求人 NEW

職人を超えて

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

広くスキルや知識を身に付け、自分にできることの幅を広げていく仕事。

ひとつのことを追求し、誰にも負けない専門的な知識や技術を培っていく仕事。

どんな仕事をしたいかと聞かれて、後者を思い浮かべる人に知ってほしい募集です。

表装や修復に関する特殊施工のエキスパート。

とくに知識・知恵に関しては数々の伝統工芸職人に勝るとも劣らない。施工の管理だけどまるで職人のような、同等の気質を求められる仕事です。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 最初にお伝えしておくと、一人前になるまで何年かかるか分かりません。もしかしたら芽が出る前に挫折してしまうかもしれない。

それでも挑みたいという人はぜひ続けて読んでみてください。経験を積めば、数少ないプロフェッショナルとして生涯に渡って活躍できる仕事だと思う。

門戸は広く、高校を卒業したばかりの人でも大丈夫です。職人のような仕事だから、覚えるには若い人のほうが早いかもしれません。

 
この日訪ねたのは、京都市にある「からかみギャラリー」。

ここを運営する株式会社丸二は、襖・壁に貼る紙として使われる伝統的な細工紙「京からかみ」をつくる、日本でも数少ない唐紙メーカーです。

maruni-kyoto02 明治時代の創業当時は和室に使う掛軸や襖、屏風などを仕立てる表具屋でした。その後、扱う内装材の材料を京表具職人に卸す卸業に転換。

明治大正以降、印刷技術の発展とともに唐紙が衰退しはじめると、唐紙屋の顔とも言える版木を各社から譲り受けて、京からかみを伝承してきました。

maruni-kyoto03 現在は京からかみ製作と内装材料の卸業、そしてそこから派生して請け負うようになった伝統的建築物内での特殊内装施工が丸二の3本柱です。

「内装材料と聞くとクロスやカーテンなどと想像されがちですけど、弊社は和室の内装に特化しています。襖紙や障子紙、床の間の掛軸や額・屏風の材料はもちろんのこと、もっと特殊な空間が得意なんです。茶室の腰貼りや障子・襖、お寺の壁面に使われる金紙、天井に描かれている彩色画とか」

「いろんな材料を持っているし、様々な加工職人とのネットワークや技術も知っている。そういった強みを生かして施工のほうにかなりシフトしてきています」

代表の西村さんです。

maruni-kyoto04 生活様式の変化や和文化の低迷から和室を見る機会は少なくなったと思う。襖などの内装材料の卸も業界的に右肩下がりの状況が続いています。

今後、会社として生き残るためにはどうしたらいいのか。

自社の強みでもある「京からかみ」と「伝統的建築・寺社仏閣などの特殊施工」の受注を今後強化していくといいます。

「重要文化財を手がけるところは京都にいくつかあります。博物館に出入りしている表具師さんもいるけれど、私たちはそこまではできない。その一歩手前、重要文化財に行くまでの文化財を手がけるんです。そっちのほうが仕事は多いし、深くまで入り込めて充実感があります」

「母体の卸業は既存メンバーで手堅くやっていこうと思うので、新しく採用される方は特殊工事の受注営業と施工管理に特化していただきたい。ただ襖や屏風など表具の知識が必要なので、ベーシックな知識は最初に卸の仕事を通じて学んでいただこうと」

そして特殊施工の仕事については、西村さんの右腕的存在の方に教わることになります。

丸二でこの仕事を担当しているのは、現在その人ただひとり。

「彼はものすごい知識力・技術力を持っています。それは会社の財産です。ただ彼はもう若くないですから、いまのうちに興味を持ってもらえる人に継承していただきたい」

「けど、彼は堅物なので『並の人間にはできない』って言い張ってね(笑)」

 
その「彼」とは石田さんのこと。

代表の西村さんがまだ高校生のときから丸二に勤めている大ベテラン。今回加わる人は石田さんに付いて回ることから仕事がはじまります。

「でも難しいでしょうね。丁寧には無理。僕だって現場に行ってもうたら、人のことなんかかまってられへん。職人さんと一緒に作業するから、人を教えるところまで気が回らないもん」

maruni-kyoto05 西村さんから聞いた通り「並の人が来たって続かない」と言い張る石田さん。

でも、せっかく募集するのですから、どんな仕事なのか教えてください。

「まず古い建物と、新しく建てられる建物の2つに分かれるわけですね。たとえば古いお寺さんの場合は、壁に蓮の絵が描かれていたり天女さんがいたりする。そういう絵を裏面から紙ごと剥がし取って、京都に持って帰って修復します。虫食いで欠損しているところ、絵の具が剥落しているところ、100年前の修理跡を探して修理する。もう一度裏側から強靭な和紙を裏打ちして、この先100年持たせるように表具させてもらいます」

「予算の関係で材料が安価になると、30年くらいの耐久になるときもある。まあ、そういう修理をして何百年前のものを現代でも大丈夫な状態にするんですね」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 特殊施工の依頼は、寺社と付き合いの深い仏具店や元請工事店からやってきます。

受注すると、まず石田さんは職人を引き連れ現場へ向かいます。文化財の場合もあるから、最初は剥がしたりせずとも見た目から状態を見極め、どんな修復が必要で、どれくらいの日数を要するか職人と打ち合わせし、見積る。

一旦京都へ戻ると、漆や金細工といった必要な施工材料を加工する職人に依頼。そして受注金額や技術レベルに応じて施工を手がける職人を選び、再び現場へ向かいます。現場では職人が作業しやすい環境の段取りや管理を行う。

様々な伝統工芸職人との関わりを持ち、各職人の技術を引き出してまとめ上げる仕事です。

「悉皆屋(しっかいや)みたいなもんですね。悉皆っていうのは友禅屋さんに多い言葉で。古い着物なんかを悉皆屋に出して、染めや縫製するところを決めてもらう。いろんな職人さんを知って、全体をプロデュースしていくんですね」

「仏具もそうですけど表具は、箔押し屋さん、漆屋さん、紙すき屋さん、のりたき屋さん、金物屋さん… 様々な職人さんを使います。自分のチャンネルを持って仕事をやっていく」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 加工材料についての豊富な知識はもちろん、施工においても職人レベルの知識力を合わせ持つ石田さんだからこそできる仕事。

全ては30年に渡る長年の経験によって培われてきました。

「広く浅くはどうでもいい。狭く深くを知っていかないと。職人さんに知識で勝るんですね。同じ表具屋さんでも仕事が少し違う。みんなそれぞれにこれが一番という道理を持ってやってるわけですよ。僕らはいろんな職人さんと仕事をさせてもらえるので、それを足しちゃえばいい」

「全部知って、この場合はこうしたほうがいいって言えるようにする。言っちゃえば、お寺一軒建てられますわ(笑)」

それは決して比喩表現ではないみたい。

そんな石田さんにクライアントは多大な信頼を寄せている。営業によって普段から信頼関係を築いておくのも石田さんの仕事です。そうして寺社仏閣の特殊施工や高級別注品、京からかみの受注など新たな仕事につなげていく。

一人前になるまで一体どれくらい時間がかかるのでしょう。

「僕もまだなってない。わかんないな(笑)」

なかなかに難しそうな仕事です。

前回の募集で加わった豊本さんも「習得するまでにはまだまだ先が長い」と話します。

maruni-kyoto08 豊本さんは京からかみの設計営業を中心に、一部施工管理も担い、石田さんから仕事を教わっています。

以前は京都の設計事務所に勤めていました。古民家のリノベーション・文化財の耐震補強・新築住宅など設計に携わっていたといいます。

「表具に関しては全く知識がなくて。本当にゼロからですね。金箔と一口に言っても、いろんな種類があるんですよね。やりながら、分からなかったら聞く。そのキャッチボールをしながら仕事をしていく感じ。最初から全部覚えて、さあいくぞっていう仕事はできない」

「職人さんとやり取りするのに最低でも単語を知っていなきゃいけないし、ミリではなく尺寸の話で進みますから…。仕事ひとつやるのに時間はかかるし、なかなか難しいですね」

その話を受けて、石田さん。

「彼女はほんまにようやってます。けど新しい人が僕と同じだけの仕事を覚えるのは難しいんじゃないかな。仕事も大変だし」

大変ですか?

「いまはすごく大きな案件がいくつもあるから心が痛い(笑)。手をつけると予期せぬことが出てくるから、文化財はやった気がしない。いまやってるところもひどい状態ですわ。どうなるかわからんけど明日職人さん連れて行くんです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA それに体力勝負だという。一睡もしないこともあるのだとか。

「昔は夜10時に見積もりが来て、家に帰って風呂入ってご飯食べて、11時半になったらトラックに乗って職人のところ行って道具積んで、そのまま朝まで福岡や秋田まで走って施工に入ったりした。職人さんは寝られるようにして、ひとりでずっと車を走らせるんです。朝に着いたらすぐ作業場を設営して、そのまま仕事して。一昨年の現場なんて4日間、まともに寝られなかったですね」

聞けば聞くほど大変な仕事。けど、それでも石田さんがこの仕事を続けてきたのには、何か理由があると思うんです。

「現場行って職人さんたちと夜ビールを飲むのがいいね。それぐらいしかないで!(笑)」

本当ですか? たしかにそんな仕事終わりに飲むビールは美味しそうだけど。

しばらく話は続き、ネガティブな話もちらほら。けど、そんな話の裏に感じるのは、やっぱり石田さんはこの仕事が好きだということ。

最後にもう一度聞いてみると、こう話してくれました。

「まあ文化財に携わるっていうのは心配事もたくさんありますけど、最終的に人間としての誇りを持てますよね。自分の自己満足かも分からないし、そこを僕らが施工したいうのは関係上公開できないのだけど、自分の中であそこをやったって思えるのは誇りです」

「楽しかった、よかったっていうより、誇りよね」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 石田さんは「多少やんちゃであってもヘコタレない男」が理想だといいます。

そうでなくても、この仕事に興味があったらぜひチャレンジしてほしい。

ほかの人には真似できない、自分だけの仕事になっていくと思います。

(2016/11/7 森田曜光)