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東京・池袋駅から東武東上線とバスを乗り継ぎ、1時間半。到着したその場所は、埼玉・ときがわ町です。
四季を通してさまざまなお祭りがあり、夏場のキャンプ場は大にぎわい。サイクリストの聖地と言われる白石峠や、かつての国立天文台が存在するのもこの町。空気の澄んだ日に標高の高い山に登れば、東京タワーや東京湾に入っていくタンカーの姿も肉眼で見えるといいます。
「ここが一番都会に近い“本格的な田舎”なんじゃないかな」
そう話すのは、役場の産業観光課主幹を務める宮寺さん。
ときがわ町の出身で、10年前に一度離れた後、今年再び戻ってきた。
「この10年の間に、まちの産業や経済振興の仕事もだいぶ変わったなと驚いています。当時はグリーンツーリズムなんて初耳でした。それが今や、先進地域では当たり前になりつつある」
「林業の仕事って、すごくつらいんですよ。危ないし、体も汚れる。けれどもほかの地域では、そんな仕事を体験してもらって参加費をいただくイベントが成り立っている。わたしはこちらの人間だから、そういう価値観がまったくわからなかったんです」
地元の人にとっては当たり前すぎて見えない魅力や、活かされていない資源がこのまちにはあるんじゃないか。
そう感じた宮寺さんは、外からの視点でまちを発掘する地域おこし協力隊の制度に注目。今回の募集に至る。
「ただ、この仕組みを最初に聞いたときから疑問だったことがあって。役所のなかでデスクを並べて働いてもらったところで、その人は3年後にどうやってお金を稼いで定住するの?ってことです」
「それだったら、もっとピンポイントで『こういう仕事やりたい人、手あげて!』っていうほうが絶対にいいですよね」
そんな経緯もあり、今回は具体的にふたつの職種で協力隊を募集します。
ときがわ町の資源を活かしたツアーを企画運営するツーリズムクリエイターと、豊かな森林を受け継いでいく林業の協力隊です。
受け入れにあたり、白羽の矢が立ったのが株式会社温泉道場で代表を務める山﨑さん。
温泉道場は、“おふろから文化を発信する”という企業理念のもと、「 おふろcafé 」のようなユニークな店舗を開発・運営している会社。町内の「 昭和レトロな温泉銭湯 玉川温泉」の運営をきっかけに、観光や移住促進に関するガイドブック制作なども手がけてきた。
いずれの協力隊も、まずは山崎さんのもとでマーケティングやビジネスに関する研修を受けた後、それぞれの専門的な仕事に取りかかっていくことになるそうだ。
「我々の舞台はローカルですが、基本的に“どベンチャー”なので。来た方に対しては、しっかりと稼ぎ方をお伝えしながらサポートしていくつもりです。数ヶ月の研修後は、ツーリズムの方はうちで、林業の方は別の林業事業体のほうで受け入れることになります」
ツーリズムクリエイターは、どんなことをしていくのでしょうか。
「最初は温泉道場が培った町内外のネットワークを使いながら、ツーリズムのお客さまになりうる方々からのインタビューや、観光施設やまちの人のインタビューを実施してもらい、温泉道場のHPでブログを活用した情報発信をするイメージですかね。そのなかで感触がいいものについて、テストマーケティングをしながら実際にツアーを企画していくことになると思います」
まちの内と外を知るところからはじめるんですね。
「温泉に来ている人だけでも、年間20万人いらっしゃるので、そこを分析するだけでも面白いと思いますよ。みなさん温泉だけというよりは、温泉+何かの組み合わせだと思うので」
「官公庁にヒアリングもできますし、大学とコラボレーションしたツアーを企画するとか。都内につながるコミュニティも持っているので、それも活かしてもらえれば。あまりのんびりしている人じゃないほうがいいかもしれないですね」
そう話す一方、プライベートでは“本格的な田舎”の環境を存分に楽しんでいるそう。
昨年ときがわ町に引っ越してきて、今は畑で野菜をつくっているという。
「実がなりすぎちゃうので、人にあげるんです。うちの若いスタッフは野菜を支給してもらったり、それがだんだんお惣菜に変わっていったり(笑)。田舎では野菜がコミュニケーションツールになっていますよね」
「農家民宿ではうちのインターン生が2ヶ月お世話になっていて、『おじいちゃんちの夏休みみたい』なんて言ってます。そういうものも、ツーリズム化できるはずです」
単に観光スポットを回るというより、体験をしたり、地域の人とバーベキューをして飲んだり食べたり。人に会いにいくツアーができたら面白いかもしれない。
どんな方に来てほしいですか。
「都会でBtoBの仕事をしていて、自分の実力を試したい人。広告代理店や人材関連の会社に勤めていて、エンドユーザーと向き合いたい、自分の仕事の結果をすぐに見たいと思っている人ならば、すごくマッチすると思います」
「それから、自分で考えて、成果にコミットしてやりきれる人。フィールドはある程度用意されていますけど、結局やるかやらないかは自分次第ですよね」
成果とは?
「本質的なことを言えば、この仕事がちゃんとビジネスとして成り立って、誰か人を雇うことだと思います」
たとえば地元の人たちを雇い、自分たちの畑でとれた野菜を使った郷土料理を振る舞うツアーを企画すれば、定年退職後の居場所を地域につくることにもつながる。
同じような動きを真似する人が現れるかもしれないし、仕事があるなら一度町を離れた人も戻ってくるだろう。
「役場がしかけて成功するのは、ある意味当然のこと。税金を使っているんですから」と宮寺さん。
「自分たちの成功を喜んでいるんじゃダメで、我々役場の仕事はいかにそれを普及させていくか。遠い将来の話かもしれないですけど、そういう感覚はありますね」
続いて、協同組合「彩の森とき川」代表理事の田中さんにもお話を伺う。
自ら製材会社の社長を務める傍ら、地元の製材業者や林業者、木工業者などと共同で組合を運営している。
山に囲まれたときがわ町。その森林のうち、7割が人工林だという。
「林業は木材を生産するだけじゃなく、治水や環境の保全などに幅広く関わりを持っているんです。人間が手を入れた時点で、新しい生態系をつくっていることになる。きちんと手入れを続けて、森を更新していくことは自然に対する礼儀だと思っています」
木の収穫期は50年と言われている。戦後このあたりには多くの木が植えられたものの、外材の流入や需要の低下によって手入れが及ばず、荒廃しはじめているのが現状だそう。
「生えてる木を切ったら、そこで一度命は絶たれるわけですよ。その木を使わないで燃やしちゃったり、腐らせたらダメだけど、柱や板に製材して使うと、二酸化炭素がそこに固定されます」
「つまり木の家を建てるのは、そこに30坪の森ができるのと同じことなんです。いろんなところに小さい森をつくっていけたら、という話はいつもしています」
今回募集する協力隊にとっては、森に入って木を切るのがメインの仕事になる。とはいえ、「いろいろなつながりが生まれてくる」と田中さんは話す。
「一番多いのは、工務店さんがお客さんを連れてきてくれるんですね。木工教室のようなイベントをやったりもするので、施主さんとずっと付き合いが続くんです」
「『今度の花火、うちのベランダからよく見えるから来なよ』って言ってもらえたり、『日曜大工やるからあれ持ってきて』とか。お客さんともそういう仲になれるのはうれしいですし、何より『ありがとう』って言われるのがね。一番うれしいですよ」
もともと、お客さんを現場に案内したり、そば打ち体験に連れて行ったりする活動をしてきた田中さん。観光と林業を絡める余地も大いにありそうだ。
「我々は木だけじゃなくて、そのバックにあるまちも一緒に売っています。まちをよくしていくことが、結果的に木材の付加価値につながると思っているんです」
そんな田中さんのもとで働く国田さん。
前職はコープの配達や営業を7年経験。2011年の震災直後にお子さんが生まれ、働き方を変えたいと調べていたところ、ときがわ町の林業と出会った。
「山に入っていくのは本当にはじめてで。手ぶらでついてきてと言われたんですが、それも容易じゃないぐらい険しい。先輩方が重たい荷物を持ってすいすい行くんですけど、はじめは全然ついていけませんでした」
一般的に3K4Kと言われるような、きついイメージを持たれている林業。大変な面はたしかにあるようだけれど、国田さんの言葉からは強い誇りが感じられる。
「誰でもできる仕事じゃないですし、本当にプロフェッショナルな仕事だと思います。最近同窓会で、『なんで林業やってるの?』って聞かれたときは、すごく悔しかった。それも自分のエネルギーのひとつになっています」
「面白い仕事ですし、もっと良くなっていかなきゃいけない業界だと思っています」
面白い、と感じるポイントはどこにあるんでしょうか。
「チェーンソーの目立て(刃の手入れ)がうまくいって、気持ち良く切れる刃でばばばっと枝を切れたときが一番好きですね」
マニアックですね(笑)。
「気持ちいい!って。雪が降ってても、終わったら湯気が出るぐらいの重労働ですけど、気持ち良く安全に切り終えたときが楽しいです」
「逆に刃の入れ方、ちょっとした角度の違いで、細い枝でも切れなくなりますし、小石に刃が当たれば一瞬で切れなくなる。まだまだ一人前にはなれないですね」
今は木を切り倒して一定の長さに揃えるまでの工程を全自動で行える重機があり、林業の現場も様変わりが進んでいる。
たとえ自動化されたとしても、その重機の通り道をどう拓くか、運搬に最適なルートはどこかなど、現場を知り尽くした先輩から学ぶべきことはたくさんあるそうだ。
「どの木を切るかによって、何十年後が変わってくるじゃないですか。木の運命をまったく自分で変えてしまうので。ベストだと思って切った後で、『そうじゃなかったんじゃない?』と言われて、そういう見方もあったんだと気づくことも多いです」
「それ、木が言ったから気づくときもあるもんな」と田中さん。
国田さんもうなづいている。
「実際あるんですよ。切った後、気になってちょっとずれて離れてみるとあれ!って。すぐ隣の木に見落としてた傷があったりするんです。そういうときは、やっぱり申し訳ないなと思いますよね」
おふたりとも、自分自身や森と対話しながら取り組んでいることがひしひしと伝わってくる。
何より、林業が単純に好きな気持ち、これからの世代にもつないでいくんだという想いを感じました。
気になる方は、1泊2日の林業体験ツアーや、リトルトーキョーでのしごとバーも開催するので、そちらにもぜひ参加してみてください。
しごとバーについてはこちらからどうぞ。
(2016/9/21 中川晃輔)