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私たちの暮らしや働き方は、日々ゆるやかに変化している。言い方を変えれば、自分らしく、心地よいあり方をつくれるようになってきた、とも言えるかもしれない。
たとえば、都心にいても自分で育てた野菜や味噌で、食卓をつくること。自分の机に固定されずに、好きな場所で働けるようになったこと。
そのなかで、あらためて自分たちの生活や、関わるモノ・コトについて考えるきっかけになるような場所が、東京・千駄ヶ谷に生まれます。
名前は、「THINK OF THINGS」。
手がけるのは、文房具やオフィス家具、事務機器などを製造・販売してきたコクヨ株式会社です。
1階は、生活や仕事に刺激と発見をもたらす道具のショップとカフェ。2階はワークショップやイベントで、新たな試みを検証する場所。
3階は商品企画チームのオフィスになるので、ショップやイベントで吸い上げたお客さんの声をダイレクトに商品に反映できる。
今回は、ここで働く人を募集します。ショップとカフェの運営だけでなく、イベントの企画や商品企画にも携わるとのこと。
社内でも初めての試みと聞いて、どんな場所になるのだろうとワクワクしながら取材に向かいました。
オフィスビルが立ち並ぶ、品川駅の港南口。5分ほど歩くと、コクヨのオフィスビルが見えてきた。
大きな建物を前に、なんだか身が引き締まる思い。
出迎えてくれた経営企画室の鈴木さんは、やわらかな雰囲気で話しやすい方。雑談から自然と取材がはじまった。
個人的には、コクヨと聞くと文房具のイメージが強いこと。そしてキャンパスノートは学生時代に愛用していたことをお話する。
「そうですよね。でも文房具のほかに、家具やオフィスなどの空間づくりにも取り組んでいます。ステーショナリー、ファニチャー、そしてオフィス用品の通販事業が、コクヨの事業の大きな柱です」
どうしてそんなふうに事業が広がっていったのか。
コクヨの創業は、明治38年。昨年、ちょうど110周年を迎えた。最初は、帳簿の表紙だけをつくる表紙店として開業したという。
「表紙の値段は、帳簿全体の価格の5%でしかない。誰もがやらないような、手間のかかることだけど、創業当時からコクヨには“カスの商売”という言葉があって。“カスのような仕事”でも、世の中の役に立つと信じて価値を極めていれば、必ず商売になるっていう考えなんです」
そのうち、今度は帳簿そのものをつくるように。常に使う人のことを考えて工夫を重ねてきた。
「たとえば、当時は100枚と書いてあっても、中身が98枚とか、揃っていない製品が多かったんです。それでは使う人が困るからと、割高になっても100枚にこだわりました」
その後は、帳簿を整理できるキャビネットをつくることで、オフィスに関わりはじめる。椅子や机、働く空間全体へと事業の規模は広がっていった。
「人々が困っていることに耳を傾けながら、どんどん新しい価値を加えてものづくりをしていく。そうして世の中の役に立って認められていくのが、コクヨらしいっていうことなのかな」
長い間、実直にものづくりを続けているからか、名前を聞くと安心感、安定感みたいなものを感じる。一方で、ニーズに合わせて柔軟に変化してきた会社なんだな。
そのスタンスは今も変わらない。たとえば、鈴木さんが所属していたファニチャー事業部でのこと。
最近ではフリーアドレスや在宅勤務など、パソコンがあればどこでも働くことができるようになった。
そんな働き方の多様性に応えて誕生したのが、Creative Lounge MOV。コワーキングスペースとして、クリエイティブなモノ・コトを生み出すために、様々なつながりをつくる場所になっている。
オフィスを飛び出し、日本仕事百貨でもおなじみのUDSさんとホテルの企画から空間・家具のデザイン、運営までを手がけたこともあるという。
「やりたいことは後押ししてくれる。自分次第で、どんどん新しいことに挑戦できる風土はあると思います」
「一緒にコクヨで新しいことをやってきた一人」だと鈴木さんが紹介してくれたのが、THINK OF THINGSのコンセプトづくりや空間設計を手がける鹿野さんです。
過去には鈴木さんと同じファニチャー事業部に所属していて、UDSに出向していたこともあるのだとか。オフィスにとどまらず、ホテルや飲食店などさまざまな空間づくりを経験してきた。
「僕らはオフィスをつくっていたころから人にフォーカスして、働き方や大げさに言えば個人のライフスタイルまで提案することが大事なんじゃないかと考えてきました」
たとえば、オフィスをつくるときにはまず会社が抱えている悩みごとを聞く。内容は部署間の交流を図りたい、優秀な人材を確保したいなど、多岐に渡る。
その上でコミュニケーションがとれるラウンジスペースを提案したり、商品の展示スペースを社内に設けたり。会社の課題や、そこで働く人のことも考えながら空間を提案してきた。
「個人もオフィスも多様化が進んでいる。それに伴って、オフィス家具という価値観も変わってきているんです」
だけど家具も文房具も、これまで直接エンドユーザーの話を聞く機会が少なく、その価値観の変化になかなか追いつかなくなっていた。
「お客さんの声を聞いて商品開発に活かしながら、自分たちが伝えたいこともより強く発信したい。そう思ってこの場所ができました」
なるほど。でもショップに、カフェの機能がついているのはなぜですか?
「カフェそのものがやりたかったというわけではなくて。カフェとショップを融合させることで、モノの買い方や選び方も変わるんじゃないかと思うんです」
選び方が変わる。
「ちょっとコーヒーを飲みながら、商品を選んだり触ったりする時間ができると、商品の見え方にも変化が生まれるんじゃないかな」
お客さんがショップで買ったノートに、カフェでアイデアを書き込みながら過ごすのもいいだろうし、お茶をしながら並んだ家具を眺めたことが、自分の働き方を振り返るきっかけになるかもしれない。
カフェがあることで、ふっと自分の想いに立ち返ったり、誰かと話してリラックスしたりと、余白が生まれる。
具体的には、どんなふうに働くことになるのでしょう。
「たとえば、商品がなかなか伝わりにくいときには、こういう発信をしたらいいんじゃないか、と売り場づくりの提案をしたり、店頭でお客さんから聞いた声を、商品企画チームに届けてほしいと思っています」
「そこから、商品開発のプロジェクトが立ち上がっていく。ものづくりに一緒に関わっていくようなイメージですね」
新たな商品づくりに加えて、これまでコクヨがつくってきた文具に、少し手を加えて新しい使い道を提案したり、価値を再認識するためのプロジェクトも考えているそう。
商品の背景にある想いや歴史を、売り場に立つ人がきちんと理解して伝える。逆にお客さんの一番近くにいるからこそ、開発チームが気づかない新たな視点を得ることができる。
ものづくりの橋渡しをするような仕事だと思います。
さらに、2階で行うイベントの企画にも、積極的に関わってほしいとのこと。
「新しい製品のプロトタイプをお客さんに試してもらう場の計画や、商品の魅力を伝えるためのイベントもどんどんやっていってほしいです」
この場所を運営していくには、いろんな人の目線になって想いを巡らせることが必要になる。
ちゃんと売れる商品をつくるというつくり手の目線や、こうしたら居心地がいいかな、という訪れる人に寄り添った目線も。
商品をつくるデザイナーたちよりも、全体を考える役割なのかもしれない。
「流行に流されず、暮らしや働き方について自分なりの考えを持っている人がいいと思います」
「このショップが街とどんなふうにつながるのか、どんなお客さんが通ってきてくれるのか、私も楽しみです」
そう話すのは、鹿野さんと一緒にTHINK OF THINGSの設計に関わる千田さんです。
大学ではインテリアを専攻し、内装や家具のデザインに関わってきた。
「でも卒業制作は、鉄を叩いて器をつくったんです。立体物が好きだったんですけど、大きなものも、手に取れるものも好きで一つには絞れなくて。コクヨは空間デザインも、家具も、文房具も扱っているから、欲張りな私にはいいなと思って入りました」
実際に働いてみてどうですか?
「入ってみてわかったのは、それぞれの部署の壁が結構高いということ。空間は空間、家具は家具で。オフィスデザイン部門の私は、文房具の人とは全然関われなかったんです」
さらに、ゼロから空間をつくるというよりも、既にある商品を組み込んでオフィスをつくるような仕事も多かった。
なかなか思っていたようには働けない現実に、もやもやする時期もあったといいます。
だけどそこで諦めず、一つひとつ目の前の仕事に向き合いながらも、自分でチャンスを掴んだ。
「千田は一緒にやりたい!と手を挙げて入ったんです」と、隣で聞いていた鈴木さん。
「どうして呼んでくれないんですかって直談判されました(笑)」
今は、オフィスデザイン部門の仕事とこのプロジェクトを兼任している千田さん。一つの部署で働くだけでも、きっとかなり大変なはずなのに、むしろ今の状況をとても楽しんでいるよう。
「一つの目標に対して、部署を超えて仕事ができているので、今楽しいですよ。やっとやりたかったことに近づいてきたなって。さらにお店が動き出していく姿を見るのが、もっと楽しみです」
働いてみると、思うようにはいかないことや、戸惑うこともたくさんあると思う。そんなときも、千田さんのように自分で考え動いて、状況を打開できるような人がいい。
それはここで働く人たちに共通している姿勢だと思うし、「もっとこうしたらいいのに」とか「こうしたらどうなるだろう」を積み重ねることで、きっとより心地よい場所になっていく。
「社内でも前例がないので、手探りのことがすごく多いです。モノを売るだけ、コーヒーを淹れるだけじゃない、名前をつけられない仕事がたくさんある。仕組みから一緒につくっていくような感じですね」
一つひとつみんなで確かめながら。ゼロからつくり上げていくことを楽しんでほしい。
千田さんにも、どんな人と働きたいか聞いてみる。
「商品に対して愛着を持ってくれる人。あとは人と接することが好きな人。商品を見るより、働いている人に会いにくるというお客さんも出てくるといいですね」
2階でクリエイターを招いたデザインイベントを行ったり、この場所を通じて知り合った人が、この街でお店を開いたりなんてこともあるかもしれない。
働く人も、自分が大切にしたい暮らしや働き方が、いろいろな価値にふれることでより鮮明になってくるんじゃないかな。
この場所から発信されるものは、やがて文化になって、街に馴染んでいくと思います。
そのためにも、一緒に価値をつくり、届けていく人が必要です。
(2017/4/12 並木仁美)