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目の前の人がどうしたら喜んでくれるだろう、良くなってくれるだろう。そんなことを考えながら働いていると、自分と仕事の関係は自ずとよいものになっていくように思う。数字を追わなければならないときも、一度立ち止まって取引先や同僚との関わり方を大事にする。
その繰り返しが、長くおだやかに続く良い仕事をつくっていくのかもしれません。
平野株式会社は、大正2年から鞄の製造と卸しを行なってきました。自分たちで企画したビジネスバッグやタブレットケースといった袋小物を、日本全国の問屋や小売店に販売しています。
今回はここで企画営業職と、ECサイトの運営をするwebデザイナーを募集します。
人と鞄のあいだで、スタッフのみなさんがどんなことを考えながら働いているのか。まずは知ってもらえたらと思います。
訪れたのは兵庫県豊岡市。
西日本とはいえ日本海側にあるので、豊岡の冬はおどろくほど雪が降る。古くから、冬のあいだの内職仕事としてここでは鞄づくりが栄えてきました。
まちの職人さんたちがつくる鞄をあつめて、全国に売って歩いてきたのが平野株式会社。製品のほとんどが自社のオリジナル商品で、その企画も長年行なっています。
創業者を祖父に持つのが今の社長・平野慎二さんです。
「むかしは豊岡の鞄屋言うたら、みんな寝台列車に乗って日本各地に出張に行ってました。ひと月近く家にいないので『鞄の営業は自分の子どもがなつかない』と言われることもあったようですよ」
交通の便が発達してさすがにそういうことはなくなったけれど、今でも基本的にやっていることは変わらない。
先代から受け継いだ取引先に、担当者がルート営業をするスタイルだ。
平野さんが入社したのは30年ほど前。まずは先輩についていくかたちで、鞄の知識や、営業の仕事のことを少しずつ知っていった。
先輩に同行するなかで、気づくことがあったと言います。
「取引先の人と先輩方が商売の話を全然しないんですよ」
営業に行っているのに?
「そう。最近あったアホな話ばかり(笑)しばらくしてやっと『そういや今度こんなんつくったんよ』みたいに鞄の話をはじめるんです」
「商売しにきたんじゃなくて、遊びにきたついでに鞄見せてるみたいな。でもそれがすごく自然でね」
お客さんも「いいじゃんそれ」というラフな感じで取引が決まっていく。
「九州を担当していたときは、鹿児島のお客さんが車で名所を案内してくれたり。一緒に行ったラーメン屋さんがおいしかったなぁ。そんな付き合いをしながら商売をしてきました」
鞄を売り込みにいくのではなく、お客さんに会いに行く。そのスタンスを、平野ではずっと大事にしている。
「商売って、相手先が自分を映す鏡なんですよね。こちらが笑顔だと向こうも笑顔になってくれるし、不満があると不満な顔が映る」
だからまずは、よい関係をつくるところから。たとえ売上げがすぐに伸びなくても、顔を合わせることのほうが大事だと言います。
「口だけがうまい営業は目指していなくて。返事することはきちっとする。一つひとつの課題をまじめに片づけていく。それによってお客さんの信用を得る。その繰り返しが大事かな」
おだやかな平野さんのお話をうかがっていると、単純に数字を出すことを目指す人は向いていないのかもしれないという気がしてきた。
平野の営業担当は11人。みなさんどんなふうに働いているんだろう。
教えてくれたのは営業部の上垣さんです。気さくで明るいお兄さん。
「取引先に行ったら『どうなんですか〜最近』って話しかけるんです。『きびしいっておっしゃってても肌ツヤよろしいですよ、お風呂でも入ってきはったん?』とか、冗談も交えて本当に何でもないことを話します(笑)そのなかでカタログを持っていって商談するような感じですね」
今は全国を20地区に割って、一人がだいたい2地区を受け持つ。上垣さんは北陸・信州と北海道方面の2地区担当です。
出張先の問屋や小売店では、新製品の案内をしたり、製品の注文を受ける。
ちなみに上垣さんの出張スタイルはこんな感じです。大きな鞄やキャリーバッグに製品のサンプルをつめ込んで、電車と飛行機で取引先をまわります。
1週間出張に行ったら、次の週は出荷伝票のチェックやほかの営業との情報共有の時間。交換した情報を、次の出張で話のタネにすることも。
ひと月のうち、偶数の週は営業スタッフがみんな出張に出てしまうので、社内は閑散としているのだそう。
全国を駆けまわるだけでなく、平野の営業担当は製品の企画も行なっています。そのヒントは、取引先でのざっくばらんな会話のなかに転がっている。
「雑談のなかでお客さんがなんでもなくポロッと言った一言。それを製品に落とし込んでいきます」
たとえば、北海道の小売店の方からいただいた意見。
「そのときは『年配の方ってお腹が出てたりするから、ズボンのベルトに直接つけるスマホケースは、よこ型のほうが良いんじゃない』って言われました」
「実際スマホケースってたて型のものが多いんですよね。それを横型にすることによって、よりお客さんに喜んでもらえるんじゃないか。そういうちょっとしたことを拾っていく」
営業先で意見を集められるようになってきたら社内の企画会議で提案する。それぞれが集めてきた意見がかぶることもあるけれど、みんなでブラッシュアップしながら商品企画はすすむ。
平野が得意としているのは男性向けのビジネスバッグ。新しくデザインするというよりは、使いやすいように改良していくと言ったほうが正しいのかも。
もちろん新しい機能や新素材を使った新製品をつくることもある。
まとまってきたら、営業自ら製造現場に相談しに行き、実際の鞄のサンプルを職人さんとつくっていく。
サンプルができたら取引先にまた持っていくという流れ。鞄と人とのあいだでぐるぐると動き回っているイメージだ。
直営店舗をもたない平野にとって、取引先の小売店や問屋さんはエンドユーザーの代弁者でもある。
より市場のニーズに近づくために、取引先を訪ねたときには仕入れ担当ではなく、エンドユーザーと直に接する営業担当者と話をするようにしているのだそう。
「話をするときも、“仕事しまっせ!”という姿勢ではお客さんは引いてしまう。世間話だけして、それで帰っても別にいいと思うんです。行って話したことは残りますから。会話のキャッチボールが生まれれば、それが信頼関係にもなっていく」
信頼関係ができているからこそ、気軽に意見が出てくることもあるのだと思う。
「最初はただお客さんのところをまわってるって感じやったものが、仲良くなるうちにお客さんに対して責任を感じるようになる。売り上げる数字の意味を感じるようになるし、いい商品にせんとって思うようになります」
「いろいろあるなかで、何が大事なんかって言うたら人間関係。正直に心で当たるというのが一番大事なんじゃないかな」
そんな上垣さんは入社されて6年目。その前は、なんとスポーツインストラクターをしていました。
入ったばかりのころは、鞄づくりはもちろん、中学校で習ったはずの社会科の知識さえ持っていなかったんだとか。
「僕は身体を動かしてたら生きていけると思ってたんです。最初は“円安”の意味も分からなくて。怒られてばっかでよう泣きました(笑)」
実はこれが冗談ではなくて本当の話。入った当時は取引先のお客さんとまともに話ができず、営業の先輩社員からは「そんなことも知らんのか」と怒られてばかりだったそう。
お酒の席では自他ともに認める泣き上戸で、ときには社内でもつらくて泣いてしまうこともありました。
それでも上垣さんが、この仕事を続けてこられた理由って何なのだろう。
「うちの会社は、ボロカスに言われるかもしれんけど、わからないことは何回聞いても絶対に教えてくれます。先輩がキツいことを言うのは、後輩が可愛いからこそなんですよね」
きびしい言葉が飛び交うけれど、おなじくらい冗談も飛ぶ。社内はとても意見を言いやすい雰囲気がある。
新しく入る人も怒られながら、のびのび成長していってほしい。
“ムチ”ばかりではつらいだろうから、上垣さんがフォローする“アメ”になってくれるそうですよ。
「上垣はタフになったよなぁ」と隣でにこにこと話を聞いていた平野さんが、再びお話してくれます。
「私は社長だけど、旗を振ってこっちいくぞ~っていうやり方をしないんです。間違った方向に進んでしまったときには止めるけど、その必要がなければみんなどんどん自由にやったらええ」
「あかんかったら先輩方が何とかしてくれるから。失敗しても凹まずまたやってみるタフさが必要」
たとえば、今までの取引先にはない出版業界への営業に挑戦してみたり、一から新製品の企画をしてみたり。
8年前には、ECサイトでの販売もはじめました。
それはエンドユーザーにより近づきたいと考えたから。
サイト運営を担当しているのは経理の山本さん。
現在、平野にはECサイト運営を専門に行っているスタッフがいません。
山本さんが、仕事の合間に大手のショッピングサイトに加えて、“鞄俱楽部”という自社のサイトも管理している状態。猫の手も借りたいほどに人手が足りていないという。
これからどんなサイトにしていきたいですか?
「ここは安心して買える。そういう店に見えるようなつくり方にしていかないと」
「ただ商品が並んでるだけではダメですし、サイトのデザインが良いだけでも買ってもらえない。いろんなところでアイディアを出してもらえる人が必要なのかなって思いますね」
ECサイトで扱っている商品は400点弱。多くの商品の中から目当てのものを探しやすく、魅力的に見せるアイディアもほしいところ。
専門的に勉強してきたスタッフが誰もいないので、自分で改善点を見つけながら平野のユーザーに響くサイトづくりをしてほしいそう。
写真撮影が好きだったり、自分で他店のwebサイトを参考にしてアイディアを見つけられるような人が良いのかもしれません。
取材中、みなさんがそれぞれに冗談を言い合いながら、うれしそうに仕事のお話をしてくれたのが印象的でした。
平野で働くみなさんは、自分と関わる人たちをとても大切にしている。
鞄と人のあいだで、良い関係をつくることを楽しめそう。そんなふうに思えたらぜひエントリーしてください。
(2017/3/31 遠藤沙紀)