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「住みやすい街」の事情

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今、多くの地域で移住促進のための政策が行われています。

けれども全国的に人口が減っているなかで、なかなかうまく進まないという話をよく耳にします。

一方で、近年人口が微増し続けているという街に取材に行くことになりました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 栃木県さくら市

ここでは昨年に続き、地域おこし協力隊としてこの街をPRしながら、自分の仕事をつくっていく人を募集しています。

地域おこし協力隊は、都市の人を地域へ派遣する仕組みのこと。最長3年間、生活費や住居の補償を受けた上で活動を行います。

人口が減っていないこの街で、どうして地域おこし協力隊を募集することになったんだろう。

そんなことを考えながら、さくら市に向かいました。

  

国道沿いに点在する大型商業施設や新しく開発された分譲住宅。その横でシャッターをおろした店の並ぶ商店街。

第一印象を正直に言うと、よくある郊外の街、でした。

市役所で待っていてくれたのは、未来創造推進室の瀧澤さんと金子さん。まずはさくら市がどんなところなのか教えてもらう。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 2005年に当時の氏家町(うじいえまち)と喜連川町(きつれがわまち)が合併、誕生したのがさくら市。住環境を整えるために、さまざまな施策を行っている。

人口は44,800名ほど。微増微減を繰り返しながらも、ここ数年は少しずつ人口が増えているんだとか。

「児童医療費を18歳まで無料にするなど、市としては子育て支援にも力を入れています。そういった要素もあってか、栃木県内の住みやすさランキングでは上位に入ることができています」

元氏家町の地区は、隣り合う宇都宮市や、本田技研がある市町のベッドタウンとして暮らすための環境が整えられてきた。

移住してくる人たちを氏家地区で受け入れてきたのが、リバーサイドきぬの里という分譲地。近隣の街で働く子育て世代が中心に暮らしているそう。

「移住してきた人同士で、どこから来たんですか?なんて話をしながらコミュニティができはじめているところです。周辺には公園や医療施設、大型店舗もあるので、車があれば生活に不自由することはないと思いますよ」

DCIM100MEDIADJI_0006.JPG 一方、北側の元喜連川町にあたる地域には自然が広がり、日本三大美肌の湯で知られる喜連川温泉も湧き出している。

こちらにもフィオーレ喜連川、びゅうフォレスト喜連川という大きな分譲地が開発され、移住者を受け入れている。

「温泉付きの住宅を用意しています。こちらはゆっくりと過ごしたいシニア層を中心に人気があるんです」

「ただ、この分譲地以外の集落にはあたらしく入っていく人もほとんどいません。高齢化が進んでコミュニティが成り立たなくなっているようなところも出てきています」

移住者がいることに、ただ喜んでいるわけにもいかない様子。

そこで、宇都宮大学と連携しながら地域の状況を確認していく「小さな拠点づくり」というプロジェクトが動き出そうとしているところ。

ヒヤリングやワークショップを通して、市民とともに地域の課題や資源を洗い出していく。協力隊として来る人も、関心があれば一緒に取り組んでいきたいそう。

sakura-1 「もう1つ、シティープロモーションに力を入れたいんです。実際に住みやすいといってくれている人がいることを、もっと発信していきたい。外からの視点を入れながら、一緒に考えていける人に来ていただきたいんです」

現状、市のウェブサイトやSNS、「さくら市で暮らそう」というウェブサイトで移住者の声を紹介するなどして、情報を発信している。地域で活動する人たちをつなぐ取り組みや空き家バンクの運営も、まさにこれからはじまるところ。

けれど、10年後にも人口が増え続けている保障はない。

日本の各地から移住に関する情報があふれる中、これからもさくら市を選んでもらうためにはなにが必要なんだろう。

同じ世代が集まって暮らしているということは、ライフスタイルが似ているということでもある。親の介護や高齢化など、同時にみんなが課題をかかえることになるということは、みんなで一緒に対応を考えることができるということでもある。

さくら市で地域おこし協力隊を採用するのははじめてのこと。瀧澤さんと金子さんは、準備のためにたくさんの市町村での事例を調べてきた。

その中で耳にしたのは、結局仕事をつくれずに3年で去っていく協力隊が多いという話。

「地域おこし協力隊として働けるのは最長3年です。その後も希望すれば住み続けてもらえるように、副業をしてもいいですし、最後の1年は週休3日にして、自分で仕事をつくっていただきたいと考えています」

さくら市にも、すでに地域を元気にする活動をはじめている人たちがいます。

紹介してもらったのは、氏家地区にANT(アント)というアトリエ兼店舗を構え、手芸を中心にものづくりをしている倉林さん。

さくら市へ移住してきた先輩でもあります。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「さくら市には縁もゆかりもなかったんです。東京でアパレルの仕事をしていたときに知り合った仲間とはじめた活動がきっかけで、ものづくりをするようになりました」

親戚の家が空いていると聞いて見に来たのが、今使っている家だった。

「木造の家の雰囲気や庭がいいなって。住んでみてから、街の印象ががらっと変わったんです。今は永住したいと思っているくらいで」

どんなところがよかったか教えてください。

「環境がいいんですよ。子どもと歩いていて、気持ちいいなって思うところが多い。なにより子どもがすごい楽しそうなの。毎日泥だらけになって遊んでて。それを見ていて、本当によかったなって」

氏家地区には広々とした公園がいくつか整備されている。平日はもちろん、休日にものびのびと子どもを遊ばせることができるんだそう。

都会でもど田舎でもない、ほどよい“ふつう”な環境が、住みやすさにつながっているのかもしれない。

アトリエの使い心地はどうですか。

「家があり得ないくらいボロボロだったんです。でも自分で手をかければかけるほど魅力的になっていく。それがおもしろさですよね。この地区にはそんな光ってる物件が山ほどあるんですよ。事業をはじめたいって友だちにも勧めてるんです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 倉林さんは、自然の中で親子そろってものづくりをするイベントの主催もしている。

「きっかけはこの庭で楽しそうに遊ぶ子どもたちです。ある程度の歳までは、子どもの遊ぶ環境をつくるのって親ですよね。こうすると子どもが外で楽しく遊べるんだよって、知ってもらいたくって」

sakura-2 周りのお母さんに声をかけたり、SNSを使って告知をしたり。イベントは順調に大きくなってきているんだとか。

「ここに住んでいる人が楽しいと思っていれば、外にも自然に伝わっていくと思うんです。さくら市のネガティブポイントは…虫が大きいところかな(笑)」

  

アトリエを後にして喜連川地区へ。さくら市の端から端まで、30分ほど車を走らせると、窓の外がいつのまにか市街地から一面田んぼになっている。車はさらに山の中へと進んでいく。

薄井さんはここで廃校になった小学校を利用して「杉インテリア木工館」を運営している方。木の香りが気持ちいい館内でお話を伺う。

「小学6年生までこの近くに住んでいました。当時はスマホもありませんでしたから、田んぼや山に入って、魚を捕まえたり山菜を採ったりして遊んでたんです。豊かな里山が大好きでした」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 土木工学を学び、橋の設計などを行っていた。

「橋桁っていうのはコンクリートや鉄を使うんです。材料をつくるだけで大量の二酸化炭素を排出すると言われています。いっぽうで木は光合成して二酸化炭素を吸収する。光と水があれば材料ができるんです」

そう考えていたころ久しぶりに喜連川を訪れ、とても残念な気持ちになった。

「小川や森が非常に荒れて、生態系がなくなっていたんです。適度に伐採したり、落ち葉を拾って堆肥にしたり、竹を切って道具にしたり。昔は人が適度に里山の手入れをしていたんですよね」

伐採をしなくなると森に光が入らず、下草が育たない。植物が減ると土砂が流出し、川に泥が溜まる。すると魚も住めず、動物もいられなくなる。

積極的に木を使って、里山の環境をよくしていきたい。

そう考えた薄井さんは独立し、小さなインテリア工房をスタート。そんなとき、廃校利用の話が飛び込んできた。

「全国で廃校が増えている場所って、ここのように周りは山に囲まれているところが多いと思うんです。里山の資源を使いながら地域の活性化を探っていく。これがうまくいけば、いいモデルができるんじゃないかと思っています」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「森にたくさん杉や檜が放置されていながら、私たちの身の回りでは合板やプラスチックなど、人口の素材ばかりが使われています。もっと大量に使うことで循環がうまれ、持続可能な状態につながっていくんじゃないかと考えているんです」

もともと橋の設計をしていた薄井さん。木材が使いやすいからと言っても、椅子などのインテリアをデザインしはじめるのは大変だったんじゃないですか。

「自分の中で、やっていることはあまり変わらないんです。使っている素材とスケールが違うだけ。椅子は座ったときに壊れないかどうか、力の伝達を考えるという意味では同じなんです。あとは自分で使ってみて、直していけばいいんですよ」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 木工館ではインテリアの販売をするとともに木工体験や、ここに通って本格的にものづくりを学ぶ木工塾を開催している。

県外から通っている人も少なくないそうで、この日も大きな工具を使いながら椅子づくりなどに取り組んでいる人の姿がちらほら。

「余裕ができたら林業にも取り組んでいきたいんです。いろいろなことを組み合わせて、事業として続けていける工夫をしているところです」

「朝来たら、近所のかたが校庭の草刈りを率先してくださっていたり。みなさんの理解や協力があるから続いています。ここで活動をするには、地域に積極的に関わっていくことが重要だと思いますね」

  

さくら市は、人口を増やすという点で1つの成功モデルです。

移住者が増えたあと、どんなことが起きていくのか。もしかするとここでの活動は、日本各地で移住者を募集している地域の、未来の姿になるかもしれません。

(2017/8/1 中嶋希実)

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