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心のおもむくままに

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「嘘を言いたくないんですよ。できることは最大限するし、できひんことはできひん。それはお客さんに対しても、スタッフに対しても、誰でも一緒のことやと思っています」

それは言い換えれば、自分の感覚に素直であり続けるということ。

取材を振り返ってみても、たしかに素直な人たちだったなあと思います。

P1510340 京都府宮津市。

南北に長い京都の北寄りに位置し、一帯を「丹後」と呼ばれるこのまちには、日本三景として知られる天橋立があります。

夏場は海水浴やマリンスポーツを楽しむ人々で賑わい、近隣には12もの漁港が点在。幻のカニと呼ばれる間人ガニや鬼海老、のどぐろに甘鯛、大とり貝に金樽いわしなど。若狭湾の内海・外海の恵みが凝縮された土地です。

天橋立画像 そんな丹後エリアを長年支えてきた株式会社にしがきは、スーパーマーケット事業を軸に介護福祉事業やリゾート事業など、60年以上にわたって幅広く事業を展開してきた会社。

リゾート事業にあたるマリントピアリゾート(以下、マリントピア)の新たな旅館でスタッフを募集しています。求めているのは、キッチン担当とフロント兼フロアサービス担当の2職種です。

料理や接客の経験よりも、まずは素直に心が動くかどうか。このことを頭の片隅に置きつつ読み進めてほしいです。


まず伺ったのは、マリントピアの一角にある食事処「天香(そらのかおり)」。

総料理長の大石さんから話を聞く。

P1510178 日本料理店の料理長などを経て、外資系ホテルの執行役員に。和食にルーツをもちながら、さまざまなジャンルの厨房を回るうちに、それぞれのテイストを取り入れていったそう。

「ぼくは宝塚で生まれて越してきたんですけど、丹後がすごく好きで。環境がいいし、人も自分に合っている感じがあって。ちょっとでも丹後を知ってもらいたいという気持ちでやらせてもらってます」

昭和25年の創業から、丹後一円で幅広い事業を展開してきた株式会社にしがき。

「決まり切った杓子定規な会社じゃないので。なんでもまずは提案してチャレンジします。一番あかんのは変化がないことかなと思いますね」

従来、マリントピアではリゾートマンションや戸建ての貸別荘などを運営。つまり、ターゲットの中心は富裕層だった。

より多くの人に丹後を知ってもらいたい。そんな想いから3月にオープンするのが、リゾート旅館「星音~ほしのおと~」だ。

IMG_0184 「そらのかおり」に「ほしのおと」。いずれも響きがいい。

この環境を五感で感じてほしいという。

「ここに来て、一番最初に驚いたのは星空で。すっごくきれいなんです。月がのぼると光の桟橋がびゅーっと伸びてきて、朝は太陽が反射してキラキラ光る」

「時間とともに変わっていく神秘的な景色を眺めながら、やっぱここに来てよかったなって。そんなふうに過ごしてみたいじゃないですか」

ロビーには、世界的に活躍する和紙デザイナー堀木エリ子さんの作品をあしらい、自家農園でとれた果実酒を振る舞う。中庭は六本木ヒルズのライトアップなどを手がけるデザイナーさんによって照らされ、各部屋では温泉に浸かることができる。

さらに、家具やアメニティなど、空間を構成する一つひとつの要素にもこだわっている。

「お客さんは家具で来るわけじゃないですけど、一個一個こだわりたい。選ぶのにもえらい時間がかかりました。ぼくは好きだな、と思える空間になりましたね」

旅館部屋 楽しそうに話す大石さん。

まず自分が好きだと思えること。料理にせよ、この土地にせよ、だから伝わるものがある。

「自家農園で愛情込めて育てた野菜だったり、自分たちで競り落とした魚だったり。そのストーリーがすごく重要で」

「一個一個、自分たちで手に入れたものが料理になる。ほしい食材があったら、自分で動くしかないんですよね。生産者さんとも話して、『こういうふうに使わせてほしい』とやりとりするなかで仲良くなる。するとすべてに想いが入ります」

20160628 どれだけ想いを込めるか。単に食材としてうまく扱えればいい、というわけでもないようだ。

「実は、募集をかけると頻繁に応募はあるんですよ。有名ホテルの料理長や、海外からも。ただ、採用には至らないことが多いんです」

それはなぜでしょう?

「すばらしい料理がつくれることもいいんですけど、それよりもお客さんといかに接することができるか。それを楽しいと思える人じゃないと厳しいですよね」

なんと、スタッフの平均年齢は23歳。女性が全体の8割を占め、未経験からこの世界に飛び込んできた人もいるという。

お金のことや集客、接客、予約受付にお会計。調理以外については担当を固めず、みんなで取り組む。

「料理も柔軟に変わります。パスタが食べたいと言われて、稲庭うどんで対応したり。それでもノーとは言いたくないというかね」

「『俺の料理は』と言ってもはじまらないですよね。お客さんに喜んでもらいたい」

オープンから3年が経ち、大石さんもお店も変わりつつあるという。

「ぼくはレアだったり、価値の高いものを仕入れていたんですけど、最近は女性スタッフも仕入れに行っていて。本物を使って本当にいい料理を提供する。その軸にやさしさが加わってきている感じがします」


今回募集する人は、基本的に「星音」のスタッフ。ただ、ローテーションのなかで「天香」でも働くことになる可能性があるそう。

そこで、一緒に働くかもしれないスタッフのみなさんにも話を聞きました。まずはこちらの白倉さん。

P1510492 大石さんいわく、市場でも可愛がられるキャラクターだそう。

「地元のおじちゃんに『この魚はこう料理したほうがいいよ』って教えてもらったり、『これおいしそうですね』と言ったら『食ってみいや』って10匹もらってきたこともありましたね」

長崎県出身で、大阪の専門学校を卒業後、フランス料理の世界へ。地元・長崎のホテルで働いていたときに大石さんと出会った。

「そのホテルの全国の統括総料理長が大石さんで、すごい人だなって。でも和食と洋食だし、一緒に仕事することはないだろうなと思っていたんです」

そこへ思いがけず大石さんからの誘いが。ただ、白倉さんは迷っていた。

「本当は料理人はもうやめようと思っていたんです。結構つらくて。でもせっかくそこで声をかけてもらったので、最後にもう一回やってみようとここに来たのが3年前。今はそんな気持ちもなくなりましたね。後輩たちもかわいいし」

「みんな素直で、取り繕わないというか。それだけは絶対条件。だからありのままな人がいいですね」

そう話しながら、何か思い出した様子の白倉さん。持ってきたものを開くと、それはアルバムだった。

イベントや食材の写真、真剣な仕事中の表情も。見守ってきた白倉さんのまなざしがそこによく現れている。

P1510368 「社長がよくそこのカウンターに座られてご飯を食べるんですけど。そのときにみんなが考えた料理を出したりとか、まかないからこれ商品化できるんじゃない?とか。社長と料理長が日ごろ成長を見守ってくれている、っていうのは感じます。なんだか学校のクラスみたいですね(笑)」

見守ってくれる人がいるから、挑戦できる。

白倉さんにとっての社長や大石さんがそうであったように、後輩にとっての白倉さんもそんな存在になりつつあるようだ。

昨年6月からここで働く中山さんが、あるエピソードについて話してくれた。

P1510456 「わたしがここに入って1ヶ月ぐらいのとき、白倉さんに『このかぼちゃを使って何かつくってみて』って言っていただいて。使う器から何から、すべて白紙の状態なんです。でも、任せてもらえたことがうれしくて、いろいろ考えて」

最初はかぼちゃのプリンやアイスを思い浮かべたけれど、もうちょっと印象に残るものにしたい。なおかつおいしくて、日々たくさんつくっていけるものがいい。

1から自分で考えるプロセスが勉強になったという。

「結局、おしるこをつくりました。スタッフのみんなに食べてもらって、おいしいと言ってもらえただけでもうれしかったんですけど、コースのデザートとして売り出そうということで、そのおしるこの写真が入ったポスターをリゾート内に張り出してもらって」

「入って間もないなか、こんなに自由につくっていいんだ!と思える経験をさせてもらえたので、わたしにとってあのおしるこはすごく印象に残っていますね」

新作デザート盛り 中山さんの話を聞いた白倉さんがぽつり。

「あれは本当においしかった。未だに味が思い出せるぐらい」

なぜ、1ヶ月の時点で任せてみようと思ったんですか?

「…感覚です(笑)。絶対に何かつくると思ったから。やってくれる感がありましたね」

たしかに。まだ入って1年経っていないとは思えない雰囲気がある中山さん。

普段は大石さんとともにカウンターに立って、魚を捌いたり、お造りを盛ったりしているという。

「父が和食の料理人で、職人さんという感じの人なんですけど。小さいころ、父のお店に食べに行った記憶がうっすらと残っているんです。それがいつしか自分の夢になっていて、気づけば自分も料理人になって。前だけ見て進んできた感じですね」

ここまで突き進んできたように見える中山さん。

実際に働いてみて、大変なことってありますか。

「前は大阪の料理店でも働いてましたけど、都会に比べて大変なことは圧倒的に多いと思います。自家農園からは土のついたままの野菜が大量に届いたり、生きたままのおっきな魚を捌いたり。持ち運ぶのは重いし、怪我をすることもあります」

P1510411 「一方でわたしにとっては刺激にもなっていて。都会の料理店では絶対に体験できないことが楽しいし、わたしはいい部分かなと思います」

聞けば、休みの日にも近くの牧場や農園を訪ねては、自宅で料理をつくったりしているという中山さん。誰よりもこの丹後を味わうからこそ、表現できる料理があるのかもしれない。


日も沈んだ取材後、料理をいただくことに。

カウンターの向こうには、大石さんと中山さんの姿が。インカムをつけて、厨房の人ともしばしばコミュニケーションをとっている。

P1510128 和食をベースに、フレンチやイタリアンなどさまざまなテイストが盛り込まれた料理の数々。

魚介類は地元の漁港で水揚げされたものばかりだし、野菜はほとんど自家農園でつくっている。

丹後をまるごといただく。そんな満足感とともに、気取らないやさしさを感じた。

P1510112 「いろんなところからいろんな人が集まったら面白いだろうな」と中山さん。

和食以外の料理人の方でもいいし、飲食経験がなくても大丈夫。何か自分なりに好きなことを追い求めてきた人であれば、ここでノウハウは身につけていける。

挑戦したいと思ったらぜひ応募を。決して楽ではないけれど、いろんな想いや悩みも素直に伝えれば、真摯に向き合ってくれる人たちが丹後で待っていますよ。

(2017/3/11 中川晃輔)