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自分が建てるつもりで

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

FESCH一級建築士事務所の安井さんは文系の高校出身。本格的に建築の設計をはじめたのは、30歳のときでした。

建築が好きだからそれまでの経験にとらわれず働くことができたし、一つひとつの仕事にじっくりと向き合うことができたのかもしれません。

安井さんの話を聞いていると、お客さんの家を建てることが自分のことのように感じます。

「お客さんのためにやるんじゃなくて、お客さんの立場になってやる。自分を捨てて、もし自分がお客さんだったらどうか、って考えているんです。引き渡しのとき、お客さんに渡したくないな、って思うくらいね」

FESCH - 1 (1) FESCHは、新築の建築設計や店舗の内装を手がける設計事務所です。今回は、建築設計から内装施工の現場管理まで携わる人を募集します。

なによりも建築が大好き。建築系の大学を出た人であれば、経験はなくてもよいそうです。

アルバイトやパートも募集しているので、建築に興味のある方もぜひ読んでみてください。


2年前にできたばかりのFESCHは、北千住にある創業支援施設の一画がオフィスです。駅から歩いて5分という、立地のいい場所にありました。

今は安井さんと2名のスタッフの3人で働いています。

FESCHは北京にもオフィスがあり、そちらには松本さんという方が一人で働いています。二人で意見を交換しながら設計をしたり、ときどき視察に行ったりするそう。

もともと中学校だったという建物の4階の一室。扉を開けて迎えてくれたのは、安井さんです。中に入ると、窓の向こうにはスカイツリーが見える。

「いい場所ですよね。3年の約束だから、あと1年で出なきゃいけないけど」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 部屋にはデスクとソファが置いてあり、模型をつくるスペース、打ち合わせスペースもある。整頓されていて、十分な広さだと思う。

「このソファで昼寝することもあります。建築のこと考えていると楽しくて、つい遅くまでやっちゃうんですよね」という安井さん。

FESCHを立ち上げる前は、ヨコミゾマコト設計事務所に7年勤めていました。

「建築家って自分の感性で好きにつくるイメージを持っている方もいらっしゃるかもしれませんね。でも、じつはぼくらはお客さんの話をよく聞かないと何にもできないんですよ」

「お客さん自身もイメージできないけれど望んでいるものを紐解いてかたちにする。それが大事なんです」

たとえば、と見せてくれたのは、カナダに本社があるというアパレルメーカーの打ち合わせスペース。

FESCH - 1 (10) Tシャツの卸しをしているメーカーで、洋服ブランドのデザイナーが見に来て発注していくそうです。

はじめ、オーナーからはTシャツを折り畳んで並べるための棚を壁一面につけて欲しいとの要望があった。

「いろいろとお話しを聞いていくうちに、本当に欲しいのは棚のある空間じゃないと思ったんです」

このメーカーの一番の特徴は、カラーバリエーションの豊富さ。そこで、一本のパイプで空間をぐるりと囲み、全ての色のTシャツが吊るせる空間を提案します。

通りがかりにパッと見ても色数の多いメーカーということがわかるし、店内を回るだけで全ての色を見せることができる。コストもつくり付けの棚をつくるよりぐっと抑えられ、オーナーさんには「群を抜いていい」と評価してもらったそう。

たしかに、要望通り棚のある空間をつくるよりもずっとうれしい提案だと思います。

「その空間で実現したいほんとうのところは何なのか。お客さん自身も気づいていない潜在的なところに、いかに気づくかということが重要です。それがないとはじまらないんですよね」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA とはいえ、潜在的に望んでいることは、わかりやすく表にでてこないような気がします。

どうやって気づくんですか?

「お客さんが使う言葉は大事にしています。お客さんの選んだ言葉の雰囲気を、ひとつひとつ掘り下げるような感じですね」

言葉の雰囲気。

「たとえば、お客さんが『中庭が欲しい』といったとき」

「お客さんの言う『中庭』とは、お客さんの知っている建築のボキャブラリーの一つでしかないんです。その言葉をどんなイメージで使ったのかというところを丁寧に聞いていきます」

お客さんは、市街地で子どもを安全に遊ばせるために「中庭が欲しい」と言ったのかもしれないし、家の中の通風を良くしたいという理由かもしれない。はたまた、友達の家で中庭を挟んだ子ども部屋をみて、子どもの様子がわかる空間がいいなと思ったのかもしれない。

「その上で、ほんとうは子どもが遊ぶための場所が欲しいと思っているのであれば、外と繋がるような広いリビングをつくったらどうでしょうか、という提案もできるわけです」

お客さんとのコミュニケーションから、コンセプトが生まれる。

まずはお客さんの話をていねいに聞いて「お客さんが本当にしたいこと」に気づくことが一番大事になりそうです。

「そこが実現できたとき、サプライズになるんですよね。お客さん自身の想像を超えてくれば、それだけ喜びも大きい。それを実現することが建築家の仕事だと思います」

FESCH - 1 (9) 「どうつくるかという技術や手法は、覚えりゃあいい」という安井さん。

安井さん自身も、文系の高校の出身。これまでひとつずつ建築の業界を歩んできました。

「はじめは漠然と、建築やインテリアコーディネーターがかっこいい、なりたいなと思っていたんです。でもぼくは数学も物理も勉強していない。大学へは行きませんでした」

それでも建築に関わりたいと、卒業後はおじさんの営む建設会社で現場作業に携わります。

「1年間コンクリートを運んだり、パーツを組み立てたり。けっこう大変でしたね。でも、足場がとれて建物の全貌が見えたとき感動したんです。ああ、やっぱり建築をやりたいな、と思って。現場監督になりたくて専門学校に行きました」

専門学校卒業後は大手のゼネコンに入社。マンションなど大きな建物の現場監督になり、1級建築士の資格を取得します。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 現場での経験を積んでいくと、今度は設計からやってみたくなった。

設計はできないけれど、それに近いところへ行こう。

店舗の内装施工を請け負うインテリアの会社に転職します。

「見積りから引き渡しまで。現場も含めた一連の流れを学べたので、営業部長だった人と一緒に内装施工会社を立ち上げました」

はじめてみると、内装の施工だけじゃなく設計も頼まれることが増えてきた。

「そのとき、独学での設計に限界を感じたんです」

独学の限界?

「一生懸命勉強するし、一生懸命やっているのに、どうして建築家が設計したようにかっこよくできないのか分からなかった。そのときは、設計ってセンスだと思っていたんです」

けれど経営のためには設計も請け負いたい。

安井さんは、大学へ通うことにします。30歳のときでした。

「真剣に設計を勉強するラストチャンスだと思ったんです。それに、大学に講師としてきている有名な建築家に認められなければ、何の迷いもなく経営者の道へ突っ走れると思いました(笑)」

いざ始めてみると、成績優秀な学生だったそう。講師として教えに来ていた建築家のヨコミゾさんに声をかけられ、設計事務所で働くことに。

「入ったら面白かったんです。もちろん、厳しいこともありましたよ。でもその裏には、ヨコミゾさんの建築に対するものすごい真面目さを感じました。お客さんのためにいいものをつくりたいだけなんだ、と思ったんです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「案件もひとり一件任せて、自分が納得するまでとことん建築をやらせてくれるんですね。…このときが一番たのしかったなぁ。すっげぇ怒られましたけどね(笑)」

そして2年前に独立。

ヨコミゾさんの事務所で学んだことは、今でも設計する上で身についているといいます。

「自分が全部やるような、主体性が大切なんです」

「建築って、一からつくるというより、窓やフローリング、お風呂、ドアなどの既製品を、規格を考慮しながらどう組み合わせていくかということなんです。それぞれに構造面、技術面、法律面の規制があります。その規制のなかでどう実現していくかを考えるんです」

たとえば、空間の四隅にある柱を50センチ角にしたいとき。

構造のプロに計算してもらうと「100センチじゃないとできない」と言われてしまった。

「ふつう構造のプロがいうことに疑いの余地はないって思うんですね。でも実現したい空間としては、デザイン的に50センチの柱であることが大事。そうであれば、柱の数を増やしてもいいわけです」

「言われたことを言われたようにやっていたらできない。自分がこうしたい、っていう思いがないと答えはでてこないんです」

FESCH - 1 (5) どうすれば実現できるか。

あらゆる面から考え、実際に話しながら詰めていく。ああしたらどうだろう、こうしたらどうだろう、と何度も何度も考えることになりそう。根気のいることだと思います。

「だから『自分が建てるつもり』でやるんです」

自分が建てるつもり。

「もしうまくいかなかったとき、お客さんの『ため』と思っていたら、あなたのために考えたのに、ってなる。でも、お客さんの立場になっている人は、動き方がまったく違うんです」

そんなふうに話す安井さんからは、真面目にとことん建築に向き合う姿勢が伝わってきました。

安井さんは、どんな人と働きたいですか?

「やっぱり、建築が大好きな人ですね」

「あとは、主体性のある人。うちは設計をやっていますけど、アイディア次第で別のことをしてもいいと思っているんです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「北京にいる松本くんと考えていたんですけど、北京では、日曜日になると道端に椅子だけ出して散髪をしているんですって。そこに移動できる屋台をひいていってコーヒーを出してみるのも面白そうだよね、って」

自分で企画して、赤字にならないように手配できれば自由だよ、と安井さん。

「興味があることは、自分たちでやってみよう。みんなが知恵を持ち寄って、主体的に動いていったら面白い組織になるんじゃないかな」

建築設計に真剣に向き合いながら、現場を見たり、おもしろい企画を出したり。さまざまなことができる環境だと思います。

建築が大好きな人へ。まずは一度安井さんと会って建築の話をしてみませんか。

(2017/2/22倉島友香)