。
「興味を持ってもらえなかったり、デメリットを聞いて『なんでそんなもの売ってるの?』とマイナスにしか捉えてもらえないこともあります。一人ひとり違うお客さまに対して、どう伝えたらいいか。そこはスタッフみんながはじめは悩むし、ずっと葛藤し続けるところだと思います」
その上で、どんな人が向いているでしょうか?
「こうすれば絶対大丈夫という答えのないなかで、自分なりに模索しながら、やりがいや楽しさを感じてできる人がいいかな」
齊藤さんは、「理屈では解決できないことの多い会社です。素直にものごとを見聞きして柔軟に対応できる人ですね」と話します。
荒井さんにもうかがいます。
「まずは目の前にある自分の仕事にのめり込める人。誠実にやるなかで、その人自身も育っていけばいいなと思っています」
荒井さんは、販売員という仕事の将来について、こんなことも話してくれました。
「販売職ってすごく軽く見られたりするけれど、将来は逆転していくと思います」
「いろんな仕事がロボットに代わっていくだろうけど、人対人の仕事は残っていく。その仕事の経験を積んでレベルアップしておくと、実はすごく価値ある人になると思っていて」
「とくに、そのものが何なのかを伝える力や、相手の状況や気持ちを察しながら行動する力は、機械はなかなか持つことができないと思う。だから、誇りを持って取り組める人がいるといいですね」
まずはお店を訪れてみてください。そこで働く人たちがRENの魅力を素直に伝えてくれると思います。
そうしてRENというブランドを一緒に育てていく姿を想像してみてほしいです。
(2016/06/15 後藤響子)