求人 NEW

“おいしい”の裏側まで

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

おいしいものを食べるのが好きです。

取材で全国をまわるときも、ついつい地域ごとの食事を楽しみにしてしまいます。

とくに印象に残っているのは、育てた人ととれたてのねぎを一緒に食べたこと。どんな想いで、どうやってつくっているのか。お話を聞きながら食べると、なんだかいつもよりもおいしく感じる。

東京でももっと自分が食べているもの、つくっている人のことが知りたいけれど、なかなかわからない商品の裏側。

有限会社良品工房は、買う人とつくる人、売る人をつなぐ、新しい食の流通をつくろうとしている会社です。

ryohinkobo01 地域商品のコンサルティングを行ったり、小売店に向けて地域商品を取り入れた売り場づくりを提案したり。東京駅にある直営店「ニッコリーナ」を通じて、買う人の声を生産者に届けることもしています。

今回募集するのは、ニッコリーナで生産者さんの想いや商品を、お客さんに伝える販売スタッフ。

ゆくゆくは企画や、コンサルティングの仕事にも関わってほしいとのこと。どの仕事をしていく上でも、店頭で直にお客さんから届いた声が土台になっていきます。



東京・西荻窪。

最近引っ越してきたばかりだという良品工房の事務所は、リノベーションされた一軒家。

ryohinkobo02 質問をする前から、よく笑い、よく話すみなさん。

中でもひときわ明るい代表の白田さんに、これまでの経緯について聞いてみます。

起業したのは、子育てをしながら専業主婦をしていたとき。

家にいながら、自分にもできる仕事はなんだろう。思いついたのは、栃木の実家周辺でとれる天然の鮎を東京で販売することだった。

ryohinkobo03 「自宅の台所にFAXと留守電機能がついた電話を置いて。それだけが投資。天ぷら揚げながら注文をとったりしていましたね」

鮎は、思うようには売れなかった。けれども営業にまわるうち、鮎を扱う全国の小売店やメーカー、バイヤーとつながることができた。

「モノがあるから人とつながれるんだと実感して。みんなの困りごとを解決していれば、それが仕事になると思ったんです」

たとえば鮎でつながったある小売店は、近くにできた大手のスーパーに安さではかなわない。代わりに大手では扱わないような商品を置けないか、という相談が白田さんに舞い込んだ。

「当時はまだあまり知られていない地域産品を扱おうと考えたんです。商品の卸しもやりながら、同時に地方のメーカーさんと一緒に商品づくりもはじめました」

島根県では、地元メーカーの焼肉のたれの商品改良を担当。石川県ではルビーロマンというぶどうのブランディングに関わっている。今では市町村や商工会にも仕事は広がっているそうだ。

「私たちのようにあいだに入る仕事は、自分が気をつけていても手が届かないところがあって。納品の直前にトラックがひっくり返ったりとか、胃がえぐれるような想いもたくさんしてきました」

「それでも商品から人を感じると『なんとかしよう』って思うし、モノを売るって結果がすごく見えやすいからおもしろい。あと、人を元気にするのはやっぱり食べ物かなって感じるんです」

ryohinkobo04 起業から7年後には、買い手と売り手、作り手をつなぐ事業もスタート。きっかけは、友人たちとの何気ない会話だった。

「おいしい味噌を取り寄せたという話を聞いていたら、なんだかみんな注文したくなってきて」

なぜかと考えてみると、買い手の目線でいいことも悪いことも言うから、説得力があるのだと気がついた。

お店にもそんなふうに話してくれる人がいたら、もっと買うのに。一方でバイヤーは「どれが売れるかわからない」、メーカーは「つくることには自信があるけど、営業力がね…」と三者三様の悩みを抱えていることを知る。

それらをすべて解決できる仕組みとしてはじめたのが、いいものプロジェクト。

消費者モニターさんに、商品を家で調理して食べてもらう。その感想は良品工房を通じてメーカーに届けられ、商品の改善に活かされるという仕組みだ。

「モニターさんからは、『お弁当すごくおいしかったって子どもが台所までお弁当箱を持ってきました』とか、家族の声がいっぱい入ってくるの」

「自分じゃなくて、家族の好みで買うものを選んでいることや、売り手はいい商品だと思っていても、量が多かったり使い勝手が悪いと売れないこと。おいしいと買いたいは別なんだっていう気づきもありましたね」

ryohinkobo05 モニターさんは、商品を通じて普段の食事やモノの先にいる生産者について考える。買い手に認められた商品は、良品工房からバイヤーに推奨されて全国に広まっていくし、生の声が活かされてまた新たな商品が誕生する。

つくり手も、買い手も、売り手も。すべてがつながり、モノが巡っていく。

今後は、いいものプロジェクトや地域商品づくりに関わってきた経験を生かして、より商品を買いたいと感じられる売場づくりや、地域商品づくりに力を入れていこうとしています。

「どうやったら売れるかを考えると、関わる相手が喜ぶことをやったほうがいいんだって実感してきたんです。泥臭いところもあるけど、いつも現場を知っている良品工房でいたいですね」



働いている人たちはどんなことを感じているんだろう。

ニッコリーナで販売の仕事をしている丸山さんにも話を聞いてみます。

ryohinkobo06 聞けば「自分のことは、あんまり販売員だとは思っていないんです」とのこと。

「ニッコリーナには全国の地域商品が集まっていて、どれも生産者の顔が見えるというか。その想いを知っているし、自分でも本当においしいと思っているから、みなさんに知ってほしいという気持ちなんです」

おいしいものが大好き。添加物などの入っていない、良いものが食べたいという想いからニッコリーナへやってきた。

実際に働いてみてどうですか。

「東京駅という場所柄、あまりゆっくりとお話しする時間はないですね」

ryohinkobo07 「でもこの前、お孫さんへのお土産を選んでいる方がいて。商品の品質表示をみて『本当にお芋しか使ってないのね』って気づいてくださったんです。そこから食べ物の話で意気投合して、どれも良いものだからとたくさん買ってくれたときはうれしかったです」

一緒に働く人たちも、食に興味がある人が多いそう。

見せてくれたのは社内で使っているというFacebookページ。アルバイトの学生さんから、ニッコリーナで扱っている商品を使った男子の一人暮らし向けレシピが投稿されていた。

「私もこの前、乾燥ごぼう入りのごぼう茶をアレンジして、スープにしてみました」と丸山さん。

みなさんとても楽しそうにレシピを考えていて、「働いている人が、商品の一番のファンだよね」という白田さんの言葉もうなずける。

良品工房には、お店に立つ人たちが作り手や売り手と直接つながる機会もあります。

たとえば、月1回生産者さんやメーカーさんを招いて開催される勉強会。商品がどうやってつくられているのか教えてもらったり、自分の疑問を解消することもできる。

ryohinkobo08 「お店ではお客さんの声をまとめて、生産者さんやメーカーさんにフィードバックもしています。翌年に改善された商品が届くと、声がちゃんと届いているんだなと実感しますね」

大変なことも伺いたいです。

「検品が大変かも。小さなメーカーでは手作業でラベル貼りをしているので、賞味期限のシールが貼ってあるかとか、本当に一個一個みるんです。ここまでやらなきゃいけないんだって思うかもしれませんね」

「でも『あの小さい工場でお母さんたちがつくってるのかな』って考えると、なんだかかわいく感じちゃうんです(笑)」



続いてお話を伺ったのは、星川さん。前職ではシステムエンジニアとして働いていた。

ryohinkobo09 どうして食に関わる仕事をしようと思ったんだろう。

「食べ物って、誰もが必ず接点を持つもの。でも結構みんなその裏側を知らないですよね。このお米や野菜が、どこからきているのかとか」

「知らなくても生きていけるけど、自分はもうちょっと食べ物のことを知りたい。産地の人が困っていることや、商品づくりにも関わっていきたいなと思ったんです」

なるほど。その中でも、良品工房を選んだ理由ってありますか。

「30代になって、自分の手の届く範囲のことをやっていきたいと思いました。だからこそ分業ではなく、商品開発から販売、営業とある程度一貫して関わってみたくて」

その想いの通り、入社後は販売の仕事を経て、今では商品卸しの営業を担当している。今後は商品のコンサルティングにも挑戦する予定だそう。

新しく入る人にも、星川さんのようにどんどん活躍の幅を広げていってほしい。

充実している様子が伝わってくるけれど、ギャップを感じることはありませんでしたか?

「クリエイティブなことをしている時間って1割くらいで、あとの9割は調整ごとです。でもその1割でできることの精度をどう高めるか。楽しみながらできるといいと思います」

それは販売の仕事でも同じこと。レジを打ったり検品をしたりしながら、その合間に時間を見つけて、お店で行う企画のアイディアを練る。

ryohinkobo10 考えたことは実現していける環境だけど、自分で行動を起こせないと難しいかもしれません。



「私たちみたいな仕事をしている会社は、地域を元気にとか、日本の農業を支えるみたいなことを目指していると思われがちだけど、私は一回も思ったことがなくて。誰かを助けようなんておこがましいと思っているんです」

みなさんの話を聞きながら、最後にそう言葉をつないだのは販売からコンサルティングまで、さまざまな仕事に携わっているさやかさん。

ryohinkobo11 さやかさんが紹介してくれた、こんな話が印象的でした。

「以前、徳島県の那賀町(旧木頭村)でつくられた木頭ゆずをお店で扱ったんです。今も道が悪くて簡単には行けないような場所で。どのおうちにもゆずの木が生えてて、実を絞る機械がありました」

木頭村では、絞ったゆずの果汁をお酢代わりのゆず酢として使い“かきまぜ”と呼ばれる五目ずしをつくっていた。それを商品と一緒に店頭で紹介したという。

「かきまぜを食べたお客さんが、ゆずってこんな使い方ができるんだと驚いて、商品も売り切れちゃったんですよ。そのときに、小さな村の誰も知らないような料理が伝わっただけで、こんなにモノが動くんだと実感したんです」

ryohinkobo12 「守ったり助けたり、ボランティアみたいなことだと続かないと思うんです。でもちゃんと資本主義にのっとって、欲しい人がお金を出すっていう関係性なら続いていくし、こういう仕事なら続けていけるかなって思いました」

「かわいそう」「買ってあげなきゃ」ではなく、「おいしい」「食べたい」という素直な気持ちを軸につくる流通。

それは人の気持ちに寄り添った、自然で無理のないやり方だと思う。

おいしく楽しみながら食の流通を育てて、やがて健やかな未来へとつながっていく仕事です。

(2017/2/21 並木仁美)