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食と人の編集者

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

歴史を振り返ってみても、これほど「編集」という能力を多くの人が必要とした時代はないかもしれません。

編集というと雑誌や書籍の編集という意味のほうがイメージできるかもしれませんが、ここで言っている「編集」とは、そういう狭義のものではなくて、もっと多くの人に関係のあることです。

littletokyo01 清澄白河にリトルトーキョーが引越ししてきて半年が経ちました。

今回募集するのは食の編集者と人の編集者。

どちらもそれぞれ料理人や接客、そしてバーテンダーと言ったほうがわかりやすいかもしれません。でもそう言ってしまうと、こぼれ落ちてしまう意味がたくさんあるので、どちらも編集という言葉を使っています。

具体的に食の編集者は、ピークタイムに働く方から、正社員でじっくり働く方も募集しています。人の編集者も同じです。

なぜ編集なのか。少しでも興味のある方はぜひ読み進めてください。



リトルトーキョーという場所は、以前は虎ノ門にありました。もともと寿司屋だった建物と、空き地、そしてペンシルビルから成り立っています。

littletokyo02 それまでのオフィスは表参道駅から徒歩6分くらいの場所にある建物の一階にありました。表玄関とは別に独立した入口とポーチがあって、ふらりと友人が訪ねてくることがよくありました。

それはなかなか楽しい時間でした。いっそのこと、ここにちょっとしたお店をつくってもいいな、と思ったりしたけれども、そこはお店などはNGな物件でした。

オフィスとしても手狭になってしまったし、次は人が気軽に訪れることができるような場所をつくろうと思っていたときに出会ったのが、虎ノ門でした。

しかし、何をやるかは漠然と考えていました。まずはじめてみるのが大切だと思っていたからです。そこで、まず空き地に小屋を建てて、寿司屋は壁も突き破ってリノベーションし、もともと焼き場だったところにバーカウンターをつくりました。

バーはなんとしても必要な場所だったのです。

littletokyo03 なぜバーが必要なのかといえば、そこにはたくさんの理由があります。

ひとつは日本仕事百貨をはじめたきっかけにありました。

ぼくはもともと小さなころは引越しばかり繰り返していました。やっと仲良くなったなあ、と思ったころにはまた引越し。なので、地元と呼べるような場所がありません。実家はありますが、そこは知り合いがほとんど住んでいない街です。

そんな時期を過ごしていたので、将来何をしたいか考えたときに、思いついたのが「建築家」でした。

地元と呼べるような場所がない。それなら自分で自分の場所をつくってしまおう。

それにもっとも近づけると考えたのが建築家だったわけです。そういうわけで建築を志します。設計はとてもたのしくて充実していましたが、あるときそのまま建築家になってしまうと、「自分の場所はつくれないな」と思いました。

考えてみれば当たり前ですが、建築家は基本的に「だれかの場所」をつくる仕事です。依頼があって成立する仕事。それに場所をつくるには、どうやら「デザイン」だけじゃ難しいということもわかってきた。

それで不動産の会社に入社して、デザイン以外のあらゆることを経験しようと考えました。

けれどもしばらく働くと、モヤモヤした思いを抱えるようになり、なんとなくバーに足しげく通うようになります。

仕事の疲れを家の手前でそっと置いて帰るような場所でした。そうやって通い続けているときに、ふとなぜこんなにも通っているんだろうと考えました。

「食事やお酒もおいしい。内装も居心地がいい。でも一番はバーテンダーや常連さんに会いに行くのが目的なんだ」と気づきます。

ずっと場所をつくる仕事をしようと考えてきましたが、いい場所にもっとも大切なことはソフトでもハードでもなく人なんだと思いました。

そこに合った人がいれば、生き生きと働く。生き生きと働いている人がいる場所は、いい場所になる。いい人がいれば、自ずといい場所は醸成されていき、多くの人が幸せになっていく。

すべては人だと思ったわけです。

それで人と場所を結びつけようと考えて、日本仕事百貨をはじめました。

そういう理由もあって、ぼくにとって「バー」とは何ものにも代えがたい場所なのです。また多くの人にとっても自分の生き方・働き方を考える場所だと思っています。



今回募集するバーテンダーを、なぜ人の編集者と呼んでいるのか。それはバーというのが、人生の交差点にあるような場所だと思うからです。

いいバーテンダーはいいファシリテーターでもあるように思います。

ときには人の話を聞くこともあるし、あえて話しかけないこともあります。何か答えを提供するわけではなく、相手のなかにある答えを引き出すことも大切だろうし、人と人をつなげることもある。

littletokyo04 そうやって、ふと日常から立ち止まって考える機会をつくっているように思います。もちろん、そんな難しいことを考えるわけでもなく、ろくでもない話をすることだってあるし、ただただ一緒の時間を過ごすからこそわかるものもある。

さらにリトルトーキョーでは、毎晩のように「しごとバー」を開催しています。これはいろいろな生き方・働き方をしている方をお呼びして、1日バーテンダーをお願いするというものです。

1日バーテンダーは、たとえるならば1日警察署長のようなものです。1日警察署長が実際には警察署長としての業務はあまり行わないように、しごとバーでもお酒をつくるのは人の編集者、すなわち専属のバーテンダーが行います。

だから、1日バーテンダーは基本的にはカウンター席に座ってお酒を飲みながら、いろんなことを話すという役割です。ほかのお客さんと言葉のキャッチボールをする。

littletokyo22 でもこのほうがトークショーで一方的に話を聞くよりも、1日バーテンダーの人となりがよくわかるように思います。

人の編集者は、このときにMCのような役割を担うことになります。1日バーテンダーの話を引き出したりして、場所をなめらかにしていく。笑っていいとものタモリさんのように、いろんな人に会うことができます。

人の編集者というのはこういうものです。

あとは営業時間が深夜まで及ぶので、清澄白河から近所の方がいいですね。それは終電を逃しても帰ることができる、ということもあるのですが、やはり住んでいる場所が近ければ近いほど、人との関わりは深くなるからです。



次に紹介するのが食の編集者です。

リトルトーキョーでは、昼も夜も食事を提供したいと考えています。すでに1名の食の編集者がいて、オープンに向けて準備を進めています。はじめて挑戦することなので、うまくいくこともあれば、思った通りには進まないことがあります。秋にはオープンできたらいいかなと話をしていますが、まあ、やってみないとわからないですよね。

どんな場所になるのか、一言でいえば「今日たべたいものをつくる」場所です。

littletokyo21 いわば、日本仕事百貨で働く人たちの社員食堂でもあるわけです。自分たちがとことん食べたいものは何か考えて、それを一つひとつ丁寧につくっていく。

だからといって、食の編集者は、ほかのスタッフが食べたいものを聞いて料理する、というわけじゃありませんよ。

あくまでも食の編集者自身が食べたいものを考えて形にしていくことになります。まわりは意見をするだけです。

「今日たべたいものをつくる」にはどうしたらいいか。そのためにはいろんなことを知らなければいけません。

まず自分自身が食べたいものは何なのか、とことん知ることです。よく自分自身でお店をはじめてみると、思考ばかりが進みすぎて、自分がお客さんなら行かないような場所をつくってしまうことがあります。

でもそうではなくて、自分が食べたいものをつくるというのは、自分がお金を払ってでも食べたいものをつくるということです。

知らなければいけないことはほかにもたくさんあります。

調理方法だったり、季節の食材だったり、調味料をつくるところからはじめないと、欲しい味が再現できないこともあるかもしれない。

littletokyo20 たとえば、味噌はできる限り自分でつくりたいので、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんに相談しながらつくっています。ほかにもアドバイザーはいるので、相談に乗ってもらいながら、できる限り自分たちで、自分たちが食べたいものをつくる力を手に入れて欲しいと思います。

その経験は多くの人に共有することもできます。レシピや食材の調達方法など、料理教室を開催するのもいいかもしれません。

あらゆる領域を横断して、今日食べたいものをつくる仕事です。

もちろん、多くの時間は食事をつくること。シンプルな仕事でしょうけど、一つひとつ丁寧に積み上げていきたい人には合っていると思います。



最後に編集者の心得を話して終わります。

編集者というと、なんだか世の中にアウトプットしていくような仕事のように感じますが、何よりも大切なのがインプットです。

もっと具体的にいうならば、人の話を聞くことができる人。相手の話を引き出したり、自然と情報が集まってくるようになるといい。

あとは柔軟な人です。

虎ノ門のリトルトーキョーでもそうでしたが「まずはやってみよう」という考え方が大切でした。

完璧になってからはじめようと思ったら、いつまで経ってもはじまらないだろうし、やってみるからこそわかることが多いです。それに完璧なものをつくってはじめてしまうと、それにとらわれやすいとも言えます。

littletokyo05 ある有名なカフェオーナーがこんな話をしていました。

「椅子やテーブルの配置、それに流す音楽まで現場に任せて、日々試行錯誤してもらっている」

はじめてみると「椅子をこっちの向きにしたほうが心地いいな」とか「こんなニーズがあるんだな」というのがわかったりします。でもはじめから完成させすぎると、そうやって変化させる余白がなくなるわけです。

ときには失敗もするでしょう。でもそうやって自分の頭で考えながら働くことは楽しいことだと思います。

(2016/7/6 ナカムラケンタ)