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正解のない自由

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「真面目にふざけるって感じですかね。正解を当てにいくような仕事じゃ、失敗はしないだろうけど、面白くはないよね」

これはバリューレイズの石田竜一さんの言葉。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 石田さんがいなかったら、日本仕事百貨は生まれなかったかもしれない。

代表のケンタさんがそう話すほど、とてもお世話になっている人です。

ケンタさんとはサラリーマン時代の先輩・後輩の仲で、清澄白河にあるリトルトーキョーの物件を紹介してくれたのも石田さんでした。

時代の波と一緒にありとあらゆる不動産の仕事を経験してきた、まさに不動産業のエキスパート。

そんな石田さんの率いるバリューレイズが最も得意としているのは「困った物件」です。主に事務所ビルの経営代行をしながら、個人オーナーが抱えるいろんな問題を解決してしまう。

ここでじっくり働ければ、たとえ経験がなくても不動産業のプロフェッショナルになっていけると思う。

いまは本当に人手が足りていないそうだから、たとえば主婦の方がパートでお手伝いに来てくれるのも大歓迎だそうです。

 
石田さんがバリューレイズを立ち上げたのは2008年。

社会人になってからずっと、不動産の世界で働き続けてきました。

最初はマンション開発を行う不動産会社。2年目でバブルがはじけると、石田さんは出向先で転籍となり、不動産を整理して販売する「処理部隊」として働いた。

そんななか、以後ずっと忘れることのない仕事に出会う。

先代が石炭屋さんだったというオーナーさん。とある土地をどうにかしたいという相談だった。

「いろいろ聞いたら、バブルのときにオーナーは銀行に言われるがまま土地を担保に多額の金を借りた。それで返済シミュレーションをしてみたら、銀行の約定通り返済していったら3年後に会社が潰れてしまうと。だけど、オーナーはそのことを分かっていない。まずは説明するところからはじまって」

さらに話を聞いていくうちに、実は近くにも3つほど所有している土地があるのだということを知る。

そのひとつが隅田川沿いにある駐車場。眺めのとてもいい場所で、昔はここで船から石炭を荷揚げしていたという。

「こっちのほうが全然いいから、まずはこっちをいじりましょうと。でも長細い土地だから、普通に考えたらすべての部屋が川に面することができない。それじゃ意味がないからって、自分で設計してメゾネットがあるような物件を描いて設計事務所に送った。そしたら向こうも本気になって徹夜で考えてくれて。結局そのプラン通りの建物が、いま建っています」

valueraise02 四苦八苦しながらも、うまく土地を有効活用することができた。ただそれ以上に、結果としてオーナーの人生に大きく踏み込むことになったことが、石田さんにとっては大きな出来事だった。

「オーナーは当時、70代のおばあちゃんだったんですよ。会社は息子さんの代になってるんだけど、石炭屋の商売を切り盛りしてきたカクシャクとしたおばあちゃんなので、最終的には親子間の問題にも入ることになって」

おばあちゃんからは可愛がってもらえたので、普通なら聞けないような話まで聞くことができたし、息子さんとはお酒を飲みながらおばあちゃんの気持ちを伝えることができた。

いまの自分だったらそこまで踏み込むことはしない。当時の石田さんはまだ20代半ば。よくもわるくも常識知らずだった。

「それまで地主なんて、悩みなんてない幸せな人たちだと思ってたんです。でも蓋を開けてみたら、不動産を売ったところで全然借金を返せないとか、相続の問題があったりして」

「人にはいろんな悩みがあるよねっていうのを、たぶん生まれてはじめて経験したんですね」

valueraise03 その後も石田さんは、時代の流れとともに様々な仕事を経験していく。

ファンドビジネスがまだ珍しい時期に「信託化」や「ノンリコースローン」といった耳慣れない言葉にまみれた案件にも携わったし、プロパティーマネージャーという役割を担ったのもおそらく石田さんが日本初。

金融機関の不良債権を処理する「特命部隊」で働くようになってからは、とてつもない金額が頭の上を飛び交うようになっていった。外資系証券会社とともに資産管理を担当するようになってからは、さらに大きな金額を扱った。

「ビル70棟をまとめて1400億円で売るみたいな。ダイナミズムをすごく感じていたんですね。変化が激しくて、面白くやってました。でも、頂点極めた感があって、もういいかなと」

そんなとき思い起こしたのが、あの隅田川の案件だった。

正直、オーナーとは長く付き合うから大変だったし、いまの仕事とは比にならないほど儲からない。けれど、何年経っても忘れることはなかった。

「不動産屋としては、あれが原点だなと思ったんですよね。行き着くのは個人。ああいう超小さいところのほうが面白いじゃんって」

そうしてはじまったバリューレイズ。

主に小規模の古い事務所ビルの運営管理を任されながら、個人オーナーが抱えるありとあらゆる問題を解決しています。

なかでもやっぱり肝となるのが、空室対策です。

その詳細について教えてくれたのは山田武男さん。石田さんがまだひとりだったころにバリューレイズへ加わった、右腕というよりもパートナーのような存在の方です。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 山田さんも長らく不動産業界で働いてきた方。そんな山田さんからすれば、バリューレイズは「特殊部隊」なのだという。

「ようするに、とにかく“知恵と工夫”なんですよ」

バリューレイズが管理する多くの物件は、20〜40坪ほどの比較的小さな事務所ビル。

オーナーさんの約8割が個人で、親から不動産を継いだサラリーマンや蕎麦屋のご主人など、不動産のことはまったく分からないという人が多く、潤沢な資金を持つ投資家とは違ってお金の余裕もない。

そういう人たちに対して、いかにお金をかけずに問題を解決していくか。少ない人数で知恵を絞って工夫し、状況を打開していく様子は、まるで特殊部隊のよう。

そんな空室対策の仕事は不動産屋には必ずついて回る仕事のため、たとえ新人でも任されるという。

ただ、どんなことを提案すればいいかは、これまでのバリューレイズが培ってきたノウハウがあるから大丈夫。まずは基本的なところからはじめて、難しいことは山田さんや石田さんと相談しながら進めていけばいい。

valueraise05 「うちは順番が決まっていて、リフォームなんてのは最後の手段なんです。まず、やってないことをやりましょうと。たとえば一番簡単なのは『電話に出ること』ですね」

電話に出ること?

「何年も内見の予約すら入らなかった原因が、実はオーナーさんが電話を取っていなかっただけっていうことが本当にあるんですよ。折り返さないし、留守電も設定しない。だったら、まず電話に出ましょうと」

「あとは、敷金が12ヶ月分という設定に何かこだわりがあるんですかって聞くと、なかったりする。うちがオススメするのは保証会社を付けて4ヶ月でいいじゃないですかと。それなら滞納の心配もないですよって」

ほかにもwebに物件情報をちゃんと掲載しているか、しっかり営業してくれる仲介業者に幅広く頼んでいるか、そういったところもすべて見直していく。

それなら人件費以外でお金がかかることはない。バリューレイズは成約したら費用をもらうスタイルをとっているので、オーナーさんは初期投資を負担する必要もない。

こうしたノウハウは事例の詳細とともに冊子にまとめていて、オーナーさんだけでなく、なんと同業者にも無料で配っているという。

いまでこそ住居用の不動産では多様なサービスが生まれているけれど、事業用の不動産では旧態依然とした体質が一向に根強い。そんな業界を少しでも向上させたいという思いがあるそうだ。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 「僕が最近ハマっているのは居抜き物件です。前の借主が残したデスクとか冷蔵庫とかを、次の人が使いたいっていうなら使えばいいじゃんって話なんだけど、それって管理業界では当たり前の話ではなくて。普通は床壁天井すべてを更新しなきゃいけない。残った家具の責任を誰が持つんだって話になるんですよ」

「だけど、そんなことは次の人に聞けばいいじゃないですか。揉めないように、引き継ぎ条件を細かくつくってあげればいい」

ほかにも、最近はテナントとの関わりをより深め、その会社とバリューレイズが一緒に仕事をするような面白いことも起きはじめている。これも業界の常識からすればNGなこと。

だけど「万が一を考えてクリエイティブなことが一切なくなるなんて、本当にくだらない」と山田さん。

きっと業界経験がないからこその柔軟な考え方が、ここでは活きると思う。

「やり方に正解はないです。とはいえ、大体はつくった冊子に書いてある。そこにキャリアやスキルはいらない」

「石田も僕も共通していて、前向きな失敗はアリです。何かやらかしても『バカヤロー!』で終わりなので。引っ込み思案になってるくらいなら、前向きに失敗してほしい。不動産業にパーフェクトな人材は存在しないですから」

 
やり方に正解はない。

それは手間も時間もかかって大変なことかもしれないけれど、何より自由なことなんだとバリューレイズの人たちは捉えている。

今年5月には新たな取り組みがスタートします。

それは、シェアオフィスの運営。

valueraise08 西麻布にある7階建てのビルの7階と屋上を使って、自分たちのオフィスもここへ移し、快適なオフィス空間とは何かを実践して追求していく。

オープン前から場をどう利用できるか実験を重ねていて、昨年に開催したルーフトップヨガは大好評だったそう。

valueraise07 ふたたび、石田さんに伺います。

「不動産も、もっとコンテンツにこだわるべきっていうんですかね」

コンテンツ?

「いままでの不動産の管理業って、できるだけ何も手をかけずに勝手にテナントが入って、賃料を落としてくれるのがヨシとされてきた。それは悪だとは言わないけどつまらない話で、いろんな使い方をして面白く使ったほうがいいじゃんって」

不動産屋が右から左に流すように仕事をするだけでなく、中身まで考えていく。それは大変なことかもしれないけれど、面白さを感じられる人もいるかもしれない。

「コンテンツで勝負しているぶんには、大手も中小も関係ないでしょ。むしろ大手はコンプライアンスとか法律とかに縛られて動けない。僕らのほうが自由度は高い。それで提案したものが世の中のスタンダードになっていったら面白いじゃないですか」

石田さんは、ちょっとやそっとじゃヘコタレない、向上心のある若い人に来てほしいのだそう。

真面目にふざけるようにして、一緒に働きたい。

正解を当てにいくような仕事じゃ、たしかにつまらない。

(2017/4/28 森田曜光)