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みずみずしいデザイン

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イノベーションは、どうやって生まれるのだろう?

今回の取材で感じたのは、すでにある課題をただ解決するだけでは難しいということ。必要なのは課題や問いからつくりだすことだと思いました。

そのために、いろいろな価値観を持つ人たちが集まり、お互いの考え方を共有する場が必要です。

デジタル1 KYOTO Design Labはまさにそんな場所。

京都工芸繊維大学が運営していて、デザイン・建築分野を軸に社会革新を起こすべくプロジェクトに取り組んでいます。

国籍や専門分野、職業などの垣根を超えた人たちが、対話と思考を重ね、新しいデザインを探求している。

そんなKYOTO Design Labを支える6人目の仲間を募集します。

仕事の内容は、ワークショップやレクチャーの運営、海外からの研究者の支援など。プロジェクトの潤滑油のような役割を求めています。



京都駅から20分ほど。地下鉄松ヶ崎駅の出口に出ると、まわりを山に囲まれた風景が広がる。ゆったりとした静かなところ。

5分ほど通り沿いを歩いて右手に曲がると、道の両側にキャンパスが現れた。

門 京都工芸繊維大学は養蚕と工芸の研究施設を前身に、100年以上の歴史をもつ。

工芸科学部からなる単科大学とはいえ、先端科学技術分野から建築、デザインと幅広い分野の研究・教育を行っている。

KYOTO Design Lab(以下D-lab)は、大学機能強化事業の流れのなかで、建築やデザイン分野を軸にした世界的な研究・実践の拠点として、2014年に立ち上がった。

D-labが掲げるテーマは『Innovation by Design』。

「デザインや建築の考え方・実行力を通して、社会変革を起こしていくような取り組みをしています」

そう話すのは、岡田栄造先生です。

岡田先生 デザインディレクターであり、京都工芸繊維大学で教鞭をとる一人。D-labでは広報・編集チームのユニット長を務めている。

岡田先生はじめ、D-labには様々な分野において世界で活躍する教授・講師陣が事業に携わっている。

提携する海外の大学や研究機関、企業は40団体を超え、立ち上げ初年度には40個のプロジェクトを実行した。

大学という機関で、これだけのネットワークの広さとスピード感をもっているところはなかなかないかもしれない。

さらに3Dプリンターやレーザーカッターといった機材から、陶芸・紙漉き工房まで揃う。

PC 多様な人材が集まり、設備も充実している。

とはいえ、それだけあれば社会革新は起こせるだろうか。

すると岡田先生が、あるワークショップを紹介してくれた。

Royal Colledge of Art(英国王立芸術院:以下RCA)で2014年まで教授を務めたアンソニー・ダン氏による『思いやりのあるロボット、人をケアするロボット』というもの。
「未来の医療や介護に使われるロボットってどんなものだろう?ということをテーマにした5日間のワークショップでした。スペキュラティブデザインの方法に学びながらプロトタイプまでつくり、成果を発表しました」

スペキュラティブデザインとは、すでにある課題を解決するだけでなく、まだ形になっていない技術や課題を仮定して、それをもとに新しいデザインを試行していくというもの。

過程が重視されるとともに、社会にどういう波紋が生まれ、どういう議論や新しい視点が生まれるかを目的とする。結果として、今までにない発想につながっていく。

アンソニー氏はこの分野で先端を走る方。

ワークショップには京都工芸繊維大学やRCAの学生たちのほかにも、他大学生や社会人など20名ほどが参加。4、5人のチームで取り組んだ。

テーマに対してどんなアイデアが生まれたのか。

たとえば、今後増えていくと考えられる一人暮らしの高齢者が、自分自身の心をケアする鏡の形をしたロボット。

失ってしまった身体能力を補うだけでなく、別の五感能力を高めるウェアラブルロボット。

ほかには、患者が自分自身で手術できるDIYロボットなども。

ウェアラブル2 新しい問いを立てることで、ステレオタイプから抜け出し、そこからみずみずしいアイデアが生まれていく。

このワークショップにRCAの学生として参加し、DIYロボットを考え出したのがフランク・コークマン氏。そのときの経験がきっかけとなって、帰国後も研究を深めていった。最近ではデザインアワードも受賞したそう。


一度のプロジェクトで終わるのではなく、継続性をもたせることもD-labでは大事にされている。

「ワークショップから発展する形で、今度は『デザイン・アソシエイト』というプログラムにフランクさんを呼びました」

デザイン・アソシエイトとは、D-labが与えるテーマに沿って若いデザイナーがプロジェクトを行うもの。

「我々が与えたテーマが、ハエでした」

ハエ、ですか?

「本学は、薬の開発実験にマウスに替わって使用できるショウジョウバエの研究・飼育を盛んに行なっています」

ショウジョウバエについての研究成果と、フランク氏のDIYロボットというテーマが組み合わさったら、一体どんなデザインが生まれるのか。

「彼が注目したのは、『CMT(シャルコー・マリー・トゥース病)』という遺伝子性の難病でした。難病は治療薬を開発しても儲からないという理由で製薬会社が開発しない問題があるんです」

「解決の目処が立たないままにするのはよくない。フランクさんは、薬の開発に患者さん自身が参加できたらどうなるだろうかと考え、患者さんがハエを使って薬の実験をできるキットをつくりました」

コークマン氏-1 どんな仕組みかというと、放射状に凹みを施した装置に患者さんと同じ病気になるよう遺伝子操作されたハエを入れる。そのハエに試験薬を与えて、動きの違いを観察する。

病気の状態だとハエの動きは遅く、治ると動きが速くなる。動きの速さをカメラで撮影して、患者さんが薬の効き目をデータに取り、データが製薬開発の研究所に送られるという。

「今まで、病院や製薬会社の研究所でしかできなかったようなことを、患者さん自身が参加することで薬が開発されていくアイデアを提案し、デザインをつくりました。言わば、デザインを民主化するようなものなのです」



デザインを民主化していく。

そうすることで、ひとりでは考えつかないことまで形になり、イノベーションが起きやすくなっていく。

スシ・スズキ先生は、D-labの学際的な取り組みについてこんなふうに話す。

Sushi先生 「いろんな国や分野で生きる人が、それぞれの考え方や方法論を持っています。それをお互い理解してはじめて他者と自分のいいところがわかる」

「多様性を取り込むことで思考が複雑なものになり、自分のやり方が磨かれていく。そのほうが面白い結果が生まれると思うんです」

スシ先生も活躍するデザイナーの一人。D-labでは特任准教授を務め、プロジェクトの運営やパートナー企業・海外の大学とのパイプ役を担っている。

担当するプロジェクトの一つが、『ME310(エムイースリーテン)』。

スタンフォード大学からはじまったもので、パートナー企業からのテーマに対して、連携する世界各国の大学から2つの大学が合同チームをつくり、9ヶ月間、共同研究を行う。

日本企業のヤンマーとのプロジェクトでは、京都工芸繊維大学とオーストラリアのスウィンバーン工科大学の学生がチームとなり、ブドウ農園におけるイノベーションの課題に取り組んだ。

ME310 「コンセプトの立案からアウトプットまでの過程で、失敗作が何十個も生まれました。でも、試行錯誤を繰り返すことによって新しい学びやアイデアが得られるんです」

イノベーションが生まれていく現場の熱量の高さが想像できた。



紹介してきたようなプロジェクトが年間何十個と進行する。その環境を整えているのがD-labの運営スタッフたち。

それぞれに担当を持ちながら、チームで動いていく。現在メンバーは5名。今回募集する人は、ここに加わることになる。

D-labが立ち上がった当初から今年3月までアシスタントディレクターを務めたのが長﨑陸さん。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 京都工芸繊維大学の卒業生で、在学中はデザイン経営工学を学んだ。

大学院修了後はデザイン事務所に勤め、その後D-labが立ち上がるタイミングで仲間に加わった。

立ち上げ当初は仕事内容が明確に決まっていたわけではなく、自分たちで仕事をつくっていったそう。

具体的にはどんな仕事でしょう。

「たとえばワークショップでは、プロジェクトを担当する先生が作成されたプランを受けてどういう段取りと材料が必要か、先生方と打ち合わせしながら、しっかり進行できるように下ごしらえをしていきます」

ワークショップの参加者を募ったり、必要な場所を確保したり、手続きの交渉ごともあれば資材準備も。

5日間のワークショップでも、準備には2ヶ月ほどかかるという。

準備ができたら、いざ本番。ワークショップ中も、参加者が最大限アイデアを引き出せる環境をつくるため、工夫して動き回る。

たとえば、アイデアを書き込んでいくホワイトボード。スチレンボードにアルミを入れたものをつくりアルファベットの「A」のように組み合わせると、両面使えるし、解体すれば軽くて一人で何枚も持ち運ぶことができる。

道具や場所が使いやすくなると、ワークショップのクオリティや進み方もぐっといいものになるのだとか。

「こうしたらもっとよくなると思うものを、知恵を出しあって即興的につくっていく瞬間は面白かったですね」

一方で、大変に感じる部分はありましたか。

「日本と海外、企業と公的機関。異なるロジックや作法、スピード感など、特有の力学が働いている場所なので、アクシデントも起きやすい。そこは大変でした。ただ、いかに交通整理をするかということはエキサイティングなことです」

あらゆる価値観を持つ人たちが集まる現場からは、得られる刺激も大きかったという。

「まだ出会ったことのない様々な考え方が、一つひとつごろごろした手触りを残したまま存在する。世界にそうない環境だと思うんです」

アンソニー氏-1 「学びも大きいし、そのなかで自分にはどういうことができるか、何か新しいことが考えられないだろうかと、常にアンテナを張ることができます」

長﨑さんはどんな人が向いていると思いますか?

「いろんなロジックや価値観が交差する真ん中で、バランスよく立っていけることがいちばん大事。仕事にはこだわりを持つけど、向き合う対象や自分のアプローチ方法を柔軟に考えていける人がいいですね」

それから、はじめからではないけれど、海外の大学院と英語でコミュニケーションができるくらいの英語スキルが求められるそうです。

ME310チーム-1 まだまだ発展途上だというD-lab。

だからこそ新しい経験にあふれている職場だと思います。ぜひイノベーションを生み出していく一人になってください。

(2017/05/24 後藤響子)