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タイルがつくる景観

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タイルというと、どんなイメージを持っていますか?

DIYが人気な今、おしゃれに空間を彩るものとして、身近に感じる人もいると思います。

身近といえば、まちで見かけるマンションの外装も、タイルでできています。

株式会社加納は、まちに馴染むマンションなどの外装タイルから、インテリアとしてのタイルまで、堅実さと斬新さを併せもったものづくりをしています。

展示会3 ここで、表情豊かなタイルを開発する人、機械を動かしタイルを製造する人、マンションの補修タイル事業の営業スタッフを募集します。

同じように見えて、いろんな表情を持つタイル。その繊細な変化を感じられる人たちによって、つくられていました。



名古屋駅で中央本線に乗り継ぎ、多治見駅に到着。今度はバスに乗り換える。乗客は私一人。

外を眺めていると、スレート壁の工場がいくつも目に入った。

美濃焼の産地として知られる多治見市。なかでも加納が本社・工場を構える笠原町では、昭和30年ごろからモザイクタイルという小さな幾何学的タイルが発展した。

その後、マンション向けの外装タイルへと展開し、現在国内の7〜8割ほどがこの地域で生産されている。

外壁タイル バスに揺られること20分。待ち合わせをして迎えてくれたのが、企画室長の武藤瞳都さん。

武藤さんは、笠原のまちで育ち、幼いころから窯場や工場で遊んでいたそう。

一時期まちを離れたが、25年ほど前にUターン。地元で陶芸を学び、その後、加納に入社した。

「幼いころは気づかなかったけれど、最近になって、タイルづくりが根づく独特なまちは面白いし、培ってきた技術は、誇らしいものだと思うようになって」

武藤さん けれども、職人の高齢化によってタイルづくりの未来を担う人は減っている。

「たずさわる人が減ると、ものづくりの技術が廃れてしまいます。一度技術がなくなってしまうと、あらためて興すのは難しいですもんね。活気づいていかないと」

そう話す武藤さんは今、まちで窯(よう)業界につとめる女性たちとともに、まちのゴミステーションにタイルをほどこす活動をボランテイアで行っている。

モザイクプリンセス 1年に5箇所ずつのペースで、現在までに、129箇所中15箇所のゴミステーションをタイルで彩った。

地道だけど、そうやってまちの景観はより良くなっていく。

「このまちには地場産業らしい町並みがなかったことが気になっていて。何かしなきゃいけないんじゃない?と思ってはじめたんです」

落ち着いた女性らしい口調のなかに、行動を起こしていく熱を感じた。



そしてその熱は、加納という会社からも感じることができる。

1963年に創立した加納。

創立当初はアメリカ向けにタイルを輸出していたけれど、オイルショックを機に国内市場へ移行。これまで、マンションの外装タイルを製造してきて、今も事業の柱の一つとなっています。

外装タイルのなかで、お客さんから特に支持を得ているのが、ぼかし加工を施したもの。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA ぼかし加工は、釉薬の重ね具合によって焼き上がりの発色が変わるため、調整が難しい。だから、多くのメーカーは、やりたがらないのだそう。

「ぼかしの場合、通常なら2回釉薬をかけるところを、うちでは3回かけたりします。当然コストはかかるけれど、そうすることで深みが出るんです」

「手間をかけてでも、タイルがもつ風合いを豊かなものにする。多少値段は高くなるけど、その分お客さまに満足いただけるように、私どもは商品をつくってきました」

そう話すのは、社長の加納由喜さん。

加納社長 堅実にものづくりをするだけではありません。ほかの分野にもタイルの可能性を広げていこうと、インテリアタイルにも力を入れています。

たとえば、下の写真の右下にある商品。

LEDタイル のコピー なんと、タイルにLEDが組み込まれています。

きっかけは、10年ほど前のこと。由喜さんは、インターネット上で行われていたデザインのコンペティションから、LEDとタイルを組み合わせたデザインを見つけた。

アイデアを実際に形にしようと、考案した海外の工業デザイナーと一緒に開発をはじめた。

「LEDを覆う部分はプラスチックなので、何万分の1mmというレベルで正確な形がとれます。一方のタイルは、1250℃の温度で焼くことで伸び縮みが生じる。異なる性質のものをうまく組み合わせることには、苦労しました」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 何度も調整を重ね、4年ほどの歳月をかけてようやく世に出せる形になった。

できあがった製品は、タイルの本場・イタリアで開催される展示会に毎年出品していて、現地の人は「クレイジーだ!」「こんなの見たことがない」と目を丸くするそう。

展示会1 お客さんの期待に応えながら、ときにはお客さんを驚かせてしまう。そんなものづくりが、ここにはあると思います。



華やかな世界を支えているのは、現場でものをつくる人たちの確かな技術。

タイルをつくる工程を、常務の長江大助さんが案内してくれました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 工場の中に入ると、さまざまな機械の稼動音がする。

まずは、成形の工程。「はい土」という顆粒状の原料をタンクに入れ、金型で形をとるプレス機にかけます。

成形提供 多様な形状・サイズのタイルを生産しているけれど、どれも規定サイズが決まっている。

大量に施行されるビルの現場では、ほんのわずかな違いが大きな数値となるため、1mmの誤差も許されません。

「成形担当が毎回、原料に含まれる水分量やプレス機の圧力を測って調整することで、いいものができあがります」

次は施釉の工程。

一定のリズムで前後に往復する噴射機が、成形されたタイルに釉薬を吹きかける。

「ベルトにのって生地が機械を通過する間に、1つの製品に釉薬が何グラムかかるかによって、できあがりの色のつき具合が変わってきます」

このときの釉薬の分量やかけ方について、サンプルをつくり、条件を設定するのが、後ほど紹介する開発スタッフの仕事です。

「サンプルをもとに、釉薬を吹きつける強さはどれくらいにするか、噴射機のノズルの直径は何ミリにすればいいか。機械を調整し、忠実に再現していきます」

釉薬をかけ終えた段階では生地に水分が多く含まれている。水分を飛ばすために、サヤという耐熱皿に生地をならべて台車にのせ、24時間寝かせます。

工場内 乾燥炉に入れ、さらに乾燥させる。

水分が抜け切ったら、台車ごと窯に入れ、焼成していきます。

全長60mの窯のなかを、50〜60分ごとに自動で台車が動くようになっている。

窯のなか 台車の場所によって温度が違ってきてしまうので、個体差がでないように焼成担当者がバーナーを管理し、温度調整をします。焼き上がりまでは、およそ24時間かかる。

焼きあがったら、製品にひび割れや欠けたところがないか、選別していきます。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 選別し終わると箱に詰めて、タイルのシート張りをする加工屋さんに持っていく。ここまでがタイルを生産する流れになる。

工場の仕事をする人は、どんな人が向いているでしょうか。

「ある意味淡々とする仕事です。けれど、予想以上にいいものができることもあれば、その逆もある。そのとき、なぜ結果がそうなるのか?と探究心をもって行動してくれるような人だと、何をするにも吸収が早いと思います」



探究心をもって仕事をすることは、開発スタッフも同じこと。

たとえば、どんな釉薬をのせたらどういう色が出るか。いろんなことに疑問をもって自分で調べてみる。そうした心構えが重要なようです。

今度は、開発に携わる田中佑子さんに話を伺います。

もともと陶芸を学んでいた田中さんは、焼物に関わる仕事がしたいと、2年前に入社しました。

本生産に入る前のサンプルづくりを見せてもらうことに。

まずはテスト用の生地に噴射機で水をかけ、成形の工程と同じように水分を含んだ状態にします。

次に、釉薬の分量を計り、溶いていく。

釉薬 溶いた釉薬をスプレーガンに入れ、前後に体重移動させながらタイルに均等に釉薬を吹きかけていきます。

このとき、生地とは別に長方形のプラスチック容器を置いて、そこにかかった釉薬の量を測り、記録します。

吹き 均等に釉薬を吹く作業が、開発の仕事の基本。きちんとできるようになるまでに1年ほどかかるそう。

田中さんも陶芸を学んできたとはいえ、その経験はほとんど通用しなかった。

「大失敗してしまうこともありました。失敗をして、原因を考えて、練り直す。その繰り返しで、少しずつできるようになっていきました」

テストの段階でうまくいかないときは、工場の技術者と話し合って、釉薬の条件を練り直す。難しいものだと、テストは5回に及ぶことも。

「出し直した条件で、目指していた製品にぴったりのものが窯から出てくると、ほっとするというか、よかったなという気持ちになります」

インテリアタイル やってみないとわからないことが多い現場。けれど経験よりも、むしろ人としっかり話すことのほうが重要だといいます。

「生産するための施釉の条件は自分がつくるけれど、本生産をするのは工場技術者たちで、お客さまの要望を聞いて注文を取ってきてくれるのは営業の人。いろんな人たちときちんと話をして、意思疎通をしないと大変なことになります」

少しでも疑問に思ったことをわからないままにしてしまったら、お客さんの想像するものとつくるものにずれが出てしまう。

「色のイメージなどは、お客さまからの指示も曖昧なものになりやすいです。たとえ面倒だと思われたとしても、営業の方に細かいところまで確認をお願いしています」

自分から聞くこと。そして、一緒に働く人から話しかけてもらいやすい環境をつくることも田中さんは意識しているそう。

「出勤したら工場でつくられた製品をまずチェックして。その後、私の場合は、工場のなかを一周しながら施釉担当の人の様子を確認します。まわっている間に、技術者の人もわからないことがあれば話しかけてくれるので」

模様としてつける斑点の粒の大きさや、微妙な色の違いなど、細かなニュアンスを互いに共有しながらつくる。

機械を使って量産するとはいえ、そこには人がいることが感じられました。



最後に武藤さんが、こんなことを話してくれました。

「タイルって1つ1つ見ると、小さいものですよね。仕事も非常に地味な仕事です。でも、私はロマンのある仕事だと思っています」

「自分の仕事として関わったビルを見たときの気持ちよさは、何事にも代えがたい。タイル1つ1つを見ているとわからないですけど、完成して建物の一部になったときに、それが何十年と先まで残るわけですから」

ショールーム窓側 まちのマンションかもしれない、ショッピングにでかけた商業施設の一角かもしれない。

どこかで目にしている景観は、地道にものづくりをする人たちによってつくられている。

ここでの仕事は、誇りあるものだと思います。


(2017/03/11 後藤響子)