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呉服屋だからこそ

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

脈々と受け継がれてきたものを「守っていく」にはさまざまな方法があると思う。

たとえば、毎日同じ仕事を黙々と続けて、変化しないように守っていく方法もあれば、根底にあるものは守りながらも、良いと思ったものは取り入れて変化していくやり方も。

東京は練馬にある白瀧呉服店は、後者を選んだ呉服屋です。

大きな変革や新しい着物のあり方を目指しているわけではないけれど、何かあれば思い出してもらえる存在であるために、人に寄り添いながらゆるやかに変化をしている。

それが、老舗として今後も続いていく所以のように感じました。

shirataki01 今回は、ここで働く仲間を募集します。決まった職種はなく、誰もが販売から企画、広報、事務まで幅広い役割を担います。

知識や経験よりも、お客さんの想いに寄り添って応えていくことを大切にしている。だからこそ、未経験の方や、まだ知識がない方にチャレンジしてほしいとのこと。

人を笑顔にすることが好きな人、自分にできることの幅を広げていきたい人にも、ぜひ知ってほしい仕事です。



地下鉄有楽町線で、地下鉄赤塚駅へ。

4番出口を出ると、すぐ目の前に「きもの白瀧」という看板とともに大きな建物が。まずはその大きさに圧倒されてしまった。

shirataki02 正面の入口にまわり、奥の和室に案内してもらう。外には日本庭園が見える、静かな空間。

「入ってきたときにびっくりしたでしょう?ここはのんびりしてもらう、晴れの日を味わう場所だから。非日常的なほうがいいかなと思って、こういう雰囲気になっているんです」

そう気さくに声をかけてくれたのが、若旦那の白瀧幹夫さんです。

shirataki03 白瀧呉服店では、七五三や成人式、結婚式といった晴れの日を彩る着物から、日常使いができるカジュアルなものまで。販売・レンタルを問わずさまざまな着物を扱っている。

それは「相手の気持ちに寄り添う」ということを何よりも大切にしているからだと話します。

「商品の個性はあまりないんです。手広く集めて、お客さまがどういうところに着ていくのか、どういうふうに楽しみたいのかを一番に考えている。特徴がないといえばないのかもしれないし、それが一番の特徴かもしれないですね」

その想いは、創業当初から続くもの。白瀧呉服店の創業は、嘉永6年まで遡る。もう160年以上前のこと。

赤塚はかつて宿場町で、田舎から日本橋に商売をしに行った人たちが立ち寄る場所だった。そこでお土産や服、布団などを販売したことが、商いのはじまり。

「当時から安く、少しでもいいものを届けようという想いでやってきて。呉服だけに特化しはじめたのは先代からです。着物を着る機会は減ってきて、時代とは逆行するけれど、本当にほしいと思う人と一緒に、真剣に着物を探すお店でありたいと考えたんです」

shirataki04 そう話す白瀧さん。実は、入社前は建築デザインに関わる仕事をしていて、未経験でこの世界に飛び込んだ。

当初はあまり深い考えもなく転職を決めたものの、働くほどに脈々と受け継がれてきた白瀧への信頼や、お客さんとの深いつながりを感じてきたという。

「全然知らない地域に行っても『いま住んでいるところは、白瀧さんが探してくれた土地でね』とか『私が結婚しているのは、白瀧のおばあさんのおかげなのよ』とか。地元の方だけでなく、福岡とか遠くのほうからも相談にきてくれる方がいるんです」

「それは1年や10年ではなく、100年以上かけて培ってきたものなので。なんとかその信頼を繋いでいきたいし、裏切れないっていう感じかな。失敗したら店舗をたたんで、次のところに行けばいいっていうことには、できないからね」

だからこそ、ネット通販はやらないし、買うことを促す勧誘の電話もしない。もちろん会社の売上目標はあるものの、販売をするスタッフにノルマを課さない。

「なにか悩んだらまずここに来てもらって、それに応える場所でありたいんです」

たとえば、過去にはこんなことがあった。

成人式の振袖を探しに来たお母さんと娘さん。お母さんが着せたいものと、娘さんの好みが合わずに娘さんが泣き出してしまったという。

「そのあと、どういう想いがあってどんな振袖を着たいのかということを、ずっとお嬢さんの隣で聞いていたんです。聞いたことを踏まえて、帯や小物を一緒に考えたら、結果的にお嬢さんがすごくその振袖を気に入ってくれて。翌年には妹さんも同じ振袖を着てくれたのが印象深かったですね」

shirataki05 ほかにも、写真撮影のときにアルバムを作りたいという相談がお客さんから舞い込んだ。自分たちの力では実現できないと気づいた白瀧さんは、別の写真スタジオに掛け合って、ゼロからアルバムづくりを行ったという。

「そのときにおもしろいものができたから、今ではうちでもアルバムをつくれるようにしました。お客さまの希望や要望に応えることが、新しいアイディアにもつながっていくんですよね」

「地味かもしれないけど、それが一番の近道で、一番のクオリティを生み出せるんじゃないかなって。誠実に商売をしていけば、着物の作り手にも、お客さまにもそれがちゃんと届くんじゃないかなと思うんです」



ここで白瀧さんと一緒にこの世界に飛び込んだ、若女将のあゆみさんも話に加わる。

shirataki06 「私も建築の仕事をしていて。次の世代に良い空間を残したいと仕事をしていたんです。結婚を機に白瀧の家業を継ぐか悩んだんですが、着物も次の世代に残すべきものだし、方法は変わっても次世代に何かを残すっていう目的は一緒かなと思って」

それまで着物を着る機会はまったくなかった。女将がやっていた着付け教室で着方を学び、今では先生として着付けを教えている。

「私も着られないところからスタートしたので、みなさんがわからないポイントはわかっているつもりです。『そうそう、そこが難しいんですよね』って話をしながら、着物が着られるようになっていくとうれしいですね」

shirataki07 着物に触れる機会を増やしたいという考えから、白瀧呉服店では着付け教室だけでなく毎月さまざまなイベントを社内で開催している。

落語会や三味線と琴のライブ、女流かるたの選手権。お茶会や友禅染体験などもある。

どれも着物に親しみながら、日本文化に触れることもできる取り組みだ。

「地域に根付いた長い歴史があるお店だからこそ、着物と一緒に200年、300年後に和の文化を残していくこともできるんじゃないかなと思っているんです」

shirataki08 知識や経験がなくても、目の前の相手のために何ができるのか。できないと諦めるのではなく考え続けて、柔軟に対応していく。

お二人の話を聞いていると、そんなふうに自分にできることをやっていけば自ずと道が開けていくように感じられる。



もう一人紹介したいのが、入社3年目の河野さんです。

もとはアパレル志望だったという言葉がしっくりくる、明るくて話しやすい方。どうしてこの会社で働くことになったんだろう。

shirataki09 「自分が担当したかったのは若い年齢層向けのブランドだったんです。今はいいけれど、将来自分の年齢が上がれば訪れるお客さまとも、ブランドのイメージともギャップが出てくる」

「ここでは、成人式や卒業式を迎える方々がちょうど自分と同世代。その方たちの個性や雰囲気が、今の自分には等身大で理解できていると思うんです。今後は、普段から着物を着る方や、着付け教室に通う40〜50代の方。自分の年齢が上がるにつれて、同じ目線でお客さまとお付き合いができるのかなって」

なるほど。たしかに自分も年を重ねていきながら、ずっと関わり続けることができる仕事。

一緒に着物を選んでいくとき、どんな話をしているんでしょうか。

「接客業だから正解がなくて。自分にあったやり方を探していくんです。まずは私服を見て、かわいいものや大人っぽいもの、どんなものが好きか考えます。人柄を知らないと選べないから、趣味やバイト、部活の話とかもしますね」

shirataki10 ときには「この顔立ちにはどんな色が似合いますか?」と質問を受けることもある。けれども、答えることはしないといいます。

「それを言っちゃうと、もうその色しか見ないじゃないですか。顔立ちも影響するけれど、その方の雰囲気や好みに合ったものを選んでほしいので。お客さまも好きなもので、かつ似合っている一着を見つけるのがやりがいですね」

あくまでお客さんのことを一番に考えているから、似合わないと思ったときにはきちんと伝えるし、高いほうを買ってもらおうという気もない。

「最終的には『お嬢さんが着たいものにしてください』ってここの人はみんな言います。値段じゃなく、お客さまにとっていいものを届けるという感覚なので、働きやすいですね」

「同じ振袖を選んだとしても、担当するスタッフやお客さまによって小物合わせや帯の色使いは変わるんです。だからどのコーディネートも、自分がお相手したからこその組み合わせだと自信を持って言えます。それを気に入っていただいたときが一番うれしいですね」

shirataki11 目の前の相手に誠実に向き合いながら、損得に関わらず本当に良いと思うものを一緒に考えていく。

その想いを貫くことは、簡単なようでとても難しいと思います。ここでは、健やかな働き方ができているんだな。

一方で、大変なこともあれば教えてください。

「入社後に研修がないので、自分から質問したり、勉強したりすることは必要かなと思います。今は、知識不足で年配の方への接客が全然できていなくて。申し訳ないという気持ちもありますが、教えてくださるお客さまもいるので、素直に聞いて吸収していこうと思っています」

「あとは意外と力仕事が多いかもしれません。催事のときには、多いときで50箱もの着物を運び入れます」

そのほか、お金に関すること以外、さまざまな仕事を担当している。品出しや仕入れ、値付け。イベントの企画やSNSの更新などもあるそうだ。

「小さい仕事がたくさんあって、担当が決まっていないんです。手が空いている人がやる。最近は前撮りでより気に入ってもらえる写真を撮るために、背景の色はどうしようかとカメラマンさんと話し合いをしました。卒業袴のレンタル会で大学に行ったりもしましたね」

河野さんのように、自ら吸収していく姿勢が必要だから、大変なこともあると思う。けれども、ここで一通りの仕事ができれば、自分にできることの幅もぐっと広がるように思います。

shirataki12 人と人のつながりや、日本の文化を受け継いでいく。華やかな晴れの日の裏側では、地道で単調な仕事も多くあるでしょう。

けれども、何事も自分の工夫と心持ち次第。これからの可能性を感じる仕事です。

老舗の呉服屋だからこそ、できること。ここで、一緒にはじめてみませんか。

(2017/2/28 並木仁美)