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毎日を彩る仕事

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

日本全国には、地域に伝わるお漬物がたくさんあります。

それぞれのご家庭でも、代々教わってきた漬物レシピがあるかもしれません。

「10%の塩に漬けて10日ぐらいしたら、塩と酢と砂糖で漬ける。水分が出きったら、漬けた大根を取り上げて。今度は砂糖を2kg加える。そしてまた汁がひたひたになるまで漬けて…」

加工場 鹿児島県鹿屋市吾平町。

この地で、漬物やお団子、赤飯など、昔ながらの地元の味をつくっている松野食品。翠さん、好子さん夫婦が営んでいます。

自家製の味噌をつかって漬けた、ごぼうや人参の味噌漬け。梅干しに高菜漬け、大根のウコン漬け。ほかにも漬ける野菜と味つけの仕方でバリエーションは広がります。

77歳を迎えた松野さんご夫婦。この味を求める人のためにも、そろそろ継いでくれる人に出会いたい。

お二人がつくってきた味を受け継ぐ人を募集します。

仕事を覚えるために最初の3ヶ月はアルバイトとして勤務し、そのあとにどう事業を引き継いでいくかは、相談という形になるそう。

地域での暮らし方にチャレンジしてみたい人は、ぜひ最後まで読んでみてください。



羽田空港から鹿児島空港まで飛行機で1時間半ほど。

空港からさらに1時間半ほど車を走らせると、吾平町にたどり着く。

姶良川が流れ、南部には静けさ漂う吾平山上稜がある。水と緑が美しいところです。

吾平山上陵1 市街地を抜けると、田んぼや畑の風景に変わっていった。

細い道を行ったところに松野食品はありました。

午前9時。作業場に向かうと、松野さん夫婦とパートの方がすでに仕事をされていた。

大根漬け 写真は、あらかじめ4%の塩で漬け、寒干しした大根を水に戻して、ザラメとうすくち醤油で味つけした干大根漬け。それを下までよくかき混ぜてから取り出して、もう一度漬けるところ。

食べてみる?と奥さんの好子さんが、さし出してくれた。

いただきます。

パリパリとした食感と、さわやかな酸味と甘みがした。

「今日はごぼうの味噌漬けを真空パックに詰めて、製品にするんです。それから桃干しも干して」

桃干し?

「この辺りでたくさん採れるスモモをつかって、梅干しみたいにつくるんです」

そう言って、240kg漬けたという樽を台車に乗せきてくれた。

深い紅色をした大きな実が、陽を浴びてつやっと光る。

桃干し こちらも試食させていただきました。見た目と比べて、お酢の酸味と塩味が効いていて、おもわず口が曲がるほど。スモモの味と香りが残っていて、梅干しとはまたちがう味。

ピンときたら試してみる。海外を紹介するテレビ番組を見た奥さんが、「スモモなら地元にたくさんなってるし、何かつくれるんじゃないか」とひらめいたのがきっかけだったそう。

「そんなことからつくりはじめたけれど、地元の市場でたまたま見つけたのか、東京のレストランのシェフが非常に珍しがって、直接ここに来てくれて」

「鮮やかな赤色は着色をせず自然に出た色です。料理のちょっとしたアクセントとして使うんじゃないかな」

機械で種を取って、砂糖に漬け込んだものを販売したり、グラニュー糖で煮てジャムにしてみたり。アレンジを効かせて商品をつくっているそう。

お二人が漬物や加工品をつくり始めたのは10年前。それまでは二人とも会社勤めをしていた。

ご主人の翠さんにお話を伺う。

松野さん 若いころから農業をしたかったという翠さん。青年団活動では施設園芸の分野を開拓するなど、働きぶりは周囲も認めるものだった。

しかし経営状況はなかなかよくならず、東京や大阪へ出稼ぎに出ることになる。

まったく知らない東京という土地でタクシーの運転手を勤めた。鹿児島に帰ってきてからも、タクシー会社に勤めることになり、営業所のトラブル解決や、成績向上に取り組んできた。公民館長も8年間務めたそう。周りから信頼される人なんだと思う。

漬物をつくって売るという経験はなかったという松野さん夫婦。

「地元のおばちゃんたちから作り方を聞いては頭に入れて。漬けるものが20kgになったら、味つけはこのくらいかな?というふうに塩梅をみていって」

ごぼう味噌漬け作業 そうして地元の味を受け継いできた。

吾平町の農協や、鹿児島市内にある3社ほどの大手スーパーに出荷しているそう。なかには、直接契約を結びたいという取引先もあるという。

松野さんは、漬物だけでなく、お味噌や赤飯、惣菜などもつくっている。

米・麦・大豆を合わせた味噌は月に1回つくるそう。

「お味噌とか醤油は使いつけがあるわけでしょ?うちの味噌でなければという人もいっぱいいるよ」

昔は家庭でも味噌をつくる家が多かったけれど、今はめっきり減ってしまったとか。

「買ったほうが安く上がるということよね。働くところも同じで。鹿屋市吾平町でも、サクラクレパスの大きい工場があったり、自動車の配線の製品を扱う会社もある」

「家で農業をしたりするよりも、60歳ぐらいまで会社に勤めたほうが楽なのかな。自分たちで稼ごうという人はあまりいないのよね」

そうしたなかで、65歳を過ぎてから漬物づくりに挑戦してきた松野さん夫婦。けれど、歳を重ねてだんだん若いころのようにつくるのは難しくなってきた。

「前は芋けんぴだとか、大きなオーブンでマルボーロやせんべいも焼いてお店に出してたの。でも夫婦で家内工業をつづけるのは、体力的に難しくなってきて。せっかく機械は準備してあるわけだから、もっと収入を増やそうと思えば増やす方法はあると思う。それがもったいないのよね。まだ若かければするんだけど」

商品だけでなく、雨水を貯留して、農作業に利用できるように配管を自分で組み立てたり。

いろんなものを二人でつくってきたのかと思うとエネルギーを感じた。商売をはじめるにはやることはたくさんあるし、費用もかかる。そうした苦労もいとわないフットワークの軽さにも驚いた。

「やる気ですよね。夫婦二人でやり方を工夫してやっていけば、会社勤めをするよりも収入は上がると思いますよ」

「あんまり人前で言うと『何を夢物語を語るの』といわれるような気がして言わないけど。若い人の感性でやれば、美味しくて、体のためにいいものが絶対つくれると思うんです。自分でつくって自分で販売すれば、結構いいと思うんだけどな」

漬物や加工品づくりに必要な機械や設備が揃っている。同じ品物でも売れる時期と売れない時期によって種類を変えたり、作り方や売り方も、ノウハウは実際に体験してきた松野さんが持っています。

最初は教わりながら、徐々にアイデアを膨らませ、新しいものをかたちにしていけるかもしれません。



「はーい、お茶が入りましたよ」と奥さんが声をかけてくれた。

東京の人は珍しいでしょう?と言って、見せてくれたのは採りたてのきゅうり。

きゅうり 畑になってるよ、と教えてもらい、畑ものぞかせてもらう。

きゅうりのほかにもゴーヤが実っていた。光を透過させた葉っぱは、一層鮮やかな緑色をしている。

ゴーヤ ほかにもナスや高菜や人参、大根など漬物に使う野菜を畑で育てているそう。取材の前日には、耕運機で土を耕していたとか。

戻ってくると、先ほどのきゅうりを塩もみしたものと、今朝つくったという唐芋団子を好子さんが用意してくれていた。

「もち米もうちで栽培してるもんでな。それを粉にしてつくって。だからもっちりしてるの」

唐芋だんご ほんとうだ。サツマイモのほっくりとした甘さと、もちもちした食感。初めて食べたのに、なんだか懐かしい味がした。

好子さんにもお話を伺っていく。

お漬物はどういうところにこだわって作っているんですか?

「原材料は、漬物の種類に合ったいいものを使うこと。ゴーヤの浅漬けも、家でつくる人は氷砂糖を使うんですよ。私はあえてグラニュー糖をつかって。そうすると味が違ってくるの」

さし出してくれたゴーヤの浅漬けをいただいた。

「グラニュー糖だから味が優しいでしょう?」

優しい甘酸っぱさと苦みが効いた、暑さで疲れた体にはぴったりの味。

「畑から採ってきたらすぐにきれいに洗って、綿をとって、おろし金で薄くして。6〜7kgぐらいの量になるとそれだけでも大変な作業で。塩は1%ぐらいにして、グラニュー糖でまぜて、うすくち醤油と酢を入れる。塩をちょっと入れるかわりに、うすくち醤油は減らして」

「仕事の基本は漬け込み。そのとき品物をけちらんことです。十分いいものを使えばいいものができます」

そうは言っても、いいものをただ使うだけではおいしい漬物にはなりません。

ごぼうの味噌漬けは、1回目は2年間熟成された味噌を使っているそう。2日ほど漬けたら、出てきた水分を捨てて、今度は砂糖と自家製の味噌で漬ける。

「桃干しも、梅干しも、漬けたら樽を回して汁が上に来るようにするんです。桃干しは、実が硬いから汁が一向に上がらなくて。だから大変」

「漬けてからそのまま置いたってだめですの。赤ちゃんの子守をするでしょ?漬物も同じ。まめに見て、まぜたりしてね」

桃干し作業 野菜を漬けるときに少しでも皮がむけていない部分があると、漬けてからパックに詰めて製品にするときに、その部分が黒くなってしまう。仕事のスピードは大事にしつつ、細心の注意をはらって皮をむいていく。

作業も、早いときには朝4時前からはじめる。

手間もかかるし、食品を扱うから衛生面に気をつける。早起きもする。大変じゃないんだろうか。

「大変なことは大変だけど、楽しみですよ。もうすぐ77歳になるけど、することもないちゅう日が1日もないでしょ」

毎日の仕事を楽しむ。日々新鮮な気持ちで年を重ねる姿に背筋がのびる思いだった。

最後に、どんな人に来てほしいか聞いてみました。

「やはり正直がいちばんでしょうね。ずぶの素人でも結構なんです。何にも知らない人でも、まったくの畑違いの人でもいい。正直がいちばん」

松野さんご夫婦 自分たちが地域の味をつくっていく。誰かの食卓にちょっとした彩りと、ほっとする味を添える、そんな仕事になると思います。

10月14日〜16日には、鹿屋市が主催する「かのや移住×仕事体験ツアー」が企画されています。8月27日には東京でツアーの説明会が行われます。

ツアーでは、移住をして、いろんな働き方にチャレンジしている人たちから話を聞く機会もあるそう。

まずは一度鹿屋を訪れてみてはいかがですか。

暮らしも働き方も、新しくはじめるチャンスが待っています。

(2016/08/17 後藤響子)