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一本気でいこう

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「人と接するときの顔と、モノとぐっと向き合う顔って違うんです。うちの子たちの顔つきは、決して営業向きの顔じゃない。でも僕は、真剣にものを見つめているその顔が好きなんですよね」

これは豊岡で鞄づくりをしている株式会社モリタ代表の谷口さんの言葉です。

たしかに根気強くものづくりと向き合う職人の顔には、不思議と惹かれてしまうものがあるように思う。

IMG_5345 ときには不器用さも感じるほど、ものづくりに一直線。

そんなふうに働く職人になりたいと、思ったことはありませんか。

モリタは鞄づくりが盛んな豊岡で、自分たちにしかつくれない道を歩んできた会社です。

いったいどんな鞄づくりなのだろう。気になった方はぜひ読み進めてみてください。

日頃持ち歩いている鞄をあらためて見てみると、生地や革、チャックをはじめとする金具など、鞄ひとつとっても本当にさまざまな部品の組み合わせでできていることに気づく。

各パーツをつくる人がいれば、それを組み合わせて縫製していく人もいて。たったひとつの鞄に、たくさんの人の汗が沁み込んでいる。

モリタは、豊岡で30年近く鞄づくりに携わってきた。専門にしているのは、皮革を使った鞄の持ち手の加工やパーツの製造だ。

IMG_5181 取引先は国内でも名のあるハイブランドや、有名なアパレルブランド。社員10数名という決して大きくない規模の会社ながら、持ち手の加工を軸に生き残ってきた。

「うちみたいに持ち手づくりを専門にやっているのは、国内でもすごく稀だと思います。これだけで会社として成り立つというのは、あまり考えられないことですから」

お話してくれたのはモリタ代表の谷口さん。

IMG_5135 さっそく、谷口さんがどうやって仕事を育ててきたのか聞いてみる。

「僕はもともと大阪の者でして。10年ほど自動車製造の技術者をしていたんです」

会社との方針が合わず退社し、奥さまのご両親が勤めていた会社で仕事を手伝うことに。それが、豊岡の鞄加工の仕事だった。

義理の両親が働いていた部署では、細々としたパーツ加工を専門にしていたという。

ところが、勤めはじめてすぐに会社の分社化が進み、両親や谷口さんたちのいた部署は一企業として独立することになってしまう。

そうして義父を代表に、家族と少しのスタッフだけではじまった会社が今のモリタ。

「大坂から来たばかりだったので、意地になってもやるだけのことはやってやろうと思いましたね」

細かいところに生地を巻きつけたり、持ち手の加工をするニッチな仕事は“鞄づくりの一番末端”とも言われた。

「僕のような機械屋はこういう鞄産業の世界にいても、あくまでもその目線というのは機械屋でね」

「『こういうものがつくりたい』と思ったら、こんな道具でつくれば出来るんじゃないかと頭に浮かぶ。すぐに鉄工所に走っていって、独自の道具をつくりました」

たとえば、革の持ち手の加工をするときのこと。

樹脂や塩ビなどでできた芯を革で包んでしぼっていくのだけれど、絞りが甘いとハンドルのかたちに曲げたときに革にシワが寄ってしまう。

IMG_5138 そこで谷口さんは、強い力で革をすき間なく圧着できる機械を開発。手作業では1日に数十本しかつくれない製品が、労力をかけずに一日に数百本つくれるようになった。

ほかにも革を薄くスライスする機械、糊を接着する機械。接着剤などの薬品も独自に工夫してつくってみる。クオリティを上げながら量産できる方法を常に考えてきたことが、モリタの強みになっていった。

IMG_5311 とはいえニッチな革の持ち手加工の仕事。クオリティを高める以上に、ほかのパーツもつくれる会社にしたほうが安定していったような気もします。

「ぼくはものづくりとなると、こうぐっと一直線に世界に入ってしまうタイプなんですよね」

「自分がもう少し器用であれば、もっと会社は大きくなったかもしれない。でも自分ができる範囲で、残ったのが今のこの道なんやと思う」

谷口さんは率直でとても正直な人だ。

ある有名ブランドの鞄の持ち手を依頼されたときのこと。

決められた期限までに、依頼された製品のサンプルをつくらなければいけなかった。けして満足のいく仕上がりではなかったけれど、谷口さんはひとまず担当者にそのサンプルを提出した。

「担当者にはそれでも満足してもらえたけれど、今度は自分が自分に不満を持つんですよ」

自分に不満を持つ。

「指定された単価内でおさまっているけど、自分が満足できない仕上がりのモノをつくってる。そこで、うちの従業員をみんな集めて相談して。『俺はここまでのクオリティのモノを作りたい。できるよな?』って聞いたらみんなは『できる』って言ってくれた」

谷口さんは正直に、もう少し時間とお金を出してもらえれば、もっといい製品になると担当者に伝えたという。

職人としてのプライドは信頼になり、高級なブランドや有名なアパレルブランドとの取引が続いてきた。

IMG_5326 「お前のところは工賃が高いなあって言われたこともあるけど『この少人数で月に数万パーツ、それを高いクオリティで全部納期内に納める。日本国内でそんなことできる会社は、なかなかない』とも言ってもらえているんです。これは大事にしないといけない」

ありがたいことに、値段から決めるのではなく、まずは良いものをつくってどう上手く売るかを考えるという仕事ができているそうだ。

職人冥利につきる現場だと思います。

そんな革加工の現場を取りまとめている、角田さんにも話を聞いてみます。

IMG_5168 モリタ立ち上げのときからのスタッフで、谷口さん曰く「モリタの技術マイスター」とのこと。

革の持ち手加工というのはどんな仕事なのでしょうか。

「革を裁断して、薄くするために平漉きにかけて。そのあとは糊で革を貼ったり、組み立てたり。最後に削って色を施す。検品ばかりのときもありますし、糊つけをずっとやることもあります。納期に合わせて一日一日変わっていきますね」

IMG_5329 「うちの子たちは、最終的にほとんどオールマイティに革パーツづくりができるように育てますよ」

オールマイティというのには理由があるそうだ。

「牛が違うと革も違う。糊づけして挟む厚みを微妙に変えるというふうに、革を見極めながら納品のときにはすべて同じ仕上がりになるように調整していく。気候によっても変わってきますし、同じような仕事でありながら毎日違う。微妙な違いにすぐ反応できる人を育てていきます」

「本当に専門的な世界なんですよね。革を好きになってくれたらええな」

革のパーツ加工をしているのは角田さんを含めて今は8人。角田さんのようなベテランもいるし、高校を卒業したばかりの若い人もいる。

働き方についても教えてください。

「ここ数年働き方が見直されるようになってだいぶ落ち着きましたけど、みんなやっぱり朝早くから夜遅くまでやります」

「休みたい、あそびに行きたいというのは確かにあります。けど最近鞄づくりをしに来る若い子たちは、めちゃめちゃ鞄をつくるのを楽しんでいるんですよ」

今いるスタッフは、みんな未経験からのスタート。順調に育ってきていると感じているそう。

IMG_5333 「やはり納期というのもあるけど、そのなかで本当にこの出来で良いのかなっていつも考えています。もう少し薬剤の分量を変えると良いのか、機械の改造をしたら良いのか」

「俺も忙しさを言い訳にしてしまう事もあるのですが、そういうときに『この出来じゃ駄目なんじゃないですか?』って下の子達から言われたらめちゃめちゃうれしいですね。これで納得してはダメ。ここはそういう場所ですからね」

後輩たちには、自分たちならもっとできると思える職人になってほしい。

モリタには、ものづくりを極める風土があるように感じます。

そんな角田さんも谷口さんと同じで、もともとは大阪で乾電池をつくるための自動制御装置をつくる技術者でした。

地元豊岡にもどってきたことをきっかけに、鞄の仕事をはじめたそう。

メカニック好きの角田さんが、納期直前に機械を改良しようとして分解に失敗し、納期合わせに徹夜したのも今では笑い話。「彼らしい前向きな失敗だよね」と谷口さんは言います。

「私はここに来て、生きていかなあかんから鞄の仕事をやってきました」

「ものをつくることは本当におもしろい。だからこそ続けてこられたんちゃうかな」

一方で純粋に革の持ち手加工を続けてきたモリタも、変化のときを迎えています。

ブレることなく追い求めてきた革のパーツの加工に加えて、ようやく自社製品を使った鞄そのものの縫製もはじめたのです。

4年前にはじまった新たな部署をまとめているのは、谷口さんの義理の息子さんである知之さん。

IMG_5163 「革加工に関して、うちは日本一やと思っています。でも鞄の縫製はまだまだこれから。縫製部門がもっと技術をあげて、日本一の革加工と鞄がコラボしたときに、最高の鞄が生まれるんじゃないかなって。今後は自社のプライベートブランドが出せたらおもしろいなって思っています」

いつかはモリタがバックアップする一つのメーカーとして、独立させることも視野に入れているそうだ。

縫製の部署ではミシンや手作業で縫製を行なう。ミシンと言ってもいろいろなものがあって、みんなでカバーし合えるよう、どの仕事も経験してもらうことになる。今のメンバーは女性だけなのだそう。

IMG_5324 取材後、現場を見せていただくことができました。

機械の音だけが響く工場で、スタッフのみなさんはカメラを向けてもピクリともせず作業に集中している。

さっきまでにこやかにお話ししていた角田さんも、現場に立つその表情は、話しかけるのをためらうほど。まさに職人の顔を見たように思いました。

IMG_5353 最後に谷口さんが、新しく入る方にかならず伝えることを教えてくれました。

「最初のうちは厳しいかもわからんが、僕がやろうと思っていることに一生懸命ついてきてほしい。しっかりやってもらわないと、僕もあなたたちをしっかり守れない」

「この仕事はお給金以上に得られるものがあると思うし、こういう生き方ってきっとずっと続けていけると思うんですよ」

正直でまっすぐ。一本気にものづくりを極める姿勢はとてもまぶしい。職人として生きていく覚悟が持てたら、思い切って飛び込んでみてください。

(2017/3/10  遠藤沙紀)