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老舗のバトンタッチ

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

黙々と作業が続いていき、職人たちはいつものように同じ仕事をつづけていく。その変わらない味を守っていくために。

こうやって表現すると、変わらないことはいいことであるように思えてくる。けれども老舗企業が老舗企業たるのは、常に柔軟に変化してきたからなんじゃないか。

もちろん守らないといけないものはある。それは根底にある会社のあり方のようなもの。

それを守るために、フレキシブルに変えないといけないものもあると思います。

小豆島にあるつくだ煮メーカーである島乃香も、まさに変化が必要な時期にきています。おそらく次の10年で会社は大きくかわっていることでしょう。

shimanoca50 そんな島乃香の味を現場でつくっていく人を募集します。変化はチャンス。そう思える人はぜひ読んでください。



羽田空港を飛び立った飛行機。1時間もすると、眼下にはおだやかな瀬戸内海が広がってくる。右手を見れば、牛の形をした小豆島が見えてきた。その後ろ足の付け根のあたりに、今回の目的地がある。

shimanoca01 しばらくすると高松空港に着陸。そこからバスに乗って高松港へ。島々の間を船が進んでいくと、1時間ほどで島に着いた。

小豆島は、もともと海運交通が発達した時代に、天下の台所と呼ばれた大阪に近い立地と、麹の発酵に適した気候を活かして、さまざまな産業が生まれました。その代表が醤油であり、その醤油を活かしてつくっているのがつくだ煮です。

島乃香の事務所と工場の近くには、たくさんの醤油蔵があって、芳ばしい香りがしてくる。ほかにも島にはオリーブオイルやごま油、素麺など、たくさんの産業があるからなのか、活気があるように感じる。

事務所に到着して、まずは代表の木下さんに話を伺いました。

今回はどんな募集なのですか?

「つくだ煮の製造の未来を担う人に来てほしいです。なぜなら仕事を引き継いでいかないといけないからです」

shimanoca03 製造現場に限らず、会社で働く人たちの高齢化が進んでいる。今までは味をつくる人たちの頭のなかだけに経験や知識が蓄積していたけれども、このままではその技が失われてしまう。

「今まではそれでよかったです。何年もやっていたらだんだん覚えていく。でも簡単なことではなくて、季節とか温度によって仕上がりが変わってくる。言葉で説明するのがとっても難しい」

shimanoca04 「調理化学というのは、身近なもののように感じるかもしれないけど、とっても複雑なものなんです。微妙なことで差が出るんですね。もっと味を極めていかなきゃいけないし、同時に次の世代に継いでいかなきゃいけない」

今は特定の仕事が担当者に集中してしまっている。もちろん、職人の技は一朝一夕にマスターできるものじゃない。だからこそその人が急にいなくなってしまっても、今まで培ってきた技が引き継いでいく必要がある。

そのために必要なことがコミュニケーションであり、それぞれが部署を横断的に働くこと。

人と人、部署と部署をつなげていくことで、個人ではなく組織として次の世代に仕事をつなげていくことができる。



そんな木下さんも、もともと後継者。はじめは継ぐ気もなかったんだとか。

「上京して大学に進学しました。電子工学を専攻してね。とはいえ、あんまり勉強していなかったね。クラブ活動にばかり時間をとって。管弦楽部だったのよ」

shimanoca05 そんなある日、実家から「帰ってこないと家がなくなるぞ」という連絡があった。

「当時はある程度、順調にいっていたんですけど、うまくいかなくなってきて。人材がもともと、地元のおばちゃんばかりだった。うちのおふくろ含めて、女傑が会社をひっぱっていたんです」

木下さんが戻ってきて、まず感じたのは効率の悪さだった。

「みんな釜からすくって、袋詰めしていた。それだと重労働だし、これを機械化しなければいけないと思ったんです」

「袋を開いて、上からつくだ煮を充填して、真空にする。手作業でやっていたものを変えていきました」

shimanoca06 それから会社の経営は好転していく。ところが2000年くらいにまたピークを迎えて、そのあとは横ばいか、若干落ちていくようになってしまった。リーマンショック後の原料高なども大きかった。

そこからさらなる効率的な経営を目指して、最近ではまただいぶ盛り返してきたとのこと。歴史を振り返ってみても、木下さんは改善を重ねてきたことがわかる。

やはり老舗だからこそ、新しいことにも挑戦しなければ会社は存続しないのだと思う。

現在は小豆島で製造し、岡山でパッケージする体制のようです。やはり小豆島の醤油などの材料をつかっているので、製造が小豆島のほうが効率的とのこと。

そんな製造現場をマネジメントしているのが藤木さんです。今の会社にはなくてはならない存在。

なぜ島乃香に入社したのか伺いました。

「もともとは就職が決まっていたんですよ。そのあとに結婚することになった。ところがぼくが決まっていたのは福山での就職だった。嫁さんは岡山に住んでいたので、岡山で就職しようと探してみたんです」

shimanoca07 そんなときに岡山にある島乃香の工場の求人を見つけることに。

「製造要員兼幹部候補という募集だった。はじめから狙って入ったわけじゃないんですよ」

はじめの3ヶ月間は小豆島で製造の現場に入った。ものを運んだり、つくだ煮を混ぜたり。そのあとは岡山の工場に行って、出荷業務やデスクワークも担当した。

今回、募集する人と近い経歴をもっているのかもしれない。

一緒に働く人にはどんな思いをもって働いてもらいたいですか?

「まあ、経営者目線ということかな」

経営者目線。

「部分最適よりも、全体最適で見てもらいたいんです。どうしても職場を固定して働くと、部分最適になってしまう。当然、自分の持ち場を中心にしてスムーズにまわるように考えますよね。さらに悪くなれば、部署同士が敵対関係になってしまうこともあるかもしれない」

ずっと同じ場所、同じ仕事をしていくと、硬直化してしまうこともある。

そうならないように、一人ひとりがとなりで働く人のこと、ほかの部署のことも考える。そのためにはどうしたらいいのだろう。

新しい人に入社してもらって、そこから変化させていくやり方もあると思うし、そういう期待が会社にあることを感じる。

とはいえ、新人がいきなり変化を起こしていくのは難しそうだ。

実際に日本仕事百貨を見て、入社した二人に話を聞いてみることにしました。

本郷さんは1年前に入社した一人。もともとは大阪で、デザイン関係の仕事についていた。

「今はあるエキスの開発をしています。今日はその打ち合わせと実験をしていました」

shimanoca08 なぜこの会社に入ることにしたのですか。

「働いていて『なんかちゃうな』って思って、地元の香川に戻ることにしたんです。そしたら日本仕事百貨で求人を見つけて、まずは応募しようと思いました」

どんなイメージでした?

「古い会社だと思いました。ただ、そんな会社が新しいことをやろうとしている。これは面白そうだと思って。でも新しいことをやりたいけど、いろんな障害があるんです」

いろいろな障害。

「ぼくが生まれる前から働いている人がいるわけです。そういう方々がずっとやってきたやり方があって、なかなかあとからやってきた人が言っても難しいかなって」

本郷さんも入社してから3ヶ月は、藤木さんと同じように研修として製造の現場に入った。

IMG_1705 そこで感じたのが、製造の全体像が見えてこないことだった。

「製造現場にいたときも、製造過程のうち、自分がどこを担当しているのかわからなかった。今やっている仕事はどんなことをしているのかはわかるんだけれど、次はどこへいくんだろうとか。全体がわかれば、いろいろなアイデアも浮かぶし、改善できることがないか考えることもできるんです」



もう一人、日本仕事百貨を通して働きはじめたのが小林さん。

彼女は東京から移住してきた。

「今は32歳なんですけど、20代後半くらいから食べるものに興味がでてきて。当たり前ですけど、自分の食べるものが自分をつくっているんですよね」

shimanoca09 だんだんと食べているものはどういうものなのか気になるようになった。そしたら自然と、食べることに関わりたいと思うように。

「東京にずっといたいとも思っていなくて。満員電車が一番つらかったんです。もうちょっとゆっくりしたいなって思ったときに、こちらの求人を見つけて『えい』って応募したんです。後悔するのがいやなので」

引っ越してきたのは今年の1月。今は会社の寮に住んでいるそう。

はじめはどんな仕事をしていましたか。

「まずは1ヶ月研修があって、現場をまわっていました。そのあとは研究室で、毎日できる製品の分析をして、品質管理をしているところです。今日も昨日つくった商品の分析をしていて、大丈夫だったことを確認しました」

働いてみてギャップだったことはありますか?

「まだ当初、思い描いていた仕事はできていないことです。それは入ってすぐできることじゃないとは思いますけど」

「あとはわたしも全体が見えないとモチベーションが下がってしまいます。でも聞いたらみなさんちゃんと答えてくれます。優しいですよ。なんとなく全体像がぼんやりとわかってきたところです」

小豆島の暮らしはどうですか。

「小豆島は暮らしやすいです。寮は会社から歩いて、7、8分。裏がすぐ山で、想像していたより便利。コンビニがあったことが驚きでした」

shimanoca11 やっぱりみんな考えていることは同じ。会社の全体像がわかりにくいし、今やっている仕事が全体のなかでどんな位置付けなのか理解しづらい。

それではモチベーションも下がってしまうようだし、何より事業をよりよくしていくためにどうしたらいいか発想しづらい。

みんなで全体を把握しつつ、そのなかで最適なものを考えていかなければいけない時期になっている。



取材のあとにみなさんと食事をご一緒しました。島の食事はおいしかったです。

shimanoca10 老舗のバトンタッチはまだまだはじまったばかりだけれども、芽がではじめているように感じました。

会社や仕事のバトンを次の世代につなげていく。そのために会社全体を知るように心がけて、製造現場で働いてください。はじめは単調なことばかりかもしれません。

でもいろいろな工夫ができると思います。大変だけれども可能性を感じる仕事です。

余談ですが、私ナカムラもサポートしていくことになりそうです。みなさんの思いを引き出しつつ、ちゃんとコミュニケーションができる組織を目指しながら、より良い方向へ一緒に進んでいければうれしいです。

(2016/8/30 ナカムラケンタ)