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バカ正直であれ

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「私はバカ正直だから、置かれた状況で一生懸命しちゃうんです」

これは有限会社ヤマサキ商店の代表、山崎俊幸さんの言葉です。

いまいる環境で求められていることの中から自分にできることをやる。ゼロから自分でつくりあげていく仕事も華々しく見えるけど、求められることに応える働き方だって尊いもの。

toyooka_yamasaki01 日本一のかばんの生産地、兵庫県豊岡市。

ここに、有限会社ヤマサキ商店という市内でも多くの生産量を誇るかばんメーカーがあります。

見た目はとても小さな会社で、つくるものはOEMが中心。有名な自社ブランドがあるわけでもない。

けれども、誰よりも実直にものづくりをしているように感じられる。人から求められることにただひたすら応え続けた結果、信頼を集め、いまや豊岡のかばん産業を支える大きな存在となっています。

そんなヤマサキ商店が、営業と生産管理のスタッフを募集します。ゆくゆくは経営者を目指したいという人も大歓迎です。

 
豊岡駅から車で5分ほど。意外にも、住宅が建ち並ぶ通りにヤマサキ商店の事務所はあります。

1階と2階の作業場では合わせて20名ほどの人たちが働いていて、中へ入るとミシンの音が絶えず聞こえてくる。

toyooka_yamasaki02 スタッフさんは女性が多く、ベテランの方もちらほら。

ヤマサキ商店は50年以上ここでかばんをつくり続けてきました。

「昔はアメリカに輸出するようなピアノ線の枠が入ったかばんをつくったりしていました。ソフトアタッシュもあったし、いまもそれに類するのは結構つくってます。ピアノ線入りの鞄だったら、豊岡で一番数をつくっていますよ」

3代目の山崎俊幸さんです。

toyooka_yamasaki03 ヤマサキ商店はOEMを中心に、昔から豊岡市内外の卸問屋と取引を続けてきました。

20年前からは大手かばんメーカーの商品を受注生産し、誰もが知るような有名ブランドのかばんをつくっています。

「うちはその大手かばんメーカーが豊岡に入ったとき、一番はじめに受注した会社の1社です。最初はうち以外にも20社くらい手を挙げられていて、一生懸命したけど半年でやめていったところが結構あって。いまは豊岡で6社くらいが大手かばんメーカーさんから受注生産しています」

それまで豊岡では大量生産で安価なかばんをつくるメーカーが大半だったそう。ところがバブルが弾けると途端に売れなくなってしまい、高品質のものづくりに大きくシフトしていくことになった。

その際の縫製技術の向上を後押ししたのが、この大手かばんメーカーの豊岡への参入でした。

「それまでは“かばん”だったらよかった。チャックが外れんかったらいいとか、ちょっと不良を出してもごめんなさいで済んだところが、その大手かばんメーカーさんが求める品質レベルは全然違いました。ほんと、白髪が増えるくらい(笑)」

toyooka_yamasaki04 また、扱う素材自体が業界では目新しいものが多かったそう。それを高品質かつ短い納期で大量に仕上げないと、次の仕事につながらなかった。

ただ、扱う素材が違えば、縫い方はもちろん、縫うための機械も変えなくてはならない。

山崎さんはミシン屋さんと一緒に、アタッチメントの開発からはじめます。

「工程を減らすことができて、技術力の低い人でも綺麗に仕上がるようなミシン。大手メーカーから新製品をいただくたびに、全財産をかけるような気持ちで何百万円も機械にかけてきました。そうやって最初の10年間は死に物狂いで働いたので、ほとんど休んでないくらい」

「ですから、みんなが一生懸命。毎年毎年、新製品が来てどうつくるか、いかに早く縫えて綺麗に仕上げるかって、その20年だったんじゃないですかね、豊岡は」

toyooka_yamasaki05 なかでもヤマサキ商店は生真面目にものづくりを続けてきた会社だと思う。

そうして製造技術が上がると、ヤマサキ商店は数社と協同でデザイナーを雇い、豊岡鞄のオリジナル商品を制作。豊岡鞄は製造会社で組織された兵庫県鞄工業組合が確立した新しい地域ブランドです。

さらに山崎さんはOEMで培ってきた技術を生かして、ヤマサキ商店の自社商品をつくりました。豊岡鞄のオフィシャルオンラインストアで累計販売数2位となるほどの人気商品です。

toyooka_yamasaki06 「とにかくバカ正直に、人を騙すとか、手を抜いて儲けるとかせずに、約束を守って一生懸命にやってきた。逆に騙されたことはありますよ。不渡りも何回かくらってますし。でも、その先でもっと大きな仕事をもらえたりして、誰かがすごく親切にしてくれる」

「これまでの20年は私たちの財産です。ずっと必死に仕事してきて、人生観が変わりましたね」

それまでは、かばんや業界に対して強い思いはなかったという。若いころから家業を継ぐことやかばんづくりについて、目標や情熱があったわけでもなかった。

「継いだのは、まあ親が一生懸命しとったんで。儲かるかどうかは別としてね」

「けど私が一生懸命しだしたら、それまではなかなか人が集まらんかったのが、いい従業員さんに恵まれるようになりました。だから、一生懸命すれば、みんなついてきてくれるのかなって」

山崎さんはヤマサキ商店を経営する傍ら、豊岡鞄協会の会長を務め、その活動にも尽力しています。

その前も兵庫県鞄工業組合の理事長など、さまざまな役職を山崎さんは任されてきました。

「ボランティアですから大変ですよ。なりたくてなった役でもないし、受けるかどうかで1週間悩んで5kg痩せたこともあった。普通だったらもっと年上の方がなりますから。何でこんなことしてるんだろうって、たまに反省しますわ(笑)」

どうして断らなかったんですか?

「バカだからでしょう(笑)まあ、かばんで食べさせていただきましたし、豊岡でお世話になりましたから。かばん産業がよくなれば、豊岡市もよくなる。私は役得なく、みなさんのためにできることがあればと思って」

「私はバカ正直だから、置かれた状況で一生懸命しちゃうんです」

そんな姿勢は山崎さんだけでなく、ここで働いている人にも共通していることかもしれません。

置かれた状況で、自分にできることを一生懸命にやる。

すこし不器用でも生真面目な人と働きたいと、山崎さんは話します。

「そういう人だと私も力もらって一生懸命に頑張れる。朝6時半に仕事に入って、えらくてつらいときがあるんです。でも従業員さんに会うと、元気になる。みんな帰ったあとはどっと疲れてね(笑)」

toyooka_yamasaki07 今回募集するのは、営業担当と生産管理担当のスタッフ。

営業は既存の取引先との仕事が基本。取引先は大手企業が多く、有名なデザイナーと直にやりとりしてかばんの企画ができるそう。

生産管理はかばんをつくる縫い子さんをまとめるのが仕事。社外に70名ほどいる外注の縫い子さんもまとめ、品質管理や技術指導を行います。

どれもかばんのつくりを知っていないと仕事にならない。営業も生産管理も、まずはミシンを踏んで縫う作業を覚えることからはじまります。

「やる気があって、経営者を目指したいというなら、なんぼでも教えますよ。かばんづくりは陶芸とか細かい細工をする職人さんほど腕はいらないし、大きな機械はいらない。かといって完全な自動化はできなくて、腕を磨けばつくったものがそれなりの値段で売れる職人にもなれる。独立しやすい仕事だから、独立志向の人にも来てもらえるといいですね」

 
ここで働いている方にも話をうかがいました。

製造を担当する今津歩美さんです。

toyooka_yamasaki08 今津さんは学生のころに美大で日本画を専攻していて、もともとものづくりに興味があったのだそう。

豊岡の出身で、ここへ来る前は旅館でアルバイト。その後、豊岡のかばんメーカー十数社が開設した「鞄縫製者トレーニングセンター」に通い、縫製の基本技術を身につけて、ヤマサキ商店に入社しました。

「絵はいつまでも描き詰められてキリがないんですけど、こっちはコーナーを綺麗に縫えたりする度に『あっできた!』っていうのが快感というか。最初はまっすぐ縫えるようになって、次にコーナーが止まらずに縫えるようになったりして。小さい“できた”がちょっとずつ積み重なっていくのが目に見えて楽しかったりします」

小さな会社で人手が多いわけでもないから、練習の機会なんてなく、実践を通して縫い方を覚えていく。

なかなか厳しいように思うけれど、修正が効くような箇所を任されるし、山崎さんやベテランの方は丁寧に教えてくれるのだそう。

勤めて4年が経ち、いまではかばんづくりのすべての工程を任されています。

「ちょうどいま、豊岡鞄のオフィシャルストアToyooka KABAN Artisan Avenueに置く新作をつくっていて。デザイナーさんと相談しながら、こんな縫い方なら早くミスなく仕上がるかなって、自分でも考えてつくっています」

toyooka_yamasaki09 製造担当と言っても、ただ図面通りに仕上げることだけが仕事ではありません。

デザイナーから渡された案に、自分が培ってきた技術を詰め込んでいきます。

「一度つくってみても、布地の厚みでふんわりした雰囲気がなくなってしまったから、デザイナーさんと相談してやっぱりもっと薄くしようとか、今度は薄すぎたから厚くしようとか」

「試しに使ってみて、このポケットはペンよりスマートフォンを入れたいから、もうちょっと大きさを変えようってこともあります。デザイナーさんはわりと出来上がりの美しさにこだわられているので、中の部分は自由にできたりするんです」

そうしてかばんが完成したときが、この仕事で一番うれしい瞬間なのだそう。

「なかなか自分もやるじゃないかって(笑)」

ヤマサキ商店はつくっているものの中には有名ブランドのOEMもあり、名のあるデザイナーとの仕事もやりがいにつながると思う。

「やっぱり小さな会社だから、任せてもらえるところが大きくて。そのぶん一人ひとりがしっかり働かないとっていう緊張感があるけど、数ある中の一人じゃなくて、個人が大切にされているところがいいなって」

「だから、ここの職場のみなさんは真面目に働かれてますし、短い中でも集中して働いている。人もいいというか。女性の職場っていろいろあると思うんですけど、そういうのもなくて居心地がいいんです」

toyooka_yamasaki10 最後に、どんな人がこの仕事に合っているのか今津さんに聞くと、やっぱりものづくりが好きな人なんだそう。

ただ、経験がなくても大丈夫。はじめは下手でも、一生懸命に覚えていける人だといい。

そんな真面目さが、豊岡のかばんづくりを支えています。

(2017/2/28 森田曜光)