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あびこで生まれる物語

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

千葉県北西部、茨城県との境に位置する我孫子(あびこ)市。

大正〜昭和初期にかけて「北の鎌倉」と称されたこの土地は、かつて志賀直哉や柳宗悦、バーナード・リーチなど著名な文化人が暮らし、白樺派の拠点であったと言われています。

数多くの文化人が魅せられた景観の中心には、市のシンボルである手賀沼がありました。

P1500167 ここは関東でも有数の野鳥の飛来地で、周辺には鳥類の研究施設や博物館などが存在。夏の花火大会や秋のマラソン大会、ほとりに最近オープンしたバーベキューガーデンなどもあり、今でも市民の憩いの場として親しまれています。

今回舞台となるのは、このまちで22年間親しまれてきたショッピングセンター「あびこショッピングプラザ」。

PODの一員として、地域に目を向けながらこの場所を運営していく人を募集します。

ショッピングセンターの運営とはいえ、いきなり売上アップを目指すわけではありません。小さな困りごとを見つけて解決したり、日々起こる出来事を発信したり。イベントがあれば、その企画運営や会場の調整、当日の現場管理など。

ショッピングセンターの日々を見守り、紡いでいくような仕事になると思います。

「22年も経てば、もう地域と一体ですよ。同時期に我孫子で生まれた子も、もう22歳になっている。ぼくらはショッピングセンターのバリューアップというより、個人的な感覚で言えば、新しい商店街のあり方をつくろうという感覚なんですよね」

POD代表の神河さんの言葉です。

ショッピングセンターではなく、商店街。

この言葉がなんとなくでも引っかかった人は、ぜひ続けて読んでください。


我孫子駅へは、都心から1時間もかからない。

1970年代に鉄道の開通や一部区画整備があり、ベッドタウンとして人口が増加。近年は減少傾向にあるものの、現在およそ13万人がこのまちに暮らしている。

我孫子駅北口から歩くこと5分。住宅街を抜けると、あびこショッピングプラザが見えてきた。

目の前の広場で、まずは代表の神河さんにお話を聞く。

P1420088 神河さんは、不動産開発のスペシャリスト。これまでにマンション開発や都市開発、地方商業ビルや大型ファンドの関わる投資開発など、大小さまざまな案件に携わってきた。

森ビルでは最年少で開発プロジェクトマネージャーに任命され、六本木ヒルズの立ち上げにも大きく関わったそう。

「共同代表の橘と一緒にPODを立ち上げたのが2010年。彼はリノベーションなどを通して、行政や商店街と関わってきました。一方ぼくは地主さんや企業、ファンドの方々と一緒にお仕事させていただくことが多かったんですね」

「お互いのノウハウを組み合わせれば、もっといろいろと役に立てることがあるんじゃないか。そんな想いからはじめた会社です」

橘さんとのコンビネーションによって、PODの事業は不動産開発のみにとどまらず、商店街や市町村単位のまちづくりにまで広がっていく。

シェアオフィスの運営や飲食店の経営、市役所移転跡地の活用など。場所も神田や下北沢、横浜、大宮とさまざまだ。

なかでも一大プロジェクトとなったのが、東京・中野のオフィスビル「中野セントラルパーク」の運営プロデュース。

イベント(イメージ) 「中野は戦前からの住宅街です。飲食店が多いものの、オフィスはあまりない。我々のひとつのテーマは、ここに大手企業の本社を呼ぶことはできるだろうか?というものでした」

本社を誘致できれば、税収や消費の増大によってまちが潤う。さらにまち全体のブランディングにもつながる。

神河さんは、戦前からの住宅街であり、多くの生活者を抱える中野のポテンシャルを活かせば、BtoCのプロダクトやサービスを提供する大企業なら呼び込めると考えた。

実際にはどのようなことをしたのだろう?

「工事の途中段階で、ソフトとハードの一部をデザインし直しました。具体的には、ビルの前に8人ほどが入れる大きなパラソルを100本させるようにして、イベントなどに利用できるスペースを設けたんです」

「ソフト面だと、イベントやメディアの取材に対応するためのルールやWebサイトなどといったインフラを整備し、イベントを開催してSNSで発信したり。すべてマーケティングのセオリーに則り、科学的に進めました」

これらのデザインが実を結び、結果的にキリングループの本社をはじめ、複数の企業が入居することになる。

「パラソルのスペースを使えば巨大ビアガーデンができますよね。トクホのノンアルコールビールが規制緩和されたときには、ランチタイムに社長自ら商品を配りました。通りにはサラリーマンもいれば、お子さん連れの女性も散歩している。中野ならではの光景がそこに生まれているんです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA たしかに、中野セントラルパークの場合は科学的なアプローチがうまく作用し、当初のテーマを達成しているように見える。

けれども、中野と我孫子では地域性も違えば、周囲の環境やオフィスビルとショッピングセンターの違いもある。

その間には大きなギャップがあるように感じます。

「そうですね。もちろん、中野のノウハウがそのまま活かせるとは思っていません。我孫子には我孫子のやり方があるでしょうし、ある程度は走りながらブラッシュアップしていく必要があるのかなと思っています」

「ただひとつ、どのプロジェクトにも共通して言えるのは、運営しながら土地の力を上げていく仕事だということです」

運営しながら土地の力を上げる。

「地域の持つ力を理解し、地域と一体となって土地のブランドをつくっていく。ぼくらも我孫子についてはまだ知らないことが多いので、今運営にたずさわっている方々や、もともとこの土地にご縁のある方々とも協力しながら、リサーチから一緒に取り組んでくれる方に来てほしいですね」

P1420206 文献や資料をあたるだけではなく、自分の足で歩いたり、地元の人たちに話を聞くことで土地の力が見えてくることもあるはず。

神河さん自身もいろいろと調べるなかで、ピンときた言葉があるそう。

「かつて文化人が暮らしていたことと掛け合わせて、我孫子市さんが『物語の生まれるまち』っていう言い方をされてるんです。物語って、実は我々が新しいプロジェクトや商品開発に関わるときにはもともと大事にしていたことで」

「我孫子という土地の持つDNAや流れ、ここで働く一人ひとりの人生も物語ですよね。それを聞いて伝えたり、次にまた新しい物語が生まれるような。そんなプロジェクトにしていきたいです」


ここからは、現場の運営の立場から岩崎さんにも話に参加してもらう。

P1420117 もともと行政関連の環境コンサルタント会社に勤めていた岩崎さんは、単年度で途切れてしまう行政の仕事に疑問を抱いていたそう。

「計画だけつくって終わったり、施設をつくっても運営するのに四苦八苦していたり。本当に住民目線になれているのかな?という疑問が常にありました」

4年前に日本仕事百貨経由でPODに入社。すぐに中野セントラルパークの担当を任される。

企業やテナントの壁を越えて、一緒に中野の街を飲み歩く「中野探検隊」という活動をはじめてみると、あれがやりたい、これをやってみようという流れで、いくつかのクラブ活動が派生していった。

そのなかのひとつ「園芸部」では、オフィスの一角を使って野菜やひまわりを育てている。手を動かしながら会話が生まれたり、夏はとれたての枝豆をすぐにビアガーデンで食べたり。

DSC08686 実は岩崎さん、この「園芸部」がきっかけで旦那さんと出会ったそう。

「個人レベルでは最大の成果ですよ」と神河さん。岩崎さんも「そうかもしれませんね(笑)」と笑う。

「わたしにとっては、最前線でみなさんと関われることがやりがいになっています。『園芸部たのしいね』と感想をいただいたり、笑顔が見られるのはうれしいですね。貴重なフィードバックをくださる方もいます」

「その反面、何かトラブルが起こったときに対処するのは自分しかいないので、そのときは大変ですね。現場のよさも苦しさも味わいながらやっています」

我孫子のプロジェクトにも、岩崎さんはスーパーバイザーのような立場で関わる。中野との違いはあれど、困ったときには心強い相談相手になってくれるはずだ。

およそ1年前、中野に引っ越した岩崎さん。移り住んだことで、ある変化を感じたという。

「仕事で関わっていた観光協会の方や地元の企業の社長さんも、ご挨拶に回ると『おお、よろしくよろしく!』という感じで。何かが変わるんですよね」

348305 イベントの企画運営の際にも、以前より裁量が増しているそう。観光協会の方からは、「協会の仕事手伝ってよ」と冗談まじりに言われることも。

それは4年間の積み重ねの結果でもあるし、自分のまちに引っ越してきてくれることが、地元の人にとって単純にうれしいのだと思う。

岩崎さんはどんな人に来てほしいですか。

「外からの目を持ちつつ、この場所に愛着を持って関われる人。できれば我孫子に住んでほしいです」

外からの視点を得るという意味では、全国のショッピングセンター運営の成功例を視察しにいくことも考えている。

「うまくいっている商店街の事例でもいいのかもしれませんね」と神河さん。

「フードコートに1人で来ている方もいれば、2、3人で楽しそうに話しているおじいちゃんおばあちゃんもいたり。あれ、あの子は今日学校行ってないのかな?とかね(笑)。商店街から消えている風景が、ショッピングセンターにあって。もう、これは商店街と呼んでいいんじゃないかと思うんですよ」

そう言われてみると、たしかに形はショッピングセンターなのだけど、漂う雰囲気はどこか懐かしい商店街のような感じもする。さらに下の年代になると、ショッピングセンターに原風景を見るようになっていくかもしれない。

取材時はちょうどクリスマス前の時期。展示スペースには、近隣の幼稚園生がつくったクリスマスツリーが飾ってある。

P1420333 生活用品を買い込む女性や、本屋で立ち読みしている小学生、ゲームセンターで夢中なおじいちゃん。

それぞれの物語が垣間見えるようで面白い。

「近隣にも、大型のショッピングセンターが新しくできているんです。『あっちのほうが品揃えは豊富だし、アクセスもいいけれど、なぜかこっちに来ちゃうんだよな』っていう、心に何か残るような場所にしていきたいですね。一緒に学びながらやっていけたらと思います」

これさえやればいい、ということはひとつもない。もしかすると、手探りの期間がしばらく続くかもしれない。

試行錯誤する過程の物語まで楽しめる方にぜひ来てほしいと思います。

(2017/2/3 中川晃輔)