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どうして働くんでしょう?もちろん、生活していくために、という理由もあるのだけれど、どうせなら気持ちよく働きたい。
今回は都電テーブルという飲食店で働く人を募集します。お店を運営しているのが都電家守舎。リノベーションスクールを全国で取り組む嶋田洋平さんと青木純さんが共同代表をつとめる会社で、豊島区と都電荒川線沿線のまちを面白くするまちづくり会社です。
まだまだ小さな会社です。でも安心して紹介できるのは、この会社やお店を支えてくれている人がたくさんいるから。さらに都電テーブル以外にも、新しいまちづくりのプロジェクトが動き出そうとしています。
もし興味があれば、ぜひ続きを読んでみてください。
都電荒川線の向原駅。都電テーブルはそこから歩いてすぐのところにある。
JRの大塚駅からは徒歩8分。池袋駅東口もぎりぎり徒歩圏内。
カスタマイズできる賃貸物件もあるROYAL ANNEXというビルの階段を上っていくと、2階のすぐ右側に入口がある。
中に入るといい香りがしてきた。ちょうどランチタイム過ぎの時間。キッチンが広々見渡せて気持ちいい。
このお店の食を取り仕切っているのが馬場さんです。目白では「なるたけ」というお店もやっています。
ずっと飲食畑で働いているものの「飲食自体に疑問を持っていた時期があった」そうです。
「いろんなお話をいただくのですが、すべて飲食店の仕事なんです。普通の飲食店でしのぎを削って戦っていくことに違和感があったんですけど、もしかしたらこれって自分のやるべき仕事なんじゃないかなって感じ始めて」
どんな違和感だったんですか?
「フードビジネスって言葉に象徴されるんです。売上も大切なんですけど、ストレスを感じながら働いていて。しかも独立したあとも、はじめはその延長線上だったんですよね」
そんなモヤモヤしているときに出会ったのが、ROYAL ANEXの大家さんである青木さん。はじめはふらりと青木さんが「なるたけ」に寄ったのがはじまりだった。
馬場さんから見て、青木さんの第一印象はどうでしたか?
「いやなんか… 無邪気だなって思ったんですよ。なんていうかな。『こんなひといるんだ』って思って」
こんなひと?
「夢を照れくさくなく語れるっていうか。僕もそうでありたいって思っていたし」
「でも飲食業界って、なんというか閉鎖的で。ぼく自身が社会のため、地域のため、とか言って地元から食材を仕入れても、『こっちのほうが安いよ』とか『こっちのほうがブランド力あるよ』とかって話になる」
馬場さんはそれではつまらなかった。そうやって悶々と考えているときに、青木さんは伸び伸びと楽しそうに生きていた。
とはいえ、はじまりはお店とお客さんの関係。どうしてお店を一緒にやるようになったんですか?
「そういうことをやりたいと思っていましたけど、だからといってやらせてください、と言ったわけじゃないんです」
今度は青木さんに聞いてみる。
馬場さんの第一印象はどうでしたか?
「まずね。なるたけの店構えが尖ってた」
歩いて帰るときに、たままた見かけた。今まで目白にはないような店だった。
「ちょっと高級感がありそうな感じっていうかさ。一瞬入りづらいのかなって感じはしたんだけど。ちょっと覗いたら、中のお客さんがすごく楽しそうだった」
中にはいってどうでしたか。
「飯はうまいんだけど、サービスがいい」
だけど?
「いや、飯うまいけど、飯のうまさよりも人柄がいいなって思ったの。いつもニコニコ、ノリノリで来てくれるのよ。間に入ってきて主張してくるわけじゃないんだけど、ずーっと笑顔で気持ちよくしてくれる」
常連さんたちとの関係もよかった。みんなお店のファンであることが伝わってきた。信頼されているお店であることがわかったそうだ。
「メニューも仕入れによって毎日変わるんだけど、全然少ないこともあるわけ。そんなときは、一瞬だけ不満になるんだよ。でもそういうときでもお客さんを喜ばそうとしているんだよ。だから帰るときは幸せになる」
料理はシンプルでいて、とてもおいしい。カニが盛り沢山のカニコロッケ。ポテトサラダも一味違うし、刺身を頼めばとても新鮮でおいしい。
店内もごちゃごちゃしていないで、とてもシンプル。情報としてはメニュー1枚のみ。でもそこは緻密に考えられているそう。メニューの並び方によって、オペレーションの無駄も軽減されるのだとか。
どうしてそんなお店をつくることができるのだろう。あらためて馬場さんに聞いてみる。
「まあ、僕のわがままにシェフがつきあってくれるんです。少しでも気になったら焼き直してくださいとか、量が少ないから盛ってくれとか。感じたままなんですよ。メニューが少ない日も価値をつくらないといけない」
「下手なことすると『目白歩けないよ、俺』みたいな気持ちがある。いいのか悪いのかわからないけど。あとはね、喜んでる顔が見たいんですよ。びっくりさせたい」
なるたけに通い慣れたころ、青木さんも飲食店をつくろうと思いついた。
あらためて青木さんに話を聞いてみる。
飲食店をはじめようとおもったのはどうしてなんですか?
「都電家守舎で何をやるか考えたときに、やっぱり飲食店でしょ、と思って。それは一緒にやっている嶋田も、自分でもやっているから実感していて」
嶋田さんは都電家守舎の立ち上げメンバー。
「それでどこでやろうか、という話になったときに、この2階の場所が空くことを思い出して。それでも2階で飲食は難しいと思っていたんだけれど、嶋田はいとも簡単に『いいじゃんそこで』って言って」
それでも自分たちだけで飲食店をはじめる不安があった。そのとき思いついたのが馬場さんの存在だった。
思い描いていたのは、生産者の顔が見える飲食店。でもそうやって食材を探していくと原価が高くなってしまう。
さらに近所のお母さんたちの雇用もつくりたいと思っていた。でもお母さんたちが働ける時間も限られているので、人件費もかかってしまう。
「食材費と人件費が両方高い飲食店なんて普通成立しないじゃん。そこをお酒の利益とかで吸収して成立させてるんだろうけど、このメンバーが揃うと、どっちかっていうと簡単にこなせるよりは難しい方向に舵を切りたくなるわけだ。燃えてくんだよ」
実際にやってみてどうでしたか?
「難しかった。1店舗だけじゃ、大きくは儲からないなって思って。ただ、やってみないとわからない」
はじめから計画しすぎずに、まずやってみることを心がけた。はじめてみないと、お客さんが求めていることはわからないから、計画しすぎても無駄が多いと考えた。
営業しながら、試しながら。
クラウドファンディングもはじめからやる予定だったけど、準備が間に合わなかったくらい。
「クラウドファンディングをやろうと思っても『お店はオープンしているのに、なんのためにお金が必要なんですか?』とか言われてしまったり。それでもお店とまちの接点をつくろうと思ってはじめたんです」
すごいうれしかったのは、千円の定食を食べに来た人が三万円投資してくれたことだったそう。
クラウドファンディングサイトであるmotion galleryには次のようなコメントが集まっている。
「家族でいける場所が増えて嬉しいです!グランドオープンを楽しみにしています」
「子供と一緒に楽しくお仕事できる場所を探してました!嬉しい!子供と一緒に遊びにいきます〜:)」
「遅ればせながら、応援しています。 子供連れで、気楽にバランスよくご飯が食べれる、うちの欠かせないもう一つの食卓です!」
たしかに原価も人件費もかかる。提供している世界もきらびやかなものでもない。それでも大きな価値を提供できている実感はあった。
青木さんは曰く「コミュニケーションがあることが、お店をやってよかったこと」。
馬場さんも「飲食自体には興味はない。飲食がツール」と言っていた。それって飲食で働く目的は、人と関わることだったり、自分自身が喜べる仕事をすることなんじゃないか。
フードビジネスがやりたいわけでも、業界で評価されるわけでもない。
実は馬場さんとはこの取材の前に、ふたりで老舗の居酒屋を訪れていた。そこは素っ気ない接客で、あくまでお店とお客はフラットな関係。そんな老舗のようなお店をつくりたいそう。
こんなお店に入ったのが福留さん。
もともとは建築学生。今は都電家守舎で働いていて、昼に図面を書いて、夜にお店に立っている。
「わたし、建築の授業に違和感があって」
違和感。
「コンセプチュアルな建築を考えたり、作品としての建築をつくったり。まちに出ても、単一な消費を促すような建築がいっぱいある。そのどちらでもないなって思って」
学校にもない。設計事務所で働いても見つからない。そんなときに都電家守舎を知ることになる。
「企画から運営までできるし、オーナーさんや使う人に寄り添って設計することもできる」
働いてみて、ギャップとかなかったですか?
「いいギャップはすごいありました。最初からこんな贅沢な仕事があるのだろうか。今やろうとしてる事業も結構進みつつあるんですよ。設計事務所で働いていたときもずっと図面ばかり書いていたときは『私のしたいことこんなことじゃないな』って思っていたんですけど、飲食店のアルバイトは好きだったんですよね」
「あとは常連さんが多いので、会話は多いですよ。それは好き嫌いもあるかもしれないですね」
そんなコミュニケーションからメニューも生まれているそう。たとえば卵かけ御飯はお客さんの意見からはじめたメニュー。
ほかにもいろんなイベントをスタッフたちが企画しているようです。任せてもらえることがたくさんあるので、マニュアルにしばられた仕事ではないそう。
青木さんがこんなエピソードを教えてくれました。
「オープニングの初日に店に立って、ファーストゲストを迎えて、あいさつするときに自然に『こんにちは』って言葉がでたんだよね。『いらっしゃいませ』じゃなくて。それ以来ずっとこんにちはなんだよね」
働く意味はいろいろある。都電家守舎では人と関われる喜びがある。たしかにお店はその手段なのかもしれない。
地域の人やお客さん、そして一緒に働く人たちと生きていける職場だと思います。
(2016/7/2 ナカムラケンタ)