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白川大工の誇りを胸に

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

後世に残っていくものを、自分の手でつくりたい。

それならば、大工になるというのもひとつの選択肢だと思います。

舞台は岐阜・東白川村。東濃ヒノキと呼ばれる良質な木材の産地として知られる土地です。

p1310796 古くから優れた木造建築文化が発展してきた岐阜県。飛騨地方の大工が「飛騨の匠」と呼ばれてきたように、この地域にも「白川大工」という名誉ある呼称が残っています。

しかし、木材価格の下落に伴い、林業は衰退。木造住宅の相場も下がり、大工を志す人の数も減っていきました。

そんな状況をなんとかしようと、20年前に開かれたのが濃飛建設職業能力開発校(以下、訓練校)。CADの扱い方や測量、実技など、建築に関わる幅広い学科を2年間かけて学ぶことができる、いわば大工の学校です。週に一度の授業以外の時間は、組合に加盟する工務店で働き、現場での経験を積んでいくことになります。

今回は、地元の工務店に勤めながらこの学校に通い、ゆくゆくは大工になりたい人を募集します。

未経験でも大丈夫。一度企業に勤めてから大工になった人や、ここから羽ばたいていった女性の大工さんもいるそうです。さらに、将来は独立の可能性も。

何よりもまず、好きでないと続かない仕事だといいます。家づくりを自分の手でやりたい方、ぜひ読んでください。


名古屋駅から電車とレンタカーに乗ることおよそ2時間。東白川村に到着する。

きれいな景色に、ちょっと車を停めて外へ。

p1310897 石垣の上には緑の茶畑が広がり、すぐそばを川が流れる。涼しい風がときおり吹き抜けるのも気持ちがいい。時期的には少し遅いけれど、白川茶はこの土地の特産品のひとつ。

こうした景観や環境、文化の面から、東白川村は「日本で最も美しい村」にも選ばれている。

役場の方と合流し、訓練校へと向かった。30分ほどで、おとなりの白川町にある校舎が見えてきた。

p1310147 使われなくなった小学校を一部改装し、20年前に開かれたこの校舎。建てられてから100年以上が経つだけに、とても趣深い外観をしている。

なかに入ると、トントン、トントン、という音が聞こえてきた。ちょうど実技の授業が行われているようだ。

p1310328 教室は1年生と2年生で分かれている。工業高校や大学の卒業生が主な生徒だそうで、パッと見ても若い方が多い印象を受ける。

黙々と手を動かしながらも、お互いにわからないところを聞きあったり、指導員の先生に相談しに行ったりと、教室のなかでもそれぞれが自由に動けるような雰囲気だった。

しばらく授業を見学させていただいた後、休憩のタイミングで指導員の安江侃男(やすえ やすお)さんからお話を伺うことに。

p1310488 建築大工一筋でやってきた侃男さん。訓練校の設立当初から指導員を続けていて、今に至るまで111名の卒業生を見てきた。

「授業があるのは週に1日。2年間でも100日ぐらいやもんね。この学校で学べるのは、本当に基本だけやで」

「この一部屋だって、床から壁から扉から、パーツは何百種類ってあるもんで。一軒建てるならすごい数よ。一年中かけても覚えられんって」

かつては親方のもとに住み込み、すぐそばで見て習う文字通りの「見習い」が当たり前だった。一通りのことを覚えるには、少なくとも5年は必要だったそう。

訓練校ができたことで学習効率はあがったけれど、CADや新しい機械など、学ぶ内容が増えているのも事実。それに、現場に出て体験しないと身につかないこともたくさんある。

「一年生でノミも何も触ったことない子が、二年目の夏ごろにガラッと変わる。今までどの子もそうやで」

それはなぜでしょう。

「現場でいろいろ経験するからやろね。現場ではひとりの職人として見られる。刃の欠けた道具を持ってれば笑われるし、その人がどれぐらいの仕事をするのかすぐわかる。お客さんと接して何か言われれば、それが一番の薬になるわな」

学校で基礎を学び、現場で実践する。悔しい想いもしながら、それが次の学びにつながる。

「それに、口で言わんだけで、生徒同士もお互い見比べとるで。切磋琢磨できる環境があるのはいいことやね」

p1310269 入校料や授業料、さらには大工道具に至るまでを各工務店が負担。資格取得の支援制度もある。

いろいろとお膳立てされているようだけれど、やはり大変なことも多い仕事だ。それだけ若手の人材が足りていないということでもある。

「外で吹きさらしのなか作業することもある。夏は暑いし、冬は寒い」

「何より、大工は自分の日当だけの仕事じゃない。一軒数千万円の総責任がある。相当な覚悟がいる仕事やで」

その分、完成したときの達成感は言葉に表しがたいほど。

「一軒を手で墨つけて、刻んで叩いて、全部建てたときの感覚っていったらすごいもんよ!神様のようや(笑)。60坪のうちにさ、でっかい丸太何十本って組んで抱き合わせてな」

_55f2340 そんな侃男さんのもとで学ぶ、各務晴(かがみ はれる)さん(写真左)と市村時生(ときお)さん(写真右)にもお話を聞いてみる。

ふたりとも、高校を出た後に入社した工務店の制度を使い、この学校に通っているとのこと。

p1310532 2年生の各務さん。1年前と今との、自分自身の変化を感じているという。

「毎年、一軒の小屋をつくる実習があります。主な材料は1年生が刻んで持っていくんですが、去年は先生に言われたまま、今ひとつ理解もできずに材料を加工していました」

「今年になってまた建てる機会があって。パッと見たときに、めちゃくちゃ簡単だなと思ったんですね。それはぼくにとって大きな変化でした」

建物の見え方が変わったんですね。

「道具の使い方もですね。基本的な道具は触ったことはありましたけど、ノコギリをどう使ったらきれいに切れるかとか、ノミやカンナの新しい使い方を覚えたりもしました」

プレカットと呼ばれる機械を使い、決まった形を素早く正確につくり出す技術はすでにある。ただ、複雑な形をつくったり、仕上がりの美しさを求めるならば、手仕事が果たす役割はまだまだ大きい。

%e7%ac%b9%e5%b9%b3%e7%8f%be%e5%a0%b4-1 現在1年生の市村さん。小学校の夏休みの工作で本棚をつくったりしていたところから、木のものづくりが好きだったそう。もっと大きいモノをつくりたくて、大工を目指した。

「会社には年代の近い人もいないですし、厳しい面も当然あるので。息抜きじゃないですけど(笑)、週一回の学校は楽しく学べる機会になっています」

「人数も少ないので、話しやすいような雰囲気の人がいいですね。雑談するだけじゃなくて、わからないときに『ここどう?』って、お互い聞きやすくなると思います」

入学してまだ半年だけれど、卒業して、いつかやりたいことがあるという。

「ずっと大工が続けられたらいいなと思っていて。あとは、大人になって家庭をもち、家を建てることになったときに、自分である程度は設計してみたいと思います。建築士の資格をとって、ほかとはまったく違う家を建てたいです」

自分の家を自分で建てたい。

今回の募集も、そんな想いで大工を目指す人がいてもいいと思う。熟練の技術と豊富な材料に触れながら学べる環境は、ほかにはそうそうない。

いきなり大工の世界に飛び込むのは勇気がいるけれど、ここからなら、自分でもはじめられそうな気がしてきた。


訓練校を離れ、今度は工務店の方々のもとへ。

今回の受け入れ先として手を挙げている3つの工務店のみなさんにお話を伺った。

左から田口節春(よしはる)さん、安江雅人さん、百瀬敏彦さん。三者三様の風格を感じる。

p1310725 「何も自慢することはないんやけど」と話しはじめたのは、安江さん。

「大工歴が48年。これ一本で今までやってこれたことが、自分としては誇りに思っとります。腕には自信があるので、やはり今、せっかくぼくが持っとるものをなんとか伝承していきたいなと」

安江さんが手がけるのは、伝統的な在来工法の家。しかし、短い期間に低コストで、一定のクオリティを確保できるような組み立て式の住宅が一般的になりつつある。

「足場を組むとコストがかかるから、ひさしもなるべくつくらんのよ。扉も取り付けるだけ。それでは腕の見せどころがない。誰がやっても一緒っちゅうかね」

では、在来工法の魅力ってどんなところでしょう。

「それは、木を見せる建築やね」

木を見せる。

「せっかく村にいい木があるんやから、見せんと寂しいわな。今は壁も全面クロス張りが多いでしょう。一間でも二間でも、柱を見せるつくりにしていかんと」

覆い隠さず見せられるということは、それだけの腕がある、ということの裏返し。木のよさも自然と引き立つ。

「たとえば、赤ちゃんが遊んで舐めたって汚くないしさ。自然のいい木を使ってるんだよってことを、お客さんにももう少しうまく伝えていきたいね」

p1310857 村としても、事業者とお施主さんを仲介するインターネットサービス「フォレスタイル」を展開するなど、東白川の木を使った家づくりに力を入れている。

左隣で聞いていた田口さんも、「できる限り東白川の木を活かしたい」と話す。

「儲かるように手を抜くこともできるかもしれないけど、やっぱり自分で納得のいく建築をやりたい。納得できる以上のものをつくって、お客さんによろこんでもらえりゃと思ってやっとるんよね」

田口さんのもとで働くならば、営業や見積もり、現場監督のような仕事まで、早い段階でいろいろと経験してもらうのだそう。

「本当は5年ぐらいかかるところを3年で現場もたせてる。自分でやってみるとね、いろいろわかるから」

p1310861 「お客さんは“こんな家にしたい”っていう希望があるもんで、お金は関係なしにどんどんくる。そういうことも含め、見積もりをもとにお話ししながら学んで、『自分でだいたい決めてこいよ』と言うこともあるね」

それは厳しくも聞こえるけれど、その人を思ってかけている言葉なのだと思う。決まったマニュアルもない現場では、自分の頭と体をフルに使わなければならない。

「毎回違ったお客さまと出会いますしね」と、向かって右側に座る百瀬さん。

「そのご家庭の表面だけじゃなくて、裏側まで入っていくような仕事ですから。そこまで踏み込むと、完成したときによろこんでいただけるものができる。それが一番ですよね」

実は、百瀬さんはもともと東京でファッション関係の仕事をしており、結婚後に建築を学んだそう。そして今から15年前に引っ越してきたという。

最後に、移住して感じたことについて聞いてみた。

「ここは自然もいっぱいありますし、人もいい。余計な誘惑もないですしね。家づくりのことなら、何でもやれる環境はあると思います」

p1310643 一通り話し終えるころには、和やかな雰囲気に。それでいて、解散はさくっと。さっぱりとした関係性が気持ちのいい方々でした。

現場に出れば表情もまた変わるだろうけれど、新しく人が入ってくることを、みなさん楽しみに待ち望んでいるようです。興味がわいたなら、ぜひ一歩を踏み出してみてください。

(2016/11/11 中川晃輔)