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耕し続けてこそ

※日本仕事百貨での募集は終了いたしました。再度募集されたときにお知らせをご希望の方は、ページ下部よりご登録ください。

「会社のはじまりは、生き残るためにたくさん仕事をこなすことからでした。なので、自社ブランドよりもOEMでの鞄づくりに徹底して取り組んできました」

「中途半端に自社ブランドを持つよりも、クライアントと共に心がけてきたメイドイン豊岡、メイドインジャパンを常に提供することから生まれる安心感こそ、うちらしさだと考えています」

01 取材であらゆる働き方を聞きまわると、新しい活動を打ち出す企業もあれば、自分たちの足元にある仕事に向き合い、丁寧に耕すことで大きな価値を育てていく企業もあります。

かばんの街豊岡で、一貫してメイドインジャパンのものづくりを行ってきた株式会社井戸。この会社は後者の中でも一層働き方に向き合う意識を大切にしていると感じました。

今回は、そんな株式会社井戸で鞄の製造・販売を担当する人を募集します。

 
東京駅から新幹線で約2時間半。さらに京都駅で特急に乗り換えて2時間ほどで豊岡駅に到着。

道すがら辺りを見渡すと、雪化粧をした山々が広がっています。

駅から歩いて10分ほどの場所に、株式会社井戸はありました。

社内を案内されて驚いたのは、その清潔さ。必要最低限のものだけが置かれ、白が光をはじくような空間になっています。

02 「社屋も14年経ちましたが、1日4回掃除しているんです。朝と昼、15時の休憩前と終業後。汚いところでいいものはつくれませんからね」

そう話すのは、代表の井戸督(いど ただし)さん。

03 株式会社井戸は、井戸さんのご両親が鞄の卸を中心に行う会社を立ち上げたことがきっかけ。そんな会社に関わり始めたのは28歳のときでした。

「いざ手伝いはじめてみて分かったのは、ものづくりのクオリティがあまり良くなかったことです。小売店に持っていっても返されることがありました」

このまま卸の仕事をしているだけでは会社が立ち行かないし、自分たちも満足できない。井戸さんは、自分でつくることを思いつく。

「とにかく自分で革の加工を試したり、裁断をしたりして、ひたすら手を動かしていましたね。あるときは1日中ひたすらミシンを踏んでいる日もありましたよ」

縫製の技術は縫製ができる人の手元を見て、自分ができるかどうかを確認しながら学んでいったそう。

頭で考えるのではなく、体で理解できているかどうかを確認することで、自分のものとして吸収していきました。

そうして次第に取引先や製造する商品数は多くなり、自社も取引先も大きくなっていきます。

04 「ものづくりの精度の高さは、今ではどこも僅差だと思うんです。だからこそ、プラスアルファで会社のどこを見てもらうのかが大事になると思います。そうなると、会社のスタンスを気に入ってもらうことも大切な事だと思います」

発注すれば最高のものができて当たり前。それ以上に取引先との関係性や信頼感といった目には見えない思いを大切にしながら商品を提供することも、ものづくりに大きく影響していた。

「長い期間、クライアントさんと一緒に仕事をすると、お互いの塩梅もわかってくるんです。ラフスケッチの図面だけで仕事を依頼してくる方もいますが、そうした仕事はクライアントのことをちゃんと知ろうとしないとうまくいかなくて」

「なぜなら、その鞄を依頼するお客さんの想いを理解しないと良い鞄がつくれないから。そしてどのような方が鞄を買って下さるのか、そのお店で洋服も販売していたら、それに合うようなカバンはなんだろうとか」

できあがった商品の先まで想像するため、何度も営業に行ったり、お店に出向いたり。たくさんのコミュニケーションを積み重ねているからこそ、できる仕事がある。

そんな姿勢からも、目の前にある仕事を丁寧に掘り下げることで価値を育てているように思いました。

 
続いて話を聞いたのは春名広人さん。これから入る人の上司にあたる方です。

05 「生まれも育ちも豊岡ですが、若いころは別の仕事をしていました」

転機が訪れたのは、知人の会社で裁断のアルバイトをはじめた20代半ばのころ。

「そのときに縫製の部署があったので覗いてみたら、どんどん形になっていく様子がとても面白そうで。いつの間にか自分もつくりたいっていう気持ちに変化していきましたね」

20代後半からものづくりに関わることは、なんだか遠回りのようにも感じます。

「仕事って年数じゃなくて、やる気だと思うんです。10年間何も考えずにミシン踏んでいる人と、なんでこんなにかっこいいのかって毎日考えている人とでは、成長度合いも変わってくる」

「僕もあの先輩は超えてやろうって意欲で働いていました。上手い下手はありますけど、何よりやる気と熱意が必要だと思います」

06 一流のものづくりを目指して働いてきた中で、株式会社井戸に出会います。

「とにかくうちは一切妥協がないんです。仕事だけでなく、挨拶や時間、掃除など。そうした毎日の積み重ねの答えが、鞄にも表れていると思います」

決められた鞄をつくるのにも、1mm単位でコントロールする技術が求められる。

そのため、入社してしばらくは検品作業を通して精度の高さを目で見て確かめることからはじまります。

1cmの間にミシン目が何個入っているかなどの規格を把握して、自分が縫うときに意識していく。

「縫う前の仕事を一通り覚え、ある程度の経験を積むことで鞄のデザインを型に起こしたり、サンプル品に仕上げたりする作業を任せられます」

「向き不向きがあるけれど、やる気があれば成長できますし、そのなかで適材適所が見えてきますよ」

すべての工程で必要とされる丁寧さを培うためにも、1mm単位の誤差や違和感に気付く感度を意識的に高めていくことが求められる。

 
「彼は仕事のオンとオフをうまく使って頑張ってますよ」と紹介されたのは、入社1年目の岡嶋良宜さん。

昨年、東京からIターンで豊岡に移住してきました。

大学卒業後は海上自衛隊に入隊。その後、東京でセレクトショップや印刷会社などを経て今に至ります。

07 「物心ついたときから服が好きで、古着にはまっていました。だけど、服に没頭していくうちに自分でもつくりたいという意欲が湧いてきたんです」

なぜ服ではなく鞄だったのでしょうか。

「ファッションって人が使うことで風合いが生まれて完成すると思うんですけど、鞄はそこに道具的なニュアンスも含まれていると思って。道具として年をとっていく感覚に魅力を感じました」

実際に働いてみると、想像以上に繊細な世界だったと話します。

「一方が1mmはみだしたら反対もその分短くなって、生地が引っ張られてしまう。完成した鞄を見ると、かなり曲がっているんですよ。1mmの積み重ねで出来上がっているのは印象的でした」

やればやるほど、先輩がつくる鞄の美しさに気づく。

「一本の線を縫うだけでも先輩と自分とでは違いが表れます。同じ弧を描いた線でも、僕はどうしてもカクカクしちゃうんです。裏返すと余計に違いが目立ちます」

「感性を磨くというか、そのためにみんな何十年とやっているんで、やっぱりそれだけ完成した商品にも違いはでてきますね」

08 仕事は朝9時からはじまり、18時には全員が必ず仕事を終えます。

「仕事の内容は基本的にルーティーン作業。でも、そうしたペースだからか、人生観は変わりましたね」

人生観、ですか。

「東京にいたころとは異なり、豊岡で働きはじめてからは、次の日のことを考えるようになりましたね。今日こういうことを言われたから明日はこうしてみようというか、風呂に入りながら反省するようになりました」

自然が豊かな豊岡へ移住したことによって心の持ちようにも変化が表れた。

「四季もしっかりしているし、山あり海あり温泉ありで。週末はスキーをしてから温泉に行くっていう生活が普通にできるんですよ。朝5、6時には起きてきれいな景色を見ながら走って、贅沢な空気を吸って。東京と豊岡、どっちが贅沢なんだろうって思いますよ」

「仕事で怒られることもたくさんありますけど、きついと思ったらすぐ温泉ですね。一気にリフレッシュできます」

tk_image 2 岡嶋さんの話からは、暮らしも充実している様子がうかがえる。とはいえ、見知らぬ土地で大変なことも多いはず。これまで辞めようと思ったことはなかったのでしょうか。

「辞めようって思ったことはまったくないです。今まで勤めてきたところとの感覚が違うんですよ」

「東京で働いていたころ、本当にしんどい時期があって。ごまかそうとしていたんですが、自分の心がいちばん理解しているんですよね」

どんどん自分の心がだめになっていく感覚に気づいていた。

「ここではそういうのがなかったですね。Iターンだったからこそ、この土地の魅力に気付けたのかもしれません。他から来たからこそわかる土地の良さは、かなり大きいと思います」

 
最近は既存の販路に依存することへの危機感からか、自社ブランドを展開する流れが多いように感じる。

だけど、井戸はそうした大きな流れとほどよく距離を置き、自分たちの進むべき方向性が見えているように思いました。

それは徹底してものづくりに向き合える土壌を耕し、質の高い働き方とメイドインジャパンにこだわったものづくりを築きあげてきたからなのかもしれません。

_MG_0123 最後に、井戸さんの言葉を紹介します。

「僕はほかの人がつくったものじゃ満足できないから、自分でつくろうとしたことがはじまりでした。そういう気持ちの方がきてくれたら一番いいと思うし、向いている環境だと思います」

「クライアントさんは姿勢やスタンスっていうのを見ていますから、これから応募してくれる方もそこを見てもらえればいいかな」

(2017/4/4 浦川彰太)