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「類似する会社ってないんです。あの会社みたいになりたいっていうモデルもない。だから自分たちでつくっていくしかないんですよ。自分たちの会社がええのかどうなのか、毎年みんなで『何する?』と言い合ってつくっていくんです」そう話すのは、株式会社由利の代表・由利昇三郎さん。
日本一のかばんの街、兵庫県豊岡市。
ここに数あるかばんメーカーの中でも、由利は見たこともないようなユニークな商品や、他社には真似できない新しいサービスを打ち出しています。
代表の昇三郎さんの雰囲気からも、個性的な会社だと感じられる。
だけどその個性は、意外にも地道な努力によって形成されていました。
まずはできることからはじめて、あとはひたすら試行錯誤を繰り返す。そんな小さなチャレンジの積み重ねが、いつしか他の人には真似できないかばんづくりになっていったようです。
そんな由利が営業・商品企画・製造をそれぞれ担当する人を募集します。
豊岡駅から歩いて5分ほど。住宅街の中に一際目立つ、真っ黄色な建物があります。
これが由利の本社工場。ここで、代表の昇三郎さんに話をうかがいました。
由利は1964年創業。もともとは金物屋として商いをしていた昇三郎さんのお父さまが、工場ひとつから一代で築いた会社です。
OEMメーカーとして、国内外の有名ブランドバッグを国内200名・海外500名の自社工場で生産しています。
「OEMはいかにお客さまの意向に沿いながら新しい技術やアイディアをプラスできるかが大切な商売なんです。お陰さまでOEMは順調で、私にバトンが来てからは、自分たちのブランドを立ち上げて、自分たちで売るってことをやってみようと」
ただ、自分たちでブランドをつくるにしても、何か特徴がなければ他のブランドの陰に隠れてしまう。
そこで昇三郎さんが打ち出したのは、スケッチブック専用のかばんでした。
「めっちゃニッチでしょ(笑)だけど、そこからはじめたんです。正直、数年間売り上げが伸びないのはわかっていました。でも、そこからはじめてブランドを進化させていく。特徴あるものを出してから、普通のバッグに振り返っていくんです」
ちょうどそのころ、グラフィックデザイナーとして活躍していた昇三郎さんのお兄さんが由利に参画することになり、自社ブランドの企画が進む。
お兄さんは3Dグラフィックの概念を伝統的なかばんのデザインに取り入れ、これまでにない独創的な形をした「New Dulles」が誕生しました。
New Dullesはなんと、国際的なデザイン賞「iFデザイン・アワード」を日本のかばん業界としてはじめて受賞。イタリアのミラノで開催されるミペルでは最高賞のミペルアワードをはじめ、今年もトラベルラゲッジ部門で大賞を受賞しました。
すでにはじまったイタリア・ドイツ・スペイン・オランダを皮切りに、New Dullesを軸にした海外戦略を今後も3〜5年かけてじっくりと進めていくそう。
これをきっかけに自社ブランドは軌道に乗る。それまではナイロンなどの素材をつかったものがメインだったけれども、今度は新たに革素材でつくるかばんをはじめます。
だけど、革の加工は普段扱う素材とはまったくの別物。裁断の仕方が違うのはもちろん、使う場所によって革の厚みを変える『スキ』という難しい技術があります。
「ようは量産しにくいんです。でも自社工場があるので、ずっとテストを続けました。ダメなものをつくって失敗したこともありました。そうやって革の技術を覚えていく。だから11年かかったな」
由利はもうひとつ、10年以上かけて取り組んできたことがありました。
一般ユーザー向けのオーダーメイドです。
「我々がさまざまな型と素材のバリエーションを持って、お客さんと一つひとつ打ち合わせてつくる商売をやったんです。全然儲からなかったけどね」
ひとつの商品につき数百〜数千の量で生産するのが業界の常識。それでもはじめたのは、業界の先を見据えてのことでした。
「数年前は小ロットの生産なんて誰もしなかった。たとえ1個だけの注文でもつくることができる会社になっとかんと」
10年経ったいま、今後のショップ展開の試金石として工房は店舗に変更。オーダーメイドで培ったクラフト技術を活かして新ブランド「NUU」をつくり、このお店でしか買えないオリジナル商品を販売しています。
実店舗によってエンドユーザーの動向や情報を得ることができるのは大きな利点。商品のフィードバックから不良品のクレームまですべてを社内で共有し、商品や技術のブラッシュアップを重ねていきます。
はじめてのことでもまずやってみて、何年も試行錯誤を繰り返す。そんな地道な積み重ねが、いまの由利の個性をつくっています。
「我々は小ロットでできるから、結構リスキーなことができる。たとえば、イタリアの最高級革で50個だけやるか?って話ができる。ベトナムにも自社工場があるので、国内でも海外でも捌ける。お客さんのニーズや時代の変化に応じて柔軟に動ける」
「だから面白いんです。みんなと『次は何する?』って」
昇三郎さんは、どんな人に来てほしいですか?
「自分から動ける人。モチベーションを持って動いていかないと、本人も面白くないと思うんです。うちは早い段階で大きな仕事を任せていくので」
「だからその分、プレッシャーがありますよ。それで伸び悩む人も中にはいます。ただそういうときは、もう一度製造の現場を見てまた1から勉強してこいと言ったり、その人にもっと合う仕事がないかと他部署を勧めたりするんです。そこでまた成長したらいい。前向きな失敗はどんどんしたらいいと」
実際に、製造部の協力工場管理を担当する清水さんはこう話します。
管理の仕事は、自社工場以外の協力工場の製造管理をすること。豊岡市内外にある工場を回り、生産スケジュールや品質、収益の管理まで行います。
「入って1〜2年は何もかも新鮮で、ミシン楽しい、ものづくり楽しいって。でも楽しいだけじゃなくて、結果を出さなきゃダメで」
「とくに管理の仕事は工場がきちんと回って当たり前の世界。自分ではやってるつもりでも、結局結果がついてこなくて」
そんなときに上司から「他の製造現場も見て、もう一度勉強してこい」とズバっと声をかけらたという。
そこからもう一度リスタート。苦しいこともあったけれど、今では自社工場での製造管理の経験が職人さんたちとのやりとりに活かされ、管理がスムーズにいくようになったという。
中途半端な仕事をすれば厳しい言葉をかけられる。それはここで働く人が本気だからなんだと思う。
「仕事もそうなんですけど、6月に社員旅行へ行くってなったらもう1月からみんなで考えはじめるんです。行って何をするのか、宴会のとき何しようかって(笑)仕事も全力でやる分、そういうのも本気で。社長がすごく熱い人なので、それにみんなも巻き込まれて一緒に動いていっている。それが、すごくいいです」
清水さんはどんな人がこの会社に合っていると思いますか?
「これだって思ったら、とことんやれる人かな」
商品企画の山口さんは、まさにものづくりに惹かれて1年前に入社しました。
前職では婦人服の縫製をしていて、コートやスーツなどを縫っていたのだそう。
いまはサンプルづくりを専門に担当しています。
同じ縫製でも、服とかばんは違いますか?
「全然違いますね。かばんって服の生地に比べて伸びなくて、融通がきかないんです。あとは見た目を重視するために、一度縫った穴を辿っていく返し針をしなきゃいけない。洋服ではそういうことがないので、一目一目意識してやるかばんは大変ですね」
「だから入社したときは全然縫えなくて、すごく時間がかかってたんです。そのことを社長に相談したら、早く縫うことよりも丁寧に縫うことを重視してくれって。時間はいくらでもかかっていいからって言われたのが印象に残っています」
この道10年以上の先輩方に教わりながら、1年経ってようやくかばんが縫えるようになってきたそう。
山口さんが担当するサンプルづくりは企画の要。パタンナーが描いた図面を元に実際にかばんを縫い、現実につくらないと分からない問題点を見つけ、パタンナーと相談しながら改善していきます。
「いまつくっているクラッチバッグの話だと、最初はふんわり仕上がるようにと、1㎝長めにファスナーがつくられていたんですね。だけど、金属ファスナーで固かったので、実際はファスナーが波打ってしまった」
「それで逆に1㎝短くして、ひっぱりながら縫えば綺麗になるんじゃないかって提案しました。次回のサンプルでは、そうしようって話になっています」
ときには製造担当の人も打ち合わせに加わって、ミスしやすそうな縫い方を変更してもらうことも。
デザインから製造まで、社内にすべての部門があるという利点を生かして、他部署と密に連携できるのも由利のよさだといいます。
どの役割の人も右から左へ流すような仕事はせず、かばんづくりへの責任感やこだわりが強いという。
きっと負けん気が強くて、ちょっとやそっとじゃヘコタレない人がいいのだと思う。そのためには自分の中に誰にも譲れない強い想いや目標があるといい。
時代の変化に乗った、大胆で着実な由利らしいものづくり。きっとこれから面白い展開が待っていると思います。
(2017/3/10 森田曜光)