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日本に古くからある発酵食品、塩辛。独特の風味と塩辛さが、お酒にもご飯にもよく合う。
この味を大好きだという人もいれば、苦手な人もいる。それくらい特徴のある食品だと思います。
塩辛ってどうやってつくるのだろう。どんなふうに食べたらもっとおいしくなるだろうか。
そんなふうに食への好奇心が強い人に、ぜひ知ってほしい場所を紹介します。
塩辛の創作料理と日本酒が楽しめるお店、“SURUGAYA KAHEI”。運営するのは、塩辛と海鮮珍味を販売する静岡の会社、駿河屋賀兵衛です。
このお店で働くスタッフと、ゆくゆくは料理長・管理職候補になる人を探しています。
日本仕事百貨では以前、秋葉原のCHABARA(ちゃばら)にある塩辛専門店と、マーチエキュート神田万世橋店を紹介しました。
今回は、2号店として2016年3月に川崎にあらたにオープンした川崎アゼリア店へ伺います。
「昨日の片付けで、仕込みがまだ全然終わっていなくて」
そう言いつつ落ち着いた声で迎えてくれたのは、代表の渡邊さん。川崎店立ち上げのために、今は現場に立って働いているそうです。
忙しそうだったので待っていると、あたたかいお茶を出してくれました。
「無農薬の静岡茶です」
塩辛と日本酒を楽しむお店と聞いていたから、想像していたイメージと違うことに驚きました。みんなに提供するお茶も無農薬だなんて、第一印象からうれしい心づかい。
「本当に安心して、おいしく食べられるっていうのが基本だと思っていますので」
渡邊さんは静岡の駿河湾に面したまちの出身で、食が身近な環境で育った。
「曽祖父が飲食にかかわる仕事をしていたからか、祖母や両親も料理が好きで、実家ではお寿司が食卓にでてきたりしました。祖母は昔、近所の食べられない人たちに食事をふるまったりもしていて」
そんな渡邊さんが塩辛の魅力に気づいたのは、ご両親がはじめた駿河屋賀兵衛で働きはじめてから。当時はお寿司のテイクアウトと、海産物の加工品などを販売するお店でした。
「扱っていた商品の中でも、塩辛は寝かせることによって旨みが増すっていうのがすごくおもしろくて」
そこで、魚介類の水揚げ日本一と言われる駿河湾の恵まれた食材を使って塩辛をつくったらどうなるんだろうと思ったのが、塩辛づくりのはじまり。
普通の人にとって塩辛は買って食べるもので、あたらしい組み合わせでつくってみようという考えにはあまり及ばないと思う。いろんな食が身近にあった渡邊さんだからこそ、そこに目をつけてあらたしい駿河屋賀兵衛の価値を生み出すことができたのだと思います。
イカだけでなくタコやマグロなどいろんな食材を使った塩辛や、ガーリックやバジルなどを使った洋風の塩辛など、今や塩辛の種類は60種類以上。
渡邊さんはどうやってあたらしい塩辛を思いついているのか。最近のいちおしだという「イカの燻製オイル漬け」について、きいてみました。
「このときは燻製塩っていうのが目について。塩辛は最初に塩をしてイカの水分を抜くんですよ。それで旨味が凝縮されるんです。それに燻製塩を使ったらどうなるかなって」
「あとは、最近は液体も燻製できるので、燻製オイルと燻製塩でやったらどうなるんだろうって思ってつくってみました」
渡邊さんがこうやってあたらしい組み合わせを考えるのは好奇心的な要素が強いといいます。
「ビジネス的にも必要なことですけど、自分的にも楽しめる。そこが合致しているのが幸運ですね」
東京に塩辛をつかった飲食店を出すことになり、さらに渡邊さんの食への探究心は広がっていく。
「飲食店をやるなら塩辛に何を合わせたらいいんだろうと思って。いろんな日本酒を飲みはじめたんです」
「合わせてみたら、これは魔力があるなあと」
科学的にいうと塩辛も日本酒もアミノ酸が豊富だから、相乗効果でおいしくなるんだとか。
もともとは日本酒よりも洋酒が好きだったという渡邊さんですが、どんどん日本酒の魅力にはまっていったそうです。
飲み物が決まったら、今度は塩辛の可能性をもっと活かしたい。
「単体で楽しんでいただくだけでなく、塩辛を使ってもっと楽しめないかなと。遊び心のあるおいしいものをつくりたいと思いました」
そうやってできたのが、“SURUGAYA KAHEI”で人気の創作料理たち。渡邊さんが考えた料理を、試食させていただきました。
まずはムール貝の塩辛ガーリックソテー。つづいて、うなぎのマグロ酒盗チーズ焼きに、長芋の塩辛梅肉和え。
そこに合わせてくれたのは、長野県でつくられている「Diciannove 19」という日本酒。白ワインのような酸と香りが特徴だという。
塩辛の創作料理と聞いてちょっと変わった味を想像していたけれど、どれも思った以上に塩辛が素材になじんでいる。
出してくれた日本酒と一緒に味わうと両方がさらにおいしくなるし、こうやって食べたら塩辛と日本酒のイメージが変わる。
「お酒と塩辛とおいしいおつまみでゆっくりと楽しい時間を過ごしてほしいっていうことに尽きますね」
実際に日本酒と合わせて食べてみると、もっといろんな組み合わせを試してみたいと思う気持ちが分かる気がしました。
ほかにも、地元静岡の食材を使ったメニューをだしたり、食器も静岡の作家さんのものを使ったり。さりげないところにも“SURUGAYA KAHEI”ならではのこだわりがたくさんある。
たとえば、お店で出しているお醤油は出汁から炊き出してつくっているそうだし、はじめにいただいた無農薬のお茶もそうかもしれない。
渡邊さんは、おいしい食を提供するということに対してとても誠実。見ても食べても楽しいお店が、渡邊さんの持つ感覚で自然につくられていました。
「でも、いくらよいものを出しても売れなかったらそこでビジネスは終わってしまうので、バランスが求められている。それでもやっぱりよいものを出したいので、わがままにやっています」
新しくオープンした川崎アゼリア店では、そのバランスをとるのにまだまだ試行錯誤が必要だいいます。
今度は、川崎アゼリア店の店長の大橋さんに話を聞きました。
「こっちのお店のほうがお客さまの数が多いんですよ、圧倒的に」
駅の地下街にある川崎アゼリア店は日常生活の中でふらっと立ち寄る人が多く、万世橋店の倍ほどの人が来る。そのため回転もはやいし、飽きさせないようなメニューを出していく必要があるという。
お酒を楽しんでくれる人も増えてはいるけれど、まだまだ食事中心の人が多いし、万世橋のお店に比べて目的地としてきてくれるお客さんが少ない。
そんななかでお店の価値をつくっていくためには、料理はもちろん接客が担うところも大きいようです。
「短い時間でどれだけファンをつくるかっていうところですよね。一番実力が出るのは」
「聞こえてきた会話にあえてちょっと入って、これはこうなんですよって一言いう。本当に短い時間なんですけど、それだけでお客さんの表情が変わるんです」
そう話す大橋さんは、話しているととても落ち着いている方。けれどその胸の内には仕事に対する熱い想いを秘めていそう。なんだか渡邊さんと同じ雰囲気を感じる方です。
前職も飲食店で働いていて、“SURUGAYA KAHEI”万世橋店立ち上げのときに転職してきました。
「60種類もあるバリエーション豊富な塩辛って、すごく革新的だなと思って。そこにチャレンジしてみたいっていう気持ちでここに来ました」
実際に働いてみても、自分の使いたい食材を使わせてもらえたり、塩辛も日本酒もすべて試すことができたり。食への関心がある人にとってはとてもいい環境だといいます。
「いろいろなお店で経験を積んできました。また同じようなことをやっても刺激がないと思って。たとえば、おもしろい食材を教えてもらったら仕入れてみて、あたらしい料理をつくったりもしています」
とはいえ、どこも担い手不足だという飲食店の仕事。大変なイメージは捨てきれません。そもそも飲食に関わる仕事を選んだのはなぜでしょうか。
「デスクワークはずっと座ってなきゃいけないのが辛くて。立ち仕事は大変だってみんないうんですけど慣れればそんなに大変じゃないし、むしろ意外とお腹減らないんですよ」
体を動かしながら全体の状況を見つつ、その時にいちばん必要とされている仕事をしていくことが、大橋さんの肌には合っていたという。
「それに、刃物の仕事って食いっぱぐれがないっていうじゃないですか。日本の企業が海外の企業に取って代わられていくなかで、どうしても残るものって自分の身近にあるもの」
「だから飲食の仕事は、技術をつければ絶対に生き残れる仕事のひとつだと思っています」
あとから厨房を見せてもらうと、大橋さんが手早く魚をさばいていました。
日本酒の知識から食材のあつかい方まで幅広く学ぶことができるここは、いつか自分でお店をはじめてみたい人にもいい場所になると思いました。
最後にもうひとり、“SURUGAYA KAHEI”での仕事を楽しんでいる人を紹介します。
中国人のリンさんです。
はじめて塩辛に出会ったのは、駿河屋賀兵衛が川崎アゼリアで期間限定の物販店を開いていたとき。
「塩辛っておもしろいと思って。はじめて見たとき、生ものが漬けてあって、お酒にも合う、ご飯にも合うと書いてあって」
「不安だったけど、やってみようかなって。自分にチャレンジしたの」
飲食店や百貨店で働いた経験のあったリンさんは、もっと日本語を勉強したくて、あえて日本の特色が強いお店で働いてみることにしたといいます。
「大変なのも楽しいのも、お酒ですね」
「種類が多くて、メニューもどんどん変わっていくんですよ。読み方とか、何が合うとかもいっぱいあるし。でも自分もちょっと飲めて、味もわかるのは楽しい」
落ち着いた雰囲気の渡邊さんと大橋さんとバランスをとるかのように、あかるい笑顔が印象的なリンさん。それでも、新しいことに挑戦していく気持ちが強いことはみんな同じだと思う。
わからなくても、まずはいろんなことに興味を持って挑戦できる人の方がよさそうです。
ほかにもやりたいことはたくさんあるんだと、代表の渡邊さんも言っていました。
「合う人が見つかったら塩辛の卸しも一緒に進めたいですし、飲食店で物販もできるようにしていきたい」
「いつかは塩辛会議や試作をおこなう塩辛ラボみたいなものをつくれたらいいなって」
塩辛も日本酒も、渡邊さんの探究心も、奥が深そうです。
少しでも気になったら、まずは“SURUGAYA KAHEI”へ行ってみてください。渡邊さんたちの食への好奇心が、おいしくかたちになっていますよ。
(2017/3/11 黒澤奏恵)